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トーナメントについて


椿(つばき)さ、Frontierフロンティア Worldワールド始めたんだって?」


 殺風景なコンクリートのジャングルを眺めるように、柵に手を置く謙也(ケンヤ)が問いかけた。

 道路を(せわ)しなく走る車や歩道を歩く多くの人が視界に映る。


「うん。始めたよ。今日も昨日に引き続き、自分専用の弓の製作と釣り竿の製作をする予定」


 バナナのイラストが描かれた紙パックのジュースをストローで啜りながら、椿は気の抜けたような声で返した。


 見るに、相当遅くまでプレイしていたのだろうか、本日何度目かの欠伸を目を(こす)りながら噛み殺している。


「脳に酸素が足りてない証拠だぞ。ゲームはほどほどに、だ」


「わかってるってばー」


 かく言う俺も、普段より遅くまでゲームをしていたわけだから、これは自分への活も含まれている。


「そうそう。俺たちのギルドさ、ようやくギルドホームが購入できたんだよね」


 ここにいる全員がプレイしていると知るや否や、遠慮なくと言わんばかりに語り出す謙也。


 そうか、念願のギルドホームが完成したのか。


「お! 頑張ったなあ」


「なにそれ?」


 流石にCoatコート of Arms(オブ アームズ)程の巨大ギルドホームとまではいかないだろうが、それでも相当な金が必要だっただろう。あの少ない人数で建てるのだから尚更だ。


 椿はギルド自体知らないようで、謙也は簡単に説明をした後、話を進める。


「ギルドホームを持つと《ギルドクエスト》っていう特殊なクエストが受けられるようになるんだ」


「ふーん」


「具体的にどんな内容なんだ?」


 ギルドクエスト。


 Coatコート of Arms(オブ アームズ)のカウンターにもあった名前だ。

 謙也は煙草の煙を吐き出し、説明を加える。


「確か、ゲーム内に存在する《冒険者ギルド》って所から、ギルド単位で依頼が来るんだよ。中身はモンスターの大量発生からダンジョンの制覇と色々だな。そんでコレはギルドに所属してないプレイヤーでも、ギルドを介して受けることができる」


「ギルドに所属してない……じゃあ謙也達宛に届いた依頼を、私が受ける事も可能なわけ?」


「そうなるな。貰える経験値や報酬が美味いと聞いた事がある。そして、クエストが達成されればギルド側にも報酬が出る。大型ギルドなんかはクエストを独占せずに、一般のプレイヤーが受けられるようにしているケースが多いらしい」


 依頼の数がどれほどなのかは不明だが、他のプレイヤーはギルド宛に来たクエストを受けられ、旨味があるし、ギルドは彼らの働きで報酬が出る。


 実によく出来たシステムだ。


「失敗した場合は?」


「依頼を受けた人物、及びパーティが全滅し、リーダーが無理だと判断し破棄した場合。そして、受けてから24時間経過した場合、クエスト失敗になる。失敗すればそのクエスト依頼は消えるが、特に重いペナルティは無い。少々の罰金が科せられるくらいだな」


 なるほどな。

 そして恐らく、罰金程度の金を、一般のプレイヤーがクエストを受ける時に契約料として受け取っているんだろうな。


「どうだ? 二人ともうちに入る気になったか?」


「今の話だと、所属してなくても特に問題ないように聞こえたけど?」


 椿が携帯を弄りながら、興味なさそうに返す。謙也は標的を俺に絞ったように、話を続けた。


「所属メンバーの契約料の負担はギルドが持つ。ホームが完成してからメンバーは結構増えたが、新規プレイヤーが多いから指導主任が欲しい。新しい召喚士の子もいるぞ」


「人事部の主任が何言ってんだよ」


 あまり期待していなかったのか、俺の返答に謙也はカラカラと笑ってみせた。


 ともあれ、謙也のギルドも徐々に大きくなってきてるんだな。1パーティに満たなかった頃が懐かしい。


「そういえば椿。弓の製作って言ってたけど、店売りに無かったのか? もし必要なら知り合いの装備屋を紹介するぞ」


 正直、戦闘職とも生産職とも取れるスキル構成の椿の作品より、オルさんのような純粋な職人の方がステータスの高い武器が作れるだろう。

 それに、今のオルさんなら、装備にボーナスを付ける事もできるはずだ。


「それがね、面白い方法を見つけたんだ。店売りの弓って威力は選べるけど、引いてみると強さが結構物足りないんだ。でも自分で素材から集めて作ると色々調整できて理想の強さが作れるの」


「強さも店の人に注文できないのか?」


「駄目だねー。露店の人で弓道やってて、和弓の作り方を理解してる人がどれほどいるのって話。私は握り皮から弦までこだわりたい。竹が生えてるフィールドないかなあ」


 ……経験者じゃない俺にわからないワードがいくつかあるが、要するに“そういう事”なのかもしれない。

 俺のように弓を良く知らない人はシステムに従い、武器としての弓は作れるものの、それは武道のための弓とは少し違う。


「で、こだわった結果の寝不足か?」


「……そゆこと」


 苦笑しながら舌を出す椿。彼女はハマったらとことんなタイプなので、その部分はわからんでもない。

 元々、最前線に追いつくだとか、生産職の頂点に立つだとか、そんな志は無いからな。


「んで、大樹の方はどうだ? またフィールドボスのソロ討伐でもしたか? まあ、厳密にはダリア嬢と二人でだが」


「俺の方は新しく部長を仲間に入れた」


「部長?」


「そう。営業部の成田部長」


「?」


 正確には“に、似た召喚獣”が入るが、近いうちに顔合わせするだろうし、ちょっと秘密にしておくか。





 仕事から帰った俺は家事やあれこれを済ませ、Frontier Worldにログインする。

 今日は港さんと俺のレベル上げに行く予定になっているから、早めにインしてメールを打っておきたかった。


 昨日のログアウト場所である冒険の町ポータル前へと画面が切り替わり、町を歩くプレイヤーやNPCが会話を交わしながら行き来しているのが見える。


「よ、こんばんは。ダリア、部長」


 足元にいる召喚獣達に挨拶をする。


 ふむ、ダリアの頭の上に部長が乗っているが、いつの間に仲良くなったのだろうか?


