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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
215/428

この街すべてがバトルフィールド。行動範囲が広すぎる。街を行き交いながら戦うなど尋常じゃない。

 ウリエルの剣が振るわれる。それを神愛は躱す。ウリエルの剛剣は地面を砕いていき神愛の背後にいた騎士が弾け飛んでいった。

 ウリエルの攻撃を躱し神愛も拳を打つ。攻撃した直後の姿勢、躱せない。だがウリエルは空間転移を用いこれを回避した。神愛の拳が生む風圧はウリエルの背後にいた天羽たちを吹き飛ばす。

 二人が戦うだけで周りは自然災害級の危険域だった。弱者では観戦すら許されない。普通の人でも動けば埃が舞うように、二人が戦えば人が舞っていく。

 ウリエルは剣を振るう。余波で地面や街を砕きながら。まるで竜巻の擬人化だ、剣を振った剛風が対する者に叩き付けられる。

 それを、神愛はねじ伏せる。彼の発する闘志は神気、物理的な脅威など意味をなさず前に出る。

 ウリエルの攻撃、それを躱していく。上段からの攻撃を横に躱し、横一線の攻撃を背中を反らし、渾身の突きを前に出て捕まえる!


「いくぞ!」


 神愛はウリエルの片腕を掴みながら彼女の頭を抱えると腹へと何度も膝蹴りを行なう。その威力、彼女の体が何度も衝撃に浮き重い打撃音がなる。さらに神愛は片足を持ち上げウリエルを跨ぐと、腕を巻き込みながら自分を回転して横になり、肘の関節技、腕挫十字固に繋いだ。ウリエルも地面に倒れる。


「オラぁ!」

「がああ!」


 剣を持つウリエルの右肘が可動域を超える負担に悲鳴を上げる。

 神愛は腕を持ったまま立ち上がった。ウリエルを起たせる。肘の痛みにウリエルは手を当てながら片膝を付いていた。その隙、神愛は体ごと回す大振りの回転蹴りを彼女に打ち付けた!


「があっ!」


 その威力に猛スピードで吹き飛んでいく。地面を何度も転がり、彼女が通った後には何枚もの羽が宙に散らばっている。


「終わりだ!」


 神愛は跳んだ。決めるならダウンしている今の内しかない。追撃の手を緩めずこのまま押し切る。右の拳を振り下ろさんとウリエルの場所まで十メートル以上を跳んだ。


「舐めるな!」


 だがウリエルは諦めていなかった。これほの痛手を負いながらも目はまだ負けていない。

 迫る神愛に向け四枚の羽を伸ばす。それぞれが手足に巻き付き縛り上げた。


「ちぃ!」


 攻撃が決まらず神愛から舌打ちが出る。

 ウリエルは右手を神愛に向け炎を充填していく。神の炎とまで呼ばれた極大の炎が完成へと形を整えていく。


「二度も食らうかよ!」


 それに合わせ神愛は叫んだ。神愛の正面に黄金の光が集まっていく。妨害の光は障壁となり神愛を守る。

 ウリエルの炎が神愛を襲った。しかし神愛の光がそれを阻む。放たれた火炎は乱反射を起こし周りを襲い始めた。無差別に辺りの人や天羽を吹き飛ばしていく。


「うわあああ!」

「逃げろぉ! 巻き込まれるぞ!」

「ここも駄目だ、別の場所だ!」

「あいつら、なんて戦いしてやがる!」


 神愛とウリエルの周囲は壊滅状態だ。舗装された道も建物もことごとくが破壊されている。

 ウリエルの攻撃が終わった後、神愛は両手に巻き付く羽を掴んだ。それを引っ張り両足をウリエルに突き出した。ドロップキックのようにウリエルの顔面を直撃し束縛から解放される。空中で一回転し着地した。


「どうだ!」


 ウリエルはよろめき顔面に手を当てている。その手を下ろすと神愛を睨み空中へと飛び立った。


「まだだ、まだ終わっていない!」


 神愛を見下ろす位置でウリエルは左手を空に向けた。手の平に彼女を覆うほどの巨大な火球が現れる。火の玉と呼ぶには大きく、極小の太陽のようだ。内部では核融合を繰り返し小さな爆発が表面を揺らしている。放射能は致死レベル。細胞が一瞬で壊死する破滅の星だ。


「ふん!」


 それを、神愛目掛け投げつけた!


「オラぁ!」


 それを殴り返した!


