新たな召喚獣
冒険の町から離れた俺たちは、草の町の奥、植物公園へと来ていた。
明日から港さんが手伝ってくれるとはいえ、多少レベルを上げておけば後々楽だろう。
それに、負んぶに抱っこは本意じゃない。仕事に影響が出ない程度の時間まで頑張るとしよう。
加えて、召喚術の技能レベル20で二体目の召喚獣を呼び出せるとなれば、早く会ってみたいという気持ちが勝る。
ここのフィールドも装備が強くなった事で、以前に比べ狩りやすくなっていると予想もつく。
勿論、オルさんと紅葉さんからいただいた装備で全身を固めてある。
足装備である熟練冒険者の靴については、雷獣と火偽竜装備に比べ性能が落ちるため、アイテムボックスに仕舞われているが、いつかどこかのタイミングで活躍してくれると期待しておこう。
熟練冒険者の靴にお世話になる場面として、ダメージ系の床があるフィールドやそれを使ってくる敵と戦う時だ。
技能枠が圧迫されない特殊技能は強力だからな。
「うし。じゃあ俺が集めるから順次倒してくれ」
植物公園はモンスターの湧きが早く、毒や麻痺といった状態異常を使う厄介な敵も多い。囲まれれば、一体の強い敵よりも脅威になり得るものの、ダリアがそれを許さない。
強化を掛け、俺たちは駆け出した。
「……意外と早かったな」
待望のレベルアップを告げる音に、呆気なさを感じながら呟いた。
時刻は午後10時12分。いつもなら布団に入っている時間だが――まあ、今回は特別としよう。
狩りを始めてから一時間と少し。レベルアップが早かった理由として、装備が新調された事により、ダリアの火力が数段上がっていた事が挙げられる。
名前 ダイキ
Lv 23
種族 人族
職業 召喚士
筋力__63 (+40)【103】
耐久__32 (+184)【216】
敏捷__32 (+3)【35】
器用__55 (+150)【205】
魔力__36【36】
名前 ダリア
Lv 20
種族 中級魔族
状態 野生解放
筋力__39[25]【64】
耐久__39[25](+14)【78】
敏捷__39[25]【64】
器用__39[25]【64】
魔力__118[34](+121)【273】
召喚者 ダイキ
親密度 40/100
※【 】内が総合計値
※[ ]内が技能強化値
※( )内が装備の強化値
※小数点第一位を切り上げ
流石、全部取り替えただけはあるというべきか、格段に性能が上がっているのがわかる。
装備はこまめに強化していかないと、同レベル帯でも大きな差が生まれるのは明白だ。
まず俺の筋力が三桁に突入し、耐久は200を突破している。
そして、今まで素材と技術が見つからず蔑ろになっていた器用も、今回で一気に200を突破した。
植物公園での敵は接触する前にダリアによって焼き払われているため、俺の攻撃や硬さ、弾きのやり易さ等の実感はない。
けれど、SPは器用の値に比例するため、敵を引き寄せる磁力盾でのSPの減りが、いつもよりかなり少なく思えた。
技術者の心得も相まって、剣弾きも、そろそろ実戦投入が可能になるかもしれないな。
ダリアの突出した魔力は強化を合わせると300目前までに伸びているのがわかる。
更に、装備による《火属性魔法強化》の恩恵はかなり大きく、彼女はまとめた敵を火炎地獄で全て一撃で屠っていた。
近くで狩りをしていたパーティ全員の顔が、驚愕の色に染まっているのが印象的だったな。
魔力以外の伸びも《野生解放》と《統率者の心得》によりかなり高い数字となっているが、俺よりダリアの方が敏捷が高いのに、一向に自分の足で歩いてくれないのは何故だろうか……と、少しだけ愚痴めいた事を思ってみる。
――まあなんにせよ、これで召喚術のレベルが20になったわけだ。
新しい技が出現しなかったのは残念だが、仲間が増えるイベントを控えた身としては、特に気にならなかった。
俺たちは植物公園を後にし、冒険の町から南ナット平原へと転移。
そしてダリアと初めて会った場所。平原に佇む一本の木の下で、技能を確認した。
【召喚術 Lv.20】
召喚 / 帰還
【召喚】
力ある存在を呼び出す。召喚にはMPの他に魔石を消費する。
召喚可能数:2(残り1)
「うん、召喚可能数がちゃんと増えてる」
減ったMPでも問題なく召喚できそうだな。後は召喚したい召喚獣をざっくり決めれば召喚できるけど……などと思考しながら、俺は画面を操作していく。
召喚の部分をタップすると、召喚獣の種類を決める画面が現れる。ダリアのような人型やクロっちのような鳥型、金太郎丸やキングのような獣型などなど。
様々な種類から選び、そこからランダムで個体が選出される仕組みだ。これはダリアを召喚した際と変わらぬ仕様と言える。
しかし――
「……ん?」
種類の他に《タイプ》っていうのが選べるようになっている事に気付く。
新たな項目が気になり、俺は半透明のプレートをスライドさせながら、タイプの部分を下げていった。
「物理攻撃役に盾役、魔法攻撃役に魔法支援に……結構選べるようになってるな」
召喚獣のダブり防止だろうか?
