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黒白のパラドックス  作者: 館 伊呂波
西剣のロード編
7/105

07不吉の予感

「えっと、何話していたっけ?」


「ローム国に対する対処よ」


 机は元の位置にあらず壁際まで動き、そのせいで振り落とされたエリックは床で爆睡中である。あちらこちらに資料が飛び散っており、今更元の通りに戻すなんて時間の無駄だ。


 椅子もいくつか倒れ(壊れたものもいくつかあるが全て魔法で修復されている)、そのうち数人は床で各自好きなことを行っている。なぜこんなひどい状態になったのか。


 実のところ誰にも分からない。各自が思い思いの時間を過ごした結果ただこうなったのだ。全員が原因なのである。


 直す気のない賢者たちはこのひどい状態で会議を再開することに決めた。


 ブラックももうこの有様なので、寝るなとも食事するなとも仕事するなとも言わない。ただノエルがいつの間にか持っていた酒だけを取り上げているだけだ。


 机のない椅子に座り、床に座る約半数を見下ろし、片手に酒を持ってその先にいる巨大な魚を釣り上げ、もう片方の手に引き剥がしきれなかった白銀の少女(腕に巻き付かれ書記の仕事も放棄している)を寄せている様子は至って奇妙であるが、それを変な目で見るものはいない。


 それはお互い様であるからとだけ言っておこう。


 ヘッドとサキカが話を引き戻したところでブラックも船に乗る。


「今のところ半数ずつで意見が分かれ、どう決めるかを話し合っていたわけだが…、」


「めんどいから警備の強化だけしとけば」


「いや、それはだな…、」


 ヘッドは早く終わらせたいのか適当なことを言う。だがそれは火種となり、満場一致で早く終わりたい気持ちを爆発させた。


「そうだ、それがいい」


「そうね、どうでもよくなってきたわ」


「おい、サキカさんまで…、」


「蜂蜜ほしがる熊の子亀の手」


「ハッ、俺はそれでいいぜ」


「………」


 ブラックは満場一致で固まり始める意見に、言葉を失っていた。ちなみにサキカさんが折れ始めたところでブラックも押さえるのに折れはじめ、ガザールが賛同したところですでに彼の中での決着は決まった。


