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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
187/418

来るがいい、ゴルゴダの騎士。その信念と決意を燃やそうとも、灰の中から生まれる新たな時代を作り上げるために。

 みるみると巨大化していく。膨れ上がった無価値な(ファイア・オブ・ノーライフ)は三メートルを超え、膨大な出力を溜め込んでいく。


「はああああ!」


 それを、天に浮かぶ邪眼目掛け発射した。

 あと一秒。

 反動に地面が砕け散った。猛風に破片が飛んでいく。

 発射された無価値な(ファイア・オブ・ノーライフ)が天を昇り、青の一線が地上と天を繋ぐ。

 無価値な(ファイア・オブ・ノーライフ)は月の中心へと直撃した。黒目を焼き払い、白目へと広がっていく。あらゆるものを消滅させる炎が魔を払い、月すら溶かしていく。

 炎上する月。空を覆うほどのそれが青く燃える様は歪な青空だった。炎の空だ。

 ウリエルの炎は、月すら燃やし尽くしていく。

 絶対死の視線(イービル・アイ)は消滅し、それを追い出すように厚い雲が蓋をする。空は再び暗雲に包まれ昼間となっていた。


「……ふぅ」


 ウリエルからようやく安堵の表情が漏れる。今まで体を蝕んできた視線は感じない。ようやく得られた解放感に表情が緩む。

 羽を地面から引き抜き姿勢を正す。辺りは激戦を物語るように壊滅状態だ、建物は例外なく崩れているか溶けている。焦げ跡も周囲を覆うほどだ。

 それを潜り抜け、ウリエルは立っている。勝負を勝ちきり生き残った。

 しかし、決戦はこれからだ。二千年前の決着を清算しただけ。未来を作るのはこれから。

 ウリエルは気持ちを切り替え、再び戦意の火を灯す。

 来るがいい、ゴルゴダの騎士。その信念と決意を燃やそうとも、灰の中から生まれる新たな時代を作り上げるために。

 ウリエルは正面を見据えた。決戦を間近に控え、伝説の天羽は一人立つ。

 理想のために。

 そして、愛する者のために。

 決戦の時は近い。


 *

 

 俺は教皇宮殿の廊下を三人を引き連れて歩いている。目指す先は戦略会議室であり、俺は扉を開けた。

 中にはペトロやヤコブ、他にも数人が机の前に座っている。会議中の重苦しい空気の中、俺は怯むことなく入室した。


「神愛?」


 俺の入室にペトロが声を上げる。他の人たちも驚いたように俺を見てきた。


「どうしたイレギュラー、大事なお友達にふられたお前が今更なんのようだ」


 俺のことを快く思っていないヤコブからヤジが飛ぶ。ヤコブだけじゃない。他の人間もなんの用かと目つきを細め俺を見つめてきていた。

 あれだけ威勢よく出て行って、結果はこの様、ヤコブの言うとおりだ。俺は恵瑠を連れ戻せなかった。そんな俺がどう思われるかなんて分かり切ってる。

 それでも、俺は言った。

 わがままも甚だしいだろうが、俺は諦めないって決めたんだ。

 あいつに会うって。どんなに反対されようが、俺の明日に、笑える未来にあいつがいなくちゃ駄目なんだ!


「サン・ジアイ大聖堂に行ってくる」

「ちょうどいい」

「ふざっけんな! 俺は行くと言ったら……え?」


 あれ、今なんて言った?

 ぽかんとしたまま辺りを見渡す。てっきり反対されると思って口走っちゃったけど、え、今ちょうどいいって言った……?

 半信半疑な目でペトロを見ていると、小さく笑ってから俺を見てきた。


「実はその話が今し方まとまったところだ」


 俺が駐屯地で恵瑠と会っている間に会議は進んでいたのか。俺が二日も寝ている間なにもしていなかったから手をこまねいてばかりだと思っていたが、ここにいる連中も連中なりに計画を立てていたんだ。

 

「なんだその顔は。お前は私たちが無駄話でもしていたとでも思ったか?」

「…………」

「…………」

「いやあ、そんなことないよ。思う訳ないさ」

「まあいい」


 呆れたようにつぶやくがすぐにペトロは表情を引き締めた。席を立つと会議室の奥、正面にあるボードの前に立った。そこにはサン・ジアイ大聖堂周辺の地図が張られている。いくつもの線や点が書き込まれており作戦立案の跡が見て取れた。


「我々は明日、天羽たちにより占拠されたヴァチカンを取り戻すべく、首都奪還作戦を行う。現場で交戦した兵士たちの証言からも敵の数は膨大だ。加えてサン・ジアイ大聖堂とその上空を含め結界が張ってあり、大聖堂並び天空の門には近づけない」


