表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
155/418

どの問題が片付いただと?

 エノクは右手を翳す。そこには剣が現れ握りしめた。純白の刀身に輝くほど研いだ刃。彫りのある装飾された柄。聖騎士の時から使用しているエノクの愛剣だ。

「見せてもらおうか、君の力」

 ミカエルは両手を小さく広げた。目の前の人間、向かい入れる男を強敵として認めつつも絶対的な自信を崩さない。

 瞬間、ミカエルの背が羽ばたいた。


 純真純白の八枚の羽。聖画に描かれる天羽(てんは)の姿よりなお美しい、生きる奇跡。さらに右手には剣が、左手には盾が現れた。両刃の刀身に柄は黄金の装飾が施されている。

 聖なる光に包まれて、ミカエルは天羽(てんは)としてエノクの前に立ちふさがった。

天羽(てんは)軍天羽(てんは)長、ミカエル。来るといいエノク、この戦いがすべてを決める運命の一戦だ」

 ミカエルは浮上し、剣をエノクに突きつける!


 両者同時に駆け出した。剣を振り上げぶつけ合う。瞬間、衝撃波に家具のすべてが吹き飛んだ。

 両者の剣戟、高速で振るわれる互いの剣がぶつかり合うたびに余波で部屋が壊れていく。

 エノクは剣を両手で握り振り下げた。力強い一閃に衰えは見られない。

 ミカエルは吹き飛ばされベランダを割り外へと飛び出した。エノクは急いでベランダ前に近寄るとミカエルは上空で羽を広げ浮遊していた。

「どうしたんだい、この程度じゃないだろう?」


 そこに一切の痛みは見れれない。まだまだ余裕の表情だ。

 エノクはベランダから跳んだ。ミカエルの正面で制止するとエノクは空間に立った。落下することなくそこに足場があるように。そのまま剣の構えを取ると、一拍の間を空けて斬りかかった。

 その速度、部屋に居た時とは比べものにならない。初撃は様子見か準備運動だったのか、エノクが振るう剣はもはや極大の雷撃にも似た強烈さだった。速度、勢い、すべてが他の騎士を圧倒している。

 だが、それを前にしてもミカエルの微笑にひびが入ることはなかった。


 エノクの一撃を左の盾で受け止める。その衝撃音は本当に雷鳴のようだった。轟音が天に鳴り響き両者の超常ぶりを物語っている。

「君とはいつかこうしてみたかったんだ、個人的な好奇心としてね」

 二人の力がぶつかり合う。剣と盾の押し合いの中ミカエルは平常心のままだ。

「人間から七大天羽(てんは)になったのは君の神託物しかいない。その実力、興味を持つのはごく自然なものだろう?」

 エノクが剣を振り抜きミカエルは後方に押された。ミカエルは羽を全開に広げ減速し、立ち止まる。

「よくぞここまで強くなった。だが、果たして私を倒せるかな」


 ミカエルは片手剣で虚空を切り裂いた後、はじめて構えを取った。不敵な笑みはそのままに油断のない視線がエノクを捉える。

 瞬間、空間転移を行なったのは同時だった。

 空間のあちらこちらで衝撃波が発生していた。それは空気の壁となって辺りの建物の窓ガラスを破裂させていく。その正体は二人の剣戟だ。剣を交えては空間転移を繰り返し予測不可能な空間衝撃が炸裂している。

 ミカエルは剣を振り被ると、刀身に光が集い始めた。剣は光に覆われクリスタルに似た輝きを放つ。それを渾身の力で振るいエノクを吹き飛ばした。


「ぬう!」

 エノクの体が宙を走り背後の全面ガラス張りのビルに衝突する。壁は真っ白にひび割れクレーター状にへこんだ。そこへミカエルは追撃し剣を打ち付ける。

 ガラスはついに破れ二人はビルの中へと入った。オフィススペースに乱入する二人に職員たちの悲鳴が響く。エノクは床に叩き付けられミカエルは上から再び剣を打ち付けた。エノクは剣で防ぐものの床が崩れ下の階へと落ちていく。


 ミカエルは剣を消すとエノクを掴みガラスへと飛行した。エノクを床に擦りつけ、そのまま勢いに乗せて放り投げた。ガラスを破り外へと放り出す。自分も破れたガラスから外へ出る。

