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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
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うさぎ界

 俺は、恵瑠と再会した。

 そう、俺は出会ったんだ。恵瑠が生きていた。それはそれだけでガッツポーズをしたくなるほど嬉しいことだ。実際に出会った瞬間なんて胸の中で百万という俺がスタンディングオベーションだった。それくらい嬉しかった。

 けれど、あいつとの出会いは予想とは違っていた。

 あいつは自分をウリエルと名乗り、敵だと言った。友でもなんでもないと。

 その後、炎を向けてきたんだ。

 訳が分からなかった。だってそうだろ? 俺たちはずっと友達だって、そう言っていたじゃないか。お前だって喜んでいたじゃないか。

 あれは、ぜんぶ嘘だって? 俺の勘違いだって? そう言うのかよ?

 俺はなにを信じればいい。これが俺たちの最後なのか?

 分からない。なにも。自分が大事にしてきたものがなくなって、自分自身すら分からなくなってくる。

 俺はいったいどうしたらいいんだ……。

 目覚めた瞬間、俺の胸に過ぎったのはそんな感情だった。最悪と言っていい目覚めだ。犬のフンの臭いで目を覚ましたような気分。起きるなり眉間にしわが寄る。

 が、それはそれとして俺は辺りを見渡した。


「あれ、どこだここ?」


 気が付いた時、俺は知らない場所にいた。起き上がってみるも真っ暗な空間でなにも見えない。ここはどこ? 俺は誰? 俺は宮司神愛だってことしか分からねえ。

 おかしい。俺は確か恵瑠と出会って、けれど炎の攻撃を受け意識を失ったはずだ。なのにこんなわけの分からないところに立っている。


「意味不明」


 よく分からん。分からんがどうにかしないと。ここには誰もいないのか?


「ハロ~、ヘルプ、ミ~」


 声を掛けるが返事がない、ただの無人のようだ。


「ようこそ」

「おお」


 突然人が現れた。なんの気配もなくいきなり声をかけられびっくりする。

 目の前に現れた人物。それは天和だった。


「天和、お前なにしてんだこんな場所で」


 真っ暗な空間でもなぜか彼女だけははっきり見える。緑の髪に印象的な赤い瞳。そして無表情に近い顔。

 それはいつも通りなのだが、一点だけ普段とは違うものがあった。

 服だ。なぜか天和はこれでもかと言わんばかりのうさぎがプリントされた豪華な服装をしていた。無我無心の伝統衣装かな? 緑色のはっぴ? 袴? 和服? よく分からんけどそのすごいバージョンだ、緑と白が折り重なった裾が絨毯のように地面に伸びている。さらに頭には巨大な髪飾りまで付けていた。


「なんだよその格好、どこで売ってんだそれ」

「宮司君、私は天和ではないわ。うさぎ神天和よ」


 ワッツ!?


「ハ? 何言ってんだ天和、大丈夫か。ついに受信したのか? だからあれほどアルミで頭を巻いておけって言ったじゃねえか」


 天和は以前からおかしなやつだったが今回は飛び抜けてやばい気がするぞ。こいつの異変に比べれば暗闇の空間なんてどうでもよく思えるわ。


「私はなにも受信していないわ。ただうさぎを愛するあまりうさぎ神となっただけよ」

「それも十分やばいだろ」

「宮司君には重大なお知らせがあるの」

「知ってるよ、お前のことだろ? 俺の目の前には高校生にも関わらず児童向けにしか見えないうらぎのプリントした服を着こなし、うさぎ神を自称してるクラスメイトがいるんだぞ? これ以上に重大なことがあるなら教えて欲しいわ」

「宮司君、これはあなたの夢の中なの」

「うそだあああああああああ!」


 どういうことだぁああああ!?


「俺の夢?」

「そう」


 天和、もというさぎ神天和はこくんと頷いた。


「これは宮司君が見ている夢でしかないの。だから外の世界とは一切関係ないのよ。ここで起こった出来事も人物も一切現実とは無関係なの」

「ああ、そういうこと言っちゃうんだ」


 にしても俺の夢か。そうか、そういうことか。なんか強引だけどそういうことにしておこう。なんていうかこんなこと真剣に考えたくない。


「夢だからと言ってなんでお前が出てくるんだ、他のやつらは?」

「いい宮司君。現実世界では今たいへんなことになっていて、恵瑠さんを中心にみんな頑張っているわ。それに比べて私は活躍が少ないからこうして出てきたの。いわば救済回なのよ」

「知らねえよ! 元の世界に帰してくれよ!」


 なんでお前の出番に俺が付き合わないといけないんだよ!