 本来あってはならない決着方法だ。おまけに国内事情ならまだしも国外事情なのだ、当事者もいる以上最悪の決め方である。


「はいは~い。ノエルさんももうどうでもよくなったのでとりあえず反対」


「じゃあ、俺も反対」


「……………」


 結果ドワール以外の人物が兵を出すことに反対を押し、なんとも無残な形でこの議題は終了したのだった。


 ブラックはこうなった以上諦めることにした。フェリカには申し訳ないが賢者会議で決まったことは絶

対である。


「今日の会議は以上にて終了とする。以上、解散」


 ブラックは何ともいえないかゆさを腹に抱えながら、会議を終了させた。

 ただ、一番魂を抜かれかけたのは誰だか言うまでもないだろう。


 ◇


 賢者がそそくさと出て行き、荒れ果てた会議室を沙綾とともに直し、ブラックは百合華とフェリカと沙綾を連れてその場を後にした。


 気がつけば窓から入る光は赤くなっており、まもなく青紫色の世界を作り出そうとしている。


 ガチャッと、ドアノブを回して最上階の部屋に入る。聞こえてくるのは相変わらずゲーム音で、カチャカチャと短い音をつなげている。


 いつも通りいくつかのドアをすり抜けてリビングにたどり着くと、ブラックは今度は手を触れずにドアを開け、中に入った。


「おっかえりーー」


「ん~、おかえり」


「クーちゃんお帰り~」


「オッス、クロツグ」


 予想していたより声が二人分多かった。そしてその一つは先ほどまで会議室で聞いていた声である。


「ハードフはともかくノエルさん、何でお前がここにいる?」


 ハードフはブラックの友人であり、ブラックの数少ない愚痴を言い合える仲である。 残る二人の声はもちろんエミナとルルである。


「相変わらず堅いねぇ~。別にいいじゃない、それより面白い話があるんだよ。どうどう?聞いてみたいと思わない~?」


「先に彼女がこれからどうするかを決めなくちゃいけない。悪いがその後にしてくれ。」


 彼女とはもちろんフェリカのことであり、そして現在その年齢が数十歳も老けたようになっている。


「ああ、そいつが話に聞いていたロームの王女様か。正直またかとは思ったけど、これはこれで大変だな」


「分かっているかとは思うが、口外禁止だ」


「へいへい」


 口外禁止なのはもちろんのこと戦を起こした王女が亡命していると知れたら、無駄なやっかいごとが発生するからに決まっている。そのことを理解している上層部の人間はわざわざやっかいごとを起こすような真似はしない。


「あの、彼は?」


 げっそりした顔でフェリカは同じくらいの年の子が自分の存在を知っていることに驚いていた。だが伝達した予想は思っているのとは違う方法だと知ることはない。


「あいつはハードフだ。俺の同級生であるが、俺の使命によって魔法兵団第一隊長を務めさせている。見た目はチャラいが相当優秀だ。腕とかに付いている刺された跡はナイツによるものだ」


「ナイツ?」


 正しくはナイツ制度。賢者の塔で学ぶものたちが必ずとる制度で、教師によって生徒が二人一組のペアをを強制的に作られ、普段の暮らしから授業まで一緒に学んで過ごすことだ。

 この制度は塔が建てられたときから存在する制度で、二人一組で行動することにより戦いにおける弱点を補い合い、勉学における弱点も補い合うことで個人を高めていくということを目的としている。


 このペアは卒業するまで変えられることはないし、解散されることもなく、また卒業にも一定のナイツの合格点があるのでその親密度はとてつもないものになる。それが故に卒業しても一緒の仕事をしたり、男女ナイツだった場合、結婚まで行くこともまれではない。


 少し話は飛ぶが、生徒はそのナイツ制度のため全員寮に暮らしている。六才から三年間は知識を主に習得する小学校と、その後六年間属性魔法を実践的に習う高等学校、そして三年間にわたって定義魔法を習う高級高学の三つに分かれており、卒業した者は仕事に就いたり、研究員として塔に住むことになるのがほとんどである。


 もちろんブラックもハードフも一時期は学校の生徒として同じように授業を受け、寮に住んでいたこともある。


 だが、ブラックのナイツだった人物は百合華ではなく別の人であった(百合華とルルは学校に通っていなかった)。今は高等学校の卒業と同時にどこかへ消えたのだが、それはまた別のお話。


「二人一組でお互いを高め合うか、私の国にも入れたい制度だな」


 ハードフにどいてもらいそこにフェリカが座る。そしてブラックと百合華が対面上に向かい合って座っていた。沈んだような船のごとく深海に漂うフェリカの気分は状態を見なくても声だけで誰でも判別できそうなものだった。


「お前が王になった暁にでも好きなようにするといい、特に制約はないのでな」



 そのような様子を気にすることなく、ブラックはいつの間にか入って置かれていた紅茶を味わった。正直ブラックが未だにやり方が分かっていない早さだが、それは企業秘密ですとか極めただけですとかと言い、沙綾は教える気配は一切ないが、香りも味も格別にいいので詮索はしていない。


「それでだが、」


 向き直り、対面に座る二人は目を合わせる。


「先ほどの会議の通りお前には我らが兵を出すことは出来ない。これは決定事項だから我慢してくれ。だが、俺の持てる権限においてここに滞在することと、その間その身の安全の保証はする。承諾してくれ」


 フェリカの目は下がる。ブラックにもこの行動がどういう心情の元なのか分からないわけではない。半数ずつで意見が分かれたにもかかわらず、突然騒ぎ出して静まったと思ったらほぼ全会一致で反対判決。行うメリットがほとんどないにしても会議内容がかなり気にくわない。


