表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/304

巨大迷宮 インフィニティ・ラビリンス ②


 無事、イベントモンスターとの初戦闘を終えた俺たち。

 ダリアは魔力回復技能(スキル)の恩恵で既にMPが満タンになっているため、特に回復することもなく足を進めていく。

 マッピングも順調で――良いのか悪いのかは不明だが今の所行き止まりで足止めを受けることも無かった。


「お?」


 首にさげていたお宝レーダーが緑色に点滅しはじめる。試しに引き返してみると、その光は薄く小さくなり、進むにつれ光が大きく濃くなっていく。


 ――要するにこれで宝物の位置を割り出せってことだよな。宝物に近付くだけ、光が強くなるわけだ。


 なんだかワクワクしてきた。


 俺たちは点滅の指示に従い、早足で道を進んでいく。丁度よくミニマップにはプレイヤーやモンスターを表す点は存在していない。

 もしかしたら、モンスターの湧く頻度は低いのかもしれないな。と、軽く推測を立てておいた。



 ――右に、左に、右に、また右に。



 くねくねと複雑な道を歩きながらも、お宝レーダーの光がどんどん大きくなっていくのを感じながら進む。

 もはや深緑色(ふかみどりいろ)となったレーダーの光に(いざな)われ、視界の先に開けた空間があるのが見えた。


「って、待て待て」


 夢中で足を進めていた自分を制止するようにして、頭を左右に振る。

 レーダーに引っ張られているわけじゃないので、俺が足を止めればいいだけの話だが……。


「――注意力が散漫だな」


 はやる気持ちに支配され、ミニマップの方に注意が入ってなかったことに気付き、気持ちを入れ直す。


 落ち着いて再度、見る。


 ミニマップには部屋を表す通路よりも幅広の空間が写し出されている。そして、中心にある少し大きな赤点も、はっきりと表示されていた。

 どうやら、たどり着いたら即お宝ゲット。なんて、美味い話にはならないようだ。レーダーの反応からして、この部屋に宝物があるのは明白なんだが。


 ゆっくり部屋に向かって歩くと、徐々に徐々に、赤点のシルエットが(あら)わになっていく。


「ゴブリンってやつか? ……ブスだなあ」


 コッソリと岩陰から覗くようにしてソレを確認してみるも、あまりの醜悪さに、ついつい口が悪くなっていた。

 赤点の正体は、豚のような顔と人間の体を合わせ持つ魔人。

 メニュー画面に備え付けられた《鑑定》で調べてみると、そこには【オーク Lv.9】と表示された。


 ――ゴブリンじゃなくオークね。見た目もる事ながら、防具も武器も貧相だなあ。


 豚頭を鳴らしながら部屋内を徘徊するオークは、何で汚れたのかは知りたくもないが、茶色く汚れた腰布と血の付いた棍棒だけを装備している。


 ともあれ、とても強そうには見えないが……。


 道と部屋との境界線のようなラインを越えると、先ほどまで俺に気付いてもいなかったオークが、(よだれ)を撒き散らしながら棍棒を振り回し向かってきた。


「『隼斬り』」


 ――すかさず迎え撃つ。


 距離があるとはいえ臨戦態勢だったオークだが、俺が一気に距離を詰めたことが理解できていないのか、反応できずにいる。


 無防備な相手にかける情けはない。


 隼斬りによる一太刀は、オークの腹を切り裂いた。苦しそうな悲鳴を上げたオークが光となって四散する。


 ――レベル差もあるし仕方ないか。と、連続したスライムに続く呆気なさに不完全燃焼なのは、仕方のない事だろう。


 オークがいた場所には先ほどまで無かった小さな木製の箱が置かれ、それに近付けたお宝