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黒白のパラドックス  作者: 館 伊呂波
西剣のロード編
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04賢者の塔と聖賢者

 ブラックが振り返ると、そこには先ほどまで門にしがみついていたお口あんぐりの少女と、戦っていた兵がそのままの体勢でワープしていた。


 整列した魔法兵団の間に固まるようにして置かれ、その数秒後にはその全員がなし崩れるようにして尻を着いた。


「八人か、あれだけ数的不利な中で良く生き残ったものだ。レノワード、彼女以外の七人を全員医療所に運べ」


 ブラックは数を数えるとそっと呟き、いつの間にか近くまで来ていたレノワードに指示を送った。

 ざわざわと周囲が動き始めるのが横目に入るが、ブラックは彼女からは目を一切離さなかった。

 真顔で見つめ続けているため、何を考えているのかは分からない。


「クロツグ、やはりあなたは甘いです。ここは見殺しにするべきでした」


 後ろからついてきたレイトは、少しため息をつきながら早々、ブラックに批判の声を浴びせた。その言葉に彼女は若干おびえたように震える。


「いいえ、クロツグ様の判断は正しいです!クロツグ様を批判するならこの私が…」


「俺は賢者の塔の規約に従っただけだ。賢者の塔に悪意ある者、害をなそうとするもの以外受け入れを拒否するべからず。民として友好に且つ平等に接しよ。またそのもの達を助けよ。とな」


 百合華の言葉を遮りながらブラックは賢者の塔に記される法の一文を読み上げた。


「否定はしませんがまた三賢者の方がうるさいですよ。正直僕は後々のことを考えて受け入れるのは反対ですが」


「そうだな」


 ブラックは会話を終わらせると、尻を据えたままおびえた体制を残しつつ、安堵した表情でこちらを見つめる少女の方に向かった。


「立てるか?」


「あっ、はいっ!」


 ボーッとしてたのか返事は少し遅れた。彼女は急いで立ち上がると尻などの服に付いた汚れをパンパンとはらい、向かい合った。


「私はローム王国の第一王女フェリカ・ディノミスクス・オートリエです。先ほどは助けていただきありがとうございます。あの、」


「ブラック・ヒーター。話は塔の方で聞く、付いてこい」


「ヒーター家の人ですか!?」


 ブラックは名前だけ教えると、そのまま塔の方に向かっていった。百合華とセラピアがその後を付いていき、名前を聞いて驚いたフェリカが急いで後を追いかけた。

 そしてため息をつき、警戒しながら最後にレイトがその後を進む。

 おそらくここであまり名乗るなとでも言いたいのだろう。


 すでに他の七人の兵は魔法兵団の者達によって宙に浮かされながら運ばれていき、塔の内部へ入ったようだった。

 他の兵達はまた警備にあたり、レノワードは門のところで王女の引き渡しを求める兵の対応に当たっていた。


 一行は無言で進み、魔法兵によって開かれていた玄関を通る。左には先ほどまで入っていたカフェテリアが同じくらいの賑わいを見せ、正面先にあるワープ陣までの通路は喋る者達で騒がしかった。


 まるで外で戦闘が起きていたことが知らないかのように平和な会話をする研究員達はブラックやフェリカが通るのをまるで気にせず、真ん中に通る道を空けていく。

 ブラックが偉い立場にあるからではなく、普通に通行の邪魔になっていることをおのおのが判断した結果である。


 間もないうちに円形に模様がしかれたところにたどり着いた。これこそが塔と塔を結ぶワープ陣であり、本塔に直接帰る一番早い方法である。


 周りにはロープが張られ、今は誰もいないが並ぶスペースも用意されている。また物資を運ぶこともあり、天井の高い一階の中でとても開放感のある場所でもある。そしてその横には半透明の浮かぶコントロールパネルと係員一人がいるだけだ。