 同じ召喚士から生まれた召喚獣達だから、仲も結構良いのかもしれない。

 種族は違えど、姉と弟みたいなものだろう。


 ともあれ、部長の体は決して小さくない。ダリアの頭に乗っていると言うよりは、はみ出してぶら下がってるようなイメージだ。

 上半身だけ頭の上に乗せ、下半身はだらりと背中に伸びている。


「……え? ちょっ、この状態で肩車?」


 物思いに(ふけ)っていると、ダリアがいつもの調子で背中をよじ登ってきた。

 頭に重りを乗せているためか、かなりゆっくりな速度だ。


「……」


 そして定位置に装備された。


 部長の体重も(あい)まって、結構な重さになっている。

 てっきりダリアが部長に乗るものとばかり思っていたが……。


 気を取り直し、港さんにメールを送るべくメールボックスを開くと、数時間前に送られてきた運営からのメールが入っていた。


どうやら、トーナメントについての詳細のようだ。なになに……




【第二回運営イベント情報】03/03/16:39


03/21よりJ.P.(ジャパン)サーバートーナメント戦が開催されます。


イベントに向け、石の町コロシアム前にて受付を行っていますので参加希望の方は忘れずに登録をお願い致します。


《期間:03/21/10:00〜03/22/15:00》


受付は本日03/03の20:00から開始となり、締め切りは03/19/23:59までとなっております。登録後のメンバー変更・辞退も可能ですが、必ず締め切りまでに行って下さい。


試合開始30秒までに登録されたメンバーが揃わなかった場合は失格となりますので、ご注意下さい。


《場所:石の町コロシアム内》


当日は大変混雑が予想されます。参加希望の方は早めの登録をオススメ致します。


尚、イベント中は期間限定の売店や、フィールドでは限定モンスターが出現致します。イベント不参加の方も、是非足を運んでみて下さい。


《試合形態:個人戦 / 団体戦 / 混合戦》


試合は


◯個人戦

◯最大六人パーティでの団体戦

◯最大二人パーティでの混合戦


の三種類があり、希望プレイヤーは全てに参加可能となっております。尚、モンスター・召喚獣は個人戦に参加できません。


《試合ルール》


◯制限時間15分


◯勝利条件:相手を全滅させる / 時間切れの際に相手よりも多い人数が生き残っている


◯コロシアム内では魔獣の笛・魔石を除く回復・強化アイテムの持ち込みができません。例外として、装備品交換は可能となっております。


回復アイテムは代表者を決め、代表者はコロシアムで支給されるアイテムを規定の数まで持ち込むことができます。尚、一試合毎にアイテム数はリセットされます。


規定数は以下の通りです。


LP回復薬×10

MP回復薬×10

SP回復薬×10

状態異常回復薬×10

弱体化薬×10

強化薬×10

蘇生薬×5


◯蘇生の際は試合中だけ発動時間40秒、クールタイム1分に設定されます。


◯試合中に相手プレイヤーを倒した場合、PK判定になりませんので所持金の移動はありません。


◯ハラスメント行為・煽り・死体撃ちなどの行為は特殊なAIを積んだ審判が度合いを判定し、反則・失格を決める場合があります。


◯反則二回で失格判定となります。



《エルヴァンス・ロウ・ダナゴン2世について》


トーナメント中、王都を統べるエルヴァンス・ロウ・ダナゴン2世がコロシアムにやって来ます。彼は近く行われる討伐戦に参加できるだけの腕を持つ戦士を探しています。


トーナメントで活躍し、王の注目度を上げましょう。注目度に応じて、王からの報酬が受け取れます。




 長い……そして細かいな。


 ざっくりとまとめるなら、早めの登録をしなさい。参加しない人も別の形で楽しめます。回復アイテムは支給されたのだけ使えます。蘇生に時間が掛かります。マナーある戦いを。


 こんなところだろうか。


 会場には回復アイテムは持ち込めないが、召喚獣の蘇生に使う魔石なんかは例外って事ね。

 特に記述されていないから。他の消費アイテムは持ち込めるんだろうな。トルダみたいな弓使いは、矢を消費して戦うはずだし。


「職のあれこれは書いてなかったから極端な話、回復役(ヒーラー)六人パーティとかでも参加はできそうだな。勝ち進めるのかは別として」


 今一度、メール内容を読み直しながら一人ごちる。

 イベント規定の穴を探すのも、一種の楽しみ方だよな。


 それに、王様直々にコロシアムに来ての戦士集めとか討伐戦とか、後のイベントを匂わせる情報もちらほらある。


 討伐戦で連想できるのは大量のモンスターか、超巨大な強力モンスターか。それとも両方か。

 ダンジョンに続いて対人戦、そして多くのプレイヤーを巻き込んだ大規模なイベント戦……いい具合に内容がバラけているな。その次は非戦闘職向けの何か、それとも職業毎の特殊イベント。


 なんにせよ、今やるべきはトーナメントイベントに向けての準備だな。

 俺は運営からのメールを閉じて、港さんにメールを送った。

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