新調装備と召喚士仲間
エントランスへと戻ってきた俺たち。カウンターには相変わらず長蛇の列ができており、銀灰さんやアリスさんのやつれた顔が目に浮かんだ。
ともあれ、競技場では日夜PvPの練習が行われているようだし、ギルド加入したプレイヤー達は確実に育っている。迷宮内で俺が戦ったようなパーティが勝ち進むのは難しいだろう。
ダリアありきの戦闘となる俺は二対二の混合戦、六対六の団体戦に参加する予定だが――団体戦に関しては誰かパーティを組んでくれるプレイヤーを探す必要があるかもしれない。
個人戦は特に勝機が薄いが……まあ、追い追い考えるとするか。
「っと、オルさんからだ」
装備が完成したという内容のメールを確認した俺たちは、Coat of Armsを後にする。
カウンターにあった『ギルドクエスト』の内容も少し気になったものの、後日ケンヤ達にでも聞くとしよう。
露店の立ち並ぶ道を進み、オルさんのいる店の前にたどり着く。
俺たちの到着に気づいたオルさんはニカッと笑顔を見せ、上機嫌な様子で手招きをしてきた。
「こんばんは」
「おう! 待ってたぜ!」
挨拶もそこそこに、オルさんからのトレード申請を承認。ずらりと並ぶ装備達に目を通していく。
【ハイメタル・ソード】製作者:オル
鉄よりも硬度の高い《ラビリンス・メタル》によって作られた両刃の剣。
必要筋力:50
筋力+40
耐久+10
分類:片手剣
【ハイメタル・バックラー】製作者:オル
鉄よりも硬度の高い《ラビリンス・メタル》によって作られた片手用の盾。
必要筋力:46
耐久+42
分類:片手盾
まずラビリンス・メタルを使用した《ハイメタル》シリーズの剣と盾。
黒塗りの鞘から抜き取ると、磨き上げられた両刃の剣が美しい光沢を放った。
刃、鍔、柄、全てが一つの金属から成るその形は西洋の剣を彷彿とさせる。
刀身は80センチ程で、前のアイアンソードに比べると少し重いように感じる。――が、グリップには黒革が丁寧に巻かれ、滑り止めの効果も相まって非常に手に馴染んだ。
盾の方を胸の前に持って来れば、首元から鳩尾までを覆える程度の大きさだとわかる。
表面は剣と同様、美しく磨き上げられ、縁取るように規則的な模様が描かれていた。
こちらも以前のバックラー、カブト・シールドよりも重厚感があり、実際少しだけ重い。が、戦闘に支障が出る程ではないし、厚みが増した分、高い耐久を保持しているのがわかる。
却々上等な装備だ。必要筋力値が設定されているのは装備の性能に影響しているのだろうか? ともあれ、俺の素のパラメーターでも足りているため、こちらも問題はないが。
【火偽竜の杖(魔)】製作者:オル
獰猛な火偽竜の素材を使用した杖。魔力値にボーナスが振られている。
必要魔力:45
魔力+43(33+10)
火属性魔法威力アップ
【雷獣と火偽竜のサークレット(器)】製作者:オル
凶暴な雷獣と獰猛な火偽竜の素材を使用したサークレット。器用値にボーナスが振られている。
必要器用:44
耐久+23
器用+25(15+10)
敏捷+3
火属性魔法耐性アップ
雷属性魔法耐性アップ
分類:頭装備
【雷獣と火偽竜の鎧(器)】製作者:オル
凶暴な雷獣と獰猛な火偽竜の素材を使用した鎧。器用値にボーナスが振られている。
必要器用:45
耐久+30
器用+28(18+10)
火属性魔法耐性アップ
雷属性魔法耐性アップ
分類:胴装備
【雷獣と火偽竜の小手(器)】製作者:オル
凶暴な雷獣と獰猛な火偽竜の素材を使用した小手。器用値にボーナスが振られている。
必要器用:40
耐久+20
器用+20(10+10)
火属性魔法耐性アップ
雷属性魔法耐性アップ
分類:腕装備
【雷獣と火偽竜の腰当(器)】#製作者:オル
凶暴な雷獣と獰猛な火偽竜の素材を使用した腰当。器用値にボーナスが振られている。
必要器用:42
耐久+22
器用+20(10+10)
火属性魔法耐性アップ
雷属性魔法耐性アップ
分類:腰装備
【雷獣と火偽竜の靴(器)】製作者:オル
