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P.P事件と夕食と

 

 露店の骨組みまで可愛くデコレーションされたマーシーさんの店では、数人の召喚士らしきプレイヤーが召喚獣達にあれこれと着せ替えを行っていた。

 主に居るのは女性プレイヤーであり、使役する犬や猫型の召喚獣に可愛い服を着せて悶絶している。


「幼女神様! ここ! ここ! 待ってたお!」


 邪魔にならない場所で店が()くのを待っていると、それに気付いたマーシーさんがピョンピョンと跳びはねながら俺たちを呼ぶ。と言うか、ダリアを呼ぶ。着せ替えして楽しんでいた召喚士達の視線が集まった。


「お義父さん! 俺も召喚士始めました!」

「俺の召喚獣見てやってください」

「親密度を上げるコツとかありますか?」

「ダリアちゃん可愛い! うちの子と一緒に……ああ! カピバラも可愛い、なにこれ!」

「私とフレンド登録してください!」


 たちまち囲まれるも、ママさん軍団とは違い召喚士や召喚獣についてのあれこれを聞かれたり聞いたりと、数分後には情報交換の場と化していた。


 途中、召喚獣達の集合写真を頂いたが……これは癒される。携帯の待ち受けにしよう。


 それから(しばら)く召喚士達との交流を深めた後、買い物が終わったプレイヤーから解散していき、残った俺たちは改めてマーシーさんの露店に近付いた。


「こんばんは、マーシーさん。大繁盛ですね」


「お義父さん、こんばんはだお! 固定客が増えてきて、やっと黒字になってきたんだお。僕の防具は召喚獣と魔獣の両方に装備できるし」


 魔獣とは確か『魔獣使い(ビーストテイマー)』というフィールドのモンスターを使役して操る職業の相棒の事だな。召喚獣のようにランダム召喚という不安定要素が無い分、理想のパーティを組み立てやすいとかどうとか。


「ポンチョを超える防具はまだ作れていないお」


「いえ、今日はこの子の防具を見繕ってもらいに来たんです」


 ダリアの頭から部長を抱き上げマーシーさんと対面させる。マーシーさんが一瞬だけ遠い目になったのを俺は見逃さなかった。


「素材持ち込みでも大丈夫ですか?」


「うーむ、作ってあげたいのは山々なんだけど……今はトーナメントに向けて召喚獣や魔獣の防具を注文するプレイヤーが増えてるんだお。既存の防具なら幾つかは……」


 マーシーさんは申し訳なさそうにトレード申請を開き、画面に防具を並べていく。獣型用として括られた防具達は前足と後ろ足、そして尻尾を出す穴が開いており、騎士のような頑丈そうな鎧から、着ぐるみのような可愛らしい物までかなりの種類があった。


「結構色々あるんですね」


「召喚獣や魔獣での一番人気は『獣型』だお。次点で『人型』そして『鳥型』『爬虫類型』と、需要に合わせた量を作っているから、獣型の既存の防具は潤沢なんだお」


 獣型が一番人気なのか……。家でペットが飼えないプレイヤーやライラさんみたくモフモフ好きなプレイヤーが多いのかもしれない。


 気に入った物を選んで試しに部長に着せてみる。


 しかし……


「部長。全部嫌なの?」


 様々な種類を着せども着せども、部長は体を揺すってイヤイヤをしている。好みがわからん……。


「あー、その子は防具を着たくないタイプの子だお」


「そんなのがあるんですか?」


「うん、ごく稀にいるお。服を着せられると暴れて嫌がって、脱がすと大人しくなるんだお」


 俺の祖父母の所の犬もそれだ。服着せてもすぐに食い千切ってビリビリにしてたっけなあ……となると、部長には装備付けられないのか? だとしたら強化できない事になるんだが。


「一応そんな子用に『カラーリング:透明』っていう加工を施した防具を売っているお! これは西ナット森林のボスから取れる素材で、着ている召喚獣達は全くそれに気付かなくなるんだお!」


 鼻息を荒くし、グッと拳を作るマーシーさん。確か西ナット森林に出てくるのは幽霊型モンスターだから、透明という素材も納得できる。ただ……


「ちょっと脱線しますが、それを普通の防具にカラーリングした場合って……」


まっぱ(全裸)だお」


 いいのか運営。


「まあ、全裸は嘘だけど、過去に『P.P』という悪名高いギルドが、このカラーリングで作った変態装備で冒険の町を駆け回るという恐ろしい事件があったんだお……」


「とんでもない奴らだ」


 額に汗をかきながら、マーシーさんが人差し指を立てて語りだす。変態装備のプレイヤーが町を駆け回る……おぞましいな。


「流石に全年齢対象のゲームで全裸にはなれないけど、きわどいインナー状態だったお。見ようによっては普通の格好だけど、ハラスメント行為で通報された悪名高いP.Pのギルドメンバー達は、町のNPC騎士団に連れて行かれ幽閉されたんだお」


「この町にも治安維持のNPCがいるんですね」


 砂の町にもいたNPC達だ。プレイヤーを裁くNPCとはなかなか面白い要素もあるもんだな。敵対すれば町に入れなくなるとか、そんなシステムもあるのだろうか?


「NPC騎士団は恐ろしい強さだお。レベルにして100……そこら辺のレイドボスより強いんだお」


「強っ!」


「幽閉されればゲーム内で10時間の牢獄生活が待っているんだお。その時間はログアウトすればカウントが止まるからきっちりゲーム内で10時間過ごさなければ出られないんだお」


「……」


 自身を抱くようにして身震いするマーシーさんの顔色が悪い。10時間過ごさなければ解放されないとはキツイ罰だな。ともあれ、罪に対する罰としては軽いのか?


