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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
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ガブリエルは私が倒します

 ペトロは正面の天羽を斬り倒すと跳躍した。二階分の高さまで跳ぶ。眼下では至る所で激しい戦いが繰り広げられ上空には自分に襲いかからんと何体もの天羽たちが突撃してきていた。

 その中で、ペトロは己の信仰、それにより到達した力を行使する。


「時よ、止まれ」


 瞬間、世界は白黒の姿へと変じた。昔のフィルム映像そのもので色というものが世界から消える。

 四次元の超越者(オラクル)。空間の操作が行なえるようになれればその者は超越者(オラクル)になったと分かるが、さらに成長したのが時間すらも操れるようになった超越者(オラクル)だ。四次元を操作できる彼らの力はすさまじく、同じ超越者(オラクル)である三次元とは一線を画す。どれだけ空間転移ができようと時間を止められてしまえばいい的だ、意味をなさない。一方的に攻撃ができるため四次元を操作できる超越者(オラクル)が絶対的に有利なのだ。

 時が止まったことにより戦いの激しさも静止画同様に停止している。

 この空間で色を持つのはペトロと、


「そうくるか」


 戦いが始まってから一歩も動いていない、ガブリエルだけだった。


「だが、お前の行動は読めている。そのために私がここにいる」


 ペトロはガブリエルに向かって跳躍しており下降しながら近づいていく。しかしその前、ガブリエルはおもむろに片手を前に出すと指をパチンと鳴らした。それにより時間は動き出し世界は色を取り戻す。動けるようになったことにより、ペトロの前には何体もの天羽が現れ道を防がれてしまった。


「ちぃ!」


 正面に立ち塞がった天羽たちと戦いながら着地する。一糸乱れぬ剣閃に瞬く間に天羽を倒し、ペトロはガブリエルを見る。


「時間操作は私が修正する。通りたいならばここにいる全員を倒すことだな」


 そう言っている間にも天羽たちが上空から降り注ぎその数を増している。天界の(ヘブンズ・ゲート)から援軍が駆け付けその勢いは衰えない。このままではジリ貧だ、早く決着をつけねば敗北する。

 ペトロは表情を苦くし、ガブリエルは涼しい顔で踵を返した。


「せいぜい足掻くがいい、お前たちがどこまで出来るか待たせてもらおう」


 そう言い残しガブリエルは支点守護の位置へと消えていった。町のどこで時間操作を行なおうが修正できるというわけか。ペトロはすぐにでも後を追いかけたかったがこの場を離れるわけにもいかない。ペトロという主力を失えばすぐにでも勢いに押されてしまうだろう。ここに留まり戦うしかない。

 ペトロたちは無限に湧く天羽たちとの不毛な戦いを強いられた。

 だが、無駄ではない。これは敵の大部分をこちらに引き付けるための戦い。打開するための真の矢はこれからだ。

 それを実らせるためにも、ここをふんばれるかがこの戦いを大きく左右する。


「気を抜くな! 時間を稼げ、ここを維持しろ!」


 ペトロの激が戦場に飛ぶ。司令官の言葉にやる気を燃やしゴルゴダの信仰者は武器を振るう。目の前の敵を倒すこと、生き残ること。信仰を胸に全力で天羽と戦っていた。

 ペトロも戦場で剣を振るい多くの天羽たちと戦う。仲間のピンチには転移して駆け付け、超越者(オラクル)として最も活躍していた。大通りを縦横無尽に飛び回り、宙にいる天羽たちとも戦っていく。彼の戦う姿に仲間たちは希望と勇気を貰い己を奮い立たせていた。

 刻一刻と迫るタイムリミット、敵の増援に戦況はペトロたちの奮闘をよそに劣勢に傾いていく。その度にペトロは剣を早く、空間転移の数を増していく。

 焦らないわけがない。常に時間に終われた戦い、焦燥が胸を突き動かす。もたもたしていればこの戦争どころか大通りの戦いすら終わってしまう。

 ペトロは転移した宙で天羽たちと戦っていた。落下しながらも空間転移を繰り返し、敵の背後を取っては斬り倒していく。空から多くの羽が飛び散り、着地したペトロの頭上で漂った。

 その時だった。

 希望の光が二つ、この場を走り去っていったのだ。


「どけぇええ!」


 大勢の声がひしめき合うにも関わらず、それは誰よりも力強い少年の声だった。


「ここは通してもらいます!」


 直後黄金の光線が浮遊している天羽たちを薙ぎ払った。

 神愛とミルフィアが駆け抜けていく。神愛は黄金のオーラを身に纏い、立ちはだかる天羽たちを殴り倒していく。ミルフィアはいくつもの光線を放ち離れた敵を攻撃していた。彼らに道を作るため兵士や騎士たちも邪魔する天羽を抑え込む。

