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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
121/418

恵瑠、うそだろ・・

 叫んだあとは落ち着かせて、穏やかに微笑んでいた。

「本当に、生きててよかった」

 それは感慨深いつぶやきだった。きっといろいろなことを振り返っていたと思う。辛いこと。苦しいこと。そして、楽しいこと。

 それらをひっくるめて、恵瑠(える)はそう言ったんだ。

 二千年の人生で、生きていてよかったと。

 その時だった。


 恵瑠(える)の背後から剣が飛んできて、恵瑠(える)の体を突き刺した。

「え」

「ハッ――」

 その光景に固まる。息が止まった。

 恵瑠(える)の小さな体が揺れる。胸には剣が突き出していて、服が赤く染まっていた。

「がっ……あ……」


 恵瑠(える)の口から声が漏れる。恐る恐る視線を下げて、自身の胸を見つめていた。

「そん、な」

 胸から生えた剣を見て、恵瑠(える)の表情が強張っていく。

 さっきまであったはずの笑みが消えた。

 守ろうとしたはずの笑顔が、消えていた。


 恵瑠(える)が俺を見る。その頬には、涙が流れていた。

神愛(かみあ)君……こんなの、いやだよ……」

 そう言って、恵瑠(える)は倒れてしまった。

恵瑠(える)ぅううう!」

 倒れた後、歪んだ空間から一人の男が現れる。


 それは、教皇エノクだった。

 エノクは恵瑠(える)に刺さった剣を引き抜き、刀身についた血を振り払った。

 俺は急いで駆け付ける。階段を上り恵瑠(える)を抱き起す。

恵瑠(える)、うそだろ……」

 恵瑠(える)の目はつぶっている。体を揺するが動かない。

「おい、しっかりしろよ! おい!」

「彼女はかつて殺戮を繰り返した天羽(てんは)ウリエルだ。だが、これで脅威は永遠に失われた」


 エノクが声をかけてくる。でもどうでもよかった。

恵瑠(える)? 恵瑠(える)?」

「…………」

 声をかける。でも、返事が返ってこない。血が、たくさん流れていく。

「なあ、返事してくれよ……恵瑠(える)恵瑠(える)。返事しろって……」

「…………」


 声を掛ける。でも、返事が返ってこない。

「うそだろ、恵瑠(える)……」

「…………」

 なんども声をかける。でも、返事が返ってこない。

「なあ、なあ!」

「…………」


 なんどもなんども声をかける。でも、返事が返ってこない。

 返って、こないんだ。なんども、声をかけているのに。

恵瑠(える)ぅううう!」

「…………………………………………」

 恵瑠(える)は目覚めない。動かない。なんど呼び掛けても、返事をしてくれない。

「うっ、あ」


 感情が、溢れてきた。

「うわああああああああああああああああああああああああ!」

 恵瑠(える)の体を抱き締めた。涙が溢れて、叫び続けた。

「ああああぁああぁああぁあ!」


 小さな体を壊れるほど強く抱きしめた。何も言わない顔を胸に押し付けた。

 そこへ、部屋からミルフィアがやってきた。

「主! ……主?」

 階段を急いで上ってくる。そこで見る光景に驚いていた。

恵瑠(える)? まさか、そんな」

「なんで、なんで!」


 俺は泣きながら叫んだ。恵瑠(える)を抱き締めながら聞いた。

恵瑠(える)は、やさしいやつだった! 誰とも仲良くなりたいって、そんな世界にしたいって。信仰も人間も天羽(てんは)も関係ない。みんなが笑顔でいられる世界にしたいって、そう言っていたのに!」

 恵瑠(える)は本当に優しいやつだった。困っている人を助けたい、笑顔にしたいって、それだけを願っていたのに。


恵瑠(える)がなにをした!? こいつがなにかしたっていうのかよ!」

「かつて人を殺した」

「昔だろ! 今のこいつは、こいつは、そんなこと考えていなかったんだぞ!?」

 それなのに、それなのに! 殺す必要がどこにある!?

「……許さない」

「…………」


 俺の中に渦巻く悲しみが、怒りに変わっていく。

「許さない」

 俺は静かに恵瑠(える)を地面に置いた。そのまま立ち上がり、背後にいるエノクに振り向いた。

「お前だけは、絶対に許さない!」


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