それ、おかしくないかしら
「それは分からん。だが、これは明らかなルシファー協定の違反だ。おそらくミカエルの独断だろう。それはラグエルが我々へと宛てた手紙だ。彼も天羽の一人であったが、ミカエルの考えに賛同できず我々に危険が迫っていることを知らせてくれた。手紙には今回のこととミカエルが主導していることが書かれている」
ペテロの目が加豪に向けられる。見れば加豪はポケットから取り出したのか手紙を握っていた。
「だが、閉じられたヘブンズ・ゲートを開くには四大天羽と呼ばれる四人の天羽による承認が必要だ。その一人が」
「恵瑠か……」
ペテロが言う前に俺は呟いていた。こいつらが必死になってまで探していた恵瑠。あえてウリエルと言うが、彼女こそヘブンズ・ゲートを開くために必要な四大天羽の一人だったんだ。
「そう、栗見恵瑠。正確にはウリエルだったわけだ。だが彼女は堕天羽となり四大天羽でありながらヘブンズ・ゲートの鍵としての資格を失った。ヘブンズ・ゲートを開けるには彼女を天羽として復権させる必要があったわけだ。その方法はラグエルも知らず記されてはいなかったが、しかし、その彼女もいなくなり、ヘブンズ・ゲートはこれで永遠に開くことはなくなった。脅威が去ったというのはそういう意味だ」
「なるほど……」
話は分かった。恵瑠を殺したことは今でも許せない。ただ、こいつらがどうして恵瑠を執拗に狙っていたのか、その理由を理解した。
それは天羽による地上侵攻を防ぐためだったんだ。二千年前に起きたという惨劇を再び起こさないために。そのためこいつらは地上を襲ったというウリエルというだけでなく、ヘブンズ・ゲートの鍵である恵瑠を襲っていたんだ。ヘブンズ・ゲートが開かなければ天羽は天下界に来られない。これで天羽による人類への侵攻は未然に防げる。こいつらの狙い通りになったというわけだ。
「それ、おかしくないかしら」
その時だった。異論の声が上がったのだ。その声の主に全員の目が向く。
それは、天和だった。連れて来られた俺たちの一番後ろにいた天和を皆が見つめる。
「どういうことだ?」
ペテロもまた天和を見つめ聞き返していた。俺もどういうことか聞きたかった。ミカエルたち天羽の狙いは天羽の降臨で、そのためのヘブンズ・ゲートの鍵は失われた。ミカエルたちの計画は失敗したんじゃないのか?
しかし天和は全員からの視線にも眉一つ動かすことなく、平然としたまま話し出した。
「栗見さんがヘブンズ・ゲートの鍵だっていうなら、なんでそんな大事なひと神官長派は放置してたの?」
「!?」
天和の言葉に頭を殴られる。