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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
162/418

なん、で・・

「お前、言ってたじゃねえか! みんなが笑顔になれる世界にしたいって! それが夢だって! なのに、これがお前のやることかよ、恵瑠!?」

「…………」

「なんとか言えよ!」

 どれだけ呼んでもなにも答えてくれない。ずっと黙ったままだ。

 恵瑠と同じように、俺も顔を下に向けた。

「なんでだよ……。お前が目の前で刺されて、めちゃくちゃ悲しかった。ものすごく後悔した。でもお前が蘇るかもしれないって知って、迷いながらもお前に会いたいって、そう思ってたのに!」

 言いながら、俺は悔しさに拳を握り込んでいた。


「本当ならめちゃくちゃうれしいはずなのに……!」

 恵瑠を失った悲しみは今だって覚えてる。とても辛くて悲しかった。もう会えないと思って泣き叫んでいた。でもまだ会える可能性があって、すごく期待してたんだ。もう一度会えたら、また前みたいに元通りになるって。

 なのに!

「俺は、こんな出会いを求めてたのか? こんなことのために頑張ってたのか?」


 出会ったら、なんて言うかなんて決めてなかったけど、きっとめちゃくちゃ喜んで、泣くほど喜んで、ガラにもなく抱き締めたりするんだろうなって、そんな風に思ってた。大切なものを取り戻したって、もう失うもんかって思いながら。

 でも、実際にはぜんぜん違う。そこにいるのは俺の知ってる恵瑠じゃない。平和を求めて、笑顔を愛してた彼女じゃない。ヘブンズ・ゲートを開こうとしている恵瑠だった。

「違うだろ? お前だって、本当はこんなこと嫌なはずじゃないのかよ?」


 俺は恵瑠を見て聞いていた。本心が知りたくて。答えてくれなくたって、何度でも聞くつもりだった。

「厄介だなぁ、おいミカエル。こいつ消していいんだろ?」

 だけど俺の言葉に動いたのは恵瑠ではなく見たことない男の天羽(てんは)だった。赤い髪にサングラス。あからさまにガラの悪い男だった。そいつが前に歩んでくる。

「サリエルの言う通りだ。止むを得んだろ」

「…………」


 サリエルというその男。それをガブリエルもラファエルも止めない。

 まずい。ここで全員と戦うのはさすがに分が悪い。天羽(てんは)である以上みな強いはずだ。

「そうだねぇ~」

 ミカエルが呑気な声を出しながら考えている。そうこうしている間にサリエルがミカエルを横切ろうとした時だった。

「待て」

 声がしたのだ、凛とした女性の声が。

「私がやる」

 それは、恵瑠だった。

「恵瑠……」


 恵瑠が初めて言葉を出した。俯いていた顔を上げ俺を見つめてくる。

 だが、それは友達を見る目じゃなかった。まるで敵を見るような目つきだ。

 恵瑠が俺に向かってゆっくりと歩いてくる。

「教えてやろう、『人間』」

「…………」

 そう言われた時、ハッとした。

 人間?


「私の名はウリエル。お前たち、人類を裁く者だ」

 恵瑠はミカエルの前に立つと立ち止まった。俺と対峙する。

「私はもう、恵瑠ではないんだよ、神愛」

「お前」

 冷たい視線。冷めた表情。冷たい言葉。全部が俺の望んだ出会いと違っていた。

 恵瑠は死んで、蘇った恵瑠は別人(ウリエル)になっていた。


 でも、そんなことってあるかよ。俺は……俺は……!

 そんな俺に、恵瑠は言い放った。

「未だ平和になり切れていない人類への、これは最後の審判だ」

 それは天羽(てんは)としての言葉。四大天羽(てんは)ウリエルとしての表明だった。

 恵瑠の言葉にガブリエルが続く。他の天羽(てんは)も後に続いた。

「その通りだ」

「悪りぃな」

「受け入れて。これも平和のためよ」

「終わりだねえ、残念だけど」


 でも、そんなの受け入れられない!

「恵瑠、なんでだよ!? なんでぇえ!?」

 心が叫んでる。今まで一緒にいた思い出が顔を横に振るんだ。

「ずっと友達だって、約束したじゃないかよぉおお!?」

「!?」

 その一言に、恵瑠の両肩が震えた。

 恵瑠は黙ったままだった。目をつぶり、表情はなにかに耐えているような重い顔をしている。


 その後恵瑠は腕を横に振った。するとこの部屋全体が瞬時に炎に包まれ燃えだした!。

「恵瑠!?」

 どういうことかと聞くが、瞼を開け俺を見る恵瑠の目は鋭かった。

「関係ない」

 そう言うと恵瑠は左手を俺に向け、熱線を発射してきた。

「くっ!」


 すぐさに前面に王金調律を展開し恵瑠の攻撃を防ぐ。殺しきれない勢いに体が押される、気を抜けば突破されそうだ。オーラの後ろ側にいても吹き飛ばされそうになる!

「なんでだよ恵瑠!? 覚えてるんだろ、俺たちと一緒にいた時のこと。友達だった時のこと!」

 恵瑠の攻撃に耐えながら俺は叫んでいた。届いて欲しくて。もう一度前のように戻りたくて。

「お前もそうじゃないのかよ! あの時のお前はいつも笑ってた。今のお前、一度も笑ってねえじゃねえかよ! そんなのどこがいいんだ、恵瑠!?」


 髪が後ろに引っ張られる。足が地面を滑りそうだ。それほどまでに恵瑠の放つ攻撃は激烈で、オーラとの衝突では火花が散り熱で地面が溶け始めてる。

 恵瑠は黙ったまま俺を見ていた。普段の恵瑠からは想像も出来ない冷たい表情だ。

 でも、わずかに感じるんだ。こいつが今、苦しんでいるのが。

「消えろ」

 恵瑠の熱線が大きくなる。今までの三倍にも膨れ上がる攻撃に黄金の防壁が崩された!

「がああああ!」


 熱線が直撃し吹き飛ばされる。後ろの壁に激突し地面に倒れた。

「恵瑠……なん、で……」

 衝撃に意識が曖昧になる。部屋を燃やす炎の音が遠のく。視界が暗くなる。

 俺は力を振り絞り恵瑠を見上げた。俺を見下ろす恵瑠を見ながら思わずにはいられない。

 どうして?

 なんで?


 再び会いたいって、前みたいになりたい、戻りたいって思ってたのは俺だけなのか? お前はそうじゃなかったのかよ?

 ずっと友達だっていうのも、あの約束も全部嘘だったのか?

「恵瑠……」

 俺は恵瑠の名前を呟きながら、意識を失っていった。


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