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竜の肉

 

 ポータルから転移した……が、まだまだ気温が高い。灼熱洞窟からそこまで離れていなんじゃないのか? ここ。


 部長は緊急睡眠によって回復中なため、トルダの腕の中で実に幸せそうに寝音を立てている。


 辺りを見渡す。


 赤銅色の地表が広がるその場所は、建物も地表と同じ赤銅色。石というよりも粘土っぽい素材で建てられたような、丸みのある柔らかそうな質感の家。それが規則性なく様々な場所に建っていた。


 周りに草木は一本も生えていない。所々に火山灰が積もり、どこからか集められたのか山が作られている。


「なんだろうな、この場所」


「なんか、行ったことないし空想上の物だけど、地底人の住処って感じ」


 トルダも、この見慣れない風景を物珍しげに見渡している。ダリアは興味なさそうに、しゃがんで火山灰の城を作り始めていた。


 確かに、ここが地底人の住処って言われれば、なるほどなと、変に納得してしまうような不思議な光景だ。

 ゲーム世界だから現実(リアル)に無い不思議な光景なんて嫌という程あるのだろうけど、今までの町は現実(リアル)っぽさがあったから、なんとなく馴染めていたんだろうなと勝手に解釈する。


「とりあえず、進んでみるか。流石に何も無い場所にポータルが設置されてるはずないしな」


「わかった」


『行くぞーダリア』


『お城』


 出来た城を自慢気に見せてくるダリアの頭を撫でてやり、手に付いた火山灰を払ってやる。肩車をしてやると、前回のように絡みつく事はしなくなっていた。


 感情が爆発してたのかな。見た目相応の可愛い子供じゃないか。


 スヤスヤ眠る部長を抱くトルダの隣を歩く。しばらく進んでいると、町中に人影がいくつかある事に気が付いた。


 背が低いおじさん? が、(スス)だか何だかで黒く汚れた厚手の服を身に纏い、腰にボロのハンマーをぶら下げ楽しそうに雑談を交わしていた。


 よく見ればプレイヤーの姿もちらほらと確認できる。フルプレートアーマー(全身鎧)を着て歩く盾役(タンク)の人を見ると、こっちまで暑さにやられそうな気分になるな。


「こんばんは」


「こんばんは」


 近くにいた背の低いおじさんに挨拶をする。トルダがそれに続くと、おじさんはさも嬉しそうにガハハと笑った。


「おう! 異人さんよ! 火の町へようこそ!」


「火の町っていうんですね」


「そう! ここは漢と金属と浪漫(ロマン)の町! 金属製の武器や防具なら俺たち火の町の『ドワーフ族』に任せろ!」


 ドワーフ族。よくファンタジーの世界で登場する、エルフ並みに知名度の高い種族だ。基本的には背が低く、恰幅(かっぷく)のいい初老の男で描かれる場合が多く、斧を背負った戦士だったり、鍛冶師だったりと力が自慢なまさに漢。


 この人も例に漏れず、白髪交じりの(たくま)しい髭と、海賊(ヴァイキング)がするようなツノ付きの金属ヘルメットという、いかにもな出で立ち。身長は140センチ程だろうか、発達した腕は俺の太ももほどの太さがあった。


 お礼を言ってドワーフと別れた俺たちは、町の中をぐるりと一周していった。あまり綺麗とは言い難いが、灰色に濁った湖の水は潤沢。動物は馬や牛どころか、野良猫一匹いない。何を食べているのだろうか。


「お、食事処があるな」


「いいね。行ってみようよ」


 少しドワーフ達の食が気になったので、道中見つけた食事処に入る。ダリア以上にトルダがノリノリだった事に驚く。もし腹ペコなら、ログアウトしてちゃんとした食事を取ってもらいたいものだが……。


 店内に入ると、店員も全てがドワーフだった。ピチピチのシャツとエプロンで出迎えてくれたおじさんを、笑っては失礼だと下唇を噛んでやり過ごす。クスクス笑うトルダになんとか釣られずに席へと着き、メニュー表を開いた。


「竜の足、竜の尻尾、竜の目玉って……おいおい」


 ゲテモノしかないじゃん、この店。

 何? この竜のフルコース。


「私きーめた」


『ダリアも』


「待てよお前達。ファミレスじゃないからなここは。即決できる定番メニューないだろ。よく見ろ、ポテトとかないだろ」


 メニュー全てに竜が付いてるんだが、この竜ってマジモンの竜か? というか、トルダとダリアの注文を決める速度がおかしい。


「ちなみにどれにしたんだ?」


「私は『竜の尻尾』にした」


『ダリアは全部にした』


「ダリア、それは勘弁してくれ」


 金足りずにドワーフのおじさんと並んで皿洗いとかハイレベルすぎる。しかも全部って竜丸ごと一匹焼いたのを出されるんじゃなかろうな。


 とりあえず食べてみないことには始まらないか……うし、ちょっと俺も冒険してみるか。




 円卓型のテーブルに並んだのは、こんがりと焼き目のついた足、尻尾、腕。自分の頼んだ注文分である竜の足はかなり筋肉質で大きい。両側から骨が突き出した形は、一度は憧れる『骨付き肉』そのもので、溢れ出た肉汁が食欲を(そそ)る。


