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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
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ちょっと待って下さい!

 冷静になればなるほど打ちのめされる。

 どうしようもならない現実に、俺は握っていた拳を解いた。

「……連行する」

 ペテロが言った。その言葉に背後に控えていた騎士たちが動き出し俺たちを囲った。

「歩け!」

 騎士に小突かれ歩き出す。先頭と最後尾にペテロともう一人の聖騎士が並んで歩いていった。

 進んで行く先はここよりも上、最上階のフロアだった。


 白い廊下を歩いた先には大きな扉があり、そこを開けば広い部屋に大勢の騎士が並んでいた。敵を見る目で重苦しい空気に包まれている。天井はドーム状であり何枚ものステンドグラスが飾られている。奥の壁はガラス壁となっており日の光が差し込んでいた。部屋というよりも会場のような場所だ。ガラス壁の前は階段のような段差になっており一番上には背もたれが二メートルもある豪華な椅子がある。

 俺たちは奥の椅子の前にまで連れて来られた。豪勢なイスだが、そこには誰も座っていなかった。

「エノク様は?」


 ペテロがすでにいた騎士に聞く。

「現在はおやすみになられています」

「そうか」

 ここには本来エノクがいるはずだったのか。まあ、察しはつくが。

 すると周りはどこかざわつき始め、俺を複雑な目で見つめてきた。

「こいつが」「なんてことだ」「あのメタトロンを……」


 どうやら俺がメタトロンを倒したことに驚いているらしい。それもそうか、メタトロンの強さは戦った俺が一番知ってる。それが倒されたとなれば動揺はあるか。もしくはイレギュラーとして敵視してくる。

 けれど、どうでもよかった。

「ずいぶんと暴れてくれたな小僧」

 俺に近づき声をかけてきたのはヨハネ先生と一緒にいた髭だった。怒気と蔑む目を露わに俺を見下ろしてきた。

「お前のせいでとんだ被害だ。パレードは中止、おまけに何人の騎士がやられたと思ってやがる!?」

「…………」


 耳元で怒鳴られるが俺は黙って聞いていた。

「しかし、そんなお前もこうして捕まったわけだ。いい気味だな。脅威である天羽(てんは)ウリエルも亡くなりようやく安泰というわけだ」

 挑発のつもりかわざとらしく言ってくる。でも、俺からどうこうするつもりはなかった。

「ちょっと待って下さい!」


 意外にも声を出したのは加豪だった。俺の背後から声が上がり、俺だけでなく皆の視線が集まる。

「なんだ娘、お前は黙ってろ」

 髭の騎士があしらおうとするが加豪は退かなかった。

「あなたたちが恵瑠を狙っていたのは単に彼女がウリエルだったからじゃない。本当の狙いは、『ヘブンズ・ゲート』の阻止だったんじゃないんですか!?」

 ヘブンズ・ゲート?


 聞き慣れない言葉に眉根が寄る。加豪は必死な表情で言っているが、それはそんなに重要なことなのか? 

 俺は分からなかったが、周囲からはどよめいた声が聞こえてきた。

「なぜお前がそれを知っている!?」

 髭が加豪に近づく。えらく焦った形相で加豪を問い詰めるている。そこへ話に参加していなかったペテロが口を開いた。


「……手紙を読んだのか」

「ええ」

 ペテロのつぶやきに加豪は小さく、そして力強く応えた。

「手紙にはこう書かれてた。神官長派の高官たちが、二千年前の再現、天羽(てんは)降臨を目指しているって!」

天羽(てんは)降臨?」

「こうしている場合じゃないわ! なんとかしてそれを阻止しないと、今回の騒ぎどころじゃない。世界的な危機よ!?」


 加豪がここにいる全員へと向け叫んでいる。その表情はただ事ではないと伝わってきた。

 皆がざわついている。俺の隣にいるミルフィアも思案顔でつぶやいていた。

天羽(てんは)降臨……」

「ミルフィア、どういうことだよ?」

「それは……」


 ミルフィアは俺を見るが、その顔は半信半疑といった感じだった。

 ぽつりとミルフィアが話し始める。

天羽(てんは)降臨。それは実際に二千年前に起きた出来事です。一般的に天羽(てんは)の降臨は神の誕生、信仰による時代の始まりを告げる吉報として知られています。ですが、正確には人類に対して侵攻してきた歴史があるのです。ですが、当時の天羽(てんは)長ルシファーの裏切りにより天羽(てんは)軍は二分され、最終的にはルシファーの間で協定が結ばれました」

「協定?」

「はい」


 ミルフィアは頷いた。

天羽(てんは)は人間たちに手を出さず、また天羽(てんは)のいる天界と天下界を繋ぐ扉、ヘブンズ・ゲートを閉じること。そして、ルシファーはその身を差し出し処刑されることです。こうして天界紛争は終結し、多くの天羽(てんは)は天下界を去りヘブンズ・ゲートは閉じられました」

「その通りだ」


 聖騎士としてペテロも詳しいのだろう、話を聞いていたペテロがミルフィアの話を引き継いだ。

「ヘブンズ・ゲートは閉じられた。一部の天羽(てんは)は天下界に居残ったようだが」

「それって、まさか」

 いや、ここまでくればまさかもないだろう。恵瑠が天羽(てんは)であり、そして恵瑠と親しかった連中といえば、


「神官長派の高官たちだ」

 国務長官のガブリエル、国防長官ラファエル、そして神官長ミカエル。あの三人も天羽(てんは)だったのか。

 どうりで。本来恵瑠と接点のあるはずがない政府関係者の高官と仲が良かったのは仲間だったからか。

天羽(てんは)のやり方は強引だった。だが、そうした経緯があるにしても我らと天羽(てんは)は同じ慈愛連立。その後は協力して取り組んできた。それ以降ヘブンズ・ゲートが開かれたことも天羽(てんは)による侵攻も起きてはいない」


 ペテロは厳めしい態度のまま語っていく。昔はいろいろあったもののミカエルたち天羽(てんは)とゴルゴダ共和国は協力関係を結んでいたわけか。

「だけどさ、それがどうして今さら天羽(てんは)降臨なんてしようとするんだ?」

 天羽(てんは)は二千年も動きを見せていなかった。にも関わらずヘブンズ・ゲートを開き天羽(てんは)を出現させようとする目的はなんだ?


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