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Recollections of dusk  作者: もちもちもちこ
4/6

June

6月 思い出を振り返って

~June~







♪あめあめふれふれもっとふれ~


って歌があるけどさ、可愛い歌だよね、あれ。


あれ?別の歌だっけ?


でも洗濯物を干す身としては、最悪。


もう降んなくていいよ、雨。


次の歌詞は『湿気でむしむしイラつくな★』だったっけ?忘れたよ。


「あーもーイライラする……」


「苛つくな馬鹿娘。梅雨だから仕方が無いだろう」


「お兄ちゃんみたいに『梅雨だから』ですまされる人間じゃないの、私は」


休みの日までこんな雨じゃあ、嫌にもなる。この雨はもう1週間降り続けてるから。


特に買うものがなければ、雨の日にわざわざ出かけたいと思わないし、


だけど家に居ればやる事が無い。ひたすら暇だし。


「じゃあ俺は出版社行って来るぞ。静かに留守番してろよ、廉」


そうか、今日お兄ちゃん出掛けるとか言ってたっけ。


あんまりお兄ちゃんは家から出ないから、何か新鮮だ、こういうの。


「帰るの何時くらいになる?」


「あ?…うーむ、終わり次第帰ってくる。遅くなりそうだったら電話する」


「うん。いってらっさい」


そのままお兄ちゃんは傘も持たずに行ってしまった。


案外、遅刻ギリギリで焦ってたのかもしれない。大塚さんが相手だからなぁ。


時計を見れば、午後の1時。あ、遅刻だな。


「……にしても。まだ1時かー…掃除やったでしょ、洗濯は…ムリ。買い物は昨日行っちゃったし、 夕飯作り出すにはまだまだ早い…か。TV見るにも、面白そうなのないからなぁ…」


真昼と一緒に過ごそっかなぁ?とも思ったんだが、


あいにく真昼は午前中から図書館に行ってしまっていた。


いくら暇だからって、図書館で休日過ごせるほど私は勉強家でも読書家でもないんだよねー。


むー…と時間潰しのネタを考えていると、隣から凄い音が聞こえてきた。



どさっ…どさどさどさどさっ………



「??????」


ついでに悲鳴まで。


「きゃぁぁぁぁあぁ??!!」



…………しぃぃぃぃぃん……



「……華南、ねぇ?…一体…何が???」


確かに今の声は華南ねぇだった。


という事は…華南ねぇの身に何かっ!!!???


ばぁぁぁんと玄関のドアを勢いよく開けて私はお隣の駿河家に飛び込んだ。


「華南ねぇ!!!!大丈………夫……?」


「あ!廉ちゃん?丁度よかったわ、お願いだけど、助けてもらえないかしら…」


「………え……あ、うん………」


……ちょっと思考が停止してしまった。


何でって、玄関から見た部屋の様子がとてつもないからだ。


もう見える範囲全て物だらけ。足の踏み場も無いほどだ。


はっきり言って華南ねぇは綺麗好き。真昼は大して気にしてないけどね。


だからこんな駿河家を見たことなかったのだ、私としては。


よーく見ると、奥の部屋の方で手招きが見える。どうやら埋まってるらしい。


散乱している物を踏まないように、近づいて、華南ねぇを救出。


やっとのことで出てきた華南ねぇは、何とまぁ埃まみれだった。


あーあ、これじゃあ美人が台無しだよ…。


「あーよかった。助かったわ、廉ちゃんが来てくれて」


「いや、あんな叫び声聞いたら誰だって来るって。…で華南ねぇ、この惨状どうしたの?」


「あぁ、ちょっと物の整理をしてたんだけど、し始めたら止まらなくなっちゃって」


それでこの有様ですか。


ふと華南ねぇを見ると、華南ねぇは何か本みたいな物を大事に抱えていた。


「華南ねぇ、それ、なに?その手に持ってるやつ」


「あぁ、これね。これを取ろうとしたら、上に乗っていた荷物が全部落ちてきちゃったの。 これはねー…、私が高校生の頃のアルバムなの。懐かしいなぁって思って」


ほーう。華南ねぇのアルバムかー。


…って事は、お兄ちゃんの高校生時代(時代って…)の写真もあるって事デスカ?


