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再びの失意そして復活

 この先起きる問題はひとまず置いておいて、俺の防具に関する話はなんとか付いたので本格的にモンスター狩りを始める。

 とはいえ、先輩とは事前にギルドでパーティー申請をしているから、初めはほぼ俺がモンスターを殲滅していくだけだ。


「ホンマ、このパーティー制ちゅうのもゲーム的やな」

「もともとゲームみたいな世界だから今更でしょ?」


 呆れたようなしみじみしたような先輩の呟きに、灰色の不格好な中型犬ぽいモンスターを一撃ずつで撃破しながら、何を今更と返す。

 ステータスが見れたり、経験値やレベルの概念があったり、生き物として生態系に疑問を持ってしまうモンスターとかが普通にうろついてるのだ。パーティーを組めば、誰がモンスターを倒しても無条件で経験値の恩恵があることぐらい、本当に今更過ぎる設定だろう。


「いやな、人間が考えうることは、大概起こりうることやっちゅう説はホンマやってんな、って思ただけや」

「・・・じゃあ、俺たちのこの残念な勇者譚もどっかで誰かの娯楽になってんすかね」

「設定としてはおもろいんちゃう?」


 何も無いちーとなし系勇者の成り上がり譚はシビアなん多いけど、俺らちゃらんぽらんやから(爺様かみ含む)。と、嫌みのつもりだった台詞に呑気な答えが返された。

 いやいや、面白くないだろうっ!現状ちょっと丈夫なだけの称号勇者(笑)と、魔力が知識に伴わない称号賢者様(哀)の二人だぞ?


 やってることは俺から数えて2ヶ月ちょっと、ただ地味に剣振って、モンスターの死体換金して、食って寝てしかない。せっかくの異世界召喚なのに、日記すら書くことが無い状況だ。 今後書くとしてもこの期間はまとめて『基礎練』の3文字で事足りる。


「まあまあ、物語には不要な部分があるんが現実なんやし、そこは目ぇつぶり。レベル上がれば『冒険』出れるんやし。それはさて置き、さっきから気に成っとてんけど、何でスキル使わんの?」


 冗談じゃないと言う顔をした俺をなだめながら、先輩が妙な確認をして来た。


「スキル?」


 これまた大変ゲーム的な単語だ。そして、とてつもなく嫌な予感がする。それは勇者オプションがレベルアップ制だと知った時と全く同じ感覚なのだが、是非とも勘違いであっていただきたい。じゃないとホント泣きたくなるから・・・。


「・・・マジ?」


 聞き返した俺の悲壮な表情から、先輩は全てを悟ってくれた。


「毎日毎日、来る日も来る日も、ただひたすらに普通に剣を振り回してましたけど、何か?」

「あー・・・ご愁傷様。気ぃ強く持たなあんで?」

 

 慰めなんか要らないんだからねっ!!

 あ、駄目だ視界が霞む。頑張れ俺の涙腺。負けるなハート。


「ホンマに雑な召喚譚やな。他も心配やし、ステータス見してもろてええ?」


 ショックで地面と友達になりながら頷く。


「それじゃあ失礼して、『彼の者の軌跡を示せ』」


 先輩が魔術語マジックキーワードを唱えると、手にしている『賢者の書』がにわかに光り勝手に開いた。


「あ、やっぱり色々使えるようになってんで。魔法も下位の回復系と補助系も使えるな。後は、ん?何でアサシン系スキル?」


 どうやら開いたページに俺のスキルが写し出されているようで、先輩がざっと説明してくれる。


「あー・・・きっと、一人で心もとなかったんで、ひたすら不意打ちやら、風下からのバックアタックやらしてたんで出たんすね」


 ちなみにダメなら直ぐ離脱。逃げ足にも自信ありますって、勇者のすることじゃないな。


「それでか。勇者向けや無いけど、不意打ち必殺系は使えるスキルやし、ええんちゃう」

「勇者ノ体面ヨリモ命大事」


 先輩のフォローに何故か勝手に口が動いてしまった。


「マレー、本音漏れとるよー」


 先輩苦笑い。

 さてと、ふざけるのはここまでにしといて、いつまでも地面と仲良くしてる場合じゃないな。

 俺はポーチから世界のしおりを取り出す。ざっと説明されただけだが、俺がスキルを認識したから、きっと専用のページができてるはずだ。


「あ、あったあった。げっ、遠距離とか、範囲攻撃とかまで…」


 専用ページは、俺の使えるスキルが簡単な説明付きで一覧になっていた。


「ホントこの、俺と同期にされてるの何とかなんないかな」


 折ろうが丸め様が燃やそうが濡らそが、全く平気な形状記憶いつでも新品なのは凄いんだけど、絶対力入れる場所間違ってる。基本情報別売りってマジ意味無くね?




