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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
119/418

行かせてもらうぜ

「――――」

 世界が止まった。

 なにも動かない。指先すら。当然だ、時間が止まってしまえばなにも出来ない。変化という一切が起こらない。

 四次元である時間、それを止められてしまえば下位次元である三次元に生きる者はみな成す術なく敗北する。誰も勝てない。勝てる道理がない。時間は止まりすべては止まったのだから。俺も、世界も。ペトロとその神託物を除いたすべてはなにもできない。

 だがそこで気づいたんだ。

 ならばなぜ、俺は思考しているのか――


「終わったな」

 ペトロが近づいてくる。剣を構えたまま、空気すら動かない場所でもやつの声は聞こえてくる。

 このままでは本当に負ける。せっかくここまで来たのに。

 負けるのか? ここまできて、結局は駄目でしたって?

 そんなことあってたまるか!

『ずっと、一緒にいれくれますよね?』


 恵瑠(える)と約束したんだ、ずっと一緒にいるって。

 待っているんだ、俺が来るのを。

 ……動け。

 ペトロが近づいてくる。到達されれば斬られ、敗北する。

 動け。


 この先に恵瑠(える)がいる。あいつがいるんだ、ならどうする。こんなところで止まっている場合じゃないだろう。

 動け。動け動け動け。

 救うって、誓ったんだ!

 ペトロが目の前に立っていた。俺を見下ろし、剣を振り上げる。

 その一撃が下りる、直前。


「邪魔だ」

「なに!?」

 ペトロが驚愕(きょうがく)した。

 止まった時に亀裂が入る。同時に決まっていた未来が書き換わる。

 俺はしゃべった。それは本来ペトロだけにしか出来ないことなのに。それでも。俺は口を動かし、ペトロを睨み上げた。


 すべてが止まった世界で、ペトロ以外に動く者。

 本来あり得ないそれは、イレギュラー。

 俺は一瞬でペトロの背後に立っていた。

「どけ」

 その間際に、ペトロに一撃を撃ち込んで。

 黄金光が炸裂する。直後、


「がああ!」

 ペトロは神託物(しんたくぶつ)ごと吹き飛び壁に衝突していた。止まった時の中でも俺の速度は時を止めたかのように速く、一瞬のうちにペトロを倒していた。

「なぜだ、どこからそのような力が……」

「行かせてもらうぜ」


 俺は巨大な扉に両手を当てる。取っ手はない。指を立てて力を入れる。

「はああ!」

 黄金の光を指先に集中する。鋼鉄の扉が真ん中から開いていく。力を籠め、俺は扉を全開させた。

 扉の先は暗かった。広いのがなんとなく分かる程度でほとんど見えない。その暗闇に向かって叫ぶ。

恵瑠(える)!」


 待ち切れず、気づけば叫んでいたんだ。

 すると、小さな声が聞こえてきた。

神愛(かみあ)、君……?」

 弱々しい声だったが、ちゃんと聞こえた。

恵瑠(える)!」


 俺は部屋へと入った。瞬間、一か所だけがライトアップされた。

 部屋の中央、そこには土台のような装置があり、円柱の光が天井まで伸びていた。その光の中には十字架が置いてあり、そこに縛られている恵瑠(える)がいたんだ。

 すぐに装置の前まで駆け寄る。正面にはキーボードが表示されたモニターがあり、それを殴って壊した。光はなくなり装置を駆け上がる。


恵瑠(える)、無事か?」

 十字架の前に立つ。恵瑠(える)の顔は項垂れており表情は衰弱しきっていた。両手や両足を固定する光の輪を外し恵瑠(える)を地面に下ろす。

「大丈夫か?」


 俺は声を掛けるが恵瑠(える)は消えてしまうような呼吸を繰り返している。昨日からずっとこうして縛られていたんだろう。体重が腕にかかり、ずっとそのままの状態で放置されるんだ、辛いに決まってる。

 くそ。どうしてもっと早くに助けてやれなかったんだ。恵瑠(える)がこんなにも苦しんでいたのに、俺は!


「かみ、あ……く……」

「喋るな、まずはここから脱出するぞ」

 辛そうにしゃべる恵瑠(える)に俺はそう言うが、恵瑠(える)は小さく顔を横に振った。

「ううん、大丈夫……」

 恵瑠(える)は自力で体を起こし始めた。肩を持って支えてやる。なんとか恵瑠(える)は上体だけ起こすことができた。その後そっと俺に顔を向けてくる。


「助けに、来てくれたんだ……」

「ああ、待たせて悪かったな」

「ううん……。来てくれた。それだけで十分だよ」

 弱々しい表情。でも恵瑠(える)は笑ってくれた。小さいけれど精一杯の笑顔だと分かる。

 その笑顔を見れて、俺はうれしくなった。


 ようやく会えた。間に合った。傷ついた恵瑠(える)への後悔と、それでも無事な恵瑠(える)への安心感が湧いてくる。

 よかった、無事だった。手遅れという最悪の事態が避けられたことだけで、背負っていた重荷が下りる気分だ。


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