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王都へ


 ケンヤと銀灰(ぎんかい)さんから連絡が返ってきた。


 まずケンヤ達だが、自分たちの足で王都に向かっているらしく、現在移動中ですぐには会えないとの事だった。

 銀灰さんはギルド申請者の対応に追われ、こちらもしばらく会えないらしい。


 ――ふむ、どうするか。


「お、椿(トルダ)からだ」


 丁度よくトルダからのメールが入り、再びメール画面に目を落とす。

 中を確認すると、南ナット平原で面白いプレイヤーを見つけたから来ないかとの事だった。


 ……もうフレンドができそうなのか。ともあれ、会社でも分け隔てなく人と話せる彼女なら納得か。


 採掘してから向かう(むね)を伝え、俺は久々に東ナット洞窟へと向かった。



 採掘してる間は当然ダリアがサーチ(見つけて)&デストロイ(倒す)役割りなのだが、レベルも20目前でポンチョの効果もあり、出現する地属性モンスターは、弱点属性でもない火属性の最下級魔法の火弾(ファイアボール)によって一撃で倒されていく。


 ダリアの火力なら、強化(バフ)次第で同レベル帯でも一撃の可能性があるな。


 あまりに狩るペースが速すぎて湧くスピードを上回ってしまったのか、それともモンスターが逃げていったのか――最後の方は敵の姿を見ることなく採掘を終わらせた。


 ともあれ、これだけ魔鉱石が手に入ればダリアが1ダース以上召喚できるな。


 うん、身体中にしがみつかれて大変そうだ。



 南ナット平原に着いた俺はトルダのいる小川まで歩く。フィールドには見習いの装備をつけた初心者プレイヤー達が、ナットラット相手に悪戦苦闘しているのが見えた。


 俺も初めの頃はここでレベル上げしてたなあと、懐かしさに顔を(ほころ)ばせていると、待ち合わせ場所の小川が見えてきた。


「お、いたいた」


 そこには見習いの装備に身を包んだトルダと……金色の大男が立っていた。


「あ、ダイキ」


「ようトルダ……そちらの方は?」


 なんとなくヤバそうな匂いがしたので耳打ちしながら尋ねると、それが聞こえたのか、金色の大男が声高らかに自己紹介を始める。


「やあ、ご存じ君たちの『ハロー金肉(きんにく)』だよ。ああ、これ? ジムじゃなくて普通の筋トレさ。僕はECOなんだ」


 “もこっもこっ”と、胸筋を動かしながら、機械仕掛けの頭部が光る。


「ね?」


「ど、どうも……」


 ――今日は個性的な人とよく会うな。


 ハロー金肉さんは機人(アンドロイド)という初めて会う種族のプレイヤーで、二メートルを超える金属製の身体と、隆々(りゅうりゅう)の筋肉が黄金に光っているのが印象的だった。