 ペトロから真剣な声で作戦の内容が伝えられる。事の重大さに緊迫した空気が流れた。


「近づけないって、どうすりゃいいんだよ」

「斥候の情報ではどうやら結界は四つの支点によって機能しているらしい」


 ペトロは赤のマジックを手に取り、四つのポイントに印を書き込んでいく。


「支点はサン・ジアイ大聖堂を中心に東西南北の四方に置かれている。結界を崩すには支点すべての破壊が必要であり、支点にはそれぞれ政府高官だった天羽たちが守護している。一人の例外を除いてな」

「例外?」


 胸の中で小首を傾げる。


「支点の警護に就いているのはガブリエル、ラファエル、サリエル。ミカエルは守護ではなくおそらくサン・ジアイ大聖堂の中だと思われる。それで最後の一人だが、白い髪の天羽だそうだ」

「恵瑠!」


 そうか、そこにいるのか。

 守りは四人で行い、天羽長は中央。ヘブンズ・ゲートも結界の中だから守りの四人は絶対に倒さないといけないわけか。


「ヴァチカンは現在やつらの地上侵攻の本拠地だ。天羽軍からも激しい抵抗が予想される。それも無限の戦力だ、戦局ははっきり言って劣勢だ」


 ペトロの切迫した表情が会議室を見渡す。皆も深刻な顔で見つめ返す。


「俺が聞くのもなんだが、教皇の様子はどうなんだよ?」


 教皇宮殿襲撃の際にやつらと戦いエノクは倒れてしまった。あれから二日が経つが、もし戦えるならこれほどの戦力はない。


「教皇様はまだ寝込んでいる。神託物を二回も破壊されたんだ、無理もない」


 どうやら復帰は期待出来そうにないか。まあ、一回目は俺が壊したんだが。……なんだか俺に冷たい視線が集まる。


「状況は険しいが、このままなにもしないわけにはいかない。敵の先兵を我が軍で抑えつつ、聖騎士全員で支点を守護する天羽を各個撃破していく。七大天羽に数えられる天羽はみな強力だ、勝利を確実なものにするためにも一対一の決闘は避けるべきだ」


 ガブリエルやラファエル、そしてサリエル。俺はやつらがどんなに強いのは知らないが、ヨハネ先生やヤコブはそいつらと対戦して苦戦を強いられたんだ。そのせいでヨハネ先生は今も寝込んでいるし、やつらは弱っていたとはいえメタトロンも倒した。強敵なのは間違いないんだ、こちらの戦力を分散するより確実に潰していった方がいい。


「それだと手遅れだと思う」

「天和?」


 そこで今まで静観していた天和が口を開いた。隣に振り返る。


「手遅れってなんだよ。天界の(ヘブンズ・ゲート)はすでに開いているんだ、手遅れもなにもないだろう」


 この戦いの要は天界の(ヘブンズ・ゲート)を阻止できるかできないかだ。敵は地上に残った天羽四人だけだが、これがもし開いてしまえば無限の軍勢となって襲いかかってくる。戦力差が一気に逆転だ。そしてそれはもう開いてしまった。絶望的な展開だ。

 でも、まだやれることがあるのか? 天和の口ぶりはそう聞こえる。


「どういう意味だ?」


 ボードの前に立つペトロも天和に問いかける。会議室にいる全員が天和を見つめた。


「もし天界の(ヘブンズ・ゲート)が開いて、無限の軍勢が押し寄せるのならどうしてミカエルはすぐにも侵攻を開始しないの? 栗見さんによる散発的な襲撃はあったけど、あんな真似しないで全軍でかかればいいのに」

「それはそうなんだよな~」


 天和の言ったことは俺もなんとなくは思っていたことだった。きっとなにか理由でもあるんだろうと深く考えていなかったが。

 でもそうなんだよな、天界の(ヘブンズ・ゲート)が開いたにも関わらず侵攻を開始しない理由ってなんだ? 


「俺が知ってるミカエルっていうのはムカつくやつだったが馬鹿じゃない。ただ臆病者って感じでもなかった。そんなやつが天界の(ヘブンズ・ゲート)が開いたにもかかわらず駐屯地の襲撃だけに留まるなんて奴らしくない」


 これまでの敵の行動、それをミカエル一人で計画していたのならたいしたもんだ。腹の立つほど嫌味な男だが頭は冴える。そして大胆な時は大胆だ、そうでなきゃ軍を洗脳して教皇宮殿に攻め込むなんてしないだろう。


「計画的な男だ。だからこそ本格的な侵攻の前に私たちの戦力を削りたかったのでは?」

「それにしてもだぜ」


 ペトロの言うことも分かるが、無限に戦力があるなら相手の拠点を潰すことにどんな意味がある? 石橋を叩いて渡るじゃないが、慎重過ぎる。


「天羽軍は無限の軍勢、その必要はないと思う。むしろ栗見さんの襲撃は陽動、別のものを隠してると思う」


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