表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
138/418

何事です?

 先生の言い分に納得する。でも、どこか寂しくも思っていた。

 恵瑠の死を受け入れろ。そう言うのと同然の答えに、俺は分かっていても寂しかったんだ。

「ですが」

「え」

 話は終わっていなかった。続く先生の言葉に耳を傾ける。

「誰かを助けたいという思いもまた尊いものです。宮司さん。あなたは命の大切さを忘れないと誓えますか?」


 先生からの質問。それはとても真剣なものだった。本気で聞かれていると分かった。

「生き返ること。それを当たり前と思わず、今までと変わらず命は大切だと思えますか?」

 人を生き返らせること。それは本当なら躊躇われるべきことなんだろう。倫理観とか俺にはよく分からないけどさ、でもヨハネ先生の話を聞いて命の価値が変わっていまうというのは分かった。人が死んでも悲しいと思わなくなる、それは別の意味で悲しいことだ。

 だけど、俺はそんな風には思わない。一度だけでいい。もう一度だけ、やり直せるならやり直したい。二度と失わないために。

「ああ」


 俺は答えた。壁の向こう側にいるヨハネ先生に向かって。

「でしたら。私は大切な人を生き返らせたいというその気持ちを応援します」

 ホッとする温かい声だった。緊張していた空気が解けて、だからか、自分の気持ちが素直に言えたんだ。

「先生、俺は、恵瑠に会いたい! 会えば俺の気持ちが分かると思うんだ」

 ずっと迷ってきたけれど、それでも恵瑠が大切な気持ちは変わらない。もう一度やり直したい。その気持ちは本当だ。


「ようやく、あなたらしくなってくれましたね」

 勢いよく出てきた俺の声を聞いてヨハネ先生も喜んでいるようだった。それがうれしくて、俺は先生に感謝した。

「ありがと、先生。いつもいつも、先生には世話になりっぱなしでさ」

「いいえ。立ち直れたのなら、それはあなたの強さですよ」


 なにも返す言葉がない。きっとなにを言っても先生は俺だからだと褒めてくれるだろう。

 だから、俺は黙ったまま先生に感謝していた。

 ありがとうな、先生。

 ――ドン!

 その時だった。突如建物が揺れ出したのだ。さらには遠くで大きな音がした!


「おいおいおい!?」

「何事ですか?」

 天井からパラパラと欠片が落ちてくる。ただ事じゃない。だけど窓もないここからじゃなにが起こっているのか分からなかった。

 しばらくすると再び大きな音が聞こえてきた。爆発音だろうか? 

「襲撃?」


 自分が言うと変な話だが、しかしこの感じは同じだった。それに俺たちの時よりもはるかに規模が大きい。一か所だけでなくいろいろな場所から音が聞こえてくる。

 すると数人の騎士が慌ててこのフロアに入ってきた。俺は赤い壁に近づいてみると、連中は駆け足でヨハネ先生の独房で立ち止まった。

「ヨハネ・ブルスト。特例により一時釈放を命じます」

「何事です?」


 騎士がボタンを押すことで赤い壁が消失する。裏切り者とはいえ高位な信仰者なんだろう、騎士たちはヨハネ先生に敬語で接していた。ヨハネ先生は事態を聞きながら牢屋から出る。

「聖騎士ペテロ様からの命令です。侵入誘導と警備妨害をした罪、その減刑を条件に戦闘に加わるようにと」

「敵は誰です?」


 ヨハネ先生の鋭い声が聞こえる。どうやら襲撃を受けているのは当たったようだ。だが誰が? もしかしたらミルフィアたちとか? いや、規模がおかしい。ミルフィアたちじゃない。

 だとすれば?

 ヨハネ先生の質問に、騎士が答えた。

「神官長派による、クーデターです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