 そうして道を切り開き二人は戦場を渡っていった。向かう先はガブリエルが消えた北の支点。

 この戦いに勝つためには四つの支点をすべて壊さなければならない。そのために二人が大通りを突破した。

 あとは彼らが無事支点を壊してくれるのを祈るばかりだ。人類対天羽の戦いはあの二人に掛かっている。

 神愛とミルフィアの後ろ姿を見送り、ペトロは天羽たちに剣を向けた。正面には二体の天羽と宙にも三体浮いている。


「頼んだぞ……」


 希望を彼らに託し、ペトロは再び剣を振るっていった。



 俺はヴァチカンの大通りを激走していた。道路には車は一台もなくこの先にはサン・ジアイ大聖堂が見える。隣にはミルフィアがおり今も思想統一の弾圧によって天羽を撃ち落としていた。


「気をつけてください主、天羽たちの大部分はペトロたちが引き付けているとはいえここにも警備の天羽はいます」

「分かってる!」


 俺は地面を蹴った。王金調律で足を強化し跳躍する。宙から襲いかかってきた天羽に向かっている間に右手に黄金のオーラを集め相手に叩き付ける。天羽も同時に剣を振り下ろしていたが力は俺の方が上であり、天羽は吹き飛ばされ建物に衝突していた。

 しかし攻撃した隙を狙って新たに三体の天羽が襲いかかってきた。空中で身動きが取れない!


「はああ!」


 三体の天羽が光線に呑み込まれる。そのまま弾き飛ばされた。

 俺は着地するとすぐに走るのを再開した。すぐにミルフィアが追いつき俺の隣を走っている。

 ミルフィアは自信満々な顔で俺を見つめていた。


「……なんだよその得意気な顔は」

「いえ、別に」


 その褒めてもらいたい子犬みたいな顔止めろ!

 天羽たちの襲撃はあったものの俺たちは順調に進んでいた。ペトロたちのおかげだろう、少ない抵抗だけで済んだ。その分ペトロたちに戦力が集中しているってことだ。早く四つの支点というのを破壊しないと。


「主、見えてきます」


 俺たちの進む先、そこにはサン・ジアイ大聖堂の正面が見えてきた。広大な広場は円形状で外側にはいくつもの柱が並んでいる。中央には一際大きな柱が立っていた。しかし以前見た時とは違い仄かな輝きを発し、先端付近には魔法陣のような紋様が浮かび上がっていた。どうやらこの柱が結界の支点のようだな。

 俺たちは広場に入る。サン・ジアイ大聖堂はもう目の前だ。だが、中央の柱の前に一人の女性が立っていた。

 青のセミロングの髪と白のロングコートを靡かせて立つ、ガブリエルだった。

 俺たちは足を止めガブリエルの前に立つ。辺りを見渡してみるが他に天羽は見当たらない。


「あんた一人か」

「見ての通りだ」


 相変わらず物静かながらも厳しい雰囲気のある女だ。両手をポケットに入れ佇む姿には戦意すら感じない。


「たった一人なんて不用心じゃないのか? それとも自信家なのか?」

「私を倒せるほどの者なら下級天羽がいくらいても意味がないのでね」

「そうかい」


 悲観も苦笑もすることなく、ガブリエルは事実だと特に感慨もなく言う。潔さなのか客観的な思考が売りなのか。

 ただ、その姿勢から戦いは避けられないと伝わってくる。戦う気も見せないくせに役割には忠実らしい。

 ガブリエルの氷のような視線に見つめられる。恵瑠と同じ澄んだ青色の瞳が刃物のような威圧感を伴っている。

 強い。向かい合って分かる。今までも見てきたが戦う相手として意識して見ればそれがよく分かる。

 天羽の役職がどうやって決まっているのか知らないが、こいつ、天羽の中でも最強クラスだろ。


「主、ここは私が。主はさきに東区画に向かってください」

「ミルフィア?」


 隣に立っていたミルフィアが前に出た。すでに戦闘態勢だ、ガブリエルを真っ直ぐに捉え隙のない声だった。

 ミルフィアは、俺の前に立つと言った。


「ガブリエルは私が倒します」


 ミルフィアはガブリエルと一対一で戦うつもりだった。

 この戦いで重要なのは時間だ、もたもたしていれば天界の(ヘブンズ・ゲート)は開き切り本当に勝負にならなくなる。そのためここで俺が東に行くのは分かる。

 だが危険だ。相手はガブリエル、どんな力を持っているか分からないが一対一よりも、ここだけでも二人で戦うべきだ。


「でも」

「早く」


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