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ダンジョン『試練の洞窟』②


 林を抜け、川を渡り、森を歩く。


 前衛は港さんとキング、後衛はダリアとケビン。部長を乗せた俺が後衛陣に挟まれる形で歩き、出会ったモンスターを迅速に排除していく。


 フルパーティ(六人)となったお陰で火力は上がったものの部長の仕事は増えていた。LPが減少した者には回復魔法を、MP・SPが枯れそうな者には分配を飛ばし対応し続けているものの、強化(バフ)魔法と弱体化(デバフ)魔法に加え自身への回復は追いついていないのが現状である。


 部長とは常にシンクロでリンクしておき、視界右下にでているパーティの情報に気を配りつつ、干渉によって部長の手が回っていない強化(バフ)魔法・弱体化(デバフ)魔法と回復薬の投与、流れ弾の弾き(パリィ)と鼓舞術による強化も忘れない。


 シンクロによる視界の二画面化に加え、部長の補佐役で脳が持っていかれた(他の事に頭が回らない)状態である。が、その成果も十分あり、平均レベル30のモンスターとの戦闘もサクサクと進めていた。


 しばらく黙っている俺を気にかけ、港さんが声をかけてくる。


「大丈夫か? あと少しで着くぞ」


「了解です」


 大丈夫ですとはとても言えなかった。干渉によって部長の魔法発動を操作するには、部長の視界の中に対象を映していなければならず、俺の視界に映っただけでは発動されない。

 つまりは、部長の画面と俺の画面を両方出していなければ干渉は効果を成さず、強化(バフ)弱体化(デバフ)が疎かになる。


 昔のゲームに例えるならば、二つの画面で別々の視界、別々の技能(スキル)を操るような状態だ。コントローラーは俺自身であるから、その分難易度は下がっているかもしれないが。



 そのまま何度か戦闘を続けていくと、視界先に開けた空間と、巨大な洞窟が現れた事に気がついた。

 画面を一画面に戻し、酔うような感覚を頭を振って打ち消しながらその洞窟を眺める。


 長い年月ここに存在しているのか、枯れた蔓や新しい(つる)幾重(いくえ)にも絡まり合っているため、森の中に妙に溶け込んでいた。


 岩でできた洞穴というよりは、朽ちた神殿のような、人工物を彷彿とさせる素材が見え隠れしている。

 蔓に半分程度まで侵食されているが、むき出しの部分は白い石造りの質感が確認できる。


「ここですか?」


「おう、ここだ。一階部分は既にダンジョンだが、敵や罠に攻撃力が設定されていない。経験値や金の類もそうだが……まあ休憩がてら、早いとこ入るぞ」


 俺を気遣ったのか、港さんは手をヒラヒラさせながら、ぽっかりと空いた入り口らしき穴へと進んでいく。

 遅れて俺たちも歩き出し、初のダンジョンである試練の洞窟へと足を踏み入れた。




 薄い水の膜をくぐったような感覚に、元来た道を確認するように振り返った。

 後ろにはひたすらな闇が続いており、二度と外へは出られないかのような不安感を覚える。


「ここが試練の洞窟の一階だ。出てくるのはスライム、ゴブリン、ラット、バット、プラント、ロック、ゴーストなどの初歩的()つそれぞれ別の種族のモンスター群でレベルは30固定。さっきも言ったように、途中途中に罠もあるが全て攻撃力は0だ」


