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町の事情#7

 

 カウンターに立つ店員が、風呂場から出てきた俺たちに気付き、近付いてくるのが見えた。

 俺は布をアイテムボックスに入れ、再び取り出し、乾いた状態のまま店員に手渡す。


「助かりました。ありがとうございます」


「いえ、お気になさらず」


 可笑しなものを見た。と言いたげな店員は、口元を隠しながらクスクス笑う。思えば泥塗れで町中を走り回っていた事が、今となっては堪らなく恥ずかしい。


 勿論、町の人たちや居合わせたプレイヤーには多大な迷惑を掛けたことも自覚しつつ、俺は重ね重ね謝罪をと、頭を下げる。


「――異人様。頭をお上げください」


「町には勿論、この店には特別迷惑を掛けました。大変失礼致しました」


「そこまで畏まらなくても……それに、今回の件は珍しい事では無いんですよ」


 へ? と、なんとも間抜けな声を出しつつ顔を上げると、未だ微笑を維持する店員が、思い出すかのように人差し指を立てた。


「この先にある《病の沼地》の泥には、毒があるといわれています。粘着質なその泥は、体に付着するだけで害を成します――ともあれ、あの場所にはほんの一箇所だけ、例外的に清らかな湖が存在しており、そこで毒を清める事が正しい対処法なのですが」


「そういえば……全然頭が回らなかったなあ」


 確かに入り口付近に、妙に綺麗な湖があったっけな。罠だと思って近付かないようにしたが……まさかあの場所が毒沼への処置だったとは。


「勇敢な冒険者様が多くあの場所に挑み、そして帰ってきました。やはり事態が事態ですから、毒に(まみ)れたまま、帰還される方も一定数いらっしゃいます。なので、珍しい事ではないんです」


 店員は、過去に自分が対応した冒険者達を一人一人思い出しているのか、虚空を見つめるようにして云う。

 一定数いる……か。確かに、毒沼に落ちてパニックになれば、強制帰還等の手段を取る人間はいるのだろう。


 正に、今回の俺のように。

 

「ある偉大な英雄様が特殊な魔法を掛けてくれたお陰で、町を蝕まんとする毒沼の進行を少しの間、食い止める事ができます。土地に効果が続く限り、私達は安全に生活する事ができます。しかし、外部から持ち込まれた毒には効果は発揮されません」


「俺たちみたいに、体に毒を付けて転移してきた場合がそれに当たる。という事ですよね……」


 認知されているのと、容認されているのとでは意味合いが大きく異なる。

 無知な冒険者がこの地に赴き、毒を持って帰ってくる可能性は常に考慮されている。というだけで、町はその行為を良しとはしていない。前例があると言えど、だから許されるという話でもない。


 毒を身に纏った人が町中を移動すれば、町民からの名声が低下するのも頷ける。

 もはや、許可のない冒険者は立ち入りを制限してもおかしくないとも思えるが――


「俺たち異人だったり、冒険者だったりを、それでも招くメリットはあるのですか?」


 思い切って聞いてみると、店員は少し驚く表情を見せた後、再び笑みを浮かべながらそれに答えた。


「私達はこの地から離れる事ができません。しかし、この地には毒は勿論、虫達の襲撃という重大な問題があり、穏やかな場所とも言えません。――王都から虫退治の依頼を受けた冒険者様が虫退治を行ってくれるお陰で、私達の生活が成り立っているのもまた事実。切っても切れない存在なのです」


「虫退治の依頼を受けた冒険者は、毒沼の事も認知している人が多い。しかし、何も知らない、依頼も受けてない冒険者もここに来る事ができる……そこまで息の詰まる思いをしていながら、ここに留まる理由を、教えてくれますか?」


 店員の口から出た情報の中に“英雄”そして“虫の襲撃”なる、イベントを匂わせる情報がいくつか出てきている。

 無知な冒険者がしばしば毒を持ち帰ろうと、虫の襲撃に怯えようと、この土地に留まるのには大きな意味があるのではないか?


 そう思えてならなかった。


「……そうですね。異人様になら、話しても良いですよね」


 店員は数秒沈黙した後、意を決したように語り出した――





 冒険の町に戻ってきた俺たちは、昼休憩にと食事処で早めの昼食を取っていた。


 泥んこになった原因はダリアとも言えるが、そもそもフィールドを進もうと判断したのも、湖で泥を落とす判断ができなかったのも俺のミスだ。

 その侘びの印として、彼女たちには好きな物を頼む事を許可してある。


 ……まあ、いつも通りだが。


 今回は宿屋の店員の対応のお陰で、名声が下がり続ける自体は回避できたものの、一連の流れで下がった名声は大きく、帰ってはこない。


「現在の名声は《105》か……植物公園の人食い草を倒した段階で115だったから――フィールドボス一体分の数値が減少した事になるか」


 数字で見れば微々たるものかもしれないが、今まで積み重ねてきて115しか(・・)無かったと考えると、かなり減ったとも考えられる。

 それこそストーリークエストや、名声クエスト等で稼ぐ必要がありそうだが……。


『てつだうの?』


「そのつもりだよ」


 肉団子を頬張りながら、対面の席で俺を見上げるダリアに、苦笑しながらクエスト画面を再度開いた。

 なんにせよ、ストーリークエストは拒否する事ができないからなあ。



【ストーリークエスト:沼地の調査】推奨Lv.30


草の町の地を侵そうと広がる沼地の毒。その成分を調べ、毒の正体を暴くため、王都の研究者にそれを依頼しました。しかし、研究者からの連絡は途絶え、その研究者は行方不明となっています。彼の手がかりを探すべく、王都にある《研究室 B4》に向かってください。


