スキル選択と戦闘
林から現れた蟷螂のような大型モンスターは、死神が持つ鎌のような鋭い腕を振り下ろす。
「っ……らぁ!」
何度か繰り返すうちに様になってきた弾きにより、鎌を弾かれた蟷螂は大きな隙を作る。
そこに放たれるは必殺の威力を持ったダリアの火弾が炸裂した。
ただでさえ魔法職顔負けの威力な上に、ここら一帯のモンスターに火属性魔法は弱点だったらしく、俺たちはサクサクとモンスターを撃破していく。
名前 ダイキ
Lv 4
種族 人族
職業 召喚士
筋力__25
耐久__11
敏捷__11
器用__26
魔力__15
技能
【召喚魔法 Lv.1】【調教術 Lv.1】【火属性魔法 Lv.1】【魔石生成 Lv.3】【採掘術 Lv.2】【錬成術 Lv.3】【片手剣術 Lv.2】【片手盾術 Lv.2】【鼓舞術 Lv.2】【技術者の心得 Lv.2】
まず俺のステータスだが、散々悩んだ挙句器用に五ポイント。残りを全て筋力に注ぎ込んだ。
俺もダリア同様魔力特化にし、魔法職の二枚岩でも良かったのだがいかんせん戦闘の幅が狭まる。魔法防御の高い敵、魔法無効の敵もザラだ。
勿論、筋力と魔力に半分ずつ振り、臨機応変に武器で戦えばいいのだが器用貧乏がどこまで通用するか……。
結果、元々のステータス分劣るものの、にわか戦士が誕生したわけだ。それなりに戦い方も考えてはある。
が、その結果ダリアの方に変化があった。
『ダリアの秘めたる魔力が解放されようとしています。永続的にMPの3/4を消費し、ダリアの魔力を解放しますか?』
RPGにおけるMPとは魔法職の生命線であり、戦士も例外ではない。確かにダリアの火力アップが見込める魅力的な選択と言えるが……。
ともあれ、ステ振りした時点でもう決心はついていた。
名前 ダリア
Lv 1
種族 魔族
筋力__20
耐久__20
敏捷__20
器用__20
魔力__70
攻撃役たるダリアの火力アップは率先すべき点。結果、俺のMPをバカ食いしてダリアの魔力が二倍に変化した。
……後悔はしてないよ。ただ、もうちょっと早い段階でプレイヤーにアナウンスしてくれても良かったじゃないか、運営。
技能は片手剣術、片手盾術、鼓舞術、技術者の心得を選択した。
ありがたい事に、武器で戦う際に必須となる『技』にはMPではなくSPという別のポイントを消費する。
これは器用値によって増減するものであり、これにより武器は持っていても技が使えないポンコツにはならずに済んだ。
技能の選出基準だが、純攻撃役兼盾役が求められる俺には耐久を上げて硬くするか、筋力を上げてゴリ押すかという二択を迫られた。
ただ、やはり全て耐久に振っても純粋な盾役には劣るし、逆もまた然りだ。ならば防戦一方よりも、ガンガン行こうぜ! を取ったわけだ。
ガンガン行こうぜ! をやるとなると、やはり防御面の薄さが目立つ。そこで俺は片手盾術の中にある技の盾弾きに目をつけた。
盾弾きはある一定のタイミングで敵の攻撃を盾で弾き、無力化する技。これが決まれば大きな隙を作る事ができ、尚且つ俺自身にダメージは無い。
更に片手剣術にある剣弾きも盾弾き同様の効果があり、両手で弾きを操る事ができれば複数の攻撃にも対応できる。
ただ、弾きには恐ろしい程の集中力と僅かなタイミングが必要とされ、少しでも弾く場所、タイミングがズレると攻撃は通る。普通に盾を構えている訳ではない為、ダメージ量も多いという諸刃の剣。そして相応のPSが要求される。
そこで活躍するのが常時発動型のPassive技能、技術者の心得。
これは成功にタイミングを要する採掘や調合などを光の強弱によってサポートしてくれる技能で、器用に応じて成功率が上がる。