凶暴な雷獣と獰猛な火偽竜の素材を使用した足装備。器用値にボーナスが振られている。
必要器用:45
耐久+27
器用+25(15+10)
火属性魔法耐性アップ
雷属性魔法耐性アップ
分類:足装備
そして《雷獣と火偽竜》シリーズだが、装備してみると、黄色の毛皮が散りばめられた竜鱗の鎧という、なんとも派手な見た目に変わった。
火偽竜とあるから、純粋な竜種ではなくリザード達のような派生種だろうか。艶のある赤い鱗は高い耐久を持ち、注文通り器用値にも大きくボーナスが入っている。
首から下だけ見れば、まるで“風林火山”を掲げて戦乱の世を生きた武将のような、なんとも猛々しいビジュアルだ。
サークレットはダリアのような小さな角が、前向きに伸びており、色合いも相まってダリアと俺とで赤色の面積が多くなった。
ともあれ、数値的にも見た目的にも数段強くなったものの、相当な費用が予想できる。
「おう。似合ってんじゃねえか」
「気に入りました。とてもいい品をありがとうございます。――それで、お代の方なんですが……」
心に一抹の不安を抱えながら言う俺に、オルさんはパネル状の電卓を叩きながら計算を進めていく。
そして――指を弾くように、俺へパネルを飛ばしてきた。
【140,000G】
「あれ?」
思っていた――いや、言われていた額より幾分か安い?
事前の会話では20万近く掛かると伝えられていたものの、かなり安くなっている。素材持ち込み+素材売却の影響か?
「ダイキが持ってきた迷宮内の素材なんだが、俺の見立てだとレベルが低い分値段が落ちると思っていた。――が、蓋を開けてみればかなりの値がついたわけよ。んで、その分安くなってるって訳だ」
装備の性能としては、Coat of Armsで見たような物と負けず劣らず。つまり、かなりレベルの高い良品だと言える。
「ラビリンス・メタルや雷獣のお陰で技能もかなり育ったし、何より技に《ボーナス追加》が出現した時は小躍りしたね」
生産職の技か。確かに、防具にボーナスという追加パラメーターがあったな。
「剣と盾にはボーナスが付けられなかったが、お陰で価格帯を一桁上げても問題ない性能の装備が作れるようになったぜ」
オルさんの目が一瞬『$』になったように見えたが気のせいだろう……。
ともあれ、減る予定だったお金が結構余る事になりそうだ。
オルさんに深くお辞儀をして、足を進める。
タイミング良く紅葉さんからもメールが入っていたため、これで頼んでいた装備が今日で全て揃う事になる。
――装備を新調できたのは大きいな。
ダリアも新しい杖が気に入ったのか、杖を振ってご満悦な様子。彼女もポンチョが相まって相当な火力になっているはず……。
紅葉さんの露店に着く――が、紅葉さんの姿はなく、代わりにクロっちが店番をしていた。
「こんばんは、クロっち。紅葉さんはどこ?」
クロっちは『知らん』と、吐き捨てるように短く鳴いた。
――うん。相変わらず愛想が無いけど憎めない。ただ、普段なら自由に飛んでいくクロっちだが、主の代わりとして店に留まっている所を見るに、かなりツンデレの気質があると感じる。
「あら、ごめんダイキ君! すっかり話し込んじゃって」
俺の存在に気づいたのか、四つ向こうの露店から紅葉さんが、こちらへ向かってくるのが見えた。
隣には初めて見るプレイヤーの姿もある。
「いえ、先ほど着いたばかりでしたから」
当たり障りのない返事をしながら、紅葉さんの隣のプレイヤーへと視線を移す。
がっちりとしたガテン系の男性プレイヤーで、オルさんと似たような《漢》といった雰囲気の人だ。
オルさんが細身の色黒マッチョだとすれば、この人は色黒のゴリマッチョだな。
「お前がダイキか! 噂は常々聞いているぞ。 俺の名前は『港』。召喚士仲間として、こいつ共々ヨロシク!」
外見通りに(偏見かもしれないが)、豪快な話し方をする人だ。
そして、彼の言う“こいつ”に視線を移すと、港さんの手に抱かれた小さい黒豹の召喚獣が、俺の方をじっと見つめていた。