「本塔の方に頼む」


「了解しました」


 十数人ほど入る巨大な陣は本塔以外は塔の中心に置かれている。係員が行き先を管理することでワープすることによる衝突を回避しており、また事故をなくしている。

 無論係員の魔力で動かしているわけではなく、全ての塔でこういった公共の施設や設備は高い塔が空中に漂う魔力を回収することによって動かしている。


 フェリカは初めての体験に驚いているようだが、魔法使いにとっては慣れた日常であり、特に言うこともない。


 数秒後、床に敷かれた陣が光ると共に五人はその塔から姿を消したのだった。


 その数秒経ったかくらいの感覚で暗闇は消え、再び照明の明かりが頭を照らした。


 とても不思議でふわふわした感覚だ。


 たどり着いた場所で並ぶ数人を横目にブラック達は出口側から出ていった。ここはワープ陣の為だけに作られた建物なので円形の建物にはカフェテリアも二階に向かう階段もない。非常にシンプルな建物であった。


「スワン側ですね」


 ドアの付近に書かれた文字を読んでレイトは場所を示した。というのも本塔には行き来する人が多い為この施設が五つあり、それぞれ置かれている方向が違うからだ。

 ちなみにこの建物は本塔の正面側、つまり南側にあり町にも近い方面なので一番便利の良い場所である。(ブラックの為に係員が配慮したとも考えられる)


 ブラックはドアを開け、他の四人が出たことをドアの閉まる音で判断すると、フェリカの方へゆっくりと向きかえった。


「ようこそ賢者の塔本塔、オルティウスの塔へ。塔の者として歓迎する………一応慣わしだから気にしないでくれ」


 真顔でブラックは歓迎の挨拶をする。


 だが、フェリカはあまりの驚きにその言葉さえ聞いていないようであった。それを見ると魔法使いとして嬉しいのだろうか、セラピアがニコニコしている。


 それもそうであろう、目の前には見上げきれないほどとても巨大な塔が立っているのだ。それは西塔とは比べものにならないほどで、幅高さ共に目には入りきらないのだ。正面への玄関までは数十メートルあり、後ろを振り返れば十数メートルあろうかという城壁が遠くに見えているのだ。


 しかも驚くべきは本塔の周りに西塔より何回りか大きい塔が更に立っており、それ以外の建物が城壁内には見当たらないことだ。


「あれは本塔を取り囲む研究塔だ、計七つある。本塔から飛び出している四角い建物は生徒達の住む棟で、見えている二つの他本塔の北側にもう一つある。そして本来ならこのまま役場の方に連れていくが、まあ今回の出来事といい、お前の身分もあれだしな、とりあえず本塔の最上階に来てもらうことにする」


 ブラックは見えている範囲の建物を軽く紹介すると向かう場所を伝えた。フェリカはあまりの驚きで声が出なかったようだが、ブラックが動くのを見ると我に返ったように急いで追いかけた。


 本塔にある正面の玄関は巨大なドアが外向きに開いたまま固定されており、そこから人という人が絶え間なく出入りしている。


 賑やかと言うにはいささか言葉が足りない、騒がしいと言うわけでもなく、言うなればごちゃごちゃざわめいているというのが正しいだろう。


 半分くらいの人が軽微な服装にマントを羽織っており、その手には本やら杖やら何かしらを持っていて、ほぼ九十パーセントが同じ人族である。残りの十パーセントは獣の顔や体をした亜人族である。


 この世界において亜人族はほとんど辺境の地に住んでいるのでこれだけ集まっているのはフェリカは見たこともないし、恐ろしいほどである。


 不思議なことにブラックに声をかけるものはいない。

 あの場での会話で王女と対等に会話できるほどの地位を持っていると思われるのだが、ここでは普通なのか、それとも皆気がついていないのか真横を歩いていてもスルーするばかりである。むしろ目を合わせないようにしているようにも感じられてしまう。


 ひとたびフェリカが町中を歩いていれば、民は騒ぐように躍り出てくる。一目見ようとするだけのものもいれば、自分の店に入れ王族が入った店として商売の利益を上げようと勧誘するものもいる。

 

だがやはり王族の間でも知れ渡っている名だけに、無知ではないようではある。ときたま人の隙間から指を指す人や、顔を見ればすぐにそっぽを向くという(百合華が美しすぎるせいの可能性もある)ごく自然な動作をするからだ。


 それらは全て一つの言葉でまとめることが出来る。それは、ここは他の国とは文化的に全く違う性質を持っている。


 ふと体を流れに流されつつ前を向けば、すでに大きな扉は見上げても視界に入りきらないほどの大きさになっていた。


 そしてそのくぐった先の内部は信じられないほど広いものだった。外から見ただけでは入りきらない裏側の部分も、中からだとすべて見えるためか予想を超える広さになっているのだ。


