頭上に注意
カラス
『頭上のカラスに注意』
ボトッ。
標識に気づいた時には既に遅し、男の頭には白い糞が落とされていた。
カーカー。
カラスが嬉しそうに鳴いている。
短気で有名だった男は、顔を真っ赤にしてカラスを追い始めた。
カーカー。
また男をバカにするようにして、カラスは鳴いた。
ただでさえ腹を立てている彼の頭は爆発した。
男は、丁度道端で出会ったテロリストから手榴弾をひったくって、カラスに投げつけた。
カーカー。
しかしカラスは、そんな男の動きを読んでいたように避けた。外れた爆弾は、公園のゴミ箱にすっぽり入って、爆発した。
子ども達の歓声が、悲鳴へと変わる。
カーカー。
チクショウ、どこまで俺をバカにするつもりだ! と男はカンカンだ。
カーカー。
よせばいいのに、カラスは鳴くのをやめなかった。
腹が立った男は、なんとかして捕まえてやろうと、丁度止まっていた居酒屋タクシーを奪いとって、車で追い始めた。
これが本当のカーチェイスである。
カラスは早かった。車なんかより早かった。
男は、もう法定速度など無視して走ることにした。タクシーに一つに、乗用車、バス、トラック、バイクが次々に飛ばれていく。
パトカーも、居酒屋タクシーの前では何もすることが出来なかった。
壮大なカーチェイスは、どこまでも続いた。
何回もガソリンを補給しつつ、「くそっ、原油高め」と値段の高さに腹を立てつつも、男はカラスを追った。
カラスも、この男の相手をしているのが楽しいのか、ガソリンを補給するのに一々待ってあげたり、彼がコンビニに立ち寄っても、屋根の上で舞っていたりした。
その度に男は怒り狂った。そして、何回も何回もカーチェイスは繰り返された。
カーチェイスは、ついに最北限の礼文島まで辿りついていた。
もうこれ以上行くことは出来ない。男は疲れてガックリと項垂れた。
力が抜けたところで、そういえばトイレに行ってないことに気づいて、せっかくだからとばかりに、最北限のトイレで用を足すことにした。
『最北限のトイレ』とデカデカと書かれたトイレに、彼は少しウキウキしながら入ろうとした。
ボトッ。
「テメェェェェェェェッ!」
カーカー。
カーチェイスは再開された。
今度の行き先は、沖縄のようだ。
パンダ
『頭上のパンダに注意』
何のことだかわからなかったが、とりあえず僕は頭上を見上げてみた。
ドスッ。
僕は、大柄なパンダに踏み潰されていた。
イタタタタ。骨折れたかな、と思ったけれど、どうやら腰を打撲しただけで、骨自体はなんとか大丈夫だった。
しかし、ここは日本だっていうのに、どうしてパンダが降ってくるのか。
「よう。ごめんな」
パンダが喋った。
「なんなんだよお前」
「ちょっと中国から逃げてきた」
にしてはどうして日本語ペラペラなんだよと突っ込みたくなってきたが、そこは我慢する。
「ところで俺、家がないんだよ。飼ってくれないか?」
「なんでだよ、僕は珍しいパンダしか飼わないぞ、カンフーパンダとか、テンプシーパンダとか」
僕は無理難題を言ってみた。
「俺、ブシドーパンダ」
「よし、お前飼うわ」
即決した。そんな珍しいパンダだ、一緒に暮らしていたらさぞ楽しいことだろう。
ボロアパートだったが、笹の葉があれば良いとパンダは結構気に入ってくれた。
三日後、国から電話があった。
なんでも、上野動物園にパンダをまた置きたいから、貸して欲しいということらしい。
今中国は大変で、パンダが借りられなくなったから、是非とも協力願いたいということだった。
僕は、タダで渡すのもなんか嫌だったので、無理難題をふっかけた。
「貸し賃、一週間で一億でどうでしょう」
「むむむ……仕方ないですね」
えっ、いいの?
こうしてブシドーパンダは、上野動物園に引き取られていった。
朝は子どもの相手、夜はキャバクラで女をはべらせて、悠々自適の生活を送っているらしい。
「……お前って、ブシドーパンダじゃなくて、フシダラパンダじゃないか」
一文字しかあってねえ。
そんなこといいつつ、今日も僕はパンダの飲み会に付き合うのであった。
今日は、百万円以上する高級ワインでも持っていってあげよう。
動物ばかりになってしまった。