「なに!?」


 弾き返された火球はウリエルに直撃し吹き飛ばされていった。爆発が生んだ力は自分に跳ね返り数十キロも飛んでいった。

 ウリエルが落下した位置。そこは本来サリエルが守護している東の支点だった。駅前の広場に体を何度も打ち付けようやく停止する。

 直後神愛も空中から飛び降りてきた。きれいに着地しすぐにウリエルに駆けつける。そのまま勢いに乗って殴りつけた。


「くっ!」


 ウリエルはまたも吹き飛ばされ駅の建物を壊しホームへと入っていった。半壊する駅のホーム。そこへ神愛も入っていく。

 ホームで神愛とウリエルの攻防が行なわれる。拳を打ち、剣を振るいながら移動し駅のホームから出て線路の上に出た。列車はなく遮蔽物のない広い場所に出る。神愛は小石が広がる地面を踏み締めた。

 神愛とウリエルの戦いは首都ヴァルカン全域に渡ろうとしていた。この街すべてがバトルフィールド。行動範囲が広すぎる。街を行き交いながら戦うなど尋常じゃない。

 だが、それだけに二人の力が強大であり、それを支える想いが絶大な証だった。

 それは、恵瑠との日常を取り戻すため。

 そして、


「はあああ!」


 彼女は、神愛を救うために。

 ウリエルは烈火の気合で神愛に斬りかかる。まだ距離がある神愛に向かって飛行しながら炎をまとう剣を投げつけた。それを神愛は躱す。ウリエルから剣がなくなる。が、神愛の背後。空間転移していたウリエルが投げた剣を掴み斬りかかる!


「ちぃ!」


 間一髪で避けるもののウリエルは止まらない。剣を乱舞するように振り回す。その迫力は怒涛の炎のよう。大振りだが受け切れない。神愛は体を投げ込みウリエルの間合いから離れる。

 ウリエルは左手を上げ神愛の地面から火柱を噴き出した。神愛は走るがいくつもの火柱が執拗に追いかける。


「しまった!」


 気づいた時には神愛の周りは火柱によって封鎖されていた。炎の壁にぐるりと囲まれている。

 追い詰めた。ウリエルは剣を構え直し神愛に剣を打ち付ける。


「ぐぅ!」


 ガードする神愛へ右上段、左上段から剣を振り下ろし最後に両手で握り横に一閃する。ウリエルの剣撃に押され神愛の両足が地面を滑る。

 さらにウリエルは姿を消すと炎の壁から高速で突撃してきた。そのまま通り過ぎ炎の壁に消えていく。まさに一瞬の出来事。まるでビリヤードの玉を弾いたように縦横無尽に行き交い神愛を攻撃する。前後左右、炎の壁に姿を消しては電光石火で突撃する攻撃に成す術がない。


「ぐ、がっ、があ!」


 斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。何度も何度も斬り付けていく。

 それは何度も車に轢かれるような衝撃だった。ついには神愛の体が地面から離れる。そのまま木の葉のように数メートルも舞い上がっていった。

 火柱がなくなり代わりにいくつもの火の玉が神愛を包囲していた。ウリエルはきれいに着地すると長い髪を片手でさらりと流し、剣を「ふん」と振り下ろす。

 直後、彼女の背後で火の玉が一斉に神愛へと襲撃した。


「がああああ!」


 いくつもの爆発が体を打ちのめし神愛は地面に落下する。


「くぅう!」


 ウリエルは振り返り神愛は立ち上がる。

 まだ立つか。彼女はそうした目で見下ろし。

 まだ終わっちゃいねえ。神愛はそうした目で睨み上げた。

 神愛は体の痛みから前のめりになっている。なんとか姿勢を正し気合を入れる。


「ハァ!」


 黄金の闘気が発散される。


「やるじゃねえか……」


 痛みを堪え、それでも笑みを浮かべる。


「だがな、俺はまだ生きている。生きている限り、俺は諦めねえぞ!」


 強化の属性。神愛を包む黄金が神愛の傷と痛みを癒していく。


「いいや、君は諦める」


 神愛の熱い視線に、ウリエルも白熱の眼差しを送る。


「私が、君に勝つからだ!」


 神愛を見つめ、想いを叫ぶ。

 負けられない。

 守ると決めた。

 そのためにも、この戦いは負けられない!


「言ってくれるぜ。だがなぁ、そりゃ俺の台詞なんだよ!」


 神愛が前に出る。ウリエルも剣を構え前に出た。

 二人の戦いは終わらない。その想いが折れぬ限り。その想いが尽きぬ限り。


「うおおおおお!」

「はああああ!」


 二人の戦いは終わらない。

 ウリエルが攻める。これほどの激闘、受けた傷や痛みは数えきれない。今も体が訴える痛みに思考が揺れそうになる。しかしそんな素振りも様子も見せず、彼女の剣閃は力強さを増していく。


「ちぃ!」


 だが、そんな彼女が忌々しく声を漏らす。それは痛みよりも厄介なもの。

 神愛の周囲を漂う、妨害の黄金だ。神愛に近づき害をなそうとすれば、それは自動的にウリエルの体に纏わりつき束縛してくる。まるで水中にいるかのような身動きの悪さにせっかくの剣技も精彩を欠いていく。


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