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黒白のパラドックス  作者: 館 伊呂波
西剣のロード編
3/105

03反乱軍の亡命

 ここは普段住む地を離れ、友好関係を築いている国の中心部である。その国の名はローム国、そして首都はセントリアという。


 この国は大陸の西側に位置し、北と東を山に囲まれ、南と西を海が囲む天然の要塞となっている大陸の中でも比較的発展した国である。

 またそのためか、他国との戦争も起こらず、ここ数百年平和の味を舐めている。


 天然の要塞だけが平和を守るのかと言われれば、それもまた違ったりする。

 西側の海には竜の島と呼ばれる竜族が暮らす大きな島がある。竜の力は神に匹敵するほどで、人にとっては恐れ多き存在だ。

 故にこの国の人々は古くから竜族と親交を深め、そしてこの国の安定を図ったのだ。


 そのおかげか、竜がやってくるのを恐れ周りの国は戦争を仕掛けなくなった。

 そしてローム国もまた竜族の後ろ盾があろうと戦争をけしかけることはなかった。

 故にこの国は平和であることに成功したのである。


 平和が守るのは無論人だけではない。文化と風景もまた変わらないものの一つだ。


 石造りの四階建ての家が建ち並ぶ独特なこの風景は、この国の伝統的な暮らす場所であり、ロームブルーと呼ばれる若干の暗さを見せながらも美しい色は町のあちこちで使われているのを確認できるだろう。


 栄える町並みはほとんどが石造りなので、上から見ると何とも味気ないのだが、いざ町を歩いてみるとロームブルーが器用に町を明るくし、不思議な感覚に包まれるほど綺麗に整っている。


 広くとられた道は馬車が横並びに数台走れるほどで、その道の先にはこの町でただ二つだけ並ぶ家より高く、大きい建物のうちの一つがある。それはこの町の象徴でもあり、道に迷わない為のシンボルともなっている国王の住むお城である。


 そんな素朴と味わいのあるこの大通りは、いつもなら様々な人が行き交う活気のある場所なのだが、今この大通りは散らばるようにして赤色や茶色に染まりつつあった。


「ひどい有様ですね、前に来た時とは違ってくさいです」


「こうなったらそんなものだ」


 男女一組のこの町とは大きく外れた格好をする二人は、町を眺め始めてからようやく一言会話をした。


 別に話したくないわけではない。むしろ女の方は何度も話しかけようとチラチラと機をうかがっていたのだが、振り向いてすらくれなかったのでそれまで持ちかけられなかったのである。


 だがようやく待って話しかけられた言葉はあまり続こうとはしなかった。


 会話を続けないような返事をした男はブラック・ヒーター、この中二病くさい名前はただの職における名であり、言語の意味も違うここでは何の意味も持たないものだ。

 本名はというと天雲玄禎(アマグモクロツグ)。もちろんこの世界に漢字などはないので、他の人から見ればいびつな名前であることは確かである。


 屋根の上に足を組んで座るブラックは、丈の長い金ボタン付きの黒の服に、足首まで隠すほどのズボン、おまけに黒い靴と黒いマントと黒一色の服装だ。


 顔は目の近くまで黒い髪を伸ばし、鋭さの見える目は正面だけを見据えており、今にも鷹が獲物を狩るような威圧感たっぷりの目である。


 鼻や口はぴくりとも無駄な動きはせず、真顔である。


 丁度百八十センチほどの高身長でやせぎみな体は体力のなさを明らかにしているようだが、全体的に見れば実年齢よりも大人びて見えるので目立って気になるようなところはないように見える。


 そしてもう一人、眼下に広がる光景よりも半分以上はブラックを見つめる女の方は影月百合華(カゲツキユリカ)という。


 この世界の文化に存在しない薄い青の和服を着ており、下は動きやすさを求めてか横に長い切れ目のあるスカートをはいている。

 少し胸の辺りがきつそうに見えるが、それは帯をきつく縛っているせいなのかもしれない。


 ブラックは高身長ではあるが、百合華もまた女性としては高い方であろう。彼とは十センチほどしか違わないくらいである。


 さて顔はといわれれば、これは誰もがうらやむほどの美人である。

 帯まで来る長い白銀の髪の毛は日の日差しを浴び、風を受けてきらきらと輝いている。

 前髪はぱっつんと綺麗に整えられており、かなり手入れをしていることが見て分かる。

 宝珠のように輝く目はその輝きを隠すようにおしとやかな視線を放っており、左右対称と言わんばかりの整った顔は誰もが目を奪われるほどだ。


「そう、ですね」


 何とか話を続けようと頭を巡らせるが、百合華にはその言葉を見つけることは出来なかった。


 そして訪れようとしていた静寂は新たな話題と共に消え去る。空から二つの杖にそれぞれまたがった人物がふわふわと降りてきたからだ。


 ブラックを超える高身長でわざとらしく大きく音を立てて降りた女性は、彼の昔からの友人であるセラピア・シャルルという。黄色とオレンジで染められた服は近くで見ていると目がちかちかしてくる。