それはかなり興味ある。とっても。


私の家の人たちはあんまり思い出とかにこだわる人たちじゃなかったので、


うちにはアルバムというものが無いのだ。全く。


私の場合、小学校と中学校卒業した時の記念のアルバムがあるけど、


お兄ちゃんのなんて何処にあるか知らないし。


そもそもお兄ちゃんの部屋を探してたら何を言われるか分かったもんじゃない。


その点、華南ねぇに見せてもらうなら何の問題も無いんだし。


旨くいけば、お兄ちゃんの弱点とか秘密とかが暴けるかもっ!?


「華南ねぇ!!!私も一緒に見たい!!!いーい?」


「あらそう?じゃあ一緒に見ましょうv…ほら、これ、入学式の写真だわ」


あ、本当だ。今より全然幼い感じのお兄ちゃんと華南ねぇが、校門に立っている。


華南ねぇは笑顔で、お兄ちゃんはそっぽを向いて。


………性格は当時からあのまま、ってことか。


「この写真、私のお父さんが撮ってくれたのよ。………懐かしいわ」


そっか。この頃はまだ、華南ねぇのお父さんとお母さん、生きてたんだ。


華南ねぇと真昼のお父さんとお母さんは、華南ねぇが19歳の時に亡くなった。


大きな交通事故に巻き込まれたらしいのだが、当時の私はまだ10歳で、


生きるのや死ぬの意味がよく、分からなかったんだ。


ただ、自分の親に『もうおじさんたちに、会えないんだよ』と言われたのが悲しくて、


真昼や、何時もニコニコしてた華南ねぇがいっぱい泣いてるのが、悲しかった。


お母さんにしがみついてずっと泣いていたのを覚えてる。


この写真の頃は、そんな事になるなんて微塵にも感じさせない。


ただただ、幸せに。楽しそうに写っているだけなんだ。


そう思うと、何だかやるせないと言うか、切ない気持ちになるな。やっぱり。


「あらもう大丈夫よ、そんな顔しないで。真昼もいるし、お隣さんには廉ちゃんや、栄治もいるから。 それに私には、海斗がいるしねv」


「へっ!?そんな顔って、どんな顔してたのっ!?」


「複雑ーな表情してたわよ。難しいことを考えてる顔!」


ありゃ。そんな顔してたんだ。


確かにまぁ、『ヤバイ、地雷を踏んでしまったか!?』とは思ってたけど。


華南ねぇがぺらっとアルバムを捲る。


私はいつもの表情に顔を戻し、お兄ちゃんの弱点探し(本来の目的らしい)に専念し始めた。




暫くアルバムを見続けていた。


そこで気づいた。たまに小学生の私や真昼も出てくるんだけど、


写真の殆どは華南ねぇとお兄ちゃんが一緒に写ってる写真だ。


へぇぇぇ、お兄ちゃん、こんなに写真撮ってたんだ。


くそう、妹の私には何も見せないで、なんて奴!!