 だが抵抗するすべはない。


 そしてお願いした立場では頷くしかないのが何とも腹立たしい。その怒りは声に出すことが出来ず、床

に振動を与えるほか無かった。


 兵を出すことは出来ないというので、おそらく自らこの塔で集めた人に関しては何も言わないのだろう。それはある意味希望であり、最低限の優しさであるが、今からまた兵を集めて向かおうにも生き残っている部下は七人しかいない。味方を集める人数には到底少なく、資金すらも持ち合わせていなかった。


 つまるところ、圧倒的絶望感である。


「今日のところは遅くなったからまたここに止まるのを許可するが、明日からは自分で宿を探してくれ。

お金がないのならある程度は支給しよう、これは難民法に基づく事柄だ。遠慮はしない方がいいだろう」


 再び頷いた。


 むなしい虚空が顔をあらわにするなか、ブラックは話は終わりだというように背もたれに寄りかかり、手に持つ紅茶を静かに飲み干した。


 フェリカはとても泣きたい気分であった。自分の信じる道のために掲げた剣は、今やさび付き振るうだけで折れてしまいそうである。


 父に逆らい、兵を挙げて、負けて、たくさんの部下を失った。


 賢者の塔に亡命し、協力を頼み、振り切られた。


 国に帰ることも出来ず、兵を立ち上げることも出来ず、ここにとどまり命だけは保証される。


 とても負け犬のような、そんな自分にフェリカは吠えることすら出来なかった。


 まとめれば『惨め』である。


 小刻みに震えるのは足だろうか、それとも手だろうか、自分の体なのにそれさえ判別できなかった。濁って見えるのは涙のせいか、暗い気分のせいか、それも分からない。いや、両方とも原因なのかも知れない。


(負けたくない、国を助けたい)


 ただその思いだけは、その熱意だけは消えることはなかった。


 その自分の馬鹿さにはフェリカも自分で気がついていた。しかし、国の民が望まぬことを国がやらせようとするのはやはり許せないのだ。


 トントン


 肩を叩かれた気がした。顔を上げると、そこには笑顔で顔を近づけるエミナがいたのだった。


「ねぇ、フェリカちゃん。あなた剣扱えるのなら少し私の相手してくれない?」


 突然の言葉に反応できずにいたが、フェリカはオロオロしたあげく誰も目を向けなかったことから、何らかの力が働き、頷いて返事をするしかなかった。


 それは抜け出せない暗い気持ちから目を背けることになるが、フェリカには到底向かい合えるような状態ではない。たった一つのみっともない理由だったが、フェリカは妙に明るい彼女に付き従うには十分であった。


「よしっ、そんじゃあ屋上行こうか。そこなら今からでも剣を振るえるし、障壁が張ってあるから風もないし落ちることもないから安全だよ」


 エミナは強引に引っ張るようにしてフェリカを立ち上がらせた。そしてそのまま連れ去ると、リビングにある階段を転びそうになるくらい突っ走っていくのだった。


 ◇


 ハードフは再びフェリカが消えていなくなった席に着いた。


「お騒がせだな、あいつも」


「気晴らしにもなるしいいんじゃないでしょうか」


「まあそうだな、こちらもこれで会話しやすいしな」


「クーちゃん、そういうこと言っちゃダメだって~」


「エミナさんはそういうこと考えませんよ。単純な方ですから心配しているだけだと思います」


 ハードフ、百合華、ブラック、ノエル、沙綾が順に言葉を交わす。


 沙綾がブラックの飲み干した紅茶をカップごと入れ替え、コトリと音が鳴る。


「それで?お酒を要求しないところで何のようですか?」


「あら、ここには一切お酒なんてないじゃない」


 ノエルの言うとおりこの部屋にはお酒はない。それは仕事に支障が入るからではなく、飲める人、または普段飲む人がいないからである。なので酒好きが遊びに来ても飲めるようなものは一切置いていない。