 もう一人の方は彼女とは逆に小さめの男子で、これもまたブラックの友人のレイト・メンデレーエフである。こちらは目に優しい灰色でまとまっており、降り方もしっかりと教養がついた音を立てない降り方である。


「そっちの方はどうだった」


 ブラックは立ち上がりながらいつも通りの低く穏やかな声で訊ねる。

 このどんなときであっても変わらない声は、なにかと周囲のものを落ち着かせ安心させる効果がある。


「予想通りよ、壊滅してる。ほんと雷打ち落としたいくらいぐちゃぐちゃしてるわ」


 長い髪を整えながらセラピアはいかにも退屈だったかのように答えた。

 だが、この説明だけは足りないとばかりにレイトが後を続ける。


「王国軍隊第二隊と見られる総勢四千ほどに対し、王女率いる分割隊はわずか四百程度。議論の余地もなく後退し続けながら数を減らし、ほぼ全滅しました。残った兵は王女軍本体に向かったと見られ、簡単に言えば捨て駒だとしても時間稼ぎとしての効果は薄いでしょう」


 説明は完璧だ。欲しい情報だけをぴしゃりと抜き出してくる。


 ブラックは頷くと、こちらが見ていた状況を二人に話す。


「本体側もすでに壊滅だ。数の差が圧倒的すぎて横道からも回り込まれて袋だたき、塔にまで被害が及ぶ可能性はゼロに近いと判断して良さそうだな」


 それを聞いてレイトは安心したように、セラピアはつまらないそうに顔をしかめる。


 いかにも物騒な言葉が飛び出しているが、一体全体この国に何が起こっているのかと聞かれれば、いわゆる内戦である。

 戦争がなかったこの国で王率いる軍に対し、王女が反乱を起こしたのである。


 しかし王の軍隊は正規兵の軍隊であり、それに対し王女の軍は護衛の為の戦争には向かない兵達であ

る。結果は言うまでもないだろう。


 そんな内戦を上から見下すように観察している四人は、この国に住む人間ではない。

 彼らはこの国から東、場所としては大陸の中央に位置する国、フランメンテル・イールの中にある自治領オルティウスのもの達である。


 それはどういう場所かと言われれば、簡単に言ってオルティウスは大陸で最古から領土を守り続ける魔法使いの住む総本地であり、最もこの世界で文明が発達している場所でもある。


 世界には技術と科学で発達する方法と知識と魔術によって発達をなす二通りの方法があり、その後手で創られた最も強き力と知恵を持ち合わせる場所だ。


 そしてオルティウスには本塔とも呼ばれるオルティウスの塔という超が付くほど巨大な塔が立っており、そしてそこを中心に各国の首都に一つずつ、本塔含めて計十の塔が立っているのだ。


 つまり四人がいるのはその支塔の一つであり、ロームの首都でもう一つ高さの沿わない高い塔の屋根の上なのである。

 特に塔に名前が付いていない為、西の塔や、セントリアの塔と呼ばれ定着しており、彼らはその西の塔に被害が出ないかを戦争の観察がてら見張っていただけなのだった。


「クロツグ様、どうされますか?忙しい身ですし、もう帰られるのも手かと思いますが、どうでしょうか?」


 状況を確認した百合華はブラックに進言する。

 戦いはすでに終わったようなものだ。そう捉えられる発言でもある。


「僕もこれ以上は必要ないと思います。だいたいこんなことあなたがするべきことではありませんし」


 とレイトが少し悩んでいるような仕草を見せるブラックに追い打ちをかける。


「実際俺より他の奴らの方が忙しいからな。だが、俺がこの仕事をしているのは一度気分転換に外の空気を吸いたかっただけだ」


 ブラックは真顔で根にも思ってないことを言ったのだった。


 彼は戦争の勝敗などに興味はない、また平和な国で内戦が起こったということに興味があるわけでもなかった。

 付き合いの長いこの三人なら分かっているとは思うが、竜族が関わっていないかどうかを確認するのがここに来た本当の目的である。


 だが、そのためだけだといざ向かうことは本来は出来ない。レイトの言う忙しい身というのも本当だ。 故に渋々戦場における戦闘の度合いの確認という仕事を入れ、こうしたのんびりとしたことを行っているわけだ。


