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灼熱洞窟のフィールドボス

 

 完全に戦闘態勢になったキングリザード。轟々(ごうごう)と燃える右手の炎の斧が俺目掛けて振り下ろされる。咄嗟(とっさ)に、真横にいたダリアを抱えて退避しつつ、シンクロで二画面に切り替えた。


 左の画面に映されたのは、背を向けたキングリザードとそれに対峙する形で立つ俺とダリア。弓に矢をゆっくり(つが)える手も写っている。


 どうやらトルダ達は逆方面へ抜けたようだな……。こちらからは砂煙でよく見えないが、無事なら問題ない。このまま敵視(ヘイト)を維持して耐える。



【灼熱のキングリザード Lv.31】#BOSS



 レベルだけで見ればダリアでも十分射程圏内だ。向こう側にいるトルダ達には後方支援に勤めてもらおう。

 ダリアと少し距離を取り、挑発により敵視(ヘイト)を稼ぐ。キングリザードが此方へゆっくりと体を向けたタイミングで、ダリア達の援護射撃が開始される。


 お構いなしだと言わんばかりに、キングリザードが斧を振り下ろす。腕の見せ所だな。俺は盾で胸部分を覆うように構え、迎え撃つ。

 技術者の心得によって、弾き(パリィ)のタイミングを知らせる光の強弱が始まる。大きなレベル差がない為速度は速すぎず遅すぎず。


 ここは勘と経験で叩く!


 ガツンという、巨大な何かと何かがぶつかったかのような破裂音と共に、空気の波が衝撃波を生み、巻き込まれたパーティ全員のLPがガリッと減った。


 何だ? 弾き(パリィ)は成功しているのに、皆にダメージが入ったぞ。


 その証拠に、キングリザードは斧を跳ねあげられた状態で仰け反っている。すかさずダリアによる黒の大剣(ブラックブレード)で確定Criticalが叩き込まれ、三本あるキングリザードのLPが15%減少した。


 続くように、無数の矢が流星のように降り注ぎ、キングリザードのLPを連続して削っていく。黄色の光を放つ矢の群れを、鬱陶(うっとう)しそうに手でガードしながら、キングリザードは巨大な体躯をぐるりと回転させる。


 尻尾による薙ぎ払い。


 周囲にいた俺やダリアは勿論、トルダも尻尾に吹き飛ばされ、溶岩の手前にぐしゃりと落ちた。

 キングリザードの敵視(ヘイト)は未だ俺を向いているからトルダへの追撃は回避できたが……まずいな、部長が殆ど動けていない。


 ここに来て部長が完全にダウン。シンクロこそ繋がっているものの、回復魔法が飛んでこない。今の攻撃と衝撃波で発生した謎のダメージにより俺のLPは6割を下回り、ダリアは3割、トルダに至ってはドット単位でしか残っていない。


『部長、聞こえるか?』


 しかし応答はない。


 ……くそ、距離によって制限が掛かるのか? このままだと次の衝撃波でトルダは間違いなくリタイアだ。蘇生させるにしろ、どの道部長を復活させない事には……。


 ここが好機(チャンス)と察したのか、地鳴りと共に速度を上げるキングリザード。とりあえずはダリアと離れておかなければ巻き添えになる。


「『こっちだ』」


 一度挑発を入れながら、入口から見た北の小穴へと駆ける。トルダ達のいる場所は西南の位置。ダリアが南東の位置であるから、距離的にはかなり稼げる筈。


 未だ二画面は続いている事が、部長の意識はあるという事実を肯定している。これには部長が目で見ている光景が入ってくるからだ。


「衝撃波は弾き(パリィ)によって生まれたのか? ……迂闊(うかつ)に武器と接触するのは悪手(あくしゅ)だな」


 キングリザードが燃え盛る炎の盾を振り下ろす。あまりの威力に盾に纏う空気が可視化され、盾が通過した所に白の尾ができる。まるで巨大な槌の下にいるような、空気もろとも押し潰すプレッシャーに盾弾き(シールドパリィ)は諦め二度の横ロールでなんとか(かわ)す。


 地面へと着弾した炎の盾は再び赤の衝撃波を生み、波紋のように広がるそれは体を通過し、俺を壁際へと吹き飛ばす。


 原理がわからん……何かに接触したら無条件で衝撃波を生むとか、そんな鬼畜仕様じゃないだろうな?


