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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
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てめえの口から出るのは、謝罪と悲鳴だけで十分だッ!

 目の前には剣を持った教皇エノクが立っている。ゴルゴダ共和国のシンボルにして慈愛連立(じあいれんりつ)の信仰者のトップ。

 その男を前にして、俺は睨みつけていた。

 ミルフィアが近づき、俺の横に並ぶ。

「主……」

「いくぞ、ミルフィア」


 様子を伺うように聞くミルフィアに振り向くことなく、俺は宣言した。

「エノクを倒す」

 声は極大の怒りに満ちていた。恵瑠(える)を手にかけたこの男を、俺は絶対に許さない。

 ミルフィアも頷き、表情を切り替えてエノクを見つめた。

 勝負だ。今度は前のようにはいかない。必ずお前を倒してみせる。

 俺は、告げた。


「至高の信仰、それは神と出会うことである」

「おお、古き王よ。我らが主は舞い降りた。古の約束を果たすため」

 瞬間、ミルフィアは黄金の光子となって散らばった。光は俺の背後で形を作り、残った光も俺を包んでいく。

「信じることはない。ただ感じよ、神はここにいる」

『我らは仰ぎ天を指す。己が全て、委ね救済をここに願おう』


 詠唱が進む度、俺の服は白の外套(がいとう)へと変化していった。大気は震え出し、地震のように空間が揺れていく。

「む?」

 俺の変化にエノクも動いた。剣を構え俺を断ち切りにくる。

 だが、その一撃を黄金のベールが阻んだ。エノクの一撃と黄金の壁の間で火花が散っていく。エノクは離れた。


「神は聖者と愚者の区別なく、愛し汝らを率いらん」

『天が輝き地が歌う。黄金の時は来たれり』

 力が目覚める。神気を宿した奇跡の御業が現れる。

「原初の創造が汝を導く。謳え、黄金の威光を!」

『おお、我が主。あなたがそれを望むなら!』


 空間には黄金の粒子が風に舞い上がり、金色(こんじき)の火柱が天井へと突き当たる。

 見るがいい、これが第四の神理(しんり)

「『王金調律(おうごんちょうりつ)思想統一(しそうとういつ)』!」

 発現する力に暴風が吹き荒れた。


 風が収まると、周囲は黄金で輝く空間だった。木の葉のように黄金が舞っている。背後では黄金の火柱が力強く燃え盛っていた。

 黄金の空間。その中で、俺は右手を握り締めた。

「悲しみで、息が詰まりそうになるッ」

 次に、左手を握り締めた。


「怒りで、体が燃えそうだッ」

 最後に顔を上げる。

「エノク」

 そこにいる、エノクを睨みつけた。

「お前だけは許さないッ」


 体中で膨張する感情に、俺の意識はエノクを倒すという一点に収束されていく。

 空間すら侵食、改変するほどの変貌。この事態に、しかしエノクは平静だった。以前見た威厳ある険しい表情のまま俺を見つめてくる。

「なんと言われようが、私は私の正義を進むだけだ」

 この男は強い。それは力があるのもそうだが、その意思だ。曲がることのない屈強な意思と信仰心。それがあるからこの男には迷いがない。


 誰よりも厳しく、誰よりも真っ直ぐだ。だからこそ強い。

 その男が、己の信仰心、その成果たる具現を召喚する。

「人が祈りと希望を合わせ救済を望む時――」

「黙れぇえ!」

 そこへ、速攻で駆けつけ殴りつけた。


「てめえの口から出るのは、謝罪と悲鳴だけで十分だッ!」

 エノクの詠唱を妨害する。それ以外の御託なぞ聞きたくもない。

 俺がエノクを殴りつけた速度、それは空間転移を思わせるほどの『瞬間移動』だった。常人では消えたように見えたかもしれないが要は単純に速いだけ。だが、その速度に乗せた拳はだからこそ強い。


 その目にも止まらぬ速度で打ち出したにもかかわらず防御したエノクもさすがは教皇だった。しかしその衝撃にエノクの体は弾丸のように弾き飛び、壁を破壊して外へと放り出されていた。地上から二十九階、外との気圧差から壁に空いた穴からは空気が吸い込まれていく。人間一人分の穴からは青空と地上の街並みが見える。


 エノクは消えた。この大空にやつの姿はいない。

 にも関わらず、やつの声はどこからともなく、この空間に響き渡った。

「人類の守護者は現れん。人の願いを守るため、天上の知と力もて敵を打ち払え」

 エノクの詠唱が聞こえる。やつはまだ生きている。

 そしてやるつもりだ、俺との勝負を。

「来い、メタトロン!」


 エノクの号令が轟いた。メタトロンの召喚、その姿はパレードで見た。あいつがもう一度やってくる。

 瞬間、激しい衝撃が部屋を襲った。地震だ。そう思わせるほどの衝撃。この巨大建築物、教皇宮殿が揺れている。

「主、外です!」

 背後から言われるミルフィアの言葉に従い俺は壁に空いた穴を見つめながらこの場で腕を振った。

 すると離れた壁全体が一気に粉砕、弾き飛ばされた。鉄骨や鉄筋など壁の内部を剥き出しにして大穴へと変わった。


 俺は装置から跳ぶと、浮遊して壊れた壁の前へと降り立った。ふわりと着地し外を見る。

 教皇宮殿の外。そこに立つのは、同じく巨大な物体だった。

 全長百メートル。白い彫刻を思わせる肌、背中の光輪。

 教皇エノクの神託物(しんたくぶつ)、メタトロン。俺が立つ場所はちょうどメタトロンの胸元辺りで、やつは俺を見下ろし、俺は見上げていた。


 教皇の城、教皇宮殿。

 そこでエノクと再会を果たした俺を待っていたのは、恵瑠との死別。

 そして、ミルフィアとの憑依合体(デュエット・モード)の俺と、最大の神託物(しんたくぶつ)メタトロンとの対決だった。


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