問題発生!
「でも勘違いしないでよ。私が参加するのはあのミルフィアって子が不憫だから仕方なくよ。今でもあんたが問題を起こすようならただじゃおかないからね」
「殴っておいてよく言うぜ」
「なに?」
「分かった分かった、後のことは好きにしろ。その代わり」
「分かってるわよ」
加豪が参加を約束してくれた。やった。痛みの残る頬を擦りながら笑みが零れる。これで四人、誕生会として最悪ということはないはずだ。目の前では加豪がツンとしているが、俺の本気に応えてくれた。
喧嘩して、謝って、そして誕生会か。初めて会った時には想像も出来ないな。
ただ、また問題を起こしたらただじゃおかない、か。厳しいのは相変わらずだ。おそらく本気だろうから気をつけないとな。
「おい」
と、背後から声をかけられ振り向いた。そこには仲間を連れて、不良の熊田銀二が立っていた。
「先日の借りを返えしにきたぜ」
さっそく問題きたぁあああ!
「神愛、これはどういうこと?」
「いや、これは~……」
いやいやいや、これはちげえよ悪くねえよ! 俺は人を助けたんだからむしろ褒められることをしたんだよ、誰か説明してくれ。恵瑠ぅ! 恵瑠はどこだ!?
「ようイレギュラー、この時を待ってたぜ」
大柄な銀二が近づき俺を見下ろしてくる。なんともゲスい笑顔だ。
「それでだ、なあ神愛くぅん。ここどこだか知ってるぅ? 学校。そんな場所に無信仰なんて悪い子いちゃ駄目だよねえ? だからお前、今から退学届出してこい。僕は神を信仰しない悪い子なので学校を辞めますってな。プッ、はっはははは!」
あざ笑った話し声が鼻先に吹きかかる。仲間からも爆笑が聞こえてきた。
「なるほど。まああんたらのことを腰抜けとか言って悪かったよ。ただあんただって一人の女の子を囲って脅してたんだ、ここはお互い様ってことで穏便に済まさないか?」
俺としては問題をこれ以上表面化したくないというか、加豪の目の前で荒立てたくない。だから言ったんだが、途端に銀二の顔が歪んだ。
「無信仰者が誰に向かって言ってんだ、弁えろボケ!」
「いや、だからさ」
「無信仰者のクズが、やんのかオラ!」
「そうじゃなくて、そっちにも非はあるんだから」
「黙れ! てめえはさっさと退学届出してこればいいんだよ、そうじゃないと痛い目みるぜ? はっはははは!」
「…………」
ちっ。
「なあ、お互いに問題があっただろ? それにもとはと言えばお前らが恵瑠を脅してたのが悪いんだろが」
「うるせえ! 無信仰者の分際で言い訳してんじゃねえぞ!」
おいおい、ちょっと待てよこいつ。なに自分のこと棚に上げて言いたい放題言ってんだよ。
「はあー、そうかよ」
やれやれと思いながら答えを返す。駄目だこいつ、話にならん。
「ならはっきり言ってやる。俺は退学届なんか出さない、まだやるべきことが残ってるんでね」
「んだと!?」
銀二だけでなく後ろの連中からも怒声が聞こえてくる。
「いいかよく聞けよ。俺は生まれつき無信仰だがお前らは生き方が意地汚いクズだ。他人を馬鹿にして自分が偉いと思ってるお勘違い野郎。俺とお前らの違いを教えてやろうか? お前らは弱い奴にしか噛み付けない臆病者で俺は世界中の相手だろうが喧嘩が出来る。退学届を出してこいだと?」
軽口を言うが顔には亀裂が入る。目の前の馬鹿どもを睨み上げ、最後には大声で叫んでいた。
「喧嘩売る相手間違ってんじゃねえぞ! 一人でも生きていける俺様を神におんぶに抱っこでおまけに群れてやがる雑魚が調子に乗ってんじゃねえ。やれるものなら力づくでやってみろ!」
「あああっ!?」
「おおおっ!?」
それが引き金だった。銀二たちが襲い掛かってきた。いいぜ、かかって来いてめえら! 骨が折れても引かねえぞ!
「待ちなさい!」
だが、今まで静観していた加豪が割って入ってきた。
「お前……」
意外だった。まさか加豪が止めに入るなんて。
「琢磨追求……、先輩ですね。すみませんけどそいつ返してもらっていいですか?」
すると加豪は俺の手を取り、答えを聞く前に歩き出した。
「おい加豪」
「いいから。それに無信仰者のあんたが戦っても勝てるわけないでしょ」
「なんでお前……」
次に問題を起こしたらただじゃおかないと豪語した加豪には不似合な行動に戸惑ってしまう。彼女の横顔に聞くが、加豪は前を向いたままだ。
「事情は分かった。それに」
加豪は振り返らない。けれど答えてくれた。
「約束は守るほうよ」
約束。ミルフィアの誕生会に参加してくれること。退学を要求する同じ信仰者を前にしても約束を優先してくれた。加豪は厳しいがそれは自分に対してもで、義理堅い性格だった。
こいつ、案外良いやつじゃねえか。
「おい、誰がいいなんて言ったんだ?」
だが銀二は見逃さない。加豪は立ち止まり俺と二人して振り返った。
「無信仰者にこっちは喧嘩売られたんだぞ!」
「ああ!? 誰が売っただと!? てめえだろうがボケエ!」
「神愛!」
加豪が俺の手を引っ張るがこいつ許さん!
「ふざけんなよオラ! なにが信仰者だ、てめえらなんてただのチンピラだろうが。ああ!? やんのかオラ!? オイ! やんのかオラ!? ふざけんなよバカヤロー、このヤローがよ!」
「神愛、それじゃあんたがチンピラよ……」
銀二の言葉に噛み付くが加豪が制止する。その後俺の前に立ち銀二たちに立ちはだかった。
「すみませんけれど、そいつとは約束があるんです。それを果たすまでは退学には出来ません。琢磨追求を信仰する者として、どうかご理解下さい」
「ああ~?」
加豪が銀二に頼み込む。しかし銀二は眉を大きく曲げて加豪を見た後フンと鼻で笑ったのだ。
「黙ってろ女! こいつ叩きのめしててめえが強いって証明しなくちゃ、こっちは神に顔向けできねえんだよ! お前はすっこんでろ、弱い女が!」
「……なんですって?」
瞬間、加豪の声が鋭くなった。
「女が、弱い?」
「ん?」
俺の前には加豪の背中があるが、なんだか震えていた。手が拳になっている。
「加豪? あの、加豪さん?」
心配になって手を伸ばすが、その前に加豪は歩き出した。




