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植物公園のフィールドボス

 

 そよ風と共に運ばれる、青臭い草の匂いが心地いい。

 人々が畑を耕す姿や、妖精達が無邪気に飛び交う様子が微笑ましい。


 久方ぶりに見た草の町は、風の町とは少しだけ違う“平和”が感じられる、穏やかな場所だ。

 普通に流してしまったが、ここには小人族より更に小さな人型の種族《妖精族》が共に暮らしているらしく、追いかけっこをして遊んでいる姿が見える。

 町に住む種族に法則があるのかもしれないが……深い部分は不明だな。


 ポータル前から移動した俺たちは、未だ未踏の地である《植物公園》へのポータル前へと場所を移し、改めてアルデのステータスを確認することにした。


 木陰でごろりと横になる部長と、小さな虫を見つけ、しゃがみ込むように観察するダリア。

 アルデは自身に関係する事を俺が確認しているのを察しているのか、遊びたい衝動を我慢するように袴の袖を握り締めながら、俺を見上げている。



名前 アルデ

Lv 13

種族 小人族

状態 野生解放

筋力__169[64](19)【252】

耐久__22[33](10)【65】

敏捷__30[34]【64】

器用__28[34]【62】

魔力__22[33]【55】


召喚者 ダイキ

親密度 32/200


※【 】内が総合計値

※[ ]内が技能(スキル)強化値

※( )内が装備の強化値

※小数点第一位を切り上げ



 一言で表すと“恐ろしい”。これに尽きる。


 種族の名前が小人族から変わってない部分に、多少引っかかりを感じるものの、そういう種もいるのだろうと割愛しておこう。根掘り葉掘り聞くのも気が引ける。


 掲示板で言われていた種族値から考えても、このレベルにしてダリアに追い付く勢いである。と言うよりも、素のステータスだけで言えばダリアを凌ぐ火力だ。

 恐らく上限解放と進化が鍵になっているはずだが、細かな部分が分からないのが現状。

 種族値の優劣は関係ないのだろうか? そもそも種族値とは……。


 何はともあれ、アルデが最強物理アタッカーであり、ダリアが最強魔法アタッカーであることに変わりはない。

 俺が無理に盾役(タンク)攻撃役(アタッカー)をこなすよりも、安定した火力が出るのは想像に難くないだろう。

 

 それに加えて――


『アルデ。今のお前なら使いこなせるはずの武器を持っているんだが、どうだろうか?』


 剣王の墓で入手した“剣王の大剣”である。

 これは必要筋力が100というパワー武器であるが、現状で筋力169のアルデになら装備可能である。


 俺の言葉にアルデは、俺から貰った鉄の剣をじいっと見つめた後、ずれた被り物を戻しながら俺に向き直った。


『両方欲しい!』


 子供そのままの反応に、思わず「欲張りか!」とツッコミを入れそうになったものの、この子がそう言うなら、もはや何も言うまい。

 俺はアイテムボックスの中から、巨大な黒塗りの剣を具現化し、アルデに渡した。


 アルデは紐付きの鞘を肩にかけ、その大剣を背負うようにして装備する。


 ――すると大剣のサイズが徐々に縮んでいき、俺の背丈ほどの剣は130センチ程まで小さくなった。

 それでもアルデには長いようで、小さな体に不釣り合いなほどの剣を背負う図となっているが……装備アイテムにこんな機能があったとはな。


 よくよく考えれば俺が渡した鉄の剣も、もう少し長く幅広かったはず。

 それでも装備品の性能が変わらない所は、なんともファンタジックな仕様と言える。


『拙者の刀も、ダイキ殿の剣も、この剣も全部拙者の武器だ。ダイキ殿には預かってもらってるだけだからな』


 一度貰った物は絶対に返さない主義らしい。アルデは腰に差していた鉄の剣を『預かってもらうだけだ』と、念を押すようにして俺へと渡してきた。


 別に取ったりはするつもりはないが……。


 ともあれ、これにて準備万端だ――




 植物公園は、以前ダリアと共にインフィニティ・ラビリンスのイベント前に訪れ、レベル上げをした場所である。

 その時確かダリアのレベルは、今のアルデのレベルと同じだった筈だから、安全マージンは取れていると考えられる。

 以前とは違い、今は回復役(ヒーラー)の部長もいるし、俺もダリアもレベルが40を超えている。アルデを死なせるような事は万が一にも無い。


 植物公園に出てくるモンスターは、隣のフィールドである虫の住処の虫達より魔法防御も物理防御も低い。その上、火属性が弱点ともなれば、ダリアのさじ加減で一掃する事も可能である。

 俺たちの二歩前を歩くアルデは、初の戦闘に向けて少し緊張している様子が窺えるものの、俺たちがいる心強さからか、足取りは軽い。


 ――近くに湧いた植物型モンスターに、大剣の柄を握りつつ駆けるアルデ。

 野生解放の“赤”と闘気の“青”が混ざり合い、紫ではなくマーブル色を維持したまま、剣王の大剣を引き抜いた。


 モンスターの湧きが凄まじいこのフィールド。アルデが目標(ターゲット)とする植物型モンスターを囲むように、ワラワラと集まる他の植物型モンスター。

 弾丸のような速度で近づく彼が――まるで暴風のように荒れ狂う。


 ――植物は、剣が触れた先から爆散していく。


 ――それは戦闘ではなく“蹂躙”だった。


 素の筋力169という、ダリアを超えるステータスに加えて技能(スキル)による強化、そして筋力+150という破格の性能を孕んだ剣王の大剣も(あい)まって、およそレベル10程度の召喚獣が出せる火力の限界を超えているように思えた。

