採掘と錬成
ライラさんを含む三人でパーティを組み、ケンヤ先導の元、俺たちは雑貨屋へと向かっていた。
ケンヤはβテストの特権という事で、装備と少々のGを引き継いでいる。やはりスムーズに戦闘をこなしたのか、レベルも既に五まで上がっている。
ライラさんは俺と同じ本サービス組で、北にあるナット林道でケンヤと会い、パーティを組んだらしい。
「この剣、パーティ結成記念って事でケンヤさんに頂いたんですよ」
「へぇー、物で釣るなんて賢いな」
「おいこら、人聞きの悪い事を言うなよ」
盾役になると決めた際、武器は斧の方が技能的に都合がいいらしく、元々持っていた剣を剣士希望のライラさんに譲ったようだ。
俺も軌道に乗ったら装備を一新しないとだな。上手くいけばいいんだけど。
駄弁りながら歩いていると、目当ての雑貨屋に着いた。マップの巾着袋はここを指していたのか。
店内に入るなり、各々が興味のある商品棚の方へと散っていく。
雑貨屋には回復薬等の必需品から、ランタンなどの日用雑貨っぽい物まで幅広く取り扱っており、消費アイテムの類は大体ここで揃うと見ても良さそうだ。
とりあえず、目的の物をパパッと買おう。
目的の物を手に取り、レジに持っていく。
「ありがとうございましたー」
NPCとナチュラルな会話ができた事に驚かされつつ、無事に目的の物を買う事ができた。
【空き瓶】
ガラスで作られた空の瓶。
元々の所持金1000Gに加え、ナットラット撃破による報酬もある。瓶は一つ50Gだったため、出費としては微々たるもの。
ちなみに、陳列された商品の中に魔石もあったものの、その値段は800G。序盤のもち金では手が出ない。とても良心的とは言えない値段だ。
「空き瓶なんか買ってどうすんだよ。ていうか、ダイキの装備まだ初心者シリーズじゃん! まずは装備買えよ装備」
「ぐうの音も出ないが、まだ戦闘スタイルが決まってないし、安易に買えないよ」
「戦闘スタイルって……召喚士は一応魔法職なんだから装備は杖とかローブで決まりだろ?」
「いやいや、俺はどっちかと言えば剣とかで戦いたいんだよ」
「ロマンを詰め込み過ぎて何もできないキャラクターになっちまうぞ……」
ケンヤの言う事も尤もだが、多少の火力低下は目を瞑る予定だ。たとえ邪道と言われようと、自分が楽しむためのゲームだからな。
クスクス笑うライラさんと溜息を吐くケンヤ。
「まぁまぁ。ダイキさんのやりたいようにやるのが一番ですよ。手伝える事があれば遠慮なく言ってくださいね」
「俺の事も頼ってくれな」
いい奴だな二人とも。心配をかけさせないためにも、早いとこ召喚を成功させたいね。
「そういえばダイキさん。その空き瓶って何に使うんですか?」
「ん? あぁ、これに水を入れようと思ってね」
「?」
正確にはただの水じゃないけどね。
とにかく、南ナット平原に向かおう。
南ナット平原に着いた俺たちは、俺が狩りの際に見つけた小川に来ていた。
余談だが、北ナット林道には虫タイプのモンスターが多いらしく、ライラさんは最初から此方に来てれば良かったと嘆いていた。
東と西はどんなフィールドになっているんだろうか。
用意した空き瓶に水を汲み、アイテムボックスに仕舞う。アイテム名が空き瓶から水入りの瓶へと変わっているのに気がつく。
芸が細かいな。
「次は洞窟に行きたいんだけど。……どこにあるかわかる?」
「洞窟なら東門から出れば東ナット洞窟があるな。北と南に比べると少しモンスターが強くなるけど」
と、ケンヤは追加情報も交えながら説明しつつ、先導するように歩き始める。
流石はβテスターといった所か。どうやら大まかなマップも頭に入っているらしい。
東ナット洞窟は平原よりもプレイヤーの数が少ないように見えた。