 にしても……妙に詳しいなマーシーさん。まるでその事件の当事者のような……理由は聞かないほうがいいかもしれない。


「というわけで、プレイヤー用の防具にこのカラーリングを施すと大変なことになるけど、武器や召喚獣用の装備には問題ないんだお。性能も反映されるし、服が嫌いな召喚獣にはこれを薦めてるんだお!」


 そのカラーリングが施された一覧の中から布製のローブっぽいシルエットで『耐久+20』『魔力+10』の効果がある防具を見つけ、部長に着せてやる。すると、あんなに嫌がっていた部長は何事もなかったかのようにケロリとしていた。


 すごいな透明。


 見た目上の変化はないものの、ステータスは問題なく上がっている。手触りは部長のゴワゴワした毛並みのままなので、見る事も触る事もできないようだ。


「大丈夫そうですね」


「良かったお! 防具もカラーリングによって値段が上下するのもあるけど、コレはボスの素材だから少しだけ高いお。あ、4万Gになります」


 掲示された額と所持金を見比べる……昨日のレベル上げでだいぶ稼げてるし、問題なさそうだな。


「じゃあこれで……ありがとうございました」


「トーナメント終わったら幼女神様の防具を作るお! 必ず来て欲しいお!」


「是非お願いします」


 マーシーさんに一礼し、歩き出す。


「幼女神様! 今日もお綺麗で! 幼女神様!」


 引き千切れんばかりに手を振るマーシーさんの声に、道行くプレイヤー達からの視線が刺さる。俺に手を引かれたダリアがマーシーさんに小さく手を振り返すと、マーシーさんは謎の音を立てて爆発した。


 原理不明だが、LPは減っていなかった。




 港さんもオルさんも未だオフラインのままだ。リアルが忙しいのも仕方のない事だろうな、俺も出張が重なれば数日ログインできなくなるだろうし。


 道中見つけた食事処に入る。美味しそうな匂いに誘われ、ぐいぐい手を引くダリアが決めた店だ。恐らく肉料理を扱っている店だろう。


 NPCに通され店内を移動していると、ボックス席で食事をとるCoat(コート) of Arms(オブ アームズ)GM(ギルドマスター)であるアリスさん、そして銀灰(ぎんかい)さんと遭遇、2人も俺たちに気がついたようで相席する事になった。


 アリスさんが鼻息を荒くしながらダリアとの横並びを懇願してきたので、左の奥から銀灰(ぎんかい)さん、部長、俺。右の奥からアリスさん、ダリアの順で改めて席についたのだった。


「いやー、こんな所で会うなんて奇遇だねえ」


「全くですね。ギルド加入希望のプレイヤーの方は落ち着いたんですか?」


「ぼちぼちかな。イベント前は6部隊程度だったのが、今は80部隊だよ。ギルドホームの移動と改造も視野に入れないとだね」


 苦笑いしながら額をぽりぽり掻く銀灰さん。聞くと、1部隊は6人パーティずつA・B・C・D・Eと5つに分かれた計30人編成であり、それが80部隊となればその人数は単純計算で2400にも及ぶ。


 イベントで活躍すると、ここまで知名度が広がるのか……紋章ギルドだけで戦争が起こせそうな勢力だ。


「ダリアちゃん! お姉さんがあーんしてあげる! うっわ可愛い、もっと食べて! あら、口元が……」


 何故か恍惚(こうこつ)の表情を浮かべ、忙しくダリアの世話焼きをしているアリスさん。巨大ギルドのトップ、そしてナンバー2と食事ができるのはかなりレアな体験かもしれない。


「部隊をまとめる『隊長』を80人決めたお陰で、僕らが戦闘指導やレベリングに駆り出される事が無くなったんだ。お陰でこうやって息抜きに食事したりする時間もできた」


「お疲れ様です、ほんとに。アリスさんや銀灰さんは、自分たちのレベル上げができているんですか?」


「ええ。職業のレベル上げと技能(スキル)のレベル上げも問題ないの。ギルドクエスト等で効率良く上げているから」


 ダリアを撫でながらアリスさんが満面の笑みで答える。あまりの溺愛っぷりに銀灰さんの顔が若干引きつっているものの、ダリアは特に気にした様子もなく食べ続けている。


 最早食べるのに夢中でどこに誰がいるかすら頭に無いのかもしれない。恐るべき食いしん坊だ。


Coatコート of Arms(オブ アームズ)は隊長達をまとめる中間管理職を探しております。今なら麗しい幼女と可愛い動物を連れた召喚士の方限定で、中間管理職に大抜擢……」


「いや、完全に俺じゃないですか。何ですかその商売口調は。それに、途中から入ったプレイヤーが隊長格の上に立つって反感買いますよ」


 もくもくと野菜スティックを食べる部長の頭を撫でながら、銀灰さんに苦笑いで返した。


「そんな事はないよ。ダイキ君は召喚士として、そしてイベントランキング1位のプレイヤーとしても注目度は高い。マスターもそうだけど、ダリアちゃんのファンも多いしねー」


「1日中ダリアちゃんと遊ばせてくれるなら、ギルドマスターの座を渡してもいい」


「軽いんだよなあ」


 ともあれ、高く買ってくれているのは有難いな。トーナメントが終わって落ち着いたらギルド所属も真面目に考えよう。入るとすればケンヤ達のギルドか紋章ギルドだろう……。


 クエストやダンジョン、そしてイベント。特に大規模な戦争イベントでもあった場合、ギルド単位の参加もあり得そうだな。港さんもまだ無所属みたいだし、その時は誘ってみようかな。

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