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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
217/428

これが決着の一撃。

 神愛の背後で五つの黄金の柱が噴出した。噴水のように溢れ周囲へと飛沫を散らす。

 黄金。それは永遠の輝き。あらゆるものを照らし、己のみで輝き続ける不屈の光。

 神愛の全身が黄金のオーラに包まれていた。神気を纏い神と一体となる。

 対してウリエルも全力を発揮した。周囲に無価値な炎を展開する。触れるものは即消滅。概念すら通さない反則的なまでの力。

 黄金のオーラと青白い炎熱が空間で鬩ぎ合う。神愛とウリエルは睨み合い、二人同時に踏み込んだ。


「恵瑠ぅうう!」

「神愛ぁああ!」


 黄金と青き炎が混ざり合い渦巻いていた。二人の闘気が大気を震わせ大地がひび割れていく。


「終わりだ!」


 ウリエルが叫ぶ。手を翳し無価値な炎を放射した。狙いは神愛を覆う黄金のオーラ。それを剥がし神化を解く。強化さえなくせばあとは地力で勝てる。この力を発動した今、ウリエルに隙はない。勝利へ繋ぐ絶対的な力。

 無価値な炎が迫る。しかし神愛は逃げなかった。


「なに?」


 そんな素振りすらない。ただ真っ直ぐウリエルへ突き進んでいく。

 まるで、ゴールがそこにしかないように。

 そして、神愛を覆うオーラとウリエルの無価値な(ファイア・オブ・ノーライフ)が激突した。


「うおおお!」


 黄金と青が混ざり合う。黄金は威光を発し主張する。しかしそれがどれほどのものだろうがウリエルの炎は否定する。黄金の輝きを無価値だと言うかのように炎を消滅させていく。

 はずだった。


「なに?」


 だが、ここで必定が覆る。黄金の光は消えていない。


「馬鹿な!?」


 目の前で起こる現象に、ウリエルが驚愕の声を上げる!


「なぜ、私の無価値な(ファイア・オブ・ノーライフ)が!?」


 目を疑った。頭が混乱する。こんなことあり得ない。

 無価値な炎はすべてを消し去る。だが神愛の黄金光までは消えていない。

 それは神愛の思いが無価値な炎を超えているということだ。

 黄金の光。それは神愛の思いそのもの。恵瑠を思う気持ちが神化となって条理を超えていく。

 ウリエルの無価値な炎すら超える、圧倒的信仰(おもいのかたち)だった。


 越えろ。

 そして願え。それに向かって走り続けろ。

 諦めたくない願いがあるのなら。

 叶えたい望みがあるのなら。

 想え。

 絶対に叶えてみると叫んでみせろ。

 その想いが奇跡を起こす!


「うをおおおおお!」


 迫り来る青い本流を神愛は突き進む。

 神愛は、無価値な(ファイア・オブ・ノーライフ)を突破した!

 直後ウリエルの体に妨害の光がまとわりつく。彼女の全身が、八枚の羽が黄金に覆われる。


(動けない!? 空間転移は? 駄目だ、妨害されているッ)


 ウリエルも振り解こうとするがすでに遅い。

 神愛は右手を背後まで反り、拳に黄金が収束していく。


「これで――」


 これが決着の一撃。


「終わりだぁあああ!」


 神愛は放った。拳は下から上に振り抜き、ウリエルの腹部を直撃した。


「がっはぁ!」


 拳の勢いは止まらず頭上にまで持ち上がる。ウリエルの足が地面から離れた。

 神愛の拳の勢いに大気は黄金とともに渦を巻きウリエルの体を貫通していった。ウリエルの体を突き抜け空高く伸びていく。

 その光が暗雲に当たった時、雲に穴が開き一瞬で消えていった。黒い曇はなくなり多くの光が地上に降り注ぐ。

 世界が、光で満ちていた。


「あ……あ、あ……」


 ウリエルは体をくの字に曲げ神愛の拳の上に乗っていた。互いの横顔が触れ合い、白い長髪が神愛の頬に掛かる。神愛全力の一撃に意識が揺れていた。


「恵瑠。お前に言いたいことがある」


 そんなウリエルに、神愛は耳元でささやいた。


「…………?」


 ゆっくりとウリエルの顔が動く。神愛の横顔をそっと見る。

 神愛は真剣だった。気を緩めることなく、油断なく、決意を感じさせる声で。


「たとえ、なにがあろうと――」


 言うのだ。

 かつてした、二人の約束を。


「俺たちは、友達だ」


 夕焼けの噴水で交わした、あの時を忘れない。

 学園で友人だと言ってくれた、あの時の気持ちを忘れない。

 世界に自分の居場所がなくて、敵しかいないこの場所で。

 二人は出会った。

 その奇跡を、その感謝を忘れない。

 その時、ウリエルの胸に去来した思いはなんだったのだろうか。彼を救うと必死に抗ってきた。どんな炎にも負けない意思で戦ってきた。負けたくないと。失いたくないと。

 なのに。

 ウリエルの瞳から、一筋の涙が零れた。音もなく。静かに頬を流れていき、それは落ちていった。

 そして、『恵瑠』は微笑んだ。

 彼女の全身に光が集っていく。彼女を覆い、光は小さくなっていった。そこにいたのは神律学園の制服を着た恵瑠だった。ぐったりと倒れ目を瞑っている。 

 神愛は恵瑠の体を支え突き上げていた拳を下げる。彼女の華奢な体を肩に乗せゆっくりと地面に寝かせた。その表情は安らかで、口元は微笑みを残している。

 よかった。彼女の笑顔に神愛も微笑んだ。

 戦いは終わった。二人の戦いは激しく苛烈なものだったがこうして無事に終わった。その決着は、二人の笑みで締めくくれていた。


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