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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
112/418

そのままの意味ですよ

「兄さんの神託物(しんたくぶつ)。相変わらずすさまじい威容(いよう)さですね」

「世辞はいいわ」

 ヤコブは静かながらも凄みのある声だった。

神託物(しんたくぶつ)同士の戦いだ、これからだぞヨハネ」

「分かっていますよ」

 ヨハネも見上げる顔を戻し険しくさせた。


 互いに睨み合うのは聖騎士クラスの実力者、加えて神託物(しんたくぶつ)だ。むしろ今までの激闘すら前座に過ぎない。

 両者並びに神託物(しんたくぶつ)が構える。第二ラウンドの開始、改めて戦意を研ぎ澄ませた。

「フン!」

 さきに動いたのはヤコブだった。ヨハネは発砲するが盾を構えた突進を迎撃することは不可能だ。


 そこへヨハネの神託物(しんたくぶつ)が動く。上段から大剣を振り下ろす。盾はヨハネの銃弾を防いでいるので使えない。大気すら震わす剣撃を頭上目掛け振り下ろした。

「ハニエル!」

 しかし、それを許すほどヤコブも神託物(しんたくぶつ)も甘くない。


 ヨハネの神託物(しんたくぶつ)、スカーレット・エクスシアの攻撃をセブンス・プリンシパリティーズの戦斧が弾き返す。衝撃に火花と轟音が両者の頭上で鳴り響く。

 地上ではヨハネとヤコブが、空中では上昇していくスカーレットとセブンスが武器を交える。

 慈愛連立(じあいれんりつ)の信仰者は神託物(しんたくぶつ)として天羽(てんは)を授けられる。その力はすさまじくスカーレットとセブンスの戦いは激烈だ。片手で振るわれる大剣をセブンスが躱せば延長線上の地面が地割れのように切り裂かれた。セブンスの突きをスカーレットが避ければ背後の建物が崩れ落ちる。並みの者なら観戦すら出来ない。戦うだけで周囲が崩壊していく。


 いくつもの剣閃を交えセブンスが片手をスカーレットに向けた。それに対しスカーレットも大剣を消し片手を向ける。互いの手の平には天羽(てんは)特有の文字の羅列が円形に広がり、光線を発射した。ぶつかり合う光線の威力に赤と黒の髪が靡く。両者は衝撃に弾かれるようにして吹き飛んだ。


 その真下、地上ではヨハネとヤコブによる近接戦が繰り広げられている。衝撃を無効にする盾に苦戦するものの手数で圧倒していく。ヤコブは転移による奇襲でヨハネに襲いかかっていた。

 その時、今しがた頭上で天羽(てんは)が弾かれ地上に墜落したのを見てヨハネは二丁の拳銃を用いヤコブと建物に突っ込んだセブンスを牽制する。二丁拳銃の利点である対多数攻撃を遺憾なく発揮し敵の身動きを封じる。


 その隙にスカーレットは瓦礫を押し退け上空へと飛び立った。消していた大剣を再び手にするとその刀身に天羽(てんは)文字が巻き付くように現れた。ダイヤモンドダストのような輝きを纏い、地上にいるセブンスへと向け投擲する。それは音速を突破し空気が波紋状に広がった。

 天羽(てんは)の攻撃。それはただの物理的な攻撃ではなく概念(がいねん)的効果を帯びている。ただの壁ではこれを防げない。


「いかん!」

 スカーレットの攻撃を見てヤコブが転移する。セブンスの前に立つと盾を構えた。さらに、その盾に変化が起きる。

 盾が開いたのだ、まるで貝のように。そこから青白いオーラが十字に広がり前面をカバーした。

 スカーレットの投げた大剣がヤコブの防壁に衝突する。衝撃に空気が荒れ狂い地面がひび割れる。

「ぬうう!」


 神託物(しんたくぶつ)の一投にヤコブの表情も苦しく歪む。額からは汗が拭き出し必死に大剣の衝撃に耐えていた。

「ハニエル!」

 ヤコブが叫ぶ。彼の言葉に背後のセブンスが起き上がった。


「セブンス・セフィラー・ネツアク!」

 ヤコブの声に従うようにハニエルが片手を伸ばす。それによってヤコブの全身がほのかに緑色に発光した。

「うをおおお!」

 ヤコブの声が轟く。カマエルの大剣とヤコブの盾の勝負は、大剣が逸れていき不発となった。

「なんですと」


 その光景にヨハネが忘我一歩手前で見入っていた。

 神託物(しんたくぶつ)の攻撃、さらに天羽(てんは)文字によって格を上げたさきの一投を一人の人間が防ぐなど常識外れだ。さらに納得出来ない要因がある。

(さきほどの大剣の動き、不自然にブレたような)

 大剣は一度消しすでにカマエルの右手に備わっている。


 ヤコブは開いた盾を閉じる。それによって展開されていたバリア状の青いオーラは消えていった。

「なかなかやりおる」

「どちらがですか、今ので倒せないなんて聞いてないですよ?」

「今ので俺が倒せるぞ、なんて言ったか?」

「そういえば言っていなかったですね」

 ヨハネは笑うがすぐに顔を引き締めた。


 互いの距離は五メートルほど離れている。しかしオラクルにしては距離など意味をなさないため油断は出来ない。

「今の、なるほど。それがハニエルの力ですか。『勝利を引き寄せる第七の(セブンス・セフィラー・ネツアク)』。自分の有利な方に確率が傾いてしまうとは卑怯ではないですか?」

 天羽(てんは)の中には時に特殊な力を授かった者がいる。そうした天羽(てんは)神託物(しんたくぶつ)として呼ばれることもあるのだ。


 ハニエルもその一人であり、その力は『勝利を引き寄せる第七の(セブンス・セフィラー・ネツアク)』。その名の通り勝利を引き寄せるこの能力は自分が有利になる確率が高まるのだ。コイン勝負なら本来勝てる確率は五割だが、この能力を使えば七割にも八割にも高まる。

「卑怯とは人聞きの悪い。崇高(すうこう)なる騎士は幸運を身に着け勝利を手に入れる。それのどこかおかしい」

「あなたが崇高(すうこう)な騎士を自称するとこですよ」

「どういう意味だ!?」

「そのままの意味ですよ」


 ヨハネの軽口にヤコブは「ぬうう!」と怒りをあらわにしている。

「お前はやはり気に入らん! 叩き潰してくれるわ!」

 ヤコブが駆け出す。ヨハネもすぐに構えた。


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