 幸い、遠く離れたトルダ達やダリアまで衝撃波は届かないらしく、キングリザードの足元から巨大な黒塗りの大剣が突きあがる。ダリアの援護射撃によってキングリザードのLPが削られ、悲痛な叫びが木霊(こだま)する。


『部長。大丈夫か?』


『ごしゅじん。あつくてもうだめだー』


 再び部長の心に語りかけるも、帰ってくる返事は弱々しい。トルダは手持ちの回復薬を使ったのか、LPを半分近くまで回復させていた。


 青色の尾を引く矢が螺旋(らせん)回転しながらキングリザードの腕を撃ち抜いた。ダリアの援護射撃とも相まって連撃ボーナスが入る。




 何度も繰り返される攻撃、防御、そして衝撃波。何度か回復薬を使用したものの、やはり攻撃されていると動作が追いつかない。ストックもそろそろ尽きそうだ。

 体勢を立て直したキングリザードが、標的()に向かって突進を仕掛けてきている。


 フットボールのタックルのように、肩を突き出し駆けてくるキングリザード。弾くも駄目、避けるも駄目、回復も来ないって……キツいなあ。


 直撃は何よりも許してはならない。芸もなくただロールでその場から離れる俺に、再び襲う衝撃波。装備の機能ではなく、奴自身が持つ(アーツ)か何かか? 厄介な……。


 俺のLPが2割を切る。回復薬を用意しようにも、キングリザードの猛攻は止まらない。醜悪(しゅうあく)な笑みを浮かべながら、燃え盛る凶悪な斧を振りかざした。


 俺は部長の画面に意識を向け、何か出来ないか探る。部長の視界には遠くの方で斧を振り下さんとするキングリザードの姿と、盾を構える俺。必死に魔法を使うダリアと、何度も弓で援護射撃するトルダの姿が映る。


 部長の意思に関係なく、俺に回復魔法が飛ばせれば……。


「ダイキ!」


 トルダの叫び声にハッとなり意識を戻すと、炎を纏う巨大な斧が目前に迫っていた。回避不能と判断し、ダメージ覚悟で盾弾き(シールドパリィ)を繰り出す。


 金属同士がぶつかる甲高い音共にキングリザードの斧が宙を舞い、回転したのち地面に突き刺さった。しかし衝撃波は防げない。既に生まれていた衝撃波は一瞬で俺の体に到達し、壁へと叩きつけられる。


 まずい、下に溶岩が。


 落下する前に壁を蹴り、崩れ落ちるように地面へ着地。俺のLPは1割を切っていた。先程の盾弾き(シールドパリィ)が失敗していたら、間違いなく死んでいただろう。


 ダリアがすかさず確定Criticalにてキングリザードに大きなダメージを与え、奴の巨体がよろめいた。流星のように降る矢の嵐に体を撃たれ、地面に刺さる斧と共に倒れこむ。


 部長の画面から、俺に向けて回復魔法を放つような意識。部長の心の奥に訴えるように……。



「……お?」



 今、確かに。


 視界右端にあるパーティのLPバーを確認すると、俺のLPが半分近くまで回復していることに気がついた。部長がいる場所から光が飛び、俺の体に入り込む。それと同時に削られていたLPが回復し、遂には完全回復となった。


『部長! 復活したか!』


 支援がいればなんとかなると、歓喜のあまり部長を呼ぶも、彼女からの応答はない。その代わり一通のメッセージが現れていたことに気付き、キングリザードの動きに注意しつつそれを読む。



