黒猫さん
「お前が『双黒』の片割れか?」
ギルドの掲示板でめぼしい依頼を物色してると、あからさまに剣呑さを含む声をかけられた。
見れば如何にも怪しい全身フードですっぽりの黒てるてる。
声に反応した自分を呪う。
ちなみに『双黒』というのは、俺と先輩に付けられた通称っていうか、渾名っていうかパーティ名?みたいなもので、何故か勝手に定着しつつある。しかし、あくまでも周りがそう言ってるだけで、自称はしてない。大事なことなので重ねて言うが、本当に自称じゃない。
だって、何?双黒って、大学生にもなってそんな患った呼ばれ方とか、最早罰ゲームの域じゃん。
「・・・そんな名乗りをしたことは無い。人違いだ」
相手怪しいし、感じ悪いし関わりたくないから、拒絶で返したら鼻で笑われた。
「はっ、黒髪黒瞳で何言ってる」
あー・・・やっぱり駄目か。
そう、このイジメレベルの呼び名ってまんま俺達の色彩から来てる。そして、黒髪黒眼って配色はこっちじゃ案外見ないから、これで通じちゃってるんだよ。
ホント誰?最初に言い出したの。怒るから名乗り出なさい!
とまあそんな居るだけで目立つ二人が連んで、なおかつ最近はレベリングで片割れがドカドカレベル上がってるから更に目立つ悪循環。
加えてこの世界の住人達の平均を下回る細っこさなもんだから、絡まれレベルはカンスト、だと思いたい。是非ともすべてはこれら外見上の理由であってほしい。
厄介事に巻き込まれるのが勇者チートの一つとか洒落にならん(疑惑大)。
後、せっかくなんでちょっと俺たちの外見を纏めるとこんな感じ。
俺はどこまでも平均値な男だ。元々スポーツや武道に縁は無いし身長も平均、太っちゃいないが痩せてもいない。顔も可もなく不可もなく。ただ何故か実年齢より下に見られるから、童顔なんだろうか・・・。
こればっかりは、自分じゃ分からん部分だよな。
先輩はまあ、見た目は悪くない。身長も平均以上、180未満ぐらい(目測プラス俺との対比)。そして何より、猫カフェチェーン店の次期オーナー様って、これは関係ないな。
俺よりはマシだけど、先輩もスポーツとかしないし、今のローブに眼鏡に魔導書という装備もあいまって、荒事には適正が見いだされない外見だ。
ほら、絡まれやすそう!
「だからどうした。確かに髪も眼も黒いが、双黒なんて残念な自称していない」
相手に関わりたくないという意思を態度に込めて多少きつめに返しておく。もちろん、ついでのおまけでもう一度双黒については否定だ。
「あ?自称だろうが、他称だろうがお前たちが、俺等の間で双黒と呼ばれる奴の片割れならいいんだよ」
な・の・に、何これ?いくら『いいえ』選んでも堂々巡りの会話で結局『はい』しか選択できないよくある例の仕様なの?!つか、俺確定なら双黒の片割れとか確認すんなよ!こんな公共施設で声高に!!
これホント勇者チートの一部じゃないよな?巻き込まれ属性なんかつけられてないよな?
と、いくら心の中で叫ぼうと、どのみち黒てるてるは明確な意志をもって俺に声を掛けて来てて、しかもカモる為というよりも荒事感が半端無いということだけははっきりしているわけだ。最悪スキル使いまくって逃走しよう。何、戦闘からの離脱は得意だ。
「・・・人に用事があるなら、顔ぐらい見せたらどうだ?黒てるてる」
だからちょっと強気に行ってみる。なんかこう上からチックに。
「黒てるてる? お前、喧嘩売ってんのか?」
案の定黒てる呼ばわりにカチンときた模様。でもね、喧嘩売ってきたのはそっちでしょうに。俺はどっちかっていうと購入者。
「見たまんまだろ? それ以外どう形容しろと?」
どうせ逃げ切る自身あるし、堂々とお前の格好が悪いと言ってやる。嫌なら脱げばいいだけ。着てる限り黒てるは訂正しない所存。
「チッ―やっぱり碌なヤツじゃねぇな」
舌打ちと共にバサリとフードが外され―。
「あれ?トウラのご家族?」
「!?」
え?マジ?!どうしよう、めっちゃ感じ悪かったじゃん!?
その姿を見た途端、もう心臓止まりかけた。
だってフードの下から出てきたのは、黒毛で金目の猫人の顔で、どっからどう見てもトウラの血縁者。
ん?なんか相手もめっちゃ驚いてる?
「おまっ、何でオレがトウラの血縁だと分かるっ」
そしてめっちゃ威嚇された。
「いや、それは一目瞭然です、けど?」
「はあ?!猫人でもないのくせにか?!」
正直に答えたのにお気に召さないご様子。とわ言え、そうとしか答えようがない俺はうなずくしかない。
「本当に、か?」
「だって、そこまで似てて他人ですって言われた方が驚くぞ?まあ、トウラの方が柔らかい感じだけど・・・」
更に念を押されて、それに答えると相手は目を丸くした。
「まさか他種族でここまで見分けをつけれる奴がいるとはな」
ああ、普通は見分けつかないのか。ま、俺も猫科の亜人以外はどれも似たように見えるから、そんな認識で血縁まで見分けられたら驚くのも無理は無いのか。
「猫科亜人だけだけどな。地元では周りに多かったから(猫が)自然と、同族と同じくらい見分けが付くようになったんだ」
といいつつ、人間はよっぽどちゃんと付き合いが無いと顔覚えられないんだけど。
「で、いったい俺に何の用が? まさか、トウラに何かありました?」
相手の正体がわかればもう失礼な態度をとることは無い。態々俺を探して声をかけてくる理由はトウラぐらいしか思いつかないし、嫌な予感がする。
「あー・・・大丈夫だ、トウラには何もない。それと、オレはローグ、トウラの兄だ。最近アイツがやたらお前の話をするから・・・」
が、俺の予感はあっさり外れた。
聞けばどうやらお兄さんが妹のトウラに変な虫がついたのではと心配しただけらしい。
何と言うか、微笑まし過ぎて頬が緩む。
「オレの早とちりだ、本当に悪かった」
「しょうがないって、最近流れて来た余所者で、黒髪黒目なんて胡散臭いヤツだし。気にしないでくれ」
色々話した結果、トウラとは友人であること、こないだの木天蓼も本当に偶然見つけたからで、特別な意味は無いことなどを話して、ローグの誤解は解けた。 俺自身こっちでは十分異質だとわかっているので、気にしてくれるなと本心から言っておく。
「そう言ってもらえるとありがたい。今度メシに行こう」
「ああ。俺はトウラの所ぐらいしかいい店を知らないから、他のお勧めを教えてくれ」
「まかせろ」
最初の剣呑さはどこへやら、すっかり打ち解け、後日食事の約束をして別れた。
別れてから気づいたが、ローグは猫人特有の『な行』の訛りが無い。見たとこ冒険者として活動している様だし直したのかな?どっかのコート猫みたく。
となればトウラはあの狩り人もかくやな防御力の妹分か・・・。いや、可愛いんだけどね、でも火竜の巣から無傷で生還するんだよ、あいつ。
因みに食事の約束がこの後起きる事件により、長らく延期になってしまうのだが、ローグ自身とはこれから先随分と長い付き合いになる。そしてそれは、ようやく俺たちが勇者として語ることのできる、始まりの事件でもあった。