 正面には大きな噴水と、その奥、建物のほぼ中心には円を描くようにエレベーターがいくつも配置されている。

 上を見上げればこれまた開放感のある吹き抜けとなっており、五階からはエレベーターの周囲だけが吹き抜けている。


「右半分は地下二階から二階まで病室となっている。おそらくお前の配下たちは一階に運ばれているだろう」


 ブラックはエレベーターの前まで来ると右側のほうを向きながら話した。


「クロツグ、僕たちはここで別れさせてもらいますね」


「お疲れ、じゃあね」


「ああ」


 レイトとセラピアは突如別れを告げると、別のエレベーターに向かっていった。ここに付いた時点で彼らの仕事は終了だ。


 同じエレベーターではないのは、目の前にあるものが上層付近にしか止まらないもので、いわゆる最上階あたりに向かう人が使う専用となっているためである。


「あの二人は?」


 フェリカはまだ自分がいるにもかかわらずブラックのそばを離れる理由をうかがった。ロームでは重要人物の側はプライベートルーム以外は護衛のため離れないのが鉄則なのだが、ここではそれはないらしい。


「俺の付き添いの仕事が終わったからな、研究室兼自部屋に向かっただけだ」

 

 スーッとエレベーターが下りてくる。自動で開くドアからは誰も出てこず、三人はさっと乗り込んだ。

 ブラックは迷いなく光っているパネルに手をかざすと、ドアは閉まり緩い音を立てながら三人を乗せた箱は天に向かっていった。


 フェリカは自分の国とはあまりにも違う技術一つ一つに驚いていた。驚きすぎて心臓が破裂してしまいそうである。エレベーターはあれど乗り心地や上がる速度、ボタンの有無などまったくもって違う。


「これはすごいな」


「この塔にある設備などはほとんど魔力で動いているからな、ここ数年で各国に普及したものとは一味違う」


 だいぶ投げやりな説明であったが、簡単に説明すれば、ロームなどに近年普及した自動電力移動機は名前の通り電力を使って動いているが、この塔は照明から手術道具まであらゆるものが魔力を使って動いているのだ。しかもこれが出来たのが他国の数年前ではなく、数千年前以上であることはとても驚きだ。


「そうだな、少し驚きすぎて頭が混乱しそうだ」


「無理もないだろうな」


 この短い間の状況を考えれば普通だろう。


「魔力は基本的に塔全体で大気中から集めているので、止まることもないので安心してください」

 

 百合華は何か不安げになっているフェリカを見て安心させるように声をかけた。

 そしてたどり着いたのはエレベーターで行ける最上階の百二十四階であった。


 ◇


 百二十四階は一階に比べると構造上狭くなっているが、それでも広すぎるくらいに広い。しかし、ここにはエレベーター周囲の通路と階段、そして部屋が三つしか無いので実際に廊下だけいると広くは見えない。

 おまけに吹き抜けは途中からなくなり、下の様子は見れなくなっているため孤立感も激しい。それとともに人の気配もなくなり、あたりには静寂が響いていた。


 そして上と下に向かう階段がひとつづつ大きなスペースを持ってあるだけ、というのはここが最上階ではないことを示す。


 最上階と聞いていたので階段に向かうことは気にならなかったが、あたりの騒がしさがなくなった分どうしても別の恐ろしさが出てくる。そうとは言わずフェリカは二人の後をのそのそと動いていった。


 そして最上階(正確には階段で行ける最上階)は至ってシンプルな構造だった。

 階段を上がれば人二人が横並びで歩ける程度の通路が少し、そしてまあまあ大きめのドアがあるだけだった。


 ブラックは特に特別な仕草もなくドアノブに手をかけると、普通に開けた。最上階だから何かあるのかと思うかもしれないが実際にそんなことはない。いくら魔法の国であろうと手動のところは手動だ。


 ドアを開けてまっすぐ続く通路には横にいくつかドアがあり、先には階段もある。変わらぬ少し早めの足取りでブラックらは左奥の玄関並の大きさの扉を開けて入った。


「お帰りなさいませ、クロツグ様」


 真っ先に迎え出てきたのはメイド姿の若い女性だった。

 彼女は沙綾といい、ブラック専属のメイドである。白と黒でまとめ、きっちりと伸ばされた服とスカートに赤いネクタイ、そして印象的なカチューシャとこの世界では滅多に見ない服装である。