「そうだな、けどわざわざ俺の部屋に来てまで話したいことがあるんだろう?」


 とりあえず、話したいことを早く吐けと急かす。しかし、飲むときはゆっくり味わうべきだとでも言うようににやついたまま中々喋らなかった。


 二つ大きく息を吐き出したところでノエルは喋り出した。


「本当はハードフ君もいない方がいいんだけど、まあ今回は特別、ね?私が話したいことは三つよ」


 一つ、と言いながら取り出したのは四角い小さな液晶パネルだった。


「これはお遊びね。リテイルから新たに取り寄せた機械よ。ふふ~ん、これを起動させるとなんと動き出すのです。リテイルではこれでいろんな場所と通信したり話したりするそうよ~。パソコンの小さい版ね」


「全く、お前はどういうルートでこれを取り寄せているんだよ。また解析しろと言うことでいいんだな?」


 ノエルが取り出したのはいわゆるスマートフォンである。もちろんのことこちらの世界では通じることはないが、初めて移入された歴史的瞬間であることには変わりないであろう。


 ちなみにリテイルというのはこの世界(今ブラックがいる世界をリテリアルという)と対をなす世界のことであり、百合華やブラックの生まれはそこだったりする。


 そしてリテリアルとリテイル、そしてリューテとリュートリア(言い直せば天界と冥界)をあわせてリネアと呼ぶ。これらはリテリアルでは常識であり、循環する世界とされている。ただしこれらの世界同士が干渉することは基本的には不可能である。


「解析だけでもいいんだけどさ~、そのおもちゃもしかしたら新たな魔法武器として使えるかもしれないよ~?と言うことで一点目おしまい」


 ブラックはそのおもちゃを百合華に渡すと、次の話を聞くために向き直る。

 百合華はその軽さと画面が消えたり移ったりするのに驚いており、壊さない程度に遊んでいる。が、みっともないと気がついたのかすぐにやめた。


「それでここからが本番。二点目、ローム国の軍隊がここに攻めてくる日なんだけど、これいつだと思う?」


 ねぇ、答えてみてとウキウキしながら今度はノエルがブラックを急かす。


「まさかつかんだのか?それジークでも手に入らなかったのに」


 すみませんとどこからか声が聞こえた。声の場所からしてだいたい二階の手すり付近だと分かるが、そこに人の姿はない。


「なんと、ドルルルルルルル、じゃん!一週間後で~す」


 一週間後、それは総合魔法祭開始予定日である。世界各国からいろんな人が集まり、本塔が一番開放的になるときである。これを意味することはノエルの口から言わずとも誰にでも分かることであった。


「まさか、直接乗り込む気か」


「そうなりそうだな。本塔の障壁は悪意あるものの侵入を防ぐが、内側からは防げない。その情報が正し

ければ西の塔の守りを壊して兵をワープさせようと言うことだな?」


「ハードフ君とクーちゃん正解!でもそれだけじゃあ五十点かな」


 ノエルは嘲笑うように指を突きつけ、左右に動かす。


「つまりはそれを行うための協力者がいると言うことですね?」


「おっ、さすが百合華ちゃん。鋭いね~。そりゃ西の塔でも鉄の武器やそこらに散らばってる魔法傭兵

じゃ壊せないけど、強い内通者がいればそれは可能だからね」


 百合華の的確な指摘にノエルは感心をする。ブラックと違って表情の変化が激しいがまだまだ続きそうだ。


「何を持ってそのことをいえる。それとその情報どこから手に入れた?」


 ブラックは一応今回のこの西の国の情勢を追いかけてはいたが、どうでもいいことだったので深くは追いかけることはしなかった。しかし、このノエルの質問に対する百合華の回答はそれを一転させるには十分な情報だった。


 なぜか、それは塔に直接関わると断定できる情報だからである。


 ノエルは嬉しそうにしながら答えを言う。


「簡単だよ。まず後の質問だけど、ジーク君は王宮の方を調べていたけどさ、実のところ軍の本部は地下にあることに気がついちゃったんだよね。まあそれでうちの部下をそこに送りつけたらビンゴで情報が手に入ったわけ」


