ストーリークエスト:封印の代償⑤
町の再興はギルドマスターが言ったように一瞬だった。
全ての建造物が木材できているため、木属性魔法によってあっという間に元通りとなる。
木材には捨てるところがない。
加工すれば食器に生まれ変わるし、壊れた部分は暖炉のための薪になる。
家の間取りに不満があった者は、理想の間取りに作り替えてもらっていた。これほどポジティブな町の再建もなかなか無いだろう。
『ただいま』
『ふー終わった終わったー』
ダリアと部長が戻ってくる。
部長が率先して動いたことに俺は感動を覚えていた。ほどなくしてアルデとベリルも戻り、アリル、マッカスさん、サンダーさんも合流。俺達は新しくなったギルド内へと通された。
ギルドマスターが俺達を出迎える。
「再興のお手伝いまでしていただいて、本当になんと感謝したら良いか……」
ありがとう、と、順々に撫でられる子供達。
和やかな時間が流れる。
しばらく談笑していると、パタパタと受付NPCがこちらへ駆けてくるのが見えた。
「男性が目を覚ましましたよ!」
俺とアリルは顔を見合わせ、案内先に早足でついて行く。通された部屋のベッドの上では、一人の男性が目を覚ましていた。
「ここは……?」
目を覚ました男性は、
不思議そうに顔を動かしている。
男性に駆け寄るアリル。
「大丈夫ですか?」
「あぁ」
小さく頷く男性。
アリルは確認するような口調で続ける。
「自分が何者か分かりますか? 直前までの記憶は?」
その問いに男性はしばらく唸った後、
絞り出すように答えはじめた。
「わたし、私はロネルグ、ロネルグだ。沼の調査をしていた。それから、それから……」
やはりこの人が失踪していた研究員か。
俺はロネルグさんの次の言葉を待った。
ロネルグさんは「あ!」と、凄まじい声量で叫ぶと、肩を抱いてガチガチと震え出した。
「捕まって、体をいじられ、怪物に……! 私の、私の家族も捕われたままだ……!」
嫌な記憶まで思い出したのだろう。
アリルは複雑な表情でそれを聞いている。
その後、アリルの説明で地下の施設のことを聞いたギルドマスター達は、信じられないといった表情を浮かべロネルグさんを見た。
「そんな酷い仕打ちを……誰にやられた?」
聞くのが忍びない質問をサンダーさんがしてくれた。
頭を抱えるロネルグさんは、首を振りながら小さく答える。
「王都の、奴等、です」
「!」
全員が驚愕の顔を浮かべた。
慌てた様子でマッカスさんが口を開く。
「王都のギルドが嘘をついてるってことか?!」
明らかに動揺するマッカスさん。
アリルは真剣な表情で皆を見た。
「王都に行きましょう。何が起こっているのか、誰が起こしているのか、そこへ行けばきっと分かります!」
《クエストが統合されました》
見慣れないアナウンスと共にクエスト画面が表示され、俺は話を聞きつつそれに目を通す。
【ストーリークエスト:封印の代償】推奨Lv.45
冒険者アリルの力によって沼地の毒は埋め立てられ、草の町は長年の苦悩から解放された。しかし喜びも束の間、草の町に新たな脅威がやってくる。彼等はどこから現れたのか、そして何者なのか――。
嘆きのキメラを止める[1/1]
王都の研究室B4階へ向かう[未達成]
研究資料を手に入れる[0/5]
入手:研究室への鍵束
経験値[269,951]
追加経験値[239,556]
なるほど……元々あったストーリークエストと目的地が一緒になったから統合されたのか。
沼地ではなく先に王都に向かっていれば、また違っていたのかもしれない。わざわざこうなったということは、何か意味があるに違いない。
*****
王都――研究室。
クエストの目的地として印がつけられたその場所は、ロネルグさんに教えてもらった場所と一致していた。
そこは一見して普通の家だった。
ロネルグさんから借りた鍵で中へと入る。
「普通の家、だな」
「地下への階段ありました」
生活感溢れる家の中を見て呟くサンダーさん。
向こうでアリルの呼ぶ声がする。
この場にいるのはアリル、マッカスさん、サンダーさんとギルドマスター。病み上がりのロネルグさんはギルドが診ていてくれている。
地下へと降りると、そこは沼地の地下にあったような機械仕掛けの研究室が広がっていた。
「これはまたすごい……」
その光景に呆然と立ち尽くすマッカスさん。
研究室B4階と聞いて、俺はてっきりトラップタワーへ続くあの施設のことだと思っていたが違ったようだ。王都にはこういう場所がいくつか存在しているのかもしれない。
ギルドマスターが手招きする。
「こっちから降りられそうです」
といった調子で降りていく俺達は、目的の地下四階へとたどり着いた。