 見た目だけでいうと、物理防御や攻撃は高そうだが、機動力が無さそうな印象である。


「ハローさんとはどう知り合ったんだ?」


 そこまで興味がなかったが、一応、話の種になるだろうと聞いてみると、トルダはカラカラと笑いながら答える。


「うん。私が川で釣りをしてたらハローさんが溺れててね。それで知り合った」


「泳ごうと思ったら、関節が錆びたのさ」


 機械の身体だから錆びたのか……ともあれ、見た所泳げるほど深い川でもないが――なぜ泳ごうと思ったのだろうか。


「時にダイキ殿。その幼女を連れているという事は、もしや貴方が『お義父さん』かね?」


 唐突に話を脱線させるハローさんが、俺に肩車されるダリアに目を向けながら、自信ありげに云う。


「お父さんじゃないですってば」


「いやいや、召喚士トップとも名高い有名な君に会えたのも何かの縁。是非僕と友達になってくれないかね?」


 聞いてないし。


 ――そして間髪を入れずにフレンド申請を送ってきたのか、それを俺のフレンド申請拒否設定によって弾かれたハローさんが「No!」と頭を抱えた。


 なにこれ。


「ごめんなさい、拒否設定してあるので……でも、一度会って話した人ならフレンド大歓迎ですよ」


「ありがとうお義父さん殿。トルダ殿。それではっトーナメントでまた会おう!」


 フレンド申請が完了すると、ハローさんは腕で飛行機の真似をしながら走り去っていった。


 嵐の様な人だったな……。


「――トルダ。変な人を紹介するのはやめてくれよ」


「あそこまでぶっ飛んでると面白いよね」


 げんなりしながら言う俺に、トルダは悪戯な笑みを浮かべる。

 というか、マーシーさんにもお父さんって呼ばれてたし、掲示板の方によからぬ噂が流れているのかもしれない。


 この場で考えても埒があかないので、話題を変えてみる。


「……ゲームにはもう慣れたか?」


「うん。すっごいリアルで面白いね。騎乗術はまだまだ無理そうだけど、弓術とか特に。長弓である和弓(わきゅう)を引いた感じは本物そのもの」


「へえ、経験者が語るならそうなんだろうな」


「ただ、この弓での強さは10キロくらいなんだけど、私としてはかなり物足りないんだよね。筋力が影響してるのかな」


「うーん。剣とかを変えたり、筋力増やしたりしても、重さは一定な気がするから関係ないと思うぞ。――まあ、アレだな。調べろ」


「全然詳しくないよね……まあいいけど」


 錬成術で魔法水を作りながら、トルダとしばらく雑談して過ごす。

 会社でしている仕事や趣味の会話ではなく、Frontierフロンティア Worldワールドについての話題が主なので、なかなか新鮮だ。


「それ、何?」


 俺が作業のように作製していた魔法水を指差しながら、トルダは不思議そうに首をひねる。


「これは魔法水。ダリア達召喚獣の召喚に必要な魔石って物を作るために必要な物。錬成術っていう技能(スキル)で行ってるんだけど、これは何かと何かを合わせたりして、新しい何かを作る技だな」