 そうやってのんびりとする以上、戦場ではあるがブラックものんびりすることに決めていた。血のにおいが混じっているのはしょうがないが、高いところに吹き抜ける風というのは中々に気持ちの良いものである。


 確かにこの天まで登ってくる血生臭い空気を避け、本塔に帰るという選択肢を選ぶのもありではあるだろう。

 しかしここで帰れば時間が余ってまた仕事をする羽目になる。嫌いではないが、あいにくやる気はあまり起きないだろう。


 まあ、これ以上行うことのないこの仕事は新たに仕事を出さなければすでに終わりだ。ブラックが行動を示さない限り他の三人は動くことはない。


 悲しいかな、正面下では王女の軍と見られる集団がこちらに背を向けて未だに抵抗しているのが見える。


「どうせだ、戦局を最後まで見守るとしよう」


 それを四人はいかにも子供が遊んでいるのを見守る親のように温かい眼差しを送り続ける。無論子供も遊んでいる時は集中しているものであり、自分達を見る目には気付かないのだろう、負けそうであっても助けを求めることはない。


 ブラックがここで支持を加えたのは、何も言わないよりは彼らも自由に時間を過ごせるだろうとの判断からである。


「了解しました」


 即座に反応するのは真面目すぎるレイトである。例えそれがどんなに適当な指示であろうともしっかりとこなそうとするその態度には、いろいろ見習うべき人物がいそうなものだが、言うことはない。


「分かりました」


 百合華も笑顔で受け答える。ブラックが決めた判断ならどうであろうと従うのが彼女である。その笑顔も本人曰く嘘ではないらしい。


「んじゃぁ、あたしはちょっくら散歩でもしてくる」


 逆にセラピアだけは更なる退屈な時間をもらったことにより、動かずにはいられないようだった。どうやら暇すぎるのも毒なタイプらしい。


 彼女は杖に立ち乗ると、塔より高い空の方へ消えていく。


 戦場に近づきすぎるなという言葉は無言のルールによって指示されているので、問題は無いだろう。

 ブラックもそうであると信じているから、特にかける言葉もなかった。


 気がつけばその影は下で戦闘している者達と変わらないほどになった。


「どうして動かないと気が済まないんですかね」


 レイトはため息をつく。


「そういうやつだ、考えてどうにもならん」


「それはそうですけど……」


 レイトは今回の仕事における彼女の行動に不満があることを心なしか訴えていた。だが顔色一つ変えないこの青年には無意味な発言であることもまた分かっていることである。

 彼はただうつむくだけだった。


 そんな友人思いのレイトをブラックは黙って聞いているだけだった。


 目線をそらせば戦局が変わっていたなんてことは無い。日が沈む前にはすでにこの町は赤く染まり終わっているだろう。


 ◇


 王女の軍は散り散りとなり、見事なまでの敗戦を決していた。


 王女らしき人物が逃げ出したところでブラックの指示は効果を失い、ブラック達ののんびりした仕事も終了。

 これから忙しい作業に逆戻りとなることであろう。


 それでも西の塔にまだいたのは、空を飛んでいったやつがしばらく帰ってこなかったからである。

 まさか戦争に巻き込まれたなんてことは無いだろうが、放っておいて帰るわけにもいかないのも事実である。


 この各国にある塔は本塔に比べほとんど機能を持たないが、その国を監視するという拠点としての役割と、気候など自然の観測としての役割を担っており、内部には本塔やその他の賢者の塔を行き来するためのワープ用の円陣が備わっている。


 そして他にあるのは魔法使いの為の宿泊場所や、研究室くらいであり、これと言って目立つようなものは何もない。


「それで今何してるの?」


 内部の一階に設置されたカフェスペースで四人は向かい合うように一つの席を陣取っていた。

 机の上にあるのはそれぞれのカップ一つずつとパソコンらしき文字を打つ機械である。


 さすがに楽しかったなどと大声を上げながらこの場にセラピアがやってきたのは、睨まれることとなったが、特に何も無く無事なようだ。


 その彼女は良い運動になったとばかりにカップの中身を一気に飲み干すと、黙々と作業をするブラックに遅れたことも気にせず声を掛ける。


「資料作りだ。暇だったからな」


 ブラックは顔を上げることもなく、キーボードを手早く打ち込み続ける。手慣れた作業からか画面には文字が次々と並んでいき、あっという間に一面を完成させてしまう。


 今作っているのは今日の報告書で、提出する必要はないが会議で多少扱う内容であるために作っている次第である。本当なら帰ってからやろうとでも考えていたのだが、時間が余っているため考え直したらしい。