「あはは! ダイキそれ最高! スクショ撮らせて」


 今時女子かコイツ……いや、今時女子だな。


 巨大な海老のように、プリッとした肉質の竜の尻尾を頬張(ほおば)りながら、トルダは両手で骨を掴む俺を何度か写真に収めていた。ダリアは竜の腕に夢中になってかぶりついている。


 皆、度胸あるな。


 大きさがティッシュの箱程度ある竜の足に、付属の塩をかけ、かぶりつく。やはり筋肉質な見た目の通りかなり固いが、味がいいぞ。牛の肉や豚の肉とは違う、なんというかワイルドな味わいだが臭みはない。


 これは――


「うまいな……」


「それはもう」


 いつの間にか隣に来ていた店員ドワーフが、満足そうに相槌を打つ。口をベチョベチョに汚すダリアを気遣って多めにナプキンを用意してくれたようだ。有難い。


「竜の肉って初めて食べました。なんというか……食べ応えありますね。美味しいです」


「本物の竜の肉は更に美味ですよ。リザード族の肉も歯ごたえ、味、共に文句無しですが、竜の肉は点数の付けようが無いと聞きます」


「へえー。リザード族の肉よりねえー」


 ちょっと待て店員。これ、リザード族の肉なのか? 人型の敵だから結構抵抗あるぞ……。


「お客様は異人様とお見受けいたします。それも灼熱洞窟を通ってきたとか」


 肉を持ちながら悶絶する俺には御構い無しに、店員ドワーフは指を立てて続ける。


「ドワーフ族の主食は肉です。それもかなり歯ごたえのある味の濃い肉。竜とリザード族の種族としての差は、人族と獣人族ほどの御座いますが、それを差し引いても美味……いえ、人は食べませんよ? どうでしょう、お帰りの際に私にお声掛けしていただければ、手持ちのリザード族の肉を買い取り致します。それではごゆっくり」


 自分の喋りたい事だけ喋った店員ドワーフは上機嫌でカウンター内へと戻っていった。食べるのに夢中のダリアとトルダは会話を一ミリも聞いていない。


 この肉がリザード族の肉なのは……まあ、いいとして。あの店員ドワーフの発言の中にかなり差別的な言葉が含まれていたような――


 考えすぎだろうか……。




「うし、じゃあキングリザードの報酬を山分けしようと思う」


 無事完食できた俺たちは食後のコーヒーを飲みながら一息つく。苦いのが苦手だというダリアは『棘ブドウのジュース』を飲んでいる。痛そうな名前だが、飲んでいるダリアには特にリアクションが無い。


「え? 経験値も素材も、お金も入ってるけど?」


「ボスを倒すと最大3つの、褒美みたいな物が貰えるんだ。トルダが受け取ったのは皆が共通でもらえるアイテム群だから、それとは別物だな」


 ボス討伐が初だといっていたトルダに、ボス報酬の内容をざっくり説明する。今回は初個体ではないため、当然『初個体撃破報酬』は貰えていない。


 俺はアイテム欄をスライドさせていく。今回は撃破報酬とMVP報酬の2つが貰え、召喚獣が多く、故に貢献度が高い俺が総取りとなっていた。


「まあ、それがこの2つだな」


「どれどれ……」


 トレード画面に両方を載せ、彼女に詳細が見えるようにする。とりあえず俺も目を通しておこう。欲しい物があるかもしれない。




【スキル取得券】#撃破報酬


スキルを取得する事ができる券。

11個目以降のスキルは控えに移される。

入れ替え可能。


分類:消費アイテム



【灼熱の盾】#MVP報酬


灼熱のキングリザードが持つ、炎を纏った盾。盾としての性能が高く、触れた相手に火属性のダメージを与える特殊技能(スキル)が備わっている。


必要筋力:75


特殊技能『炎攻撃付属』


耐久+68

筋力+15


分類:片手盾



 スキル取得券が来たか。かなり確率の低いアイテムと聞くが、俺が目にするのはこれで2度目だ。好きな技能(スキル)を一つ選べるのは、かなり大きなアドバンテージとなる。


 そしてMVPの方だが……。


「悪い、トルダ。盾は俺にくれ」


「私は使わないからどうぞー。じゃあスキル取得券? とかいうの貰っておくね」


 良かった……将来を見据えるならスキル取得券も捨てがたかったが、この盾は熱い。装備すれば本当に熱そうではあるものの、これはなかなかの浪漫(ロマン)装備だと言える。


 燃えてる盾とか強そう。


 要求値がかなり高いだけに性能も良い。オルさんに作ってもらったハイメタル・バックラーも見た目ともども良品だったが、強い装備が出れば、俺は迷わずそちらを使う。


 防具とも相まって中々に統一化のあるキャラになってきたんじゃないだろうか。ともかく、これを早く使ってみたいところだ。

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