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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
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ゆ、夢……?

「おい」


 それで俺はしゃがみ込んで目線の位置を同じにすると、このチンピラうさぎ共を睨みつけた。


「お前ら調子乗ってると、両耳掴んでホーガン投げみたいに振り回すぞ?」


 そう言うと二羽はビクッと体を震わした。すると頭の上からモクモクした煙のようなものが浮かび上がり、合わさった。そこには俺とこいつらの映像が映っており、きっとこいつらの考えていることだろう。

 俺はリーゼントのうさぎの両耳をニンジンを引き抜くみたいに持ち上げると、そのまま回転し振り回したのだ。回転はみるみる速度を上げていく。その時だった。


『あ、千切れた』

『ぎゃあああああ!』


 リーゼントウサギははるか遠くまで飛んでいったとさ。


「ひぃいい!」

「逃げるウサ!」


 その後モクモクはなくなり、二羽は文字通り脱兎の如く逃げ去っていった。その後ろ姿に天和が声を開ける。


「待ってバニラ! ショコラ!」

「あいつらそんな可愛い名前なの!?」


 二羽はここからいなくなった。天和は彼らの逃げた先を見つめていたが、姿が見えなくなると俺に振り向いた。


「これがうさぎ界、人類が夢見る理想の世界よ」

「そうですか、すごいですね。それでは僕はお暇しますんで、早いとこ夢から覚ましてもらっていいですか?」

「それは出来ないわ」

「はああ!?」


 出来ない!?

 俺は天和に詰め寄った。


「おいおいちょっと待て、出来ないってどういうことだよ。なに、俺ずっとこのまま? うさぎしかいないこの場所に閉じ込められるの?」

「夢のようね」

「面白くねえんだよ」


 なに上手いこと言ってんだこいつ。


「ここから出る方法は一つしかないわ」

「なんだよ、教えてくれよ」

「私はうさぎ神。うさぎ界の神様。だからここで起こることはすべて知っているわ。未来さえもね」

「なんでもいいから早く教えてくれよ、なんかここうさぎ臭い」


 ずっとこんな場所にいてたまるか。さっさとこの悪夢から解放してくれよ。


「宮司君が目を覚ますのは、『まるでうさぎのハルク・ホーガンや!』って言う途中で目が覚めるわ」

「どういうことだよ! どんな状況なら俺はそんなツッコみを入れるんだよ!?」


 もう駄目だ、無理だよそんなの。あるわけないだろそんな場面。


「はあー」


 俺は絶望に項垂れ地面を見ていると、隣にいる天和が呼んできた。


「ねえ宮司君、あれを見て」

「なんだよ今度は……」


 もういい加減にしてくれよ……。

 俺はなんとか顔を上げ天和が指さしている場所を見てみた。コンクリートの道が続いている。いったいなんだろうか。


「ん?」


 なんだろ、そこにやけに大きなものが見える。

 よく見てみると、そこには人の形をしたムキムキのうさぎがバンダナを被って立っていた。

「まるでうさぎのハルク・ホー――」



「ハ!?」


 俺はガバッと目が覚めた。上体を起こし我に返る。


「ゆ、夢……?」


 辺りを見渡してみるとここは以前泊まったことのあるホテルの一室だった。全体的に白い内装にお洒落な家具が並んでいる。うさぎ界じゃない、俺は戻ってきたんだ!


「よかった~……」


 起こした体をベッドに寝かせる。ホッとした気持ちに力が抜けた。


「主、目が覚めたのですか?」


 すると後ろの方からミルフィアの声が聞こえてきた。その声に救われる。俺はすぐに体を起こした。


「ミルフィアか。いや~、ひどい夢を見てさ」

「そうだったのですね。ですがもう大丈夫ウサ」

「…………え」


 ウサ?

 嫌な予感がする。


「な!?」


 俺はすぐに振り向くとそこはとんでもないことになっていた。

 ミルフィアは扉の前に立っていた。しかしその頭にはウサ耳が付いており、服は黒のレオタード。さらにお尻には白のぽんぽんしたやつが付いている、完全なバニーガール姿だったのだ!