「じゃあ、コレと魔法水とかで回復薬とか作れるの?」


 トルダはアイテムボックスから一束の草を取り出し、俺に渡してきた。


 回復薬に応用か……考えてもみなかったな。



【癒し草】


癒しの力を持った野草



 確かに、できそうな気はする。

 魔石作製の工程にしか使ってなかったけど、まだまだ用途はあるんだもんな。


 試しに俺は癒し草と魔法水を錬成してみる――と、癒し草が水の中から消え、魔法水は癒しの水というアイテムへと変わった。



【癒しの水】製作者:ダイキ


飲んだ()しくは浴びた対象のLPを80回復する


分類:消費アイテム



「おお! 回復薬っぽいアイテムが出来た!」


「へー、便利だね。たまたま引っこ抜いた草なんだけど、それだけじゃ回復できないみたいだったからさ」


 どこか得意げな表情を浮かべるトルダに、作製した癒しの水入りの瓶を渡す。


「錬成術の幅が広がったよ。お礼にこれやるよ」


 効果の量的にはレベル1〜8くらいのプレイヤー向けだろう。ともあれ、回復薬が作れるとなると使ってよし売ってよしだな。


 空き瓶(いく)つか買っておいて良かった。と、そんな事を考えている俺のもとにケンヤからのメールが届く。


「と、そうだ。この後ケンヤとそのギルドメンバー達に会いに行く予定なんだけど、トルダも来るか?」


 果たしてケンヤとトルダはゲーム内で会っているのだろうか。と、疑問に思いつつ提案するも、トルダは片方の眉を上げ、胡散臭そうな表情を浮かべる。


「いかない。――謙也の事だし、どうせ女の子プレイヤー集めて鼻の下伸ばしてデレデレしてるんでしょ」


 ご名答だよ椿さん。まあ、色男ってのとは少し違うような気もするけど。



 それから魔石生成で一通りの作業を終わらせトルダと別れた。

 なんでもこれから、射撃練習として水面に跳ねた魚を弓で射抜くという、達人級の技を試すらしい。


 ――相変わらずの自由っぷりだ。




 指定された石の町のポータル前に着くと、既にケンヤ達のパーティが待っていた。

 今日の欠員は……いないみたいだな。


「こんばんは」


「よ。有名人!」


「こんばんはダイキさん。ダリアちゃん」


 ニヤニヤ顔で出迎えるケンヤと、ニコリと笑う雨天(うてん)さん。

 同じ笑顔なのに、こうも受ける印象が違うのか。


「こんばんはダイキさん! ダリアちゃん!」


「こ、こんばんは」


「ライラさんにクリンさん、それに金太郎丸もこんばんは」


 すっかり大剣士の格好になったライラさんと、小熊になった金太郎丸で顔を半分隠しながら挨拶するクリンさん。

 全員、一段とレベルが上がっているようだった。


「立ち話もなんだし……肉料理の店にでも行くか」


「悪いな、気を使ってもらって」


 肉料理と聞いてソワソワしだすダリアに苦笑しつつ、俺たちは近くの店に入る。

 料理が運ばれ、ダリアの面倒を見ながらイベントについてあれこれ雑談を交わした。


「レベル50のボスねえ……流石に今回ばかりは運が良かったな」


 顔を引き()らせながら、ケンヤは骨つき肉にかぶりつく。


「俺もそう思うよ。ギミックを知ったのは偶然だし、不思議な石の存在も雨天さんから聞かなければわからなかったからな」


「お役に立てて何よりです」


 口元を押さえ、雨天さんが上品に笑う。


 曰く、ケンヤ達は強力な敵に出会うことなく、宝物もレベル上げも順調だったようだ。使わない武器は金に換え、それにより、皆の装備もグレードアップしている。


「それよりも、ダイキさんが貰った『職安の推薦状』ってアイテムが気になる!」


「俺もそこまで詳しく調べたわけじゃないんですが、王都に行けば何かわかるかもしれませんね」


 興奮気味に身を乗り出すライラさん。やはり、クラスチェンジという要素が気になるようだ。

 単純に考えてもクラスチェンジは職業の強化、プレイヤー全てに関係する要素だからな。


「わ、私たちは先ほど王都にポータル登録してきたので、よろしければ一緒に行きますか?」


「え? いいんですか?」


「おう。風の町の時連れていってくれたしな」


 クリンさんの提案に思わず皆の顔を見渡すも、何を今更と言わんばかりの表情でケンヤが答えた。

 パーティメンバーなら、ポータル間移動を共有できる。つまりは、行った事のない場所でも、ケンヤたちに付いていけば時間を掛けずに転移できる。


「それは助かるよ。クラスチェンジは勿論、王都って場所にも興味あったし」


「んじゃ、食い終わったら行くか!」


 その後、会計を済ませた俺たちは石の町のポータルまで歩き、俺は一旦ケンヤとパーティを組んだ。

 例の如く、パーティは六人までなので他のメンバー達は別でパーティを組んでいる。


 ケンヤがポータルに手をかざすと、一瞬にして視界が切り替わり、石造りの町から、中世と機械都市が融合したような巨大なエリアへと転移した。


「ひ……ろいな」


「今までは『町』だったが、ここは王『都』だからな。職安だけじゃなく色んな施設があるだろうよ」


 遅れて転移してきたライラさん達とも合流する。が、銀灰(ぎんかい)さんからのメールが届いた俺は一旦冒険の町に戻ることになる。


「じゃあ俺らは王都の施設巡りしてくるから、ある程度マップ埋まったら送るわ」


「助かるよ」


 特に気分を害した風もないケンヤ達と別れ、俺たちは再び。冒険の町へと転移した。


 王都とあるから重要な場所だと予想できるし、そうなれば人も多く流れてくるだろう。


 となれば、オルさんや紅葉さん、マーシーさんのような生産職(クラフター)の人たちの活動拠点になりそうだな。

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