「ダンジョンに来て初めてチュートリアルっぽいのが設けてあるって、タイミングおかしいですよね」


 確かにな。と、肩を竦めつつ、港さんはダンジョンを進みだす。


 危険がないと察しているのか、港さんの言葉を理解しているのかは不明だが、キングは俺の足元で体を擦り付け戯れているし、ダリアも負けじと逆の足にしがみついている。


 まるで合体変形ロボのようになっている自分の足を引きずるように動かしながら、港さんの後を追った。



 液体状のスライム、亜人型のゴブリン、獣型のラット、飛行型のバット、植物型のプラント、無機物な岩のロック、物理攻撃無効のゴースト。

 正しくチュートリアルと言うべきか、様々な戦況・敵を想定した作りになっている試練の洞窟一階を、無駄に戦闘する必要もないと、全部無視して進んでいく。


 分かれ道があるものの、港さんは一度来ているのか行き止まりで足止めを食う事がない。途中途中で仕掛けられた罠にもダメージが無いため、それらも無視である。


「ちょっとここで数分休むか」


 港さんがそう提案したのは、ダンジョンに入ってから十分程経ってからだった。

 俺が頷くのを合図に、港さんは開けた空間の真ん中で胡座をかくと、部屋を見渡すように顔を動かした。


「ここはダンジョンに必ず存在するセーフティーエリアだな。特徴としては周りにうすーく魔法陣が描かれていて、ここでは一切のモンスターが湧かないし入ってこない」


 臨時の休憩所のような場所か。確かに、時間のかかるダンジョンともなれば、現実(リアル)の事情も絡んでくるだろう。

 俺も港さんに続くようにその場に腰をかけると、キングとダリアがすかさず俺の足の上を陣取った。二体共、体半分を足から(こぼ)しているが、気にしている風はない。


『疲れたか?』


『ごしゅじんが手伝ってくれたからへいきー』


 部長も特に疲れてなさそうだ。

 まあ、スタミナ的な部分では誰よりも楽しているんだがな。


「丁度いい機会だし、ダイキのクラスチェンジした存在愛の召喚士について、教えられる範囲で教えてくれないか?」


 パーティメンバーのステータス確認や、戦闘中の俺の様子から、クラスチェンジした俺に何かしらの変化があるのだと感じていたはずの港さん。

 それでも戦闘中は一度も聞いてこなかった所に、俺を気遣う心が感じられた。


「パーティメンバーに隠してたら勝てる試合も勝てなくなりますよ。では順を追って話していきますね」


 お互いの技能(スキル)をフル稼働しなければトーナメントは勝ち残れないだろう。

 俺は推薦状を使って出現させた事や、職業の効果、そしてシンクロと干渉についても港さんに話した。

 港さんは終始頷き、頭の中で色々と整理し終わったのか、俺が話し終わった数秒後にゆっくりと語り出した。


「存在愛の召喚士――俺はこれがダイキの言う、ただ親密度の限界を突破し、上昇率を上げるだけ(・・)のクラスとは思えないな」


「でも、直接的なステータス上昇はありませんよ?」


 顎髭(あごひげ)をシャリシャリと弄びながら、自分の考えを淡々と話す港さん。

 親密度を上げる事に関しては特出した性能があると思うものの、ステータスへの直接的な恩恵はない。

 それこそ港さんのように力の召喚士の方が戦闘において武器になる性能があると言える。


「召喚獣にはステータス上昇の解放という、進化とは別の強化ステージが存在する。それらは召喚士の何かを縛ることで解放される……召喚士はある条件を満たさなければ、ステータスが縛られたまま過ごすこととなる」


「ある条件?」


「親密度を上げる。さらに詳しく言うと、親密度30・60・90が節目として設定され、その都度縛られた何かは解き放たれていくんだ」


 港さんの言葉により、心当たりが一気にフラッシュバックしたように頭を駆け巡る。



『ダリアの秘めたる魔力が解放されようとしています。永続的にMPの3/4を消費し、ダリアの魔力を解放しますか?』



 俺が初めてステータスを振り分けたあの日。ダリアの上限解放により俺のMPが1/4となったあの日――


 ダリアが進化した時に1/2へと戻ったMPは、ダリアの親密度の上昇と共に、緩和されていた。



 ――そして今、ダリアの親密度は67



 俺のMPは最大値の3/4まで回復していた。


「俺のキングは敏捷が上限解放され、今俺の器用は半分の値になっている。ケビンは解放されないことから、解放には『種族値』が絡んでいると考えている。キングは4で、ケビンは3だ」


「……キングとの親密度は?」


「42だな。次の緩和まで18あるが……親密度の上がり辛さは召喚士の永遠のテーマだ。その親密度が上がりやすくなる、加えて親密度の限界突破となれば――化けるぜ、そのクラス」


 リスクを伴う上限解放、それを緩和するための親密度。

 それの上昇を助けるクラス――存在愛の召喚士。


「そしてシンクロ。干渉もだが、とんでもない内容だな。召喚獣との会話はどの召喚士達の夢だし、干渉があれば……言い方は悪いが、召喚獣を手足のように操れる。反動でグロッキーなのは二画面に酔った普通の反応ではあると思うが、使いこなせれば強い。何より――死角が無くなる」


 シンクロをしている召喚獣となら、連携以上の動きで合わせることができる。

 極端な話、俺の背中に召喚獣を括り付けていれば俺は360度の視界を手に入れることができることになる。


「トーナメントまででモノにできるかどうか……」


「普通は無理だろう。別々に動く二画面を把握しつつ、絶妙なタイミングで動き、技能(スキル)の使い分けできる奴は人間の域を超えている」


 本音としてはやってもらいたいけどな。と、港さんは、後頭部を掻きながら苦笑する。



『「今回のトーナメントで活躍するのは『個の力が強いプレイヤー』だと俺は予想してる」』



 ケンヤの言う〝個の力〟。

 俺と召喚獣達はシンクロによって一心同体になれる、全にして個の存在。




 そうか、俺の武器は――シンクロだ。

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