研究資料[0 / 5]


経験値[239,556]



(「毒沼の成分を王都の研究者に依頼してありましたが、現在彼と連絡が取れなくなっています。彼に何があったか調査していただけたら、この町の秘密をお教え致します」)


 あの後告げられた店員の頼み事はただの頼み事ではなく、紛れも無い《ストーリークエスト》だった。


 ストーリークエストが発生した理由が、いまいち特定できないが、あの店員がキーマンだったなら都合が良すぎるとも思える。

 俺のように毒に侵されて風呂を頼るのも考えとしてはあるが、そもそも、湖で毒を落とすのが正規ルートである。


 何か別にストーリークエスト発生の条件があるのかもしれないが……バタバタしすぎていて、鮮明に思い出す事ができない。


『この後王都まで行くのか?』


「いや。今回のクエストには時間制限がないから、トーナメントが終わり次第、進めていこうと思う。もう一つのクエストも、まだ進められてないからね」


 骨の間から口に、器用にデザートを運んでいくアルデがクエスト進行の意欲を示すも、それは否定しておいた。


 詰み防止なのか、ストーリークエストには拒否権こそ無いものの、時間制限も存在していない。

 恐らく失敗しても、再び受けられるとは思うが……どうせなら落ち着いた後に、しっかり進めたい。そして、なるべく一度で成功させたい。


 ともあれ、俺が店員にした質問は“町民の皆が息の詰まる思いをしていながら、ここに留まる理由は?”だったのだが、店員から帰ってきた答えは“毒沼の成分調査を頼んだ研究者の捜索”だ。


 今まで違和感なく会話できていたのに、何の脈絡もない内容にすり替えられたとも思える。

 ストーリークエストの先にその答えがあるとするなら、遠回しに理由を語ってくれたのかもしれないが――このクエストを進めない事には、話は先に進まないと言える。


『またお風呂入りたいー』


「宿屋に泊まる機会があれば、今度は洗ってやるからな」


『ダリアも 泳ぎたい』


 草の町でのあれこれを考えながら、俺は娘達に風呂のなんたるかを語るのだった。
















ストーリークエスト情報 391[転載禁止]



1.名無しプレイヤー


http://**********← 注意事項

http://**********←まとめ

http://**********←390リンク


>>980 が次スレよろ



36.名無しプレイヤー

>>12 食われとるがな


37.名無しプレイヤー

>>12 案の定食われてて草


38.名無しプレイヤー

毒沼成分クエの資料見つからなくて泣ける


39.名無しプレイヤー

>>38 一応四段階までの情報はまとめてあるよ http://**********


40.名無しプレイヤー

>>38 クエの発生条件教えてクレメンス


41.名無しプレイヤー

>>40 「自分で調べろや……(毒沼に一度侵された後にNPCと接触ですよ)」


42.名無しプレイヤー

>>41 「ありがとう(ありがとう)」


43.名無しプレイヤー

>>42 心の底から感謝してて草


44.名無しプレイヤー

沼クエは進めていく度にストーリーが色々浮かんでくるから面白い


45.名無しプレイヤー

>>44 尚、研究室二階のアレ


46.名無しプレイヤー

沼クエと言えば、さっきお義父さんが泥だらけになって疾走していた件ww


47.名無しプレイヤー

>>46 無能&無能


48.名無しプレイヤー

またアイツか


49.名無しプレイヤー

>>47 お義父さんが泥だらけって事はだな


50.名無しプレイヤー

ひ ら め い た


51.名無しプレイヤー

>>46 って事は、名声減少トラップに引っかかってしまったのか


52.名無しプレイヤー

まあストーリークエストを名声10で買ったと思えば安い


53.名無しプレイヤー

>>52 湖に入れば名声も下がらずに済むんですがそれは


54.名無しプレイヤー

そもそも湖ってどっから湧いてるんや!

周り毒沼なのにおかしいやろ!


55.名無しプレイヤー

>>54 だからまとめ見ろや


56.名無しプレイヤー

>>54 まとめ見ずに自力でストーリー進めていったほうが楽しめるで


57.名無しプレイヤー

名声って結局なんにつかうの?


58.名無しプレイヤー

>>57 NPCへの売値が上がり、買値は下がる。特殊なクエが発生しやすくなる。それ以外にもあるが、名声が低すぎてもイベントがあるらしい


59.名無しプレイヤー

あの……幼女神様の泥んこ姿がまだなんですが


60.名無しプレイヤー

毒の泥で顔パックして死に戻りした私以上に馬鹿な死に方したやついるの?

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