「おー、おかえりー」


「ああ、仕事は無事終了した」


 ブラックは声をかけると、ソファーで座っている栗色のすらりとした女性の横に遠慮無く座った。

 彼女はエミナ・ホーデンワルグといい、ブラックの直接の部下であり、塔の中で一番の剣の腕を持つといわれている才女である。


「意外と遅かったね。おお?それとお客さん連れてきたの?へぇ、なかなかかわいいじゃない。私はエミナ。よろしく」


「あっ、フェ、フェリカ・ディノミスクス・オートリエです。お邪魔します」


「うんうん、ゆっくりしていくと良いよ」


 フェリカはエミナのあまりの馴れ馴れしさに戸惑いを見せるが、返事する前にブラックの視線を感じて場を察したのか、机にあるカップを持ってテレビの前にいる女性の方に向かっていった。


 現在ここには姿を隠しているのを含めて計七人いる。そのうち五人が女性という光景であるが、ブラックは何も感じていないようだ。事実、こうなっているのは意図したものではなくこれが普段の生活であるからだ。


 上の方を見れば三階(百二十七階)まで吹き抜けになっており、とても開放感があり、豪華なシャンデリアがまばゆいくらいに輝いている。そしてリビングと思われるここは生活感があるが、メイドのおかげかとても清潔に保たれている。

 周囲には見たことがない機器や、自然と動いているものなど他国とは違う様々なものが置いてあった。


 ちなみにテレビ(塔と塔の周辺にしか普及していない)の前にいる緑の髪をポニーテールで束ねた女性はルルという。


「そちらにおかけになってください」


 フェリカが沙綾に案内されたのはブラックの対面のソファーであった。指示されるままそこに座ると、ブラックの後ろに立っていた百合華はエミナのいなくなり空いた席に回り込んで座った。


「すまない、失礼する」


 フェリカは礼儀正しくソファーに腰をかけた。


 沙綾はいつの間にかお盆にのせて持っていたカップを三人の前にそれぞれ置いた。その早さに少々驚いたが、取り乱すことなくつばを飲み込むことで耐えた。


 一時の静けさが、いろいろあったこの慌ただしい状況を整理する。


 ブラックは一口付けてテーブルの上に置き戻すと、話し始める。


「さて、改めてだが、俺はブラック・ヒーターだ。まあ分かっているかもしれないが、今、第九百六十代聖賢者を務めている。そしてこいつは秘書みたいな真似事ことをしている百合華だ」


 百合華は名を呼ばれると軽く頭を下げた。フェリカ並み、いや、それ以上に綺麗な形での挨拶である。思わず人形かと見間違えるほどだ。


 そしてフェリカは思わず胃の中に入れたものを吹き出しそうになるくらい今日一番の驚きを見せたのだった。ただ押さえたせいでむせ込んでしまい、ゴホゴホと口元をみっともなく押さえ込む。

 そこに沙綾が水をタイミングバッチリに持ってきて渡すと、フェリカは喉に押し込んでなんとか落ち着きを取り戻したのだった。


 これほどまでに驚くのもそのはずだろう。聖賢者とは魔法使いの中で一番偉い役職であり、一番強い存在であるとされる。またその権力も発言力も強く、他の国の方向性も変えられるほどの影響力を持っていると言われている。

 つまりはこの世界で一番恐れるべき存在であり、もしもの時は一番頼れる存在なのである。


 だが、さらに驚くべきはその若さである。大人びてはいるが、フェリカと同年代であるというのはすぐに分かることだし、何よりここまで若い聖賢者というのは聞いたことがなかった。

