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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
203/428

通してもらうわよ。私の信仰にかけて

「くぅ!」


 天羽と押し合いくるくると回りながら落下していく。


「はあ!」


 加豪は押し返すと雷切心典光の電力を上げていく。そして回転しながら周囲の天羽に放電した。加豪からの攻撃に天羽たちは羽を焼かれ墜落していく。

 加豪は着地前になんとか姿勢を正し、天和と一緒に両足で地面に落ちた。アスファルトの地面が衝撃で砕ける。


「天和、無事?」

「ん。平気」


 それでも信仰者の二人に怪我はない。天羽からの攻撃も防げたようだ。

 着地した場所はフォルティナ通り。正面広場の南にある通りであり両側を建物に挟まれた大きな道路が走っている。このまま進めば正面広場に出るが目指すは西区だ。そのためにもここは迂回しなければならない。

 そこへヤコブが空間転移で現れた。ともに降りた騎士も無事なようだ。ほかにも無事だった騎士を集めていたようで、ここには二十人近くの騎士がいた。

 しかし、それも当初より少ない。


「探してみたがこれだけだ。ヘリは全滅だな」

「半分は持っていかれたか……」


 沈痛な雰囲気が漂う。仲間を失った悲しみに騎士たちの顔色も悪い。当然加豪も落ち込んだ。

 けれど加豪は顔を上げる。士気は落ち込み悲哀が漂うが、覚悟を宿した瞳で言う。


「起こったことを悔やんでも仕方がないわ。ここに来る時点でみな覚悟は決めていた。あの人も。その遺志を無駄にしちゃいけない。生き残った私たちで役目を果たしましょう」


 加豪たちをここまで運んでくれたパイロットには覚悟があった。ここでなにもしなければ彼らは無駄死にだ。そうはさせない。生き残った者たちが彼らの死の意義を灯さなければならない。

 加豪の言葉に落ち込んでいた騎士たちも顔を上げ頷いた。みな目的を思い出したようだ。それを見てヤコブも気をよくしたか小さく微笑む。


「ふん。嬢ちゃんの言う通りだ。俺たちはこのまま予定通り南の支点破壊に赴くぞ」


 盾をつけた左腕を一回りさせ剣を抜く。騎士たちもそれぞれ武器を構えた。すぐに戦えるよう備える。


「? 待って、上から来るわ!」


 加豪は地面にいくつもの影があるのに気付き上空を見た。そこにはさきほどの天羽たちがゆっくりと降下してきていた。宙で止まり剣先を向けてくる。天羽たちもやる気だ。


「私たちは神の教えを示す者。従わぬ者は執行対象です」

「私たちは神の教えを示す者。従わぬ者は執行対象です」

「私たちは神の教えを示す者。従わぬ者は執行対象です」

「うるさい! すでに間に合ってるのよ!」


 雷切心典光を一閃して威嚇する。信仰の押し付けなんて余計なお世話だ。天下界にいる人々には自分で選んだ信仰がある。これならば一生をかけられると思い、それを突き進んできた過去がある。

 それを無駄にしたくない。誰かの指図で、今まで歩んできた歴史を捨てられるほど安くはない!


「通してもらうわよ。私の信仰にかけて」


 加豪の言葉の後天羽たちが襲いかかってきた。二十人近い数に対して相手は五十体ほどいる。さらにもたもたしていれば援軍も駆けつけてる。

 加豪は天和を守りながら剣を振るう。電撃による攻撃は相手を近づかさせず、掻い潜ってきた天羽も長身の刃と彼女が修めてきた剣術で切り裂いていく。如何に天羽であろうとも剣の腕前は加豪の方が幾段も上だ、これまでをそれに費やしてきた彼女の方が分がある。

 他の騎士たちも剣を振るった。天和を守るように円陣を組み彼らが近くの天羽を、上空や離れた場所は加豪の電撃と――


「はあ!」


 ヤコブの剣が倒していった。

 ヤコブの空間転移が光る。瞬時に現れては斬り倒し、すぐさま天羽の背後を取っては斬っていく。その電光石火の如き早業に天羽たちの数がみるみると減っていく。


「やらせはせんぞ! 我らこそ慈愛連立の信徒、人を救うことこそ本領。ここで退いてなるものか!」


 怒涛の勢いでこの場の天羽は少数にまで減っていた。

 いけるか? そうした心の緩みが騎士たちからわずかに漏れる。しかし、それはすぐに裏切られることになった。


「援軍が来るわ!」


 上空から響き渡る羽の音。遠目ではあるが、五十体ほどの大部隊がこちらに向かってきていた。これではキリがない。


「ええい、仕方があるまい」


 ヤコブは苦い表情で加豪に振り向いた。


「琢磨追求の。護衛は付ける。お前たちだけでさきに行ってくれ」

「けれど」

「この数、俺でなければ食い止められん! 時間がないのだ、早く行け。さっさと片付けてお前たちの後を追ってやる!」


 言っていることは加豪も分かる。もとから時間の限られた戦い。短期で終わらせなければならない。それが分かっていても足が重いのは経験の少なさからか。仲間を置いて行くことに躊躇ってしまう。