 が、それを待ち受けていたのはエノクの方だった。ビルから出てきたところを両手で握った剣で打ち付ける。盾でガードするものの体勢を崩された。

 すかさずエノクはミカエルを捕まえると、宙を走った。ミカエルをビル壁面に押し付けるとさきほどの仕返しとばかりに擦りつけながらビルに沿って疾走し始める。ミカエルの羽と背中がガラスを砕いていき破片が飛び散り激しい音がする。


 エノクはミカエルを放り捨てる。まるでボールのように回転しながら吹き飛ばされるミカエル目掛けエノクは剣を投擲した。切っ先は真っ直ぐとミカエルを捉えておりすさまじい速度で狙い撃つ。

 だが、直撃の前にミカエルは体勢を整え剣を撃ち落とした。エノクの剣は地上へと落ちていくがエノクが右手を翳すと消え、手の平に現れた。

 エノクは上空にいるミカエルを見上げた。これだけの激しい戦闘をしてきたがミカエルには傷も疲れも見られない。

「はっはっはっはっは! 楽しいねえ~」


 反対に見下ろすミカエルは上機嫌に声をかけてきた。鋭い表情で見上げるエノクを愉快気に見つめている。

「どうしたエノク、血が流れているぞ」

 見ればエノクの額から一筋の血が流れていた。それが頬を通って地上へと落ちていく。

 教皇エノクの流血。それはまだ小さな傷ではあったが、それが意味するところは大きい。

「全能は全能でしか倒せない」

 ミカエルが口を開く。


「よって本来なら私では君を傷つけられないんだが、これはどういうことかな?」

 プリーストではスパーダに勝てないように、神徒(レジェンド)となれば同じ神徒(レジェンド)でなければ傷を与えることが出来ない。そも全能とはそういうものだ、神は神でしか倒せない。

 だがミカエルの言う通りエノクは傷を負っている。普通ならばあり得ない。だが思い当たる理由にミカエルはにやりと笑った。


「あの少年に負けてずいぶん弱体化しているみたいじゃないか。あの小僧が全能とも思えんが、神殺しの特性でも持っていたのかな? 彼に負けたことで一時的に全能未満でもダメージを受けるようになっているじゃないか」

 イレギュラー、宮司神愛との敗北。それ以降体調の不良はあったものの弱体化までしている。神徒(レジェンド)であることに変わりないがダメージを負うようになっていた。


「これは予想外だ。当初の計画ではね、もともと恵瑠が堕天羽(てんは)であることは君たちにリークするつもりだったんだ。ラグエルの手紙は転じて私の思惑通りにことを進めてくれたわけだ。君たちが彼女を殺めるのは時間の問題。障害は君という存在をどうするかだったが」

 神徒(レジェンド)であるエノクは最も困難な問題だ。どれだけ計画が順調に進もうとも一回の世界改変で頓挫もあり得る。よってエノクの存在はなんとしても解決しなければならない問題であり同時に最大の障害だった。


「その問題がこうも呆気なく片付くとは。君にとって彼は最大のイレギュラーだったわけだ、エノク」

 そのエノクが弱体化している。これ以上の好機はない。ミカエルは運が自分に傾いていることに運命的なものを感じていた。

「どの問題が片付いただと?」

「ん?」


 しかしミカエルの喜悦に水が差される。ミカエルは喜んでいた意識を下に向けた。

 エノクは、諦めていなかった。

「見くびるな、ミカエル」

 エノクは剣を振りかざす。この身は手負いだ、しかも全能故の全耐性も剥げ落ちている。殴られれば痛いし傷も負う。


 だが、それは条件が同じになっただけだ。傷を負うのはミカエルも同じ。対等な勝負になっただけ。

「私はまだ、負けていない」

 エノクの全身から猛風が吹き荒れた。直後、エノクの額の傷はなくなった。神愛に負わされたダメージ以外すべてを瞬く間に回復しエノクは鋭気に満ちた瞳で言う。

「神託物、招来」

「くるか……」


 その言葉にミカエルはほくそ笑む。こうなることは分かっていた。むしろ本番はここからだ。

「いでよ、メタトロン!」

 信仰者が高位者(スパーダ)として三柱の神に認められた時授かる神託物。彼らに与えられる天羽(てんは)たちはそれ専用に創られた第二世代だ。二千年前にはいなかった天羽(てんは)

 その中で唯一七大天羽(てんは)として認められた、最大の天羽(てんは)こそがこの神託物。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