「それを言うなら加豪だってそこまで活躍してねえぞ?」

「彼女は戦闘要員だからぼんやりあるのよ。私はうっすらとしかないの」

「ぼんやりもうっすらもそこまで違いないだろ」

「宮司君にはこれからある場所に来てもらうわ」

「無視かよ」


 すると突然俺たちのいる場所が変わった。


「うお!」


 空間が書き換わる。黒い空間は泥を水で洗い流すように消え去り、そこから現れたのは、遊園地だった。

 さらに歌までも聞こえてくる。


『うさぎ~、うさぎ~う~さぎの、楽~園~、うさぎ~、うさぎ~う~さぎの、楽~園~』

「なんだこれ?」


 俺たちは遊園地の中に立っている。メリーゴーランドにジェットコースター、観覧車などお決まりの遊具たち。しかしここが普通の遊園地と違うのはアトラクションの全部がうさぎをモチーフにしていることだ。メリーゴーランドもうさぎだし、ジェットコースターの正面にもうさぎの顔がついている。そしてなにより、行き交う人々がうさぎたちってことだ。ぴょんぴょん跳ねては乗り物に乗っている。


「ようこそ、うさぎの楽園、うさぎ界へ」

「ネーミングストレート過ぎだろ」


 見た瞬間だいたい分かったわ。

 それにしてもどんどん話がわけ分からんことに進んでいるぞ。どうなるんだこれ?


「そもそもなんだここ?」

「ここはうさぎの楽園、うさぎ界よ」

「聞いたわ」

「ここではうさぎさんたちは人と同じように暮らしているの。ここでの主役は人ではなくうさぎさん。ここは癒しと喜びで溢れるうさぎ界なのよ」


 天和は無表情ながら自信を感じさせる口調で断言してきた。


「ここにいる住民はみんな可愛いうさぎさんたちばかりなのよ」

「可愛いって言ってもお前……」


 こいつの言う通りうさぎ自体は可愛いと思うよ。たださっきから気になるのが視界に映るんだけど。

 そこにはベンチに座る二羽のうさぎがいたのだ。

 一人はなぜか茶髪のリーゼントで、もう一匹が黒のパンチパーマだ。こいつらだけ改造した学ランを着ておりベンチを占領している。


「あいつらどう見ても可愛くはないだろ。おい天和、あれ見ろあれ、あれはありなのか?」


 俺は二羽を指さす。すると向こうもこちらに気付いたようで足元に近づいてきた。立ち止まると後ろ足で立ち俺を見上げてくる。


「おお? なに見てんだてめえ、やるウサか? やんのかウサか?」

「喋るんかい!」


 チンピラじゃねえか。これのどこが可愛いのか教えてくれ!


「ていうかウサってなんだよ。ワンとかニャーとかそういう感じかよ」

「仕方がないんだウサ、俺たちだってウサギがどんな鳴き声するか分からないんだウサ。だから個性を付けるために語尾にウサって付けてるウサ」

「ちなみにラビと迷ったウサ」

「どうでもいいんだよそんな事情。それにウサギがどんな鳴き声するかなんて俺がお前の腹一発殴れば分かるだろ」

「こわ」


 おい、素で引いてるんじゃねえよ。


「お前怖すぎだろウサ。それにそれ鳴き声じゃなくてうめき声だろウサ。なんで語尾にいちいちうめき声つけなきゃいけんだ。……ウサ!」

「お前今忘れてたよね?」


 そんなことを考えていると二羽はさらに距離を詰め俺を睨みつけてきた。


「やるウサか? やるウサか?」

「舐めてんじゃねえぞウサ。ジロジロ見やがって。誠意見せろウサ誠意。これはニンジン三本くらい包んでもらわないと話まとまらないウサ」

「安ッ」


 お前らそれでいいのか。


「いいよ、分かったよ。おごってやるよニンジンくらい」

「分かればいいウサ」

「じゃあ今すぐ出してもらうウサ」

「いや今はないよ」

「ないウサだとぉ~!」


 二羽は丸い目をくりくりさせながら俺を睨んでくる。すげー、びっくりするくらい怖くねえ。


「どういうことウサ!? やるウサか? やるウサか?」

「てめえ、話と違うじゃねえウサ。嘘つきやがってウサ、これは戦争ウサ、うさぎと人間の、全面戦争ウサ!」

「ふざッけんな! 普段からニンジン持ち歩いてる奴いるわけねえだろ!?」


 なんかすげーボルテージ上がってるぞこいつら。どうしてそんなすぐキレるの? 可愛くねえしやたらムカつくんだけど。


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