Seed ②
トッププレイヤーに勝つ方法ねぇ。
他のプレイヤーを軽視するわけではないが、確かに、一番の脅威に合わせて対策をしておくのは必要かもしれない。
参加する以上は上位を狙いたいし、上位を狙うとなれば、やはりトッププレイヤーが絡んでくるのは間違いない。
「純粋なレベルの差ってどのくらいあるんだろうな?」
「現在出ているダンジョンで最も難易度が高い――つまり推奨レベルの高い物で50があるそうですね。公表していないだけで、もう少し高いレベルのダンジョンも攻略中かもしれませんが……」
考えるそぶりをするケンヤに代わり、雨天さんが答えてくれた。右手で何かを操作しながら、会話内容を同時進行で調べているらしい。
器用な人だな。と、心の中で拍手を送る。
ともあれ、レベル50のダンジョンか……となると、ボスもレベル50近くの個体が出ているのだろうか? インフィニティ・ラビリンスで対峙したブラック・ドラゴンと同格のボス。勝てるビジョンが湧かないが……。
「推奨レベルに10も差があれば内容が相当変わってくる。高ければ楽勝だし、低ければワンパンもある。そのダンジョンが最新且つ最難関だと仮定すると、クリアをしたプレイヤーともなれば間をとってトップ連中が50以上、最前線が45以上くらいが妥当な所か?」
かなり適当な値だが。と、付け足しながらケンヤが推測を立てる。
港さんも最前線とは言っていたが、最後に見た時で40届かない位だった。最前線組の中でもレベルにムラがあるということだろうか? そして、それらを凌駕するトッププレイヤーとはどの領域にいるのだろう……。
「今のレベル――少なくとも、俺と召喚獣達じゃ最前線組にも厳しいと思うんだが」
「確かに、最前線組の合同パーティと当たれば厳しいかもしれないが……今回のトーナメントで活躍するのは『個の力が強いプレイヤー』だと俺は予想してる」
「個の力ねえ……」
半信半疑なニュアンスの受け答えに、ケンヤは構わず持論を展開していく。
「考えてもみろよ、このゲームはサービス開始からまだ一月も経っていない。最前線にいるプレイヤーの殆どが、今日までがむしゃらにレベルを上げてきた連中だ。自分と同じクオリティでプレイできる人物とパーティを組むのは、そう簡単な事じゃない」
ふむ。言わんとしている事はわかるが……。
脳への負担の関係上、ゲームには睡眠行為以外での連続稼働時間に制限があるし、それでもみっちりやっている人達こそが、この最前線組だと言える。
自分の職業、立ち回り、活動できる時間帯、そしてレベル。これらの条件が合うプレイヤー同士が出会い、手を組める確率はどれほどあるだろうか?
『自分自身が主人公』であるこのゲームは、基本的にプレイヤー間の会話が必要となる。性格の合う合わないもあるだろうし、即席パーティでトーナメントに参加するとなれば、付け入る隙がある。
即席な分、盾役や回復役さえ先に仕留められれば、後は脆く崩れ去るだろう。勿論、それまでに培った経験を生かし、立て直す事も考えられるが――パーティに一人でも狼狽えるプレイヤーが居れば、間違いなく隙になる。
団体戦において最も厄介なのが、ケンヤ達みたくサービス開始日からすぐにパーティを組んだ、結成期間の長いパーティ。阿吽の呼吸とまでは行かないだろうが、それが最前線組ともなれば絶望的だ。
あれこれと思考を重ねる俺が黙っていると、見兼ねたケンヤが更に続ける。
「団体戦で勝つためには、自分にしかない『味方の助けとなる武器』を理解し、使いこなすことだな。これが勝つための切り札になる」
「個人技で終わらない、自分にしかない武器か……」
「ま、結果として統率力の低いパーティは我の強い奴のワンマンプレイになるだろうし、それこそが強みとなる個人戦は正直トッププレイヤーの独壇場だな。これに関しては作戦ではどうにもできない、勝てればスーパーラッキー。個の強さが色濃く出るね」
「私達も記念に個人戦もエントリーしていますが、どこまで行けるか……」