洞窟内はジメジメとした湿度の高い空間になっており、時折聞こえてくる水の滴る音と、何かが飛ぶような羽の音が少し不気味だ。
ともあれケンヤの言う通り、ここは少しレベル帯が高いのか、戦っているプレイヤーの装備の質も高いように見える。俺のステータスではまともに戦闘ができないかもしれない。
「じゃあ二人には俺が採掘してる間の護衛をお願いします」
「了解です!」
「はいよー」
二人もレベル帯の高いフィールドに少なからず興奮しているようで、ライラさんは既に鉄の剣を抜き身にして辺りを警戒している。
と、俺は採掘採掘。
メニュー画面より見習いピッケルを取り出し、洞窟の表面目掛けて振り下ろす。因みにアイテムボックスの中には『見習い』シリーズが一通り揃っており、全ての職業に対応できるよう配慮されている。
剣を使っていたプレイヤーが路線変更で魔法に変えても、アイテムボックス内には見習いの杖があるため、その場で変更が利く。
相当便利だな。
カンッという小気味よい音が一定のリズムで響く。採掘で採れたアイテムは自動的にアイテムボックスに送られていくため、常に採掘作業に専念する事ができるようだ。
あ、スキルのレベル上がった。
辺りを見渡すと分かるが、洞窟内に見える無数の光が採掘ポイントだ。上手くいけば魔鉱石を掘り出すことができる。
しかし、場合によっては石ころだったり、ピッケルで叩くタイミングが合わずに破壊してしまう事もしばしばあり、思わぬ時間を食っていた。
「ライラさん、攻撃よろしく! 『こっち来い』」
後ろではケンヤが蝙蝠型のモンスター相手に大盾を構え、斧で盾を叩きながら挑発を入れる。
挑発とは、RPG等によくある敵視を集める技。主に盾役が敵の攻撃対象を自分に向けさせる時に使うもので、防御の低い味方を守る事ができる。
挑発を受けた蝙蝠は、くるりと方向を変え、ケンヤの持つ盾に体当たりを繰り返す。
その隙に後ろへと回ったライラさんは、剣を下段で構えながら駆ける。
そして――――
「『青の閃剣』!」
その一撃は、以前見た戦士職の少年が放った攻撃に良く似たものだった。彼女の持つ剣が青色の閃光を放ちながら振り上げられ、蝙蝠の背を穿つ。
Critical判定が頭上に並び、大きなダメージを与える。蝙蝠のLPが一気に削れ、隙を突くようにケンヤがすかさず斧を振り下ろす。
連撃による追加ダメージも相俟って、瞬く間に蝙蝠は爆散した。
「いい連携だな。役割分担がしっかりしてると、強敵が相手でも戦闘がスムーズだ」
先程の蝙蝠、実はレベル8とケンヤを凌ぐ高さで強敵の部類に入る。ライラさんはレベル4だし、俺に関しては戦闘に参加していない。
「強い敵はいいな。スイッチや連撃のタイミングを合わせるいい練習になる。贅沢を言うならもう少しLPの高い敵でもいいんだけど」
「ケンヤさんが完璧に敵を引きつけてくれてるので、私も安心して攻撃に集中できるんです」
二人とも、今日会ったとは思えない程、息の合った連携だ。できる事なら俺もステ振りを全て終わらせた後、二人の戦闘に加わりたい。
その後、数回の戦闘により俺含めた全員のレベルが上がる。これは俺が彼らと同じパーティに入っているからであり、たとえ戦闘に参加せずとも経験値がもらえる。
寄生みたいで嫌だったが、二人が気にしないと言ってくれたので、経験値は三等分だ。
「二人共、目的の物は集まったよ。護衛、助かった」
「気にすんなよ。俺もレベル上がったしな」
「私も。先程のレベルアップで新しい技を覚えたので満足です」
ご満悦の二人に俺も大きく頷く。少し余裕を持った量を採掘しておいたが、これだけあれば十分だろう。
「とりあえず一旦町に戻ろう。南ナット平原の適当な所で実験を始めるね」
頷く二人を連れ、南ナット平原を目指す。
さて、思った通りにいくだろうか。