そこは簡素な部屋だった。
机の上に並べられた資料と、なにやら奇妙な液体が入った注射器が3本並んでいる。
適当な資料を掴み上げ、パラパラとめくるサンダーさん。そしてある1枚を見て手を止めると、俺達に視線を送った。
「読むぞ」
そこにはこんな内容が書かれていた。
「私はついに毒沼の原因を突き止めることができた。沼地には地下へと続く階段が存在している。場所は湖の中、恐らく草の町の連中が何らかの関与をしている。奥には恐ろしい実験の跡と、毒の原因である怪物が繋がれていた。私は怪物を分析し、それを倒すための薬を作り上げることに成功した。しかし、私は毒に侵されもう長くはないだろう。この資料を読んだ者よ、どうかあの怪物にこの薬を、私の無念を晴らしてくれ」
これを1枚目とする研究資料を他に4枚手に入れると、クエスト項目にある[研究資料を手に入れる]という部分が達成済みとなった。
そして新たに、[アリルの話を聞く]という項目が現れる。
サンダーさんが読み上げた内容を聞いたアリルは震える声で呟いた。
「これ……ロネルグさんが書いたってことになってる」
ここにいる誰もがそれに気付いただろう。
怪物こそ毒の原因という部分が、全くの嘘であることに。
怪物はロネルグさんが変えられた姿。
毒の原因はあの施設そのものだ。
「この薬……」
薬を調べていたギルドマスターが呟く。
そして真剣な表情で俺達に振り返る。
「薬を扱う者なら分かりますが、これは錯乱の効果と腕力強化の効果がある増強剤の一種です。こんな物を打ったら凶暴化してしまう……」
全身に鳥肌が立った。
俺の中で全てが繋がったのだ。
怪物の正体は、沼地を研究していたロネルグさん。そして彼を怪物に変えたのは、他でもない王都の人間だ。
倒すことを誘導していたのは、王都にとって彼の存在が疎ましいものだったから。だから虚偽の研究資料をこの部屋に置き、第三者に資料を取ってくるよう誘導させ、倒させることで隠蔽を図った――ということになる。
実に回りくどく、それでいて狡猾。
俺達だけ、或いは〝同行を拒否していた頃のアリル〟と先に王都に来てしまったら、今頃あの怪物を倒していたのではないだろうか。
倒した後に残るのは草の町への不信感だけ。
この場に草の町のギルドマスターがいなければ、薬の成分も分からずじまいだったはず。少なくともアリルとギルドマスターがいなければ、真実に辿り着くことはできなかっただろう。
真実に気付かずクエストはどんどんと進む。
そう、間違った方向へと――。
「先に王都に行っていたら、間違いなく資料と薬をキーアイテムだと思ってた。だから王都が先はミスリードなんだ」
あの時――アリルが強行突破で「沼地に行く」を選択していなければ、話の流れ的に、俺達は王都へ向かっていただろう。
考えただけでゾッとする。
「これを持ってロネルグを会わせれば、王都の連中の汚い所業も暴けるんじゃねえか!?」
激昂するサンダーさん。
マッカスさんもそれに同調している。
動揺しつつもギルドマスターは冷静だった。
「ロネルグさんは家族をも人質に取られているとも言っていました。大胆に動くとなれば、彼の身の安全を確保しつつ、先にご家族の保護もしなければなりません」
思い出されるのはあの時見せた写真。
簡単に動けないのがもどかしい。
「……王都へ不信感を抱けただけでも一歩前進です。たとえすぐに解決できずとも、この事実は白日の元に晒さなければなりません」
決意の篭った表情でアリルが言った。
その言葉を聞き、三人も大きく頷く。
「ロネルグさんの人生をめちゃくちゃにした罪も、草の町の皆を苦しめた罪も、必ず私達が償わせる」
そう呟くアリル――それと同時に、クエスト達成のアナウンス流れたのだった。
【ストーリークエスト:封印の代償】推奨Lv.45
冒険者アリルの力によって沼地の毒は埋め立てられ、草の町は長年の苦悩から解放された。しかし喜びも束の間、草の町に新たな脅威がやってくる。彼等はどこから現れたのか、そして何者なのか――。
嘆きのキメラを止める[1/1]
王都の研究室B4階へ向かう[達成済み]
研究資料を手に入れる[5/5]
アリルと話す[達成済み]
経験値[269,951]
追加経験値[239,556]
【ストーリークエスト:砂の中の魔物工場】推奨Lv.50
砂の英雄候補である冒険者ラルフは各町から腕利きの冒険者を募る。参加者には他の町の英雄候補も名を連ねていた。険しい道のりの先、彼らが砂の中で見たものとは――
クエスト参加冒険者[5/6]
ラルフ
ナルハ
タリス
マリー
アリル
???[0/7]
経験値[321,056]
G[74000]
祝300話
アリル編一旦完結です