 この世界に来てからもう何度目か数える気も失せる衝撃の事実発覚後、憂さ晴らしでスキルを連発したおかげで、先輩のレベルもサクサク上がり戦利品も上々で、まあ気分も持ち直した。

 なので、今日の夕食はちょっと豪華。とはいえ場所はトウラの居る例の酒場なんだけど。


 給仕するトウラのしっぽを遠目に夕食を取ってた時だ、先輩が流石にこれは大丈夫やと思うけど、と今日のレベリング時を彷彿とさせる前置きしてきた。

 思わず身構える。


「魔法は知っとるよな?」

「流石に知ってるっす」


 良かった。さすがに同日に二度打ちのめされたくない。

 『魔法』はステータスにMPがある時点であるんだろうな、と持ってたし、認識していたからかレベル上がった際に覚えられて、ちゃんとステータス画面でも見れた。


「けど俺、無詠唱とか短詠唱系が無いんで、戦闘じゃ使い勝手悪くて」


 スキル同様全く戦闘で使ってかなかったので、不安になったんだろう。その気持ちは良く分かる。

 だからそんな聞きにくいことをあえて確認してくれた先輩には、ちゃんと理由を添えて返答させて戴く。

 元々の素質のせいか、爺様のせいかは定かではないが、マジ戦闘中に回復魔法もままならない有り様だということをなっ。


「それはまたキツいな。しかも何故か闇系と水系ってこれまた微妙なんやし」

「闇系の隠蔽魔法でエンカウント前に近づいて、影留めしてからのバックアタックと、水系の濃霧からの不意打ちは得意っす(キリッ)」


 うん。分かってる。これ勇者の戦闘じゃないって。


「勇者ガ正攻法バカリト思ウナヨ。アイラブ闇討!」

「あー・・・、しゃあないしゃあない、責めへんから戻って来ぃ」


 最早暗殺者へ転職がベストだと思われる諸行を告白した俺に、先輩は理解を示してくれた。つか、今日は先輩の優しが身に染みる日だ。

 あらやだ、先輩がイケメンに見える。


「はーい、追加のシチューだにゃ。闇討って聞こえたけど・・・マレは得意なのにゃ?」


 残念な勇者スペックを披露するという苦行ゆえに、周りへの関心がおろそかになっていらしく、トウラが注文を持って近づいているのに気付かなかった。

 しかもバッチリ残念箇所を聞かれている。


「ぅえっ!」


 ヤバイッ!何てことを聞かれたんだ。せっかく上がってたトウラの好感度がぁっ!

 もうテンパる。多分ステータス見たら状態以上『混乱』って表示されてるぐらい。


相手モンスターに気づかれずに忍び寄って攻撃って素敵だにゃ。マレは腕の良いハンターにゃね」


 セーーーフッ!!

 つかまさかの好感度!グッショブ種族差ッ!!

 が、どうやら悲劇は回避された。もう、気分は猫にあげたはんぺんがイカ入りで焦ったけど、火が通ってたから事なき終えたぐらいの安堵感。って、まだ混乱中。


「ああ、猫ってそういう狩猟スタイルやんね」


 俺が絶望から天国へ上ってる横で、先輩がポツリと呟く。


「ありがとう、トウラ。自身が持てたっ!」

「それは良かったにゃ」


 今日は久々にいろいろありすぎて、精神的ダメージが容量超えそうだったけど、勇者というか、人族的にあれな闇討が猫人には全然有りと聞いて浮上した。猫人が賞賛してくれるなら、他の評価など要らぬっ!

 あ、先輩がイケメンに見えたのは、きっと疲れてたんだな。後で目薬注しとくか。


 こうして、この日はトータル的にみてまあ良い一日だったと言えるだろう。

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