水族館に来たよ
青くて暗い水の世界。
大きな水槽を飛ぶように泳ぐ七色の魚達。
『うわぁー!』
一番テンションが上がっているのはアルデだ。ちょうど目の前にいる女児と同じリアクションをしているのが微笑ましい。
『美味しそう』
青吉も別の意味で楽しんでいる様子。
青吉は基本でかめの魚に興味津々だ。
時花水族館――総面積40000㎡という広大な土地に、約20種類もの展示がある県内最大級の水族館だ。
「本当に入館料千円だけでよかったのかな……」
なにせ俺の他に五人の子供が水族館を楽しむわけで、タダ見するのは気が引ける。一応受付で説明してみたが、ちょっと困った様子で「お一人料金で大丈夫です」という回答をいただいた。だいぶ恥ずかしかった。
『この魚は何ていうの』
「これはヒラメだな」
『こっちはー?』
「ありゃサメだ」
「ママ、なんであの人は一人で話してるの?」
「あっちのシャチさん見に行きましょ!」
子供達の質問に答えるだけでも怪しさ爆発だ。こっちではシンクロが使えないため、会話するには声を出すしか方法はない。
『怪しまれてませんか?』
「いいんだよ。時代が遅れてるだけさ」
心配する様子のベリル。
いつか時代が追いついてくるだろう。
そもそも今回のお出かけは、怪しまれることなんて百も承知だ。
ただそんなことで挫けていたら、一生経っても俺の世界を案内できない。負けないぞ俺は。
『シャチ大きい! 乗りたい!』
『戦ってみたい……』
アルデ達はシャチのエリアにいるようだ。
V.Room 1800の力で、同じ階の目の届く範囲なら子供達が自由に歩き回れる。
だから俺が移動せずとも充分に楽しめている様子。
「15時にイルカショー観るからな」
『わかった』
『わかりました!』
『いてらー』
ダリアとベリルも各々好きなエリアに向かったようで、エントランスに残されたのは俺と部長のみとなった。
俺は小魚がいっぱい泳いでいるところより、大きな魚が優雅に泳いでるのを観るのが好きだ。
なのでアルデ達のいるシャチエリアに向かった。
「シャチって7メートルくらいあるのか……」
『7メートルってどのくらいー?』
「んー部長23体分くらいかな」
『それは大変そうだなぁー』
俺もそう思います。
どこに行ったのやらアルデ達の姿はなく、俺と部長はしばらくシャチを堪能した後、大水槽エリアへと向かった。
大水槽エリアは数百種類の魚が共生しており、大きいものだとマンタやヒラメなんかも泳いでいる。
階段状の座るスペースも広く、家族連れが休憩スポットとして活用している。
「えび?」
『えび』
そんな大水槽の片隅にちびっこく座ってるダリア。近付いてみると砂の餌?を忙しなく食べる小さなエビを観察してるようだった。
なかなかこの広大な水槽で小さなエビを見続ける子供はいない(別の場所にエビコーナーもあるし)。
『みんなが自由に泳いでる中でも、かれは休まず働いている。かれがいないと水槽は汚くなる。みんなはそれに気付かない』
おお、なんか凄いこと言い出したぞ。
無表情で淡々と続けるダリア。
『こういう人材が、ダリアのお店に必要』
いやいや君のお店は自分用の肉しか置いてないから営業してないじゃん。エビ君みたいな真面目な従業員必要ないと思うけど。
コツコツとガラスを指で小突きながらエビに語りかけるダリア。
『うちに来ない?』
エビが反応するはずもなく、しばらく沈黙が続いた後、ダリアは俺の足元まで戻ってきた。俺の手を握り(実際には触れないが)不本意そうな顔で水槽を睨んでいる。
『帰りにもう一回スカウトする』
「熱意が伝わるといいな……」
そんなこんなでダリアを回収した俺たちは、続いてベリルのいるペンギンエリアへと向かったのだった。