【親密度が一定量上昇しシンクロに『干渉』が追加されました】



 読んでいくと、使役する存在の心に入り込みその動きに干渉する事ができる。とあり、その存在に代わって力を発動できる(アーツ)らしい。


 調教術に近いものを感じるが……これが働いて回復が飛んできたのだとしたら、ダウンした部長の代わりに、彼女の体を借りて俺が回復役(ヒーラー)になれる。


『ごめんな、部長。もうちょっとだけ頑張ってくれ』


 ヨロヨロと立ち上がったキングリザード。奴のLPは残す所最後の一本のみ。ダリアとトルダが頑張ってくれているお陰で、相当削れている。ラストスパートだな。


 まずは部長の画面に意識を向け、乗り物となっているトルダを対象とし、部長を介して生命の癒し(ライフ・ヒール)物理攻撃強化(パワー・アップ)を掛ける。


 記憶を頼りに部長の(アーツ)を発動させていく。


 続いてダリアを対象とし、生命の癒し(ライフ・ヒール)魔法攻撃強化(マジック・アップ)を発動させる。


 部長の残りMPは半分。キングリザードを対象とし、物理攻撃弱体化(パワー・ダウン ) 物理防御弱体化(ディフェンス・ダウン)。そして衝撃波の特性が分からないため、念の為に魔法攻撃弱体化(マジック・ダウン)を掛ける。


 最後に俺とトルダへのSPの分配と、ダリアへのMPの分配にて『緊急睡眠』が発動した部長は、回復に努めるため状態異常『睡眠』となった。シンクロで繋がった視界がゆっくり閉じていき、シンクロが解除される。


 今は眠らせておいたほうがいい。彼女が起きる前に、ここで押し切るしなかい。


 熱にやられてもなお意地を張って付いてきてくれた彼女に感謝しつつ、万全の状態となった俺はキングリザードに向き直る。


 キングリザードには 物理防御弱体化(ディフェンス・ダウン)魔法攻撃弱体化(マジック・ダウン)弱体化(デバフ)が掛かっており、LPバーの横にそれを表すアイコンが表示されていた。


 ボス相手に二つも弱体化(デバフ)が掛けられたのは大きい。その上攻撃役(彼女達)には強化(バフ)が掛かっている。


 完全に形勢は逆転していた。




 キングリザードが巨大な光の塊となり、最後に雄叫びを上げながら爆散する。小穴の一つが崩れ、奥へと通じる扉が現れた。


 結果として一人の脱落者も出さなかった俺たち。スヤスヤと眠る部長は現在トルダの腕の中で寝息を立てている。


「私ボス戦初めてやったよ。熱かったね」


「ああ、暑いよな。とりあえずあっちの扉調べてみるか」


 ニュアンスが違うと怒るトルダを尻目に、俺は奥に現れた扉を開く。案の定、奥にはどこかへ通じるポータルが佇んでおり、ここで初めて安堵の溜息を吐いた。


 今回の件で回復役(ヒーラー)の重要度を再認識させられた。薬を常備していれば場を繋げない事もないが、クールタイムに加え、アイテムボックスから出す、蓋を開ける、飲むなり掛ける作業をするのにかなり時間を取られる。


 そしてフィールドの環境に対応できるアイテムなりが必要だな。オルさん達に会ったときにでも聞いてみようか。


「なんにしても、ボス戦お疲れ」


「ソロプレイがいかに無力なのかがよくわかった」


「雑魚戦はともかく、ボス戦は持ちつ持たれつだからな。どこかのタイミングでボスに挑む時は遠慮なく呼んでくれよ」


「りょーかい」


 調子よく敬礼するトルダ。


 しかしトルダの奴、倍近くレベル差のあるボス相手に善戦だったよなあ。攻撃技能(スキル)が弓術しかないっていうのに。


 頑張ったダリアの頭を撫で、ポータルに手をかざす。

 経験値やお金以上に収穫のあるボス戦だったな。

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