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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
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残念だけど、私たちの戦いは終わったのよ

 俺の一言に周りがざわつく。意外な提案にペテロを除いた騎士たちが動揺し始め、ミルフィアや加豪も驚いていた。

「主!?」

「神愛、あんたなに言ってんのよ?」

 二人から聞かれるが俺は振り返らない。

「正気か?」


「ただし条件がある。こいつらは見逃してやってくれ。俺に無理やりつき合わされただけなんだ」

 俺はペテロをまっすぐと見つめた。静かだが空気が張り詰める。

「これだけのことをしておき、見逃すということは出来ん」

「ならここでまた暴れようか? 次はどんな被害が出るのか予想してみろよ」

「…………」


 ペテロが黙る。表情はそのままに思案しているようだった。

「判断するのは司法庁だ、私からはなにも言えん。ただし減刑するよう口添えはする」

「ここで見逃せ。そして追手も出すな。それが条件だ!」

 叫んだ。守れなかったという負い目からか、声に熱が籠る。

「俺に付き合ってくれた。せめてこいつらだけでも助けないと、俺は駄目なんだよ!」


 恵瑠を救えなかった。そのためにここまで来たのに。なら、こいつらまで守れなかったらなんのために頑張ってきたんだ。絶対に譲れない。こいつらだけでも、守り通さないと!

「聞けないなら、てめえらと死ぬまで戦ってやる!」

 俺が囮になって戦い続ければ、その隙に逃げられる。たとえ俺が死のうが、それでこいつらが助かる可能性があるなら、俺はそれでいい!

「止めてください主!」


 ミルフィアが慌てて駆け寄ってきた。表情は張り詰めていてきれいな瞳は心配そうに俺を見ていた。俺を見上げ抗議してくる。

「こんなことは止めてください! 私はなにがあっても主の傍を離れません。主一人が責任を持つなど、私は望んでいません!」

「下がってろ!」

「しかし!」


 俺は憑りつかれたように守ることに躍起になっていた。それしか見えず、それしか考えられなかった。もう、自暴自棄になっていたのかもしれない。

 そんな時だった。加豪が早足で俺に近づくと、平手打ちしてきたのだ。

 バチン、と大きな音が響く。突然のことに俺は痛みよりも茫然としてしまって、他の連中も茫然としていた。


 そんな中、加豪はペテロたちに振り向いた。

「全員よ」

 一言が、重く呟かれる。

「ここにいる全員捕まえなさい」

「お前!」

 俺の努力を無駄にする発言に怒鳴るが、加豪は俺ではなくミルフィアと天和に振り向いた。

「ごめんなさいね、ミルフィア。天和も」

「いえ」

「別に、私は構わないわよ」

「お前ら……」


 加豪の言葉に、けれどミルフィアと天和は反対しなかった。むしろ納得したように答えていた。

「神愛」

 そこで、加豪が最後に俺を見てきた。

「まったく……。どうせここで逃げ切れてもずっと追われる身だし、いつか捕まるに決まってるでしょ。それならここで投降して減刑狙う方がまだいいわよ。てか、かっこつけすぎよ馬鹿。前にも言ったでしょ」

 加豪は俺に正面を向けると、両腕を組んで言ってきた。


「あんた一人が犠牲にならないと守れないほど、私たちが弱いって、そう思ってんの?」

 それは鋭かった。でも、どこか優しい言い方だった。

「私たちは自分の意思であんたと一緒にここに来たの。それをあんた一人の意思にしないでよね。失礼よ、神愛。気持ちは嬉しいけどね」

 最後には小さく笑って加豪は言った。でも、すぐに寂しそうな表情になる。

「残念だけど、私たちの戦いはもう終わったのよ、神愛」


 そう言われた時、俺は力なく俯いた。

 なにも言えなかった。 

 恵瑠を救うための戦い。だけど、その恵瑠がいなくなってしまった今、俺たちの戦いは終わったんだ。


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