 それが当たり前のようにミルフィアはとびっきりの笑顔で近づいてくる。


「そんな主を元気つけようとちゃんと用意しておいたウサ。はい、今朝採れたての、キャロットジュースウサ!」


 ミルフィアはコップに入ったキャロットジュースを両手で突き出してきた。


「うわあああああああああああああああ!」


 ああああああああああああああああああああ!

 あああああああああああああ!

 ああああああああああああああああああああ!

 俺は起き上がり布団を蹴り飛ばした! そして両手で頭を抱え込んだ!


「うわああ! があああああああああ!」


 ベッドの上で足をバタバタし暴れる。

 嫌だ! 誰か、誰か助けてくれえええええええ!

 ドン! ドン! ドン!


「主! どうしました!? 主ぃ!?」


 扉がいきおいよく叩かれる音がする。この声はミルフィアだ。乱暴にドアをノックするが俺が出ないからか今度はものすごい音が響いてきた。直後、ドアが壊されショルダータックルの姿勢でミルフィアが入ってきた。服装は至って普通な制服姿だ。


「主! 大丈夫ですか!?」

「来るなぁああああ!」


 しかし俺としてはさきほどがさきほどだから信用できない。こいつまで変な語尾でしゃべってきたら俺はもう出られない気がする!


「敵襲ですか!? なにかされたのですか!?」

「来るなぁ! 来るなあああ!」

「相当錯乱している……! 大丈夫です主! 私です、ミルフィアです!」

「だからお前が来るなつってんだろ!」

「え…………」

「あ、いや、ごめん」


 ミルフィアは地獄の底にでも落とされたような顔をしてしまった。マジごめん。

 でもそうはいっても俺はここが現実なのか夢の続きなのか分からないんだよ。


「ミルフィア、一つ聞いていいか?」

「え? は、はい! 主からの問いかけならば、不肖ミルフィア、全身全霊に賭けてお答えしましょう!」

「ミルフィア、しっぽ付いてるか?」

「は?」


 が、今度は豆鉄砲を食らったハトのようになっていた。そのままお互い見つめ続ける。


「「…………」」


 ミルフィアはゆっくり首を振りながら答えた。


「いえ……」


 今分かった。これ現実だ。よかった、俺は今度こそ戻ってきたんだ。でもなぜだろう、なにか大切なものを失った気がする。


「主、大丈夫ですか? 本当に大丈夫ですか?」


 めっちゃ心配してる。


「悪いなミルフィア、寝ぼけてた。今のは気にしないでくれ」

「それならいいのですが……」


 まだ腑に落ちないという感じだったがミルフィアは立ち上がった。


「どうやら無事なようでよかったです。敵襲ではなかったようですし。なにか飲みますか?」

「ああ、頼む。……キャロットジュース以外でな」

「……主、キャロットジュースお嫌いでしたっけ?」


 それからミルフィアが持ってきてくれた水を飲んで一息つく。どうやら本当に現実に戻ってきたみたいだ。今度こそ本当だ、良かった、マジで。

 しかし、そんな俺にあるものが目についた。ベッドの端に落ちていたそれを手に取る。

 それは白い羽だった。


「恵瑠……」


 それを見て過去が一気に蘇ってきた。

 そうだ、俺はエノクが落ちてきた場所に駆けつけそこで恵瑠と出会ったんだ。だけど、


『消えろ』


 あいつが俺に向けた言葉を思い出す。攻撃を受けて、俺は倒されたんだ。

 俺だけだったのか? 今でも友達だって、ずっと友達だと思っていたのは。あいつは天羽で、俺とはもう仲良くなれないのか?

 体に残った火傷の痛みが恵瑠が向けた炎が本物なんだと嫌でも教えられる。

 あいつが俺を攻撃してきたのは、本当なんだ。


「あれ」


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