例えば採掘の際、本来なら一定の大きさの光が無数に見えるものを、光のサイズを大小に差別化することで、大きいものは鉱石だとか、小さいものは石ころだとかを判別できるようになる。
更にはピッケルを振り下ろすタイミングも、光が強弱することにより上手く取り出せるタイミング、壊してしまうタイミングを教えてくれる。
また、技術者の心得のレベルが低かったり器用が低すぎたりすると、光が出てこない場合もあるらしい。
取ってびっくり、技術者の心得は弾きにも応用が利いたのだ。
上手くこれを弾きに活用する事により、盾で弾くべきタイミングを光の強弱で知らせてくれる。
そのため、弾きの成功率は飛躍的に上がる。それも、俺にできるレベルにまでだ。
「『猛攻の布陣』加えて『鉄壁の布陣』」
鼓舞術はMPではなくSPを消費する魔法のような物で、パーティに強化や弱体化を与える事ができる。
魔石生成の際に振った器用値にこんな活用方法があるとは思わなかったが、戦闘に十分貢献できている。
弾きの成功率は100%とまではいかないが、俺でも盾役としての仕事ができている。
純戦士職ほどになった筋力値により敵へのダメージも多く入り、殲滅力は格段に上がった。
「ともあれ……」
ダリアの魔法。あれは流石の一言に尽きる。
魔力解放後のダリアは、まだレベルの低い火属性魔法の最下級技でもここら一帯のモンスターは一撃だ。
ごくたまに織り交ぜる闇属性魔法は相手に暗闇の効果を与え、単調になった攻撃はパリィで捌くのも容易くなる。
現状、俺たちがまだ死んでいないのは、偏に彼女の高い火力があればこそだ。
誰だよ、召喚士が地雷って言った奴。
時刻は午後7時。
夕焼けの空はすっかり黒に染まり、夜の住人達が動き出す。
フィールドのモンスターも時間によって種類が変わるようで、夜はアンデッドモンスターが多く出現するらしい。
冒険の町に戻るまでに骸骨の剣士とゾンビに出会ったが、どちらもダリアの火属性魔法によりサーチ&デストロイ。
アンデッド系のモンスターも火属性魔法が弱点なのかもしれない。
閑話休題
冒険の町に着いた俺たちは、夕食を取るべく食事処を探していた。
因みに、連戦に次ぐ連戦で俺のレベルは6に、ダリアのレベルは3に上がっていた。
ダリアのボーナスは自動で振られるらしく、魔力値が勝手に増えている。
「和食は? ――違うと。パスタもあるぞ! ――違うと」
ご褒美に好きな物を食べさせようと思っていたものの、ダリアに反応はない。
様々な好みを把握するのも親密度向上の近道だと思ったが……彼女は肉にしか興味ないらしい。
昼間とは違う肉料理の店を見つけるなり、頭をペチペチと叩かれた。
戦闘の時は無気力、無表情、無感情の彼女だが、ご飯だけは違うようだ。
「いらっしゃいませ!」
笑顔で迎えてくるNPCの従業員に軽く会釈をし、二名である事を告げると……。
「お、ダイキじゃないか。一緒に食おうぜ」
奥のテーブル席で手を振るのは、ケンヤだった。まだ来たばかりなのか、料理は並んでいない。
ケンヤの隣には知らない女の人が座り、対面にライラさんが座っている。
従業員に彼らと相席する旨を伝え、ライラさんの横に座る。ダリアを引き剥がし、ライラさんと俺の間に座らせた。
「こんばんは」
「こんばんは。ダリアちゃんもこんばんは!」
目を輝かせながら言うライラさんだが、ダリアはむくれた顔でメニュー表を見つめている。
「ケンヤ、いいか? ダリアが限界だ」
「お、そうか。じゃあちゃっちゃと頼もう」
それから俺たちは各々が食べたい料理を注文。ダリアにはとりあえずボリューミーな肉料理を頼んでおいた。
「そちらの方は初めましてですね。ケンヤの友人で召喚士をやってるダイキです。こっちは召喚獣のダリアです」
俺と対面の位置に座る青色の髪の女性は、ライラさんとは対象的に透き通るような色白の美人だった。