 そこへ、無我無心の天和が言った。


「ここで全員足止めされてたら意味がないわ」


 天和は冷静だった。感情が希薄になりがちな無我無心だがその分平常心がある。情に惑わされずに的確にアドバイスしていく。その状況判断と決断力は優秀な兵士のそれと同じものだった。

 隣の友人からの言葉に加豪も心の整理がつく。


「分かってる」


 急がなくてはならない。もし時間切れになってしまえばどうしようもなくなってしまう。ヤコブと離れるのは痛いがそんな弱音など言っていられない。加豪は目つきを鋭くさせた。

 これから向かう先、そこにいる強敵を見据えて。


「それに、あいつとは私一人でやるつもりだったのよ」


 以前一度だけ会ったサングラスの男。チンピラめいた言動ではあったが漂う強大な雰囲気は間違いなく実力者だった。見られた瞬間に死が頭を過るほど。

 しかし考えはある。だからこそ加豪はこの戦いへ参加することを決めていた。


「天和、行くわよ」

「うん」 

「お前ら、彼女たちと共に行け。しっかり守れよ!」

「はっ!」


 ヤコブからの指示で五人の騎士が加豪の後に続く。


「それじゃ、ここは任せます」

「おうよ」


 他の騎士たちにも目礼し、加豪は走り始めた。後に続き天和や騎士たちも足を動かす。建物の路地裏に入り迂回し始めた。

 建物に挟まれた薄暗い路地裏に入る。すると天羽たちと交戦が始まったのか、すぐに剣戟の音が聞こえてきた。


(急がないと)


 振り返ることなく加豪は先頭を走る。胸の焦燥に突き動かされ目的地を目指す。

 支点があるピストロ駅はすぐに見えてきた。線路が伸び駅のホームが見える。ゴルゴダ共和国の主要駅であるここも白の優雅さを備え、巨大な建物が駅のホームだった。


「あれね」


 加豪たちは駅の入口前に来る。駅前の広場には隅にベンチが置いてあり中央には時計台が置いてあった。そこが支点となっているらしく薄く光っている。時計盤に紋様が浮かんでいた。

 しかし、予想外の出来事があった。


「誰もいない……?」


 ここには誰もいなかったのだ。ここを守護しているはずの天羽すら。

 ここは本来ならサリエルが守護している支点だった。しかし加豪たちには知る由もないことだが、この時点でサリエルはウリエルと戦った後だった。そのため無人のまま放置されている。


「なにが起こってるの?」


 加豪は得体の知れない不気味さを感じるものの目的を達成させた。


「はああ!」


 雷切心典光の電撃で時計台を破壊し支点も消滅した。


「なんとか一つを破壊できましたね」


 騎士たちから目的達成の言葉を貰う。みな喜んでいるようだが加豪の表情は優れない。


「ええ……」


 支店の破壊は成功した。喜ぶのは当然。加豪も本心ではホッとしていたがやはり釈然としない。喜ぶ騎士たちに相槌を打つものの元気はなかった。それでも成功は成功と割り切り次に向かうことを決める。


「西区に行きましょう。支点の位置はヴァチカン庭園、そこにある教会ね。ここからだとまだ距離があるわ」


 頭の中に地図を描く。ここからでは建物の隙間から木々の緑がかすかに見える程度だ。


「なにが起こっているのか分からない。周囲に警戒を怠らないで。行きましょう」


 騎士たちが頷き加豪たちは走り出した。ヴァチカン庭園まで伸びる道を走っていく。両側には建物が並ぶが庭園に近づいてきたからか街路樹が多くなり緑が増えてきた。


「天羽だ!」


 騎士の一人が叫ぶ。右方上空から天羽たちが襲いかかってくる。


「ちぃ!」


 すぐさま雷切心典光を構える。敵も必死だ、支点守護のため二十体もの天羽たちが一斉に襲いかかる。


「これからまだ戦いが控えてるっていうのに!」


 一番初めの天羽を電撃で撃ち落とすも後続を止められず近接戦に入る。騎士たちも懸命に剣を振るい天羽たちに対抗していた。彼らとて日々鍛えてきたゴルゴダの騎士だ、戦いの仕方は心得ている。


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