暴徒
渡り廊下から二人の戦いを見つめる。信仰者の戦いに無信仰者の俺が加勢しても足手まといになるのは目に見えている。では助けを呼びに行くべきか? だが、加豪を一人残すのも気が引ける。くそ、どうすればいい!?
そこで思い浮かぶ顔があった。
ミルフィア。あいつに頼めば助けになってくれるはずだ。俺が呼べばすぐにでも現れるだろう。
でも、それでいいのか? なにか困ったことがあればミルフィアに戦わせるって、それじゃまんま奴隷じゃないか。
良い訳がない。もう何度も助けてもらったんだ、いつまでもあいつに頼ってはいられない。俺がなんとかしないと!
「ウオオオオ!」
俺の意識を引き起こすように銀二の叫びが上がる。
加豪と銀二の間で激しい戦闘が繰り返されていく。互いに扱うのは神託物。神の力の一つ。
銀二が放つ攻撃はただの刺突じゃない。纏う焔は巨大で、たとえ刃を躱しても炎で焼かれる。加豪は刺突を刀で弾くが同時に体捌きも行っていた。それでも完全ではなく熱波が皮膚を焼く。銀二の槍の軌跡には炎が尾を引き、もはや奴の周囲が高温の結界だ。
それでも。
加豪は、前に出た。
神の贈り物を使うのは銀二だけじゃない。加豪の手にも、彼女の鍛錬が生んだ純正の神器がある。
「はあああ!」
加豪が気炎と共に刀を振り下ろす。瞬間、稲妻が鳴り響いた。
刀身から迸る電流が銀二を襲う。全身を蹂躙する感電の苦痛に悲鳴が起こる。さらに加豪は斬りつけた。真上からの渾身の一撃。銀二もすぐに槍で受け止める、が。
「ギャアアア!」
刀身は電気を纏う雷刃。接触すれば当然感電する。加豪の神託物、雷切心典光の真髄と言えるだろう。躱しても迸る電流が襲い掛かり受け止めれば雷の奔流が防御を無視する。
いける!
「グオオオオオ!」
しかし、加豪の電撃に苛まれていた銀二が叫ぶ。それは悲鳴なんかじゃなく戦意の咆哮だ。
戦うことしか頭にない。それしかないんだ。
それは理性を捨て神理に埋もれ、人ではなく『信仰そのもの』になっていくような、そんな印象。
もしそうなら信仰心の上昇は止まらない。神理に近づけば近づくほど歪ながらも銀二は神化によって強化されていく。
銀二が片手を槍から放した。力尽きたのか? 違う。
銀二はさらに、二本目の三牙槍を取り出したのだ。
「くっ!」
銀二が加豪の刃を押し返す。その隙に二本目を横に薙ぎ柄の打撃が加豪の横腹を急襲した。
「がぁ!」
「加豪!」
顔を顰め加豪が膝をつく。それで迷いが吹っ切れた。考える暇もなく俺は渡り廊下から飛び出した。
「ふざけんなよてめえ!」
全力で体を動かす。加豪を守る気持ちと敵に対する怒りが足を走らせる。
「来ちゃ駄目神愛ー!」
加豪を突き飛ばす。それで凶刃から逃すことは出来たが代わりに俺が標的になる。
速い。狂信化によって放たれた槍は目から消え、視認出来ないほどの速さだった。
なにも、出来ない。
「そこまでです、武器を下ろしなさい」
矛先が眼前で止まる。俺はすぐに離れ、固まっていた顔をそっと横に移す。そこにいたのは、
「ミル、フィア……」
小柄な体に金髪をした小女、ミルフィアだった。




