突然突撃一発ギャグシリ~ズ
天和が扉に近づきミルフィアは道を退いた。天和の後ろに二人は立つが、いきなりのことに戸惑っている。芸人でもないのに突然ネタを披露しろと言われても無茶ブリだ。神愛の不安を取り除く作戦なのに不安しかない。
「まずは私から行くわ」
「あんたどうでもいい時だけ頼もしいわね」
妙にやる気満々な天和に加豪が一言ツッコんでおく。
突然始まった天和提案の大会は早速始まり、その一番槍は言い出した天和からに決まった。
天和は扉を開け部屋の中へと入った。
「宮司君、入るわよ」
「入る前に言えよ」
そりゃそうである。
神愛は依然とベッドに腰掛けており、天和はその前に移動した。
神愛の表情は優れない。部屋に来た天和にも暗い表情のまま言い放った。
「天和、今は悪いけど一人にしてくれないか。誰かといる気分じゃねえんだよ」
「突然突撃一発ギャグシリ~ズ」
「は?」
聞き間違いか、あり得ないくらい場違いな言葉が聞こえた気がするのは。たまらず神愛も呆気にとられて天和を見上げた。
天和は普段と変わらない無表情のまま、神愛の前に立っていた。
「終わらないにらめっこ」
そう言うと天和はスカートのポケットから手鏡を持ち出し、体を横にズラすとそれをのぞき込んだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
しばらくして、天和は手鏡を元のポケットに戻した。
「続きまして」
「は!?」
終わった!
「なに? なに? どういうこと!?」
事態がつかめず神愛が焦っている。
「突然突撃一発ギャグシリ~ズ」
「ちょっと待て! 説明してくれよ、事態が分からん!」
神愛は説明を要求するが天和は答えない。
「ライオンに食べられる直前のシマウマが言った、渾身の一言」
天和は「んん」とのどを鳴らしてから、神愛を見つめ言い放った。
「食べないで、焼いた方が旨いから」
「…………ふふ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「続きまして」
「あの、さっきからなにが始まってるんです?」
未だに事態が把握出来ていない神愛。それでも説明しない天和。
「バレンタインデーに、女生徒が憧れの先輩に手作りチョコを渡し、それを食べた先輩が言った一言」
天和はまたも「んん」と声を慣らすと、神愛を見つめ言い放った。
「お前のチョコ甘くないな」
「ふふ」
神愛の口元が少しだけピクピクした。
「突然突撃一発ギャグシリ~ズはこれで終わりよ。それじゃあね」
天和はそう言うと扉に向かって歩き始めてしまった。
「おい、帰るのは構わないけどその前に説明してくれよ、おい!」
が、それで天和が止まるわけもなくそのまま出て言ってしまった。扉がバタンと閉められる。
「ほんとに帰るんかい!」
説明なしで本当に帰っていった。
「なんなんだあいつ」
神愛はベッドに座ったまま首を傾げる。理解が追いつかない、どういうことなんだ。
よく分からないことに巻き込まれたようだがきっと事故だろう。ドライバーも相当頭が飛んでいたようだしこのことはもう忘れよう。そんなことより今は静かでありたい。
が、またもドアがノックされ扉が開かれた。
「入るわよ」
「今度はお前か」
入ってきたのは加豪だった。少しだけ緊張した様子で神愛の前にまで歩いてくる。
「天和はともかく、お前までどうした。気でも触れたのか?」
「あんたに言われたくないわよ、こっちは心配してやってんのに」
「心配?」
「それよりも」
神愛の追求を振り切り、加豪は強引に話題を切り替えた。
「実は以前にミルフィアが甘いものを食べたいって言ったからね、二人でケーキが食べれるお店に入ったのよ。受付のガラスケースにいろいろなケーキが入ってあって、どれにしようかなって私は眺めてたのよ」
「なんの話だ突然」
「いいから聞け」
「う、うん」
突然始まった加豪の話にとりあえず合わせ神愛は相づちを打った。
「そしたらミルフィアはたくさんあるケーキの中わき目も降らず一点だけをじーと見てるの。いったいなにを見てるのかなーって、私もそれを見てみたわけよ。そしたらね」
加豪は一端そこで話を止めると、神愛を見つめ言い放った。
「ミルフィアが見る、ミルフィーユ」
「…………」
「…………」
「…………」
緊急速報。二人の間にブリザード級の寒気が訪れる。
「あれ?」
神愛のリアクションがないからか、手応えのなさに加豪はおかしいなという表情をした。
「あのね、ミルフィアのミルが、見ると、ミルフィーユのミルとかかってて」
「いや、分かってる分かってる。そんなこと説明されなくても分かってるんだよ。俺が知りたいのは、どうしてそんなしょうもないダジャレを言うためにお前がわざわざこの部屋に来たのか、ってことなんだよ」
「…………」
「…………」
部屋になんだか気まずい空気が流れる。二人は少しだけ無言のまま見つめ合った。
そしてすべてを理解した加豪は、神愛から顔を背けると扉に向かって歩き始めた。
「ごめん、今のは忘れて」
「ちょっと待てって! 説明してくれよ、どういうことなんだ!?」
「うるさい! 忘れてって言ったでしょう!」
バン!
加豪は乱暴な勢いで扉を閉め出ていった。
「どういうことなんだ……」
神愛は立ち上がった体をベッドに下ろし、額に片手を当てた。
加豪は廊下に出るが、表情は生気を失いグロッキー状態だった。
「死にたい…………」
「加豪、頑張りました。よくやりましたよ」
そんな加豪をミルフィアが優しく迎える。ミルフィアは励ますが加豪は収まりきらず自棄になっていた。
「もう嫌だ私~。帰りたい、五分前に戻りたい。死にたいもぉ~!」
哀れ加豪、その望みは届かない。
加豪は惨敗に終わり、ついにミルフィアの番が回ってきた。
「それじゃラストね、オオトリだからって緊張しなくていいわよ」
「やめてください天和、緊張します」
ミルフィアは扉の前に立ち体を固くしている。こんなこと転生したいくつもの人生を含めても初めてのことだ。
ミルフィアは不安から背後にいる二人を見つめた。
「じゃあ、あと頑張って」
「死にたいもぉ~」
頼れる仲間はみんな目が死んでる。