彼等の口ぶりからして、個人戦はほぼ捨て戦。本命は団体戦だろう。
俺が出場する予定の形式は団体戦と混合戦。団体戦は攻撃役の港さん、キング、ダリア、ケビン。盾役兼攻撃役の俺と、回復役兼支援役の部長。これで確定だ。
高い攻撃と敏捷を持つ港さんとキングが場を荒らし、ダリアとケビンが的確に敵を叩く。俺と部長は共に行動し、部長の手が回らないようならシンクロの干渉で補助。隙があれば俺も攻撃に参加となる。
まあ役割として、俺と部長の比重が大きいものの、この形が最も高い効果を出せる。避けなければならないのは、俺の死のみ。単純明快な陣形なだけに、混乱も少なくて済む。
「じゃあちょっと人を待たせてるから、ここら辺でおいとまするわ」
「おう。いつでも来てくれよ」
「お待ちしております」
そんなこんなで、ケンヤ達とざっくりとしたトーナメント対策の話が終わる。驚いたのが、ケンヤだけでなく雨天さんも勝ちに貪欲だった所だ。
――尤も、当たった時は勿論、全力で相手をするつもりだが。
Seedのギルドホームは更に人数が増え、ダリア達召喚獣を取り囲むプレイヤーでごった返していた。
見ると、通常サイズに戻った金太郎丸に、ダリアと部長が乗り、その姿を恍惚の表情でスクショし続けるライラさんが目立っている。
ざっと数えて――30人近くいるな。ほぼ全てのプレイヤーが見習いシリーズを着ているから、始めたての初心者だろうか? 思っていた以上に在籍してるんだな。
「み・え・な・いー」
近くでぴょんぴょん跳ねながら、召喚獣達を覗こうと必死なクリンさんを見つけ、声をかける。
「クリンさん」
「っへ!? あ、ダイキさん」
体をビクつかせながら振り返るクリンさんは、はしたない姿をお見せしましたと、顔を赤くしながら口を押さえた。
「トーナメントの二日後に、風の町で召喚士達の交流会があるそうなのですが、クリンさんもいかがです?」
「い、いいですね! 行きます! この子にも友達ができるといいなあ……」
言いながら、クリンさんは自分の抱く召喚獣を気にかけるような表情のまま、目を落とした。
クリンさんの腕に抱かれているのは、美しい黒い毛並みの獣型召喚獣。さっき見た時は犬かと思っていたが、どうやら少し違うようだな。
俺を見上げる、キリリとつり上がった目は鋭く、足には大きな爪が伸びている。犬にはシベリアンハスキーという種類が存在するが、この子は更にそっち寄りだ。
「狼ですか」
「ええ。ですがこの子、誰とも仲良くできなくていつも金太郎丸と喧嘩してるんですよ……」
大人しく抱かれている所を見るに、少なくともクリンさんには懐いているようだが……まさに一匹狼というやつか。
「名前はなんて言うんですか?」
「ガブ丸です」
またなんとも可愛い名前だな。
クリンさんの手に抱かれたガブ丸の顎辺りをゆっくりと撫でると、懐っこい犬のように目を細めて大人しく撫でられていた。
仲良くできないというか、召喚獣嫌いなのかな?
「あ! ダリアちゃん! どこいくの!?」
やば! ダリアのセンサーに引っかかってしまった! 声を上げてくれたライラさんに感謝しつつ、ガブ丸から手を離す。
そのまま、人の足を潜り抜けながら現れたダリアを抱きとめた。
俺の顔をジッと見上げながら顔を押し付け、まるで飼い犬のように俺の身体の匂いをクンクンと嗅いでいるのがわかる。
『見てたよ』と言わんばかりにジロリと俺を睨んでいるが、シンクロは使わないでおいておこう。絶対、不満を漏らしているに違いない。
「と、というわけで、よかったらこのギルドに所属している召喚士の人も誘って来てください」
「ふふふ、わかりました!」
一連の流れを見ていたクリンさんが吹き出すのを尻目に、人混みの奥にいた部長を回収、ライラさん含むギルドメンバー勢に挨拶し、Seedを後にした。
個人戦がトッププレイヤーの独壇場となれば、団体戦は激戦区だ、かなり熱い戦いが繰り広げられるのが予想できる。
俺も、港さんとの連携の練習をしっかりと積んでからトーナメントへ臨もう。




