二日目
翌日、けっきょく昨日は乗り気になれず保健室から寮へと返ってしまった。そのため今日も憂鬱だが学校へと向かっている。まあ気が重いのは今に始まったことではないのでいいのだが、今日は一つ問題があった。
「なあ、ミルフィア」
「はい、主」
場所は学校の正門前。他の生徒の波の中、景気よく花弁を散らす桜の風を受けつつ俺はミルフィアを見つめている。困ったことに学校についてくると言って聞かないのだ。
「お前はここの生徒じゃない。だから基本的にはいちゃ駄目なんだ、分かるだろ?」
「しかし主。昨日の出来事を省みれば一人は危険です」
「それは、まあ」
昨日、俺は加豪と喧嘩をした。登校初日からあの大騒ぎだ。ミルフィアの気持ちは分からんでもない。
けれど駄目なんだ。それはミルフィアが生徒じゃないというのもあるが、俺には昨夜に誕生日会を開くと決めたことがある。それはミルフィアには知られちゃいけないことだ。
「お前の言うことも分かる。でも、それでもだ。いいか? 俺の前に現れるな、絶対だぞ?」
「……はい。主がそう言うのでしたら」
ミルフィアは寂びしそうに頷くと目の前から消えていった。悪いことしたかな? いや、でも仕方がない。これもあいつのためだ。準備しているのを見られたらサプライズにならないしな。
それで教室へとたどり着く。昨日のこともあってこの扉を開けるのは少々躊躇いがある。だけど行くしかない。
俺は扉を開け中へと入る。まったく、他人の家のような感覚がするぜ。
「おい」
「来たぞ」
瞬間クラス全員の視線が俺に向けられた。どれも睨むような、敵を見る目だ。
「あいつ退学になるらしいぜ」「でも条件があるんでしょ?」「協力するやつなんているわけないだろ」
「…………」
(ああああああああああああ、くそがあああああああああああ!)
もうさあ、無理だよ! なんなんだよこれ!
荷物を自分の席に置いてすぐに教室から出る。廊下の端まで走って立ち止まった。あんな空気で退学撤回なんて無理だ。
どうしよう、どうすればいいんだ!?
気持ちは下り坂でどんどん下へと引き寄せられていく。すくなくとも教室に行きたい気分じゃない。
それで俺は屋上を目指し歩いていた、今なら誰もいないだろう。
鉄扉を開け外へと出る。屋上に出れば澄んだ青空と心地よい風が出迎えてくれた。
「ふう、落ち着く……」
やりたいことは決まっているんだ、だけどその方法が分からない。攻略法っていうのかな、希望が見えないんだ。
俺、なにも出来ないまま終わるのか?
「ん?」
と、そこでフェンスに一人の女の子が立っているのに気が付いた。
緑色の髪を肩まで伸ばし、ストレートの髪型はそよ風を受けて小さく揺れている。小柄な体で雲しかない青空を見上げていた。先客がいたのか、そういうことなら別を当たるか。
俺は踵を返そうとするが、そこで少女が振り向いた。半身だけを動かし赤い瞳がじっと見つめてくる
そして、小さく手招きしたのだ。
なんだ?
少女がなんで俺を呼んでいるのか分からない。
クイクイ。
また手招きしてる。理由は分からないが、しかし断るのもあれだしとりあえず行ってみる。