確かに、俺のパーティに盾役タイプの召喚獣が来ても、正直困る。
勿論、二人盾役がいれば、それはそれで安定感は増すものの、その後の召喚で全て盾役タイプが当たった場合目も当てられない。
超低火力パーティになるだろう。
「となると、決められるのは種類とタイプだな。……うーん」
ならば当然、タイプは回復役で間違いないだろう。
現状、俺もダリアも回復役としての技能は無いし、薬で賄うにしろ限界があると感じていた。
ランダムで出れば御の字だなと考えていただけに、渡りに船な仕様と言える。
召喚獣の回復役ならクラスチェンジでの恩恵も受けられるし、野生解放でも強化できる。
ともあれ、ダリアのようにMP管理ができなくなるようなら、今一度考えた方が良さそうだが――
「……よし。決めた」
魔石を取り出し、召喚を開始する。
ただならぬ様子を察したのか、背中をするすると降りたダリアが、興味津々な様子で俺を見上げてきていた。
「『来たれ我が僕、召喚』!」
手に持っていた魔石の内の二つが光り、現れたスロットに吸い込まれていく。
そして、ぐるぐると回るスロットが、左から順々に止まっていく。
――何が出るんだ?
【獣型:鼠族】
【種属値:2】
【タイプ:回復役】
降りてきた光が魔法陣を形取り、そこから生まれた光が四本足の獣の姿へと、形を変える。
シルエットは犬よりも小さく、猫よりは大きい。ずんぐりむっくりとした体型である。
光が収まると、呼び出された召喚獣はのそのそとフィールドを歩き、俺の足元でゴロンと横になった。
茶色の毛に覆われた、愛らしい丸々とした体に、眠たそうに潤むつぶらな瞳。黒い毛で覆われた手足は細く短い。
「……なんていうんだっけ――あ、カピバラ」
鼻をヒクつかせながら、呑気に寝始めたカピバラは齧歯類最大の体を持つとされる、かなりユルい外見の鼠だ。
召喚するに当たり、獣タイプを選んだ理由として、素早い動きで敵を翻弄しつつ仲間の支援ができれば単純に硬い回復役よりも脅威になると踏んでの考えだった。
そして召喚獣といえば定番とも言える《モフモフ》。
ダリアのようなルックス的な癒しもアリだが、見てよし触ってよしの癒しも欲しかったのは本音だ。
獣タイプである分、コミニュケーションは取り辛いかもしれないが、しっかりと意思疎通を図って親密度を上げていきたい。
ともあれ……。
「……戦闘能力の無い、外見だけの癒し役とかじゃないよな? なんにせよ、名前を付けてあげないとな」
寝息を立てるカピバラの顔を、じっと観察する。
……誰かに似てるんだよな。カピバラ。
「……わかった。そして決めた」
命名した俺はステータスを開く。
名前 部長
Lv 1
種族 鼠族
筋力__3
耐久__15
敏捷__3
器用__15
魔力__54
召喚者 ダイキ
親密度 11/100
技能
【回復魔法 Lv.1】【強化魔法 Lv.1】【弱体化魔法 Lv.1】【魔力強化 Lv.1】【魔力回復 Lv.1】【アイテム効果上昇 Lv.1】【分配 Lv.1】【回復魔法の心得 Lv.1】【支援魔法の心得 Lv.1】【緊急睡眠 Lv.1】
名前を《部長》としたのは、のんびりした雰囲気といい、顔といい、俺の部署の部長に良く似ていたからだ。
妙に貫禄があり、召喚されてすぐに眠りこける太々しさは大物のそれであり、なんとなくだが、この子には頭の上がらない自分が想像できた。
命名した結果、部長の親密度は1だけ上がった。
いくつが最高値なのかは不明だが、本人はあまり気に入ってないのかもしれないな。
なんにせよ、これから大事な仲間として一緒に過ごしていく相手だ。
別の所で親密度を上げなければ。
まずはスキンシップ。と、俺は部長の体毛をクシですくようにしながら撫でる。
――うん。
こう言っては可哀想だが、毛並み自体はタワシのようにゴワゴワしててあまり気持ち良くないな。
ただ、ポヨンポヨンのお腹は、いつまでも触ってられそうだ。
和む。
ステータスは、初期のダリアよりも高い値低い値で極端に偏っているのがわかる。
高い魔力は心強いが、物理攻撃や素早さに期待はできない。ただ、その点かなり強力な技術を備えているのがわかる。
回復役の心臓部分とも言える回復魔法に加え、強化と弱体化の魔法も備えたハイブリッドタイプだ。
魔力強化や魔力回復に加え、回復魔法の効果を上げる回復魔法の心得や、強化・弱体化魔法の効果を上げる支援魔法の心得などのサポート技能も充実している。
アイテム効果上昇は文字通り、自身へのアイテム効果を上昇させるPassiveの技能。
これも育てば強力な技能になりそうだ。
緊急睡眠はMPやSP切れを残り1で抑える効果と、強制的に《睡眠》の状態異常になる代わりに、自身のLP・MP・SPを自然回復させる技能。
この技能で睡眠した場合、耐久が上昇するおまけ付きだ。
これにより、部長はLP切れ以外で死ぬ事がなくなっているようだ。ただ、この技能で睡眠状態になった場合、薬での状態異常回復ができないともある。
「――この《分配》は特に凶悪だな」
部長の技能『分配』は、パーティ内限定だが部長自身のLP・MP・SPを任意の数値メンバーに分け与えるActive技能だ。
部長自身の限界数値以上は分け与える事ができないものの、味方のLPだけでなくMP・SPの管理までできるぞ、これ。
野生解放でダリアがMPを際限なく使っても、部長がMPを分け与えればMP切れになる心配は減る。
部長には薬をあげればいいし、その薬の効果も技能で上がっている。万が一にも、緊急睡眠が控えているから、部長を死なせる結果には繋がらない。
これは……立ち回り次第では、相当優秀な回復役になるぞ。
「よろしくな。部長」
聞いてるか聞いてないか、ぐーすか寝息を立てて横たわる部長を撫でる。
こうして、俺たちに新しい仲間が加わった。