ゆったりとした布素材のローブを身に纏い、人当たりの良さそうな笑みを浮かべている。
縁なし眼鏡がよく似合ってるな。と思いつつ、まるで理想の担任教師そのものだなと、俺の中でかなり高い評価をつけた。
「初めまして、雨天と申します。青魔法使いをやっております」
雨天さんの言う青魔法使いとは――。
「青魔法使いは使える魔法が水属性魔法と氷属性魔法に限られる分、回復魔法にも高い効果を出せる難しい職業だ」
「いえ、そんなことはっ!」
なんかデジャブだな……。
揶揄うケンヤに対し慌てて首を振る雨天さん。
標的が自分ではないからか、ライラさんは悪戯な笑みを浮かべ、二人のやりとりを煽っている。
ともあれ、攻撃と回復を両立するのは簡単とは言えないし、揶揄うわけじゃないが大変な職業だと思う。
「魔法使いが一人でも加われば安定するパーティだとは思ってたけど。相変わらず確保が早いな」
「新規プレイヤーがごろごろいる今の時期は、有能な人材を集めやすいんだよ」
「職業癖が出てるぞー」
ライラさんの時もそうだが、人と打ち解けるの早いな本当。
「彼女とは東ナット洞窟で会った。洞窟と言うからには岩のような体を持つモンスターも居て、それらの弱点が水だからって理由でレベル1なのにガンガン進んでたのは驚いた」
「ケンヤが『逃がすな!』って言うからどんなモンスターが居るのかと思えば、一騎当千の魔法使いを捕まえてくるとはねー」
「捏造です! ダイキさん、真に受けないで下さいね」
どうやら雨天さんはパーティ内での弄られキャラらしい。囃し立てる二人に必死になって反論している。
「見てみたいな、俺も。一騎当千」
「ダイキさんっ!」
運ばれてきた大量の肉料理にフォークとナイフを使い、不器用ながらも口に運ぶダリア。ハムスターのようにパンパンになった頬を突いていると、話題はダリアへと移っていた。
「ダリア嬢の戦闘力はどんなだった?」
料理を口に運びながら、ケンヤは気になっていた事を切り出した。
「あぁ、北ナット林道の蟷螂は一撃だったから、次は洞窟に行こうと思ってる」
「「一撃!?」」
俺の回答に、ケンヤとライラさんは声を荒げながら身を乗り出した。
「――い、いや、ダリアの本領は火属性魔法だ。林道の主なモンスターの弱点だし、不思議じゃないだろ」
「いやいや、弱点とはいえ蟷螂は林道のエリアボス的存在だぞ」
「私達なんかボロボロになりながら倒したのに……」
エリアボスだったのか。弾きの練習にはうってつけの相手だったが、確かに一度しか遭遇しなかったな。
流石、あれもこれもよく食べるだけはある。
ダリアを撫でてやると、さも鬱陶しそうに目を細めていた。
「ダイキ。すまないが、俺たちともう一度パーティ組んでくれないか?」
「え、いや、この後は洞窟で採掘するつもりなんだけど……」
「それでも構いません! ダイキさんとダリアちゃんの戦闘が見たいです!」
参ったな、技術者の心得で採掘し易くなってる筈だから、ログアウトまでずっと篭ってようかと思ってたんだけど。
俺が困った顔を浮かべているのを察したケンヤは、すかさず条件を付け加えた。
「わかった、俺のお古だが防具をやる。それとこの場の支払いは俺が請け負う。ダメか?」
ふむ。防具はおいおい買うつもりだったし、βテスターのお古なら見習いシリーズより性能は良さそうだ。
が、何より……。
「わかった、乗ったよ。その代わり、俺はあまり戦闘に参加しないぞ」
「決まりだな。俺たちとしては召喚獣の実力に興味がある。メンバーを選ぶ判断材料になるからな」
うんうん。と、ケンヤが頷きながら語る。横でガッツポーズを取るライラさんと、申し訳なさそうに頭を下げる雨天さん。
いやいや、雨天さん。申し訳ないのは俺の方だ。
既に何皿目かもわからない肉料理を平らげるダリアを見ながら、俺は心の中で手を合わせた。