 ちなみに彼女は十九だ。


「それは本当なのか?」


 疑うのも無理もないと、ブラックは肩をすくめ簡単に説明をする。


「嘘ではない。先代が行方不明になってな、決められたとおりの方法で聖賢者が、つまり俺が選出された。証拠ならいくらでもあるが、気になるなら自分で調べるといい」


 確かに西の塔の周りにいた軍に指示を下すことが出来るのも、この最上階で話が出来るのも聖賢者ならばとても簡単な話だろう。


「まさか魔術の最高権力者が居合わせるとはつくづく私も運が良いものだな」


 ブラックの方から向かっていったので偶然ではないのだが、まあそこは無視することにした。それよりも訂正しておきたいところがあるからだ。


「クロツグ様は魔術ではなく魔法の最高権力者ですよ」


 百合華に先を越される。


「うん?何か違うのか」


「魔術というのはバラバラな術式を組み立てて魔力を使い様々な効果を発揮するが、魔法は魔力を使い法則をその場で発揮させる。言い換えれば魔術はバラバラの言葉を文章になるよう並び替えるが、魔法はすでにできあがった文章を読み上げるようなものだ。いわば魔術は魔法の前に使われた技術であり、今ではほとんど使われない古い技術でありやり方だ。」


 ブラックは魔法の仕組みを知らないものでも分かりやすいよう説明を試みる。


 魔法というのは体外及び体内にあるエネルギーまたは潜在的能力を魔力によって引き出し、事象を変化させることであると定義される。


 詳しく説明すると、生き物には必ず魔法を使うためのエネルギーである魔力があり、空中や地上のありとあらゆるところにに存在している。これらを魔法として使用するためにはまず、起動式つまるところの術式を整理し、基となるセルを並び替えて一つの文章体(数式みたいなもの)を作成する。


 次に作られたいくつかの文章体をつなぎ合わせ、一つの魔法全体の文章を構成する。ただし、つなぎ合わせるときに混じってしまう可能性もあるので、文章体の間には位置を固定された変数をシステム的領域として置き、お互いの文章体を一つの情報として結びつける。


 その後は自身の体を媒介とする、または自身の存在証明(魂の可能性が高いと言われる)を魔力を運ぶゲートとして一部を変換し、魔力を情報に干渉させ、魔力を固めることでその形を完成させる。


 最後に情報を抜き取り、完成された魔力の塊を武器に(素手の場合は放つ場所に)仮決定として埋め込み、意識を伝達することで反応を起こした魔力が魔法となって完成させたプログラムに乗っ取りながら周囲の事象を変化させる。


 これが魔法である。


「これを脳の神経細胞内で即座に完成させることできれば魔法として認識され、扱うことが出来ると言える。どうだ、理解できたか?」


 フェリカはただひたすらに呆然としていた。どうやらブラックの説明は彼女には伝わらなかったらしい。


 二度も教える気はないので、もう一度習いたいなら入学でもしてもらおう。ちなみに賢者の塔ではこの仕組みを理解できていないと卒業が出来ない。


 魔法の発動は一瞬であるが、それまでのプロセスはかなり細かいというのはこの塔で学ばない限り分からないものである。


「まあいい、早速だが話に入ろう。そっちの紹介は不要だ」


 ブラックはフェリカの驚きぶりを観察し続けていても仕方がないと思い、容赦なく話を進めていった。見たところフェリカはあまりのテンポの速さに追いついていけてないようだが、とりあえず理解している振りをしているようだった。


「分かった。何を聞きたい」


「簡単なことだ。お前は亡命して何をする?」


 とても大雑把である。が、これはブラックが戦争に関わらないことを暗示させているとすぐに受け取れるものだ。

 しかし予想とは大違いだ。どうして亡命したのか、何故反乱を起こしたのかをてっきり聞かれると思っていた。


「私は………」


 すぐには言葉が出なかった。質問の予想が全く違うのもある。しかしフェリカは国のためにまた兵を立ち上げたいと話すつもりでもあったため混乱してしまったのだ。おまけに話をそう持ち出されてしまっては亡命した身である以上そのような発言は控えるべきだと分かってしまったからだ。


 だが思考を錯誤させてもここに住み着いて安泰に暮らすなどという考えは彼女には出来なかったし、一刻も早く民を救いたいという思いもあった。


「質問を変えようか、何を求める?」


 ブラックはうつむく彼女に前の質問を言い換えた言葉を出した。


 フェリカは顔を上げる。


「ここは知識、力、あるいは別のものを求め世界中から様々な人が集まる場所だ。それは王女だというなら分かっているだろうし、知っていてもらわなければ困る。だからお前は何かを求めに亡命したのではないか?」


