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60.薬師の苦労

お待たせしました。

「こっちはガラガラだなぁ。」


3階の武器コーナーは、4階の防具・ポーションコーナーほど人はいなかった。

デスペナが解けた時のために装備を整えているのかと思ったが、武器コーナーだけが空いているところを見るとどうやら違うようだ。


ポーション目当てなのか。


「おや、そこにおわすのは影法師殿とお見受けするが、こんなところに何の用でござる?」


「ん?いや、死に戻りしちゃってね。どうしようかなと思ってたところ。」


「なんと、お主ほどのものが死に戻りとは。よっぽどの激戦のようでござるな。」


「いやいや、まあ想定外のことではあったけど、まあこっちの油断でもあるから。それより、あなたは?」



よく日に焼けた肌。

スキンヘッドに手ぬぐいをまいている。

口からは鋭い犬歯が顔を出していた。

完全にガテン系の見た目だ。

生物錬成で、選ぶ人があまり多くなかったあの種族だ。


それもそうだが、さっきから語尾が気になって仕方ない。

いるだろうとは思っていたが、実際にお目にかかるとは思ってなかったよ。


「これは失礼。拙者、緋斎(ひさい)と申す。種族は潜伏鬼(ルルク)であるが、鍛冶職人としてやらせて貰っているでござる。」


「おお、生産メインでやってる人か。イベントには参加しないのか?」


「dexばかり上げているもので、戦闘能力は高くないのでな。今回は参加者達の事前の武器準備に協力いたした。」


「なるほどね。ところでさ。生産メインでやってる人で、何か人の手が欲しいって言ってるところない?実はデスペナ解けるまで暇で。」


「ふむ。あるにはあるでござる。いま薬師達がポーションを全力で生産中なのだが、それは畑に行って、薬草を取って、生産スペースに持って帰ってきて、ポーションを作って、戦場まで運ぶという5行程なのでござる。これを全て薬師達がやっているため、効率が悪くてな。」


「なるほど。運び屋が欲しいと。」


クエストに参加しているのは第二陣も含めてかなりの人数になるはず。

収穫から全部薬師達がやるのは、時間的にかなり無理がある。


「わかった。教えてくれてありがとう。行ってみるよ。」


「拙者も行くでござるよ。死に戻ったプレイヤー達に我が武器を売る良い機会だと思ってここにおったのだが、思った以上に閑古鳥が鳴いているのでな。」


「じゃあ今度俺の武器をお願いしようかな。」


「承ったでござる。また後日。」


俺の武器を作ってもらう約束を取り付けつつ、千日楼閣を出て、生産スペースへ向かう。


千日楼閣から数分歩くと、巨大な平屋建ての和式建築が見えてくる。


鍛冶、木工、細工といったスペースを通り過ぎ、調薬のスペースに着いた。


「こんにちはー……」


「ちっくしょうナギのやつどこいった!」

「ついさっき畑に行ったよ!」

「止めろよ!あいつに畑いかすな!時間かかる!」


殺伐としてらっしゃる。


「お手伝いさん連れてきたでござるよ〜」


「おう緋斎!いいとこに戻った!ナギを手伝ってこい!」


「人の話はちゃんと聞くでござる騒々しい。助っ人を連れてきたでござる。」


テンパりすぎて緋斎さんの話が耳に入ってこなかったらしい人獅子のプレイヤーが、俺を無視して緋斎さんを手伝わせようとしていた。


「おお悪い。手伝いか。緋斎が手伝いの内容は全部知ってるから、詳しいことはそいつに聞いてくれ。取り敢えず先に行ったやつを手伝って、薬草を収穫してきてくれるか?」


緋斎の言葉で一気に冷静さを取り戻した薬師の人は、早口気味に俺に指示を出して再び調合に戻ってしまった。


「…あー、いつもはもっと落ち着いてるでござるが…失礼した。今は状況が状況である故。」


「あー、まあ大丈夫。早く行こう。思ったより切羽詰まってそうだし。」


本当は今すぐ走り出したいところだが、ここは生産スペースの中。屋内で全力疾走するのは躊躇われるので、歩いてさっき来た道を戻る。

その間、緋斎になにをするかの説明というか補足を受けた。


やる事は基本『薬草を刈る』だけなのだが、注意すべきなのは、必ず1区画は1人でやるということ。

1区画に薬草は100本。

そして何区画やったかを報告し、区画数×100本の薬草を自分で生産スペースまで持っていく。


こうしないと持ち逃げするやつが出るかもしれないからだそうな。

ここの畑は何十区画とあるしな。

いくつか持って行っても構わないだろ、と考えなくもない。

実際に盗みはしないが。



話の途中で生産スペースからは出ていたので、走りながらの会話だった。

恐ろしいことに全く疲れないな。

脇腹も痛くならない。


全速力とまではいかないが、8割くらいの速さで畑についてしまった。


「どーもー。お手伝いに来ましたー。」


「はいはーい。あー、緋斎ちゃんだー。なら信用できるね。私はナギって言います。あなたは?」


えらくのんびりした人だな。


「トウキって言います。宜しくお願いします。」


相手につられて敬語での自己紹介になってしまった。

でもなんかこっちの方がしっくり来るんだよね。

タメ口での自己紹介って馴れなれしい気がしてしまう社畜の性よ。




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