 植物達に野生解放を使い、強化を促しても結果は同じ。頭の上にある一本のLPバーが恐ろしい速度で消え去り、本体もろとも砕け散る。

 アルデは身の丈以上ある剣を、まるで棒切れを振り回しているかの如く、何の支障なく扱っていた。


『ダリア 楽できる』


『わたしもー』


『これからの戦闘をアルデに任せようとするな。戦力的に楽になった事は確かだけど……』


 味方ながら恐ろしい。

 ダリアと部長の意見も、なんとなく分かる。


『これでは草刈りと変わらないぞ。拙者はでっかいのと戦いたい』


『もうちょっと進めばでっかいのがいる筈だよ』


 明らかに自分の力量と相手の力量の差が激しい事に不満を漏らすアルデ。

 レベリングは、俺の頭の上に居て済ませた部長はともかく、強い場所に行けば物理攻撃役(アタッカー)のアルデには万が一がある。

 そのため王都の先に行くのは止めて、適正レベルの狩場を選んでみたものの……俺の心配は不要だったのかもしれないな。


 何よりアルデは闘気以外はほぼ通常攻撃。つまりはSPもMPも使っていない攻撃になるから、部長の回復も俺から渡す薬も必要としない。

 これでは部長と俺が何もしない置物状態になってしまう。




 そんなこんなで、あっさりと足を進めた俺たちは、植物公園の奥地にある巨大な草の前まで来ていた。

 道中の敵は十割アルデが掃除してしまったため、俺もダリアも武器を構える事すら無くここまで付いてきている。

 流石にフィールドボス相手に俺たちの手を借りない――なんて事は無いと思いたいが、この調子で行くと十分あり得るな。


 巨大な草――恐らく蝿捕草(ハエトリグサ)の変異種だろうが、それは俺たちが近付くにつれてウネウネと動き出し、地中に埋まっていた根を足代わりにして立ち上がる。

 草系モンスターの定番とも言えそうなそのビジュアルに、部長が気持ち悪そうに嗚咽した。



【人食い草 Lv.20】#BOSS



 隣で杖を抜くダリアに、アルデが提案するように剣を構えた。


『姉御。拙者の剣に魔法を』


 正面のボスを見据え、ダリアの事を“姉御”と呼んだアルデに、ダリアは小さく頷く。


『でかいの いくよ』


 ――ボスが根をうねらせて襲いかかる。


 アルデは何かの技能(スキル)を使っているのか、剣を胸の前に構え、片手で抱くようにして刃の腹を撫でた。

 突如――なんの文字かは不明だが、複雑な模様が刻まれていくそれらと同調するかのように、青白い光を放つ大剣。


 ダリアの周りを囲うのは、剣に浮き出た模様に良く似た文字の羅列。

 振られた杖の先から流れるように空へと踊る文字達が魔法陣を形成し、直後――アルデを貫くように、極太の光線が降り注いだ。


 ――ダリアの新魔法の一つ《炎獣の痛み(フレイムベル・ペイン)

 上から下へと落ちる光線が敵を焼き、塵も残さず消し去る魔法。

 ダメージが連鎖する恐ろしさもあり、捕まれば最後、抜け出す事は困難を極める。


 爆発は一瞬――渦巻く光線が中心の一点へと吸い込まれるように収縮していく。

 アルデの構える大剣がダリアの魔法を吸収し、燃え盛る炎の刃を形成した。

 

 剣の周りの空間が歪むような熱量に、肌が焼けるような感覚に陥る。

 ダリアの放った強力無比な魔法を凝縮したのがあの剣ならば、どれほど恐ろしい威力が秘められているのか。


 襲う知能しか持たず、尚も此方へ迫るボスに思うのは、“哀れ”という感情のみ。

 弾き(パリィ)の準備も無意味だと、俺は事の行く末を見守る。


 剣を立てて右側に寄せる、剣道で言う八相の構えに似た形から、一歩、二歩と、足を擦るようにしてボスへと近付いていくアルデ。



 ――駆ける。



 ――距離が詰まる。



 ――剣が触れる。



 振り下ろされた剣は数メートルにも刃を伸ばし、ボスに触れたその瞬間――ダリアの魔法が縦に射出されたように炸裂した。

 巨大なボスの体をまるまる包み込むようなその高出力の光線は、ボスを突き抜けフィールドの先へ先へと伸びていく。


 一瞬にしてLPを全損させられたボスは、攻撃の最中(さなか)に体をポリゴンへと変えていたが、それでも尚攻撃は止まず――まさに塵をも残さぬ威力。


 ……ぶっ飛びすぎてリアクションが取りづらい。


『すごいな』


 言葉を選ぶわけでもなく、なんとも間抜けなコメントになってしまったが、アルデもダリアもこの威力に満足しているようだった。


 呆気なさすぎて今のがフィールドボスだったのかさえ不明だが、目の前に出現したパネルが《撃破報酬》と《MVP報酬》を掲示し、それを否定した。

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