 この世界では(魔法使いの間では)どういうルートかは知らないが、別世界の役立つ機械やものを取り込んでは改良して売られていたりする。このパソコンらしきものもその一つで、手書きだった書類を綺麗に且つ早く作ることが出来ると言語と機能を変えて一気に広まることになった。


「少し帰ってくるのが遅かったので、冷えてはいけないと先に中に入っていようと勧めたのです」


「あー、ごめんごめん。別に先に帰ってても良かったのに」


 百合華も特に気にしている様子はない。しかし、セラピアは明らかに不満を立ちこめているやつに謝っていた。


「セラピア、もう少し自覚を持って行動してください。クロツグは優しいから何も言いませんが、今はもうただの友達として接することの出来る立場ではないんですよ」


「別にいい、逆に堅苦しい関係しかいなくなるのは俺も好きじゃない。それに明日の会議の資料は他のやつは全て揃っているからな」


 レイトは帰る時間が遅くなったことを気にしているようだ。


 その丁度、作業が終わったのか、きりの良いところでやめたのか、ブラックはパタンと二つの面を重ね合わせる。


 その後指でこつこつと叩いたのを見ると、百合華は椅子にかけてた大きめのショルダーバックにそそくさとしまい、膝の上に置いた。


「そうよ、レイトもなんだかんだ言っておきながらクロツグを呼ぶ時ブラック様なんて言わないじゃない」


「それは!そうですけど…」


 勝ち誇ったかのようにどや顔を見せるセラピアと、言い返せずため息だけを吐くレイトは実に対照的な組み合わせだった。


「そのくらいにしておけ。俺たちは友人としてこれからも接する、それで異論はないだろう?」


「まあ、クロツグがそう言うならそれでいいか」


「そうですね、公の場以外では今まで通りに接することにしておきます」


「そうしろ」


 この対照的な二人の軽い喧嘩は、ブラックの仲介があってこそ成り立っているようなものでもあった。まあ、仲は良い方だろう。


「そろそろ帰られますか?」


 全員が揃ったところで今日二度目の質問を百合華はブラックに問いかける。

 もしかしたら三人で勝手に盛り上がっているのが気にくわなかったのだろうか、ほんのわずかに頬が膨

れているように見える。


「そうだな、セラピアも帰ってきたし帰ってやることもあるし、丁度良いタイミングだろう」


 隣にいるブラックは一瞥を投げ、淡々と答える。

 そこを合図にレイトは残っていたカップの中身を飲み干し(ブラックは残し)、椅子を押して立ち上がる。


 いくつかのグループを横目にカフェテリアを出ると、いつも通り研究者で騒がしい廊下は若干静かなところから出てきたものにとって更に騒がしく感じた。


 だがそのせいではなく、この正面玄関に続くドアは実際にうるさくなっていた。

 というのもブラックが出たとたんに一人の兵が駆け寄ってきたのだ。


「ブラック様、緊急です。門にロームの王女と見られる人物がここへの入場を求めております。そして王女を取り囲む者達と王国軍兵士の間で戦闘が起こっております」


 大きな斧を担ぎ眼鏡をかけた真面目そうな三十代の人物は、今回の戦闘の際し塔を守る為に配置した魔法兵団第二隊長のレノワードである。

 見た目的にも明らかに年上であるが、一応はブラックの配下の一部に当たる。


 この塔自体に魔法でバリアが常に張られており、念のためとして置かれていた魔法兵団は安全すぎて仕事がなかった故、今日初の仕事に必要以上の熱を入れているのが見て取れた。


 正直どうでもいい話であったが、上の立場にいるものとして責任は果たさなければならないだろう。


「向かおう」


 ブラックは礼をするレノワードを置き去りにし、再び塔の外に出ることにした。特に指示のない百合華達はその後を追う。誰もあの状況下で王女が生きていたことには関心を持っていないのだった。


 外に出ると、金属がぶつかり合ったり怒号が鳴り響いたりと塔の屋根にいた時とは違い、騒音がいっそう激しく聞こえてきた。

 空中には武器を持った魔法兵が何人か待機しており、門までの道にもそこそこの人数が整列して配備されていた。


 これらは全て魔法兵団第二隊の奴らだ。


 普段はオープンカフェとして外の庭にも店が配置されていたりするが、あいにくこんな状況なので今は撤収されている。


 ブラックはどこからともなく身長ほどある大杖を現す。昔から使う愛用の武器だが、年期を帯びているのか少し古くさい。

 これはいつ戦闘になってもいいようにとの意味もあるが、反面歩くときの見かけの為にとの意味も含まれている。


 ブラックはそれを軽く付きながら歩き始めた。


 数十メートルほど兵団のもの達の敬礼を受けながら敷地を歩くと、門のところに辿り着いた。そこではレノワードの次官ともとれる魔法兵団の兵が、門越しに一生懸命訴える人物と話していた。


