33.試行錯誤
今日の仕事を終えてログインする。
昨日作った光苔の鉢を確認してみると、
・ムーンドロップによる光量の増加は継続。
・肥料をやった方が光量が多い。
という事がわかった。
この鉢を提灯に入れて…と考えたところで、ふと、
このまま入れたら鉢が倒れた時ヤバくね?
ということに気がついた。
そこで考えたのは、鉢を使わず、苔を土に植える方法。
つまり苔玉だ。
しかし、これがなかなか難しい。
土を固めてしまうと、苔がちゃんとつかないような気がするし、
かと言ってあまり固めないとこんどは崩れてしまう。
もともと俺は生産活動には向いている性格ではない。
1時間ほど四苦八苦して、ようやくどうにか形になった。
そして悟った。
これは錬金術師のやることではない。
細工師の仕事だと。
そうしてキキョウの所に苔玉の制作を頼みに行った。
提灯のことを説明し、今日中に作ってほしいとお願いしたら、快く引き受けてくれた。
もうその場で作ってみるらしいので、見せてもらうことにした。
「そもそも、完全な球体である必要はないと思います。それだと転がって行ってしまうので。」
「でも苔で完全に覆わないと土がこぼれるし、球体にしないとすぐに形が崩れちゃうのでは?」
そう言ったら笑われた。なぜじゃ。
「そこまで論理的に考えられるなら思いつきそうなものですけど…かなり浅い皿に土を山になるように盛って、そこに光苔をかぶせるんです。」
ふむふむ、苔玉じゃなくて苔山か。
確かにそれなら作るのも簡単だし、皿に盛るなら鉢のように倒れる事もないな。
「これなら土の形を整えやすいですし、苔が剥がれ落ちる心配もあまりないでしょう。最後に皿ごと糸である程度巻きつけて…完成です!」
なるほど。
糸を巻き付けて固定すれば、提灯が多少激しく揺れても形を維持できるというわけか。
「は~、すごいな。こんなに簡単に…ひょっとしてリアルでもこういうことやってるのか?」
「はい、園芸とか好きで。それにしてもこのアイデアいいですね。昼間は提灯から出してテーブルとかに置くと落ち着いた雰囲気になりそうです。」
その案良いな。
「現場に、検討してみるように言ってくるよ。それじゃ、ありがとう。あと仮面もね。まだ使えてないけど。」
キキョウから完成した光苔を受け取り、礼を言って千日楼閣へ向かう。
千日楼閣の工事はもう大詰めだった。最上階である7階の内装工事が終わり、月張の木製の壁も貼り付けられていた。あとは諸々の作業道具の片づけと、テーブル・椅子の運び入れだけらしい。
建物の周りには、木目の美しい家具類を持った人々が、入れるようになるのを待っていた。
インベントリにしまわないところを見ると展示会だろうか。
その中に、コウを見つける。
近づいていくと向こうが気が付いて話しかけてきた。
「来たね。どう?首尾は。」
「一応できたと思う。これだ。」
コウに苔山を見せる。
夜である今は蝋燭の火より少し強いくらいの白い光を放っている。
周りの人々から感嘆の声が漏れた。
「提灯はできてるのか?」
コウに尋ねると、
「うん。ちょっと待ってね…はい、これだよ。君も触れる。」
コウが取り出した提灯は、上輪と下輪は黒く、火袋は赤く塗られていた。
綺麗とは言えない、少し荒さが残る造りだが、それがかえって良い雰囲気を出しているように思える。
「よし、じゃあ……」
提灯の下輪を開ける。
下輪に苔山をのせ、そのまま提灯の元に戻した。
火袋の中から、赤い光が辺りに広がる。
ムーンドロップを錬金した光苔には、少しだが精霊も集まってくるようだ。ごく小さい光が提灯の中で動いているのが見える。
「成功…ってことで良いのか?」
「もちろん。」
俺たちは満足げに笑い合った。
その後、俺たちは千日楼閣の完成を見るため、しばらくここに留まって梯子やら釘やら玄翁やらが運び出されていくのを見ていた。
やがて全てが運び出されると、コウ達木工職人達は、それぞれ自分たちの作った家具類をインベントリにしまい、中に入っていった。
その場に取り残された俺は、どうせだからこのまま待っていようと思い、その場に留まって待つことにした。
暇なので、少し特訓みたいなことでもしようと思った俺は、タカアキに打ってもらった鉄の剣を取り出した。
ウインドソードを5本リザーブしておく。
今リザーブしておける最大数だ。
これを俺に向かって撃ち、それを弾くという練習をしようと思ったのだ。
まずは1本だけ飛ばす。
向かってくるウインドソードは、思っていたよりずっと速く感じた。
剣に当てることはできたが、当てただけだ。
ウインドソードは消失したが、俺が握っていた剣は弾き飛ばされた。
もっと振るのを早くしなければ。反応も遅かった。
消費した1本をコピーで補充した。
2回目、もう一度1本だけ飛ばす。
さっき見たので、スピードで驚くようなことはない。
身体の正面より少し右に飛んできたウインドソードに、鉄の剣を上から叩きつけた。
今度はちゃんとこっちが衝撃に負けることなく撃ち落とせた。
次は本数を増やしてみようかな。
そうして2時間ほど、生魔変換を間に挟みながら慣れていき、3本連続までなら7割くらいの確率で全部打ち落すことができるようになった。
それを見ていたプレイヤーには、俺が生魔変換を使って魔力を補充しているとは知らず、2時間ぶっ通しで魔法を撃ち続けたように見えていた。
そのため、その圧倒的『に見える』魔力量に、周囲が顔を引きつらせていたことに、俺は特訓に夢中で気づいていなかった。