 なるほどとブラックと沙綾は頷いた。そして二階からもなにやら小さい音が聞こえたが、聞き取れるほどの大きさではない。


 軍の本部が地下にあるとは聞いたことがなかったが、ノエルによれば最近王女が動く前から地上をうろつく人数が減っていることに気がつき、その原因を探っていたらしい。事実、王女が反乱を起こすこともブラックが手に入れる前から分かっていたらしい。


「ジーク、お前もう少し精進しろよ」


 ブラックが声をかけると、その二階にいた気配は消え、刹那姿を持ってブラックの前に現れたひざまずいた。


「すみません。ブラック様。これ以降見落としの無いように精進いたします」


「おう、ジーク。お前久々に見た気がするぞ」


 さっとどこからともなくジークが現れる。首に巻いた長い首巻きが遅れるようにふわりとしたところを見ると、飛び降りてきたのだろう。一応巻いているのには理由があり、気配関知の魔法がこもっているので、同型の仕事人相手に役立つらしく、多少動きにくくても重宝するらしい。


「普段から会っていましたよ。ただいつも気配を消していただけです」


 それ会っていると言わないとハードフは反論するが、ジークは聞く耳を持っていないようだった。ツーンと無視をすると、また静かに闇に溶け込んでいった。


「ふふ~ん、ジークちゃん戦闘はものすごいけど、やっぱり諜報に関してはまだまだ甘いね。まだ私でも勝てそうだね~」


 ジークはブラックのたった四人しかいない部下の一人で、暗殺者及び諜報員として常に動いている。食事をともにすることはほとんど無いのでブラックが男子一人という構造は変わらない。


 残りの三人のうち、一人はエミナでもう一人は沙綾である。エミナはブラックの手足となり様々なところに出かけては任務を果たし、沙綾はこのオルティウス地域から出ることはないが、ブラックのいないときの代理や普通にメイドとして働いている。


 ただし百合華は書記として代理的に働いているだけで、扱いはルルとともに同居者が一番近いところである。


「それで協力者の目星はついているのか?」


 ブラックは強引に話を戻す。ノエルはフンと鼻を鳴らすと、えっへんと語り出す。


「それこそあなたの方が分かるんじゃない?だって重要管理職はあなたと三賢者の方でしてるじゃない」


 そうだったなとブラックは身を引き、寝る前に調べておくことを考えてこの話を終わることにした。


 だがノエルはへへーん騙されたね、というように意地悪げな笑みを交わす。

 この場合は突っ込むとろくな回答が帰ってこないので何も言わないことにしたが、今回は突っ込んでも変わらないというのは後で気づくことでもない。


「それで三つ目は?」


 三点目をノエルに問う。今度はじらされることなく彼女は答えた。


「今日の会議、クーちゃんはどう思う?百合華ちゃんでもいいよ」


 それは唐突なる言葉だった。最初から真面目にやっていなかったノエルが今日の会議のことを語り始めたからである。


「どうといえど、いつも通りの光景にしか俺は見えなかったけどな。誰かが会議に遅れてくるわ、会議中に酒をもってこいだの、やってない仕事をやり始めるだの、食事を取り始めるだの、寝たりだの、様子は変わらなかったぞ」


 これはただの愚痴に近いものであるが、悪意を込めていったものではないとだけ言っておこう。それはすでに諦めかけたことであるからだ。


「そうですね、私も特に気になるようなことはありませんでした。あえて言うならばサキカさんが突然反対したのは驚いたことくらいでしょうか」


 だが、百合華の発言に対しそれは気になったとブラックも言う。サキカさんはお母さんのような人であり、包み込むような優しさとまともな良識と判断を持つ人物である。そのような人が流れで意見を変えるようなことはない。