 兵団のものは杖の音が聞こえたのか振り返ると、誰だかを確認して即座に敬礼の姿勢を取る。


「どけ」


「はっ!」


 兵は唐突に現れた黒き魔法使いの言葉を受けると、即座に退きその場を明け渡した。

 そして、そこから見えたのは門を両手でつかんだ、ブラックらと同じ年くらいに見える一人の少女だった。


 彼女はロームブルーで整えられたしわのない服に、深紅のマント。腰にかけられた剣と腰まで来る群青の髪はいかにも高貴な雰囲気を漂わせる。黄色のカチューシャとマントにつけたボタンがとても印象的だ。


「私たちを助けてくれ!」


 ブラックを見るなり上の立場の人間だと分かったのか、早々一言浴びせてきた。


 ブラックも高貴な人物であると見抜いていたが、名前を明かさずに助けを求めるとは何とも強情で切迫しているのだろうか、と印象を受ける。


 だが、ブラックが予想する人物であるならばその態度は別におかしくはない。彼女から見れば自分がどのくらいの地位を持っているかなんて分からないだろうからだ。


「それはどういう意味で?」


 ブラックも対等であることを示すために自分の自己紹介を飛ばし、焦りながらもしっかりした声で語る彼女に門越しに向かい合った。


 だが、予想の答えと違ったのか、彼女は少し考えた。


「かくまって欲しいのだ、頼む」


「断る」


 即答だった。その言葉の威圧感と意味に彼女はあっけをとられ、一瞬固まった。無理のないことであろうがその衝撃は彼女の希望を打ち砕いたに違いない。


 決してブラックはいじめるのが好きだとか、弱いものを助けないわけではない。なにかしらのちゃんとした理由を必ず持ち合わせる男である。


 もちろん門からでもすでに戦闘の様子は見え、いかに追い詰められ囲まれているかが分かり、命の瀬戸際であるかが分かっていた。


 門の外では戦いが起こっており、西の塔の門前だけを囲うように、正しくはこの少女を囲うように、彼女の味方が全力で防いでいた。この数の差だとあと一分ほど持てば良い方だろう。


「何故…だ。頼む。このままだと殺されてしまう」


 言葉の途中で勢いを吹き返し、最後のお願いとでも訴えるような強い剣幕でこちらに言葉をかける。


「この戦いに賢者の塔の者達が関わることは不可能だからだ」


「何?」


 こちらの立場としてみれば当たり前の判断であるのは敷地内にいる者全てが分かりきっていることである。なぜならかくまうという行為は内戦に他国を無理矢理巻き込むようなものだからである。

 これは法的な立場と言うより戦略的立場であると言えよう。


「基本的には賢者の塔はどんなに苦しい生活を送るものだろうが迎え入れる。が、戦闘を迎え入れることはしない。これは鉄則だ」


 言い直したかのようなブラックの言葉は彼女に意味を理解させたようだった。


「なら、亡命を求める!私と私の仲間達皆だ」


 彼女は一番の大声を出した。それはおそらく周囲で戦っている兵全員にも聞こえたであろうほどのものだった。


 ブラックは彼女の目を見つめると、その回答待っていましたばかりに、用意された言葉を与える。


「亡命か、いいだろう。少し待ってろ」


 そう言うと、門を開けるのかと少女は期待し手を放した。ただ、こうして待つ間にも味方が一人斬られる音は聞こえている。


 だがブラックは門を開かなかった。その代わりにブラックは彼女の周囲で戦っている兵を一周グルッと見渡すと、軽く地面に杖をたたきつけた。たったそれだけであり、少女はまた口をあんぐり開ける。


 しかし、その瞬間門の外にいた少女は消えた。


 ついでに戦いの音も鳴り止んだのであった。


作者

「またまたこんにちわ。ということで本作の主人公を紹介します」


ブラック

「クロツグだ。よろしく」


百合華

「メインヒロイン且つクロツグ様の愛しの恋人、百合華です!みなさん、私たちのあんなことやこんなことまでお披露目してしまう超純愛ラブラブな愛の活躍をどうぞ楽しみにしてくださいね」


ブラック

「まて、俺たちはそんな関係じゃない。というかそんな話の作品じゃない」


作者

「ブラックさん、顔堅いです。そして次回もお楽しみに」


ブラック

「おい、さくしゃ勘違いさせたまま終らせるな!」


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