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事件です!

 ローグと出会ってから数日後。

 

 あの日受注したモンスターの討伐依頼3件分をこなすのに併せて、野外活動訓練と称したキャンプ(注:モンスター跋扈地区)に出ていた為、日数的には一週間も掛かって無いのにトーカの街が久しぶりな感じだ。

 キャンプ自体は夜間の見張りがちょっときつかったが(睡魔との戦い的な意味で)、火も水も釜も初級魔法の応用で何とかなったのと、携行食料をしっかり準備していたのとで、悲惨な食生活は避けられた。

 若干使用法が違う気もするが、賢者様大活躍。全属性魔法が使えると本当に重宝する。

 ただし今回は準備も万全、日数少なめだからこんなもんだが、冒険者として旅に出るにはレベル以上に、野外活動の技術向上は必須だろう。それも料理や俺の場合水系魔法のレベル上げは早急に対策を考えなければならない。

 俺の現状の魔法じゃ飲料水の確保が絶望的だった。

 賢者様とはぐれたら水を確保する術が無いから地味に死亡フラグが立つ。

 等々改善点も見え、今後のやるべきことも分かったから、今回のキャンプ概ね成功だ。

 後、どうでもいいこととして、世界のしおりのメモページも他のページ同様、勝手に増える仕様だと判明。本当にどうでもいいな。




 キャンプから戻ったら飯に行こうと言われていたので、クエスト関係の納品とローグへの伝言の為にギルドに向かう。

 先輩は別行動。防具の手入れついでに、消費したアイテムの補充をかって出てくれた。

 そうそう、実はメールもラインも無いこの世界だが、電信魔法なるものが存在していて、冒険者ギルドの他にも国や大きな商業ギルドとかで使われている。媒体の管理コストの関係で、個人使用はよっぽどの物好きか金持ちかに限られるし、今回みたいな個人的な連絡もギルドへ出向けば相手に届けてもらえるから、皆特に不便は感じていないようだ。

 ちなみに、ギルドメンバーからギルド本部へはギルドカードを使った緊急回線もある。これは名前の通りの案件にのみ使用される為(罰則規定有)、使うような事態は極力遠慮したい。

 

 向こうちきゅうじゃ、何時でも何処でも誰とでもって環境だったけど、案外こんなもんで丁度良い。

 結局普段の生活でそんなに重要な連絡事って無いし、必要なら会って話せばいい。そして先輩とに限るなら、賢者チートで連絡手段が無いわけでもない。

 ん?俺?勇者チートはまだ未顕現ですけど何か?

 

 そんなどうでもいいことをぼんやり思いながら、通りの店をひやかしつつ歩いていると、『籠物屋』と呼ばれるいわばペットショップの店先に、有り得ないモノを見た。


「なっ!?」


 よもや見間違えかと思ったが、そもそも見間違える筈が無い。


「ウ、ソだろ・・・?」

 

 大きくない籠の隅で小さくなっているその姿が信じられなくて、しばらく籠の前で立ち尽くしていた。


「いらっしゃいませ。珍しい獣で御座いましょう?大山猫に似ておりますが、都の方で流行りの珍種で御座います」


 するとそんな俺を見て、店の主人がもみ手で声を掛けてくる。

 都で流行り。後々大きな事件となることを示唆したこの言葉を、この時は深く考えられる余裕が無く、一刻も早くこの籠から彼女を解放しなければ、とそれしか頭に無かった。


「・・・幾ら、だ?」


 できれば、こんな無体を働いた店主ごと籠を切り捨てたい衝動にかられたが、そもそもこの店としては当然の対応をしているだけなので、一番穏便にかつ迅速に行使できる手段を選ぶ。


「2万、と言いたいところですが、少々懐きが悪う御座いまして、1万5千で如何でしょう?今なら寝床にできる上等な籐籠もお付けしますよ」


 俺が買う気だとわかると、店主は機嫌良く答えを返してきた。

 はっきり言ってペットとしては高い。普通に騎乗用の馬とか買える。


「買った」


 が、迷いは不要。


「えっ、あ、はい。ありがとうございます!」


 俺は値切り交渉もせず、即金で言い値を店主に押し付けた。

 こんなところから早く出さなきゃ―。

 店主はそんな俺の行動に少々面食らいつつも販売契約締結書を差し出し、おまけとして小さ目の毛布を付けた籐籠を差し出す。

 受け取ったそれに彼女を移し毛布を掛けるが、さっきから一切反応が返ってこないのが怖い。

 酒場の看板娘として、豊かな表情を見せてくれていた彼女に何があったのか。茶虎の毛並みも綺麗な金の目も心なしかくすんでいる。

 そう、籠の中に居いたのは変わり果てたトウラだった。まるで向こうちきゅうの猫そのもののサイズ、姿に成ってしまっているが、俺が間違う筈は無い。

 とにかく先輩に連絡入れて・・・。


「『コール』」


 足早に来た道を宿屋に向かって戻りながら、魔術語まじっくわーどを口にする。

 これが賢者チートの俺と先輩の専用回線。爺様かみが先輩に仲間内の連絡用にと寄越した通信魔法で、オンラインゲームで言うパーティチャットみたいなものだ。登録された任意の相手と会話できる。

 爺様曰わく、この世界が今後発展していったら電信魔法からの派生で現れる予定のものらしい。


『ほいほーい。どないしたん?』


 電話そのままなコール音がして直ぐ、先輩の声が返って来た。そののん気な声にほっとする。


『緊急事態!至急宿へ戻ってもらえますか?つか、どうしよう・・・俺まじ泣きそう』

『へ?ちょっ、どした?!』


 コールでの会話は声に出さずに行える。まさに小説や漫画でみる『念話』だ。だが便利な反面、注意しないと感情の揺れは声に出された言葉より、相手にダイレクトに届いてしまう。その特性で、今も言葉以上に状況に対する混乱が伝わってしまったようだ。


『トウラが・・・トウラが大変で…』


 とは言えそんな事を気にする余裕は無く、そもそも事態をどう伝えたらいいのかもわからない。


『わかった、とりあえず宿戻っといで。こっちももう直ぐ宿着くとこやから、な?』


 そんな俺に、説明を求めず合流を優先した指示を出す。

 流石賢者様、冷静な対応に感謝だ。


『・・・了解っす』 


 それに応え、俺は兎に角拠点の宿屋に走る。ただし揺れは最小限に。籐籠の中のトウラに余計な負担は掛けられないからスキル使って静かに素早くだ。

 持ってて良かったアサシン系スキル。あなたの荷物を安心安全迅速にって、本当相当テンパってるな。

 でも、うちには賢者様がいる。きっと元に戻す手立てがはあるはずだ。最悪、腐っても鯛な爺様かみだって。だから大丈夫、そう自分に言い聞かせ、宿へと急ぐのだった。

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