 ブラックは顔色一つ変えず話し続ける。その顔に慈悲があるのかないのかなど読み取ることは出来なかった。


「別に何も戸惑うことはないと思います。話をするだけならそれは自由ですし、万一それを私たちが出来ない場合は断りを入れさせていただきますので」


 百合華は王女に向かって淡々と話しかける。その優しい微笑みは女でさえ惚れてしまいそうだ。ブラックの方へ少しずつ寄っているのは気のせいかもしれないが。


「そーだよー。賢者の塔は自分から何かを言うか、行動しなきゃ何も出来ないところだからさ、何か少しでも考えていることがあるなら言っちゃえば?」


 と聞こえたのはフェリカの後ろの方から、テレビのある方からだった。


「エミナ、お前は少し黙っててくれ」


「ひっど」


 ブラックはいかにも真剣な話をしているとでも言うようにエミナを黙らせた。ただしテレビから聞こえるゲーム音を止めることは出来ない。


 少し間を開けブラックと目が合う。エミナのせいで瞬時和やかなムードになっていたが、二人とも切り替えは早かった。


「聖賢者様、どうか怒らないで聞いていただけますか?」


「そんな感情はないし、話す分には自由だ」


 受け入れるかどうかはまた別というわけだ。しかし発言できる権利を持たされている以上、今の西の国よりかは平等な気はする。

 ここまで言われると正直に打ち明けるしかないと思い、フェリカは意を決して助けを求めるのだった。


「私は、私は国を救いたい」


 ブラックは黙認していた。顔の変化がない以上興味があるのかどうかすら怪しいが、一応話は聞いてくれているように見える。


「私は亡命した身であるが、断じて私の国を、そして民を捨てることは出来ない。だから、だから、私に国を戻すための力を貸してはくれないだろうか?」


 それで話が終わったのだと数秒後に悟った百合華は、少しよそよそしながらブラックの顔色をうかがいその答えを返す。


「その、それは具体的にはどのような形で求めていらっしゃるのですか?」


 一瞬頼りなくポカンと口を開けた気がしたが、言葉は自然につながって出てきた。亡命したときから、いや、戦争というのを初めて味わったときから知ったことである。


「兵士だ。もうすでに私を慕って戦ってくれる部下たちは七人しかいなくなってしまった。圧倒的な数の差を前に、力量の甘さが故に私は部下を失った。だから今度こそはその死を無駄にすることなく父上を倒したい」


「強欲…」


 テレビの前からゲーム音を響かせながら何かが聞こえた。だがその言葉は誰の耳にさえ通らなかったようだ。


「いろいろ訳がありそうだが、その話は明後日聞こうか」


「明後日、ですか?」


 燃え上がった瞳は特に返事を出すことをしなかったブラックの言葉により消火されてしまった。


「明後日、偶然だが賢者会議を行う予定になっていてな、どうせだから皆の前で語るといい。もしそこで援助が決まるのなら、その決定は絶対になるからな。あとその話は今日と明日のうちにまとめとくがいい、ここと会議で二回話されても耳が痛いからな」


 気づいてはいないだろうが、ブラックには賢者たち全員を納得させられるだけの理由で戦争を行っているのか、どのくらい国の上に立つものとしての資格が出来ているのか、そして交渉においてのこちらへのメリットとデメリットがあるのかどうかを審議するという意味で明後日である。


 偶然という形にも賢者会議はフェリカに試練を与え、そしてチャンスを与える。


 あんまし訳が分かっていないようだが、その点については沙綾に任せるとしよう。


「取りあえず、今はこの部屋の空き部屋を一つ使うといい。一応内通者の可能性も考えて外に出るときは護衛もつけてやる。今は体を休ませろ」


 案外ブラックは気遣いというか見た目とは別に一定の配慮を持っている。

 フェリカは話の通じる理解者としてその存在をありがたく思うのだった。


フェリカ

「皆さん、ローム国第一王女フェリカ・ディノミスクス・オートリエだ。この作品での準ヒロインをさせていただく……なんかヒロインって恥ずかしいものだな」


エミナ

「そう?私は憧れるけどね。まあ、とりあえずここに来たからにはゆっくりしていきなよ」


フェリカ

「いや、私は……なんでもない。ゆっくりさせていただく」


作者

「こうして新たな恋が始まるのであった」


エミナ&フェリカ

「館、そこに首を差し出せ!」


作者

「すみませんでしたー」(逃走)

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