「いいところついたね、すごいよ百合華ちゃん」


 そしてノエルの出す言葉はブラックに震撼をもたらす言葉だった。


「会議の途中、幻惑魔法がかけられた」


 幻惑魔法、それは相手の視覚や思想を惑わしてしまう高度な呪文である。学校で生徒たちが覚える魔法ではなく、闇魔法を専門として学んでいく人が自力で習得する呪文である。

 しかし会議に集まる参加者は沙綾、百合華、フェリカを除きとても優秀な魔法使いであり、闇魔法を専門としていなくても習得できる可能性は十二分にあるのである。


 だが、まず問題はそこでは無い。


「待て、あの会議中にそんな強い魔法を使ったら誰かが気づくはずだ。そんな高度な呪文に簡単に感知できないような連中が集まるような場所ではない」


 そうなのだ。そこが問題である。今日の会議に集まった魔法使いたちは世界最高レベルの魔法使いたちであり、熟練した力や特化した力を持っている。少なくともブラックはそのような魔法にも耐性があり、かかるようなことはまず無いのである。


「不思議だよね~、でも実際にかかってたんだよ。私たち。そうじゃなければノエルさんも正義感の強い超度真面目緑壁もルーラちゃんも意見を変えることはないはずよ」


 言われれば言われるほど謎は深まる。確かにそうなのだ。例え魔法がかかっていないにしろ、賛成側には真面目なメンバーが揃い、そして頑固な人も多いのだ。特にその点で言えばサキカとケインは意見を変えることはまず無い。


「不思議ですね、外部の方は私とジークの方で監視をしておりましたが、誰一人として通るものはいませんでしたよ」


 沙綾は自分が見逃したのではと言うような罪悪感を持った顔で頭をかしげる。


 ブラックは沙綾に対し首を横に振りお前のせいじゃないことを伝え慰めつつ、ジークの絶対的な気配感知を抜けてくるものがいないとすれば外部からの影響はゼロに近いと考えた。


「つまりは賢者の中にフェリカさんに兵を出させないように仕組んだ賢者がいると言うことですか、私にはとてもそんなこと考えられませんが」


 百合華は上の方を見つめる。そこには豪華なシャンデリアが輝いており、きれいに手入れされていることもあり埃は一切かぶっていない。


「だが、それに何のメリットがある?兵を出したところで……もしや、」


 ブラックは言いかけたところで一つのメリットを探り出す。


「言ってみて」


「ローム国に加担するものが賢者の中にいるとでも?」


 これが三つ目の質問に入る前のノエルの不気味な笑みの回答である。

 ノエルは考えすぎかもしれないけどね、と付け加えた。ただそれには現実味がありすぎて逆に否定しづらいものがあったのだった。


「もちろんそのことで言うなら私もその候補には入るんだろうけど、百合華ちゃんと沙綾さんと王女さん、サキカさんは白とだけ断言しておいてあげるよ」


「フッ、その理論からするとサキカさんも十分入ることに違いは無いが、俺もあの人だけはないだろうと思っている」


 ノエルはうんうんと頷いた。それはサキカの持つ絶対的な信頼のよるものが一つと、それぞれが持つ彼女に対する大きな恩義によるものであった。


「まあ、クーちゃんも話すだけは話したから、あとはクーちゃん次第ね~」


 ハードフは話の内容が激しすぎて、話をしようにも話しづらい状況になってしまったことに困惑を見せるばかりであった。


ハードフ

「突然出てきて悪いな。賢者の塔の自衛組織、魔法兵団の第一隊長をしているハードフだ」


ノエル

「でも、これからしばらくでないんだよね~」


ハードフ

「えっ?マジで?おいおい、そんなことないだろ作者さんよ。なあ?」


作者

「……っえ?」


ハードフ

「いや、ちょっと待て、そんなことないよな。おい、答えてくれよ作者さんよー。おーい」


作者&ノエル

「次回もお楽しみに」


ハードフ

「まさかこの七話のタイトルって、俺のことを指していたんじゃ……」

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