ちらっと華南ねぇの表情を盗み見したら、アルバムをじっと集中して見ていた。


やっぱり懐かしく思うんだろうなー。


時計を見ると、もう3時。


私はそっと昨日暇すぎて作ったお菓子と紅茶を取りに行く為、自宅の台所へと向かった。










思い出せば出すほど、あの頃は本当に一瞬の出来事だったような気がする。


写真を見るだけで、まだ色鮮やかに思い出せる。


忘れたいのに、忘れられない思い出。忘れ去るには鮮やか過ぎる。


肩を組んで、一緒に笑って。


あの頃には決してもう戻れないと知っていても。


その思い出を捨て去ることも、置いていくこともできないでいる。


「…………栄治」


ぽつりと呟いたのは、廉ちゃんが家に戻ったのに気づいていたから。


瞳から涙を流したのは、今、たった独りだと知っていたから……。




















「栄治っ!もう少し早く起きるって事ができないの?どうして毎日…」


ブレザーの制服に身を包んだ華南が、怒ったように声を上げる。


目の前には扉。ここは華南の家の隣、相模家長男である栄治の部屋の目の前だ。


こんな風景に相模家の人々は何も言わない。単に慣れてるからだ。


この光景、もう既に6年も続いているのだ。慣れもする。


「ごめんね、華南ちゃん。毎日毎日、栄治を引っ張って行ってもらって」


「いいえ小母様、もう毎日の日課になってますから、これ」


確かにここまでくれば日課と言えよう。


この6年間、今までに1度たりとも華南が起こしにこなかった日は無い。


「かなんねぇ、ごめんね?れん、もうがっこうにいくね」


弟と同い年である、栄治の妹廉がうる目で華南を見つめてくる。


「ごめんね?かなんねぇ、がっこうおくれちゃったら、れんのせい…」


お兄ちゃんが起きてこないのも、自分のせいだと思ってしまってるようだ。


はっきり言ったら全く関係がないのだが、兄の罪は自分の罪、と勘違いしてしまってるらしい。


「大丈夫よ。栄治もそろそろ起きてくるだろうし、学校にも遅刻しないように行くから。 廉ちゃんが謝らなくてもいいのよ。ほら、いってらっしゃい。真昼と仲良くしてあげてね」


