勇者の言い分
先輩と合流した翌日。
「さて、と。とりあえず先輩のレベル上げっすね」
俺たちはトーカの街から程よく離れた草原にいた。
「いやいや、ちょい待と」
サクサク終わらせないと、先輩が世界の肥やしにされてしまう。
天気も良いし、俺はやる気満タンで剣を抜いたのだが、当の先輩から待ったがかかった。
「何すか?」
「何すかちゃうやろ?何でお前そんな軽装やねん!それ旅装束やろ!?」
確かに黒が基調の旅装束だが、問題があるのだろうか。
地球と違い、こっちの旅人さんは基本戦う旅人さんだ。つまり、旅装束とは最低限の戦闘を見越している、はず。
「・・・お前、せやからってずっとその格好なん?」
説明したら、何か可哀想なものを見る目をされた。
「だって、防具とか揃えるよりもレベル上げて、ステータス強化した方が効率的だったし」
「だからって、んな格好でモンスター退治する冒険者がどこにおんねんっ!」
あなたの目の前にって言ったら怒られるな。
ゲームでは暫く初期装備で行くし、説明した通りレベルが上がってステータスが上がりだしたら、村で売ってる防具を買う必要性は下がってしまった。と言えば先輩も納得してくれるだろう。一応、嘘は言ってないし。
「金無かったし、村なら別にこれでいけたんすよ」
「・・・普通いけんって。てか、無駄に時間掛かっとるって爺様が言うとったんの原因、これか」
賢者は苦悩している。
って遊んでる場合じゃないな。
「そりゃ時間かけるっすよ。武器や防具に頼った強さは結局脆いし。最悪、素手でモンスターと戦って即死しないレベル無いと」
「だからって防具無しは違うくないか?」
それらしい屁理屈をこねたのに通じず真っ当に返された。なんで、サラッと流してくれないかな。
本当の事言ったら絶対怒られるし・・・。かといってこのままだと街に戻って防具買うって言い出しそう。
あー・・・しょうがない、白状しよう。
「・・・面倒クサカッタ」
「はい?」
腹を括ったが、怪しい片言なのはご愛嬌。言ったら怒られるような理由だっていう自覚はある。
だって、一番軽いレザー製の胸当でも重いし、手入れの方法なんて知らないし、でもほっといたら臭くなるって言うし(リリが)。
何より付けた時の違和感っ!これがもう半端ない。
学生時代運動部とかでサポーターとかしてたならともかく、万年帰宅部の柔肌には無理な相談だった。
「アンナもん着ケルナラ、全部回避カ受ケ流ス方ヘ全力デ努力ヲスルッ(きりっ)」
勇気でぶちまける。先輩の視線が痛い。
でも俺だって譲れない。
「あほや・・・あほがおる・・・」
「そんなん言うなら先輩だって着てみりゃいいですよっ!無駄に細かいかい所にまで手が届く、世界に名だたる日本製着てたらあんなの無理っ」
なんというか、大ざっぱなんだよ。何にしろ。
「着とんで」
ん?何か今有り得ない返事があったような気がする。
「あー、聞き間違いちゃう。アーマーは無理やけど、俺このローブの下、レザー製の胸当とか部分防具は着けとる」
「え?嘘ぉ!?」
「当たり前やろ。自分のステータス見た瞬間に防具買うこと決めたわ。術師系の紙装甲舐めんなや?それに、1でも2でも防御が上がるならこしたことないやろ?」
冗談だろ?何であんなん平然と付けれんだよっ?!
驚愕する俺に、先輩は容赦なく正論を吐いてくる。
「・・・絶対やだ」
でも俺も譲る気は無い。
「お前なあ・・・」
最早幼児のだだこねだって言われようともだ。
ただでさえポーチだ剣だって装備品が有るのに、これ以上増やしてたまるか。
「・・・分かった、今はそのままでええ。けど、ある程度までいったら防具着けへん代わりに、絶対魔法布で誂えた服着るって約束しい」
暫し平行線の話し合いの果てに、先輩が折れて妥協案を出し服ならと俺も頷いた。
後にこの『魔法布』がやたら高価で、契約書まで書かされたこの約束を事ある毎に後悔するのを、この時の俺はまだ知らない。
マジでこん時の俺の馬鹿っ!先輩が交換条件にするなんて、何かあるはずって気づいてぇっ!