きっと真昼も玄関で廉が来るのを待ってるだろう。


真昼の名前を聞くと、廉はぱぁっと笑顔になり、『うん!』と元気に答え走っていった。


「じゃあかなんねぇ、いってきまーす!」


「おねえちゃん、いってきます」


まだ体より大きく見える赤と黒のランドセルを背負い、楽しそうに歩いていく2人。


そんな2人を見送って、華南は1度溜息を吐いた。


「………さて、私もそろそろ本気でとりかかりますか」


そう言って、寝坊大魔王もとい相模栄治の部屋へと入っていった。


「……………やっぱり」


予想通り。あんなに大声で起こしてたにもかかわらず、


栄治はベッドの上で惰眠を貪っていた。


華南は呆れつつベッドに近寄り、栄治を揺らし始めた。


「起きて栄治。本当に遅刻するわよ。おーきーなーさーい!!!」


勿論こんな事で起きるとは思っていない。こんなんで起きるんだったらとっくに起きてる。


また華南は溜息を吐き、最終的には布団を奪い取る。


それでも栄治は頑なに目を開けようとせず、手探りで布団を探している。


どうしても見つからないと分かると、やっと薄っすら目を開けた。


「……うるせぇな、俺は寝たいんだ。だいたいどうしてお前が毎日毎日俺を起こしに来るんだ。 …いいか華南、俺はもう3時間ほど寝ていく、お前先行け」


10分ならまだ可愛げがあるが、3時間じゃただの自己中だ。


そんなことを言っている栄治の頭の上に、華南は思いっきり強く握った拳を振り下げる。


ゴッッといい音が鳴り、栄治が声なき声を上げ床を転げ回っている。


「馬鹿な事言ってるんじゃないの!さっさと仕度してね」


そう言って部屋を出る。ついでに時計を見ると、これまたかなりヤバイ時間だ。


華南は手馴れたように、栄治の鞄の準備を始める。


本来だったら自分でやらせるべきなのだが、やらせていたら華南も遅刻は免れない。


それはごめんなので、結局華南がやることになるのだ。


それに栄治の身の回りの世話をするのは、別に嫌ではなかった。


もう散々やってきて慣れたんだか何だか、よくは分からないが。


「………おい、終わったぞ。もう行くんだろ?」


「えぇ、行きましょう。はい、鞄持って。…それじゃあ小母様、行って来ます」


奥の台所の方で「いってらっしゃい」と声が聞こえる。


華南と栄治は少し足早に歩き始めた。






「…たく、まだ全然間に合うだろーが。……宝くじ当たる夢見てたのに…」


「栄治が言ってるのは『先生にバレずに教室に入れる』時間でしょ!それじゃあ駄目なの! それに宝くじ当たる夢見てても所詮夢でしょ!!!」


「む、夢を馬鹿にするなよ。俺は夢が結構好きだぞ」


現実派の栄治にしてはロマンチックな話だ。


華南が意外そうな顔をしているのに気がつき、栄治がむっとする。


「…はいはい、ごめんね。剥れてないでさっさと行きましょう。私、遅刻は嫌よ」


そう言って2人は少し歩みを速める。


だが、ふと華南が足を止める。


「あら?カタツムリよ、可愛いv」


紫陽花の葉の上に乗っている、小さなカタツムリを見つけて言ったらしい。


栄治は呆れ顔で見ている。


「オイ、遅刻はどうしたんだ。……ったく、普通カタツムリで喜ぶか?女なのに」


「そう?可愛いじゃない。ちっちゃくて、ゆっくりで」


「んな風にいう女が少ねぇんだよ。……って何してんだ?」


栄治が華南に目をやると何処からか使い捨てカメラを取り出し、パシャっと撮っていた。カタツムリを。


「……オイ、遅刻するぞ」


「ちょっと待って。記念にもう一枚くらい…」


「……何の記念だよ…。ったく、行くぞっ!!!」


「えっ!?ちょっと!!引っ張らないでぇっ!!」


栄治が華南を引っ張る。華南が諦めるまで。


10mくら歩いて、やっと諦めたらしく、抵抗しなくなった。


「酷いじゃない。…あ、ほら、あと2枚残っちゃった。これじゃあ現像に出せないでしょ?」


ほら!と栄治に詰め寄る。すると栄治はカメラを受け取り、何かを考えていた、数秒。


「分かった。ならここで撮りゃーいーんだろ、………ほれ」


ここで栄治はとんでもない行動に出てくれた。


その行動のおかげで、華南は真っ赤になり、思わず『ひゃうっ!?』なんて声も出してしまう。


ひょいっと華南に顔を近づけさせて、耳をかぷっと噛んだのだ。


そして華南が硬直している間に、パシャと1枚撮ってしまった。こんな恥ずかしい格好で。


「なななななな!!!!何するの!!!??」


「何って…。要はあと1枚、撮ればいーんだろ。どんな写真だって、な」


「こんな写真なんて恥ずかしくて現像に出せるわけないじゃないっ!!!」


「あ?何でだよ、気にすんなって。さぁて、あと1枚はどんなのにするか……」


「もう駄目っ!!最後の1枚は私が撮るから返してっ!!!」


耳まで赤くして、華南はカメラを舵手した。


栄治は心底残念そうに舌打ちすると、少し前を歩き出す。


何だか華南は哀しくなった。1人で真っ赤になって、1人で気にしていて。


前を歩いている幼馴染は、自分のことをどう思っているのだろう。


幼馴染・友達・腐れ縁…。もしかしたらそんな風にしか思ってくれていないかもしれない。


でも自分は違っていた。もうそんな事にはとっくに気がついていた。


相手の心が、知りたくなるのだ。傲慢な人間だから。


だけど、それがまた怖いとも思うのだ、全てが崩れそうで。弱い人間だから。


だから、今のままでいい。今のままなら、ずっと一緒にいられる。


そんな風に考えて、前を歩く栄治を見ると、何だか胸が切なくなる。


少し前を歩いていた栄治が振り返る。


「オイ、何してんだ。置いてくぞ」



だから



願わくば



このまま、貴方の隣を歩いていけますように



そう心から想い、華南はカメラのシャッターを切った。










私が戻ってくると、華南ねぇは一枚の写真を見つめていた。


同じ写真を、ずーっと。


(そんなに大切な写真なのかな?ならば見せてもらいましょう!)


そっと、華南ねぇに気づかれないように近づく。


写っているのは、お兄ちゃんだった。


何の変哲も無い、いつものやる気のなさそうな表情で、振り返った瞬間の写真。


(???華南ねぇ、こんな写真の何が楽しいんだろ??)


私にはさっぱり。でも華南ねぇにはそれなりの思い出があるんだろうな。


その思い出を、私は知らないから。


だから、何も言わないでこの部屋を見渡した。


………この戦場、真昼が帰ってくるまでに何とかできるかな?


きっと華南ねぇと一緒に片付ける事は決定事項だろうから。


そんなことを考えていて私は華南ねぇがポツリと、


愛しそうに、切なそうに言った一言を聞いていなかった。


この一言をもしこの時聞いていたら、あんな事にはならなかったかもしれない。


だけど、それでも私は聞いていなかったのだ。


また一段と強く降り出した雨が、全てを流していった……。


だからさ、もういいって、雨………。




『………栄治……私、まだ…』




その告白は、誰も聞いていない。


彼女だけの、言葉。



















華南ねぇは、守ってあげたい女子です。

大塚さんは、稼いでほしい女子です。

廉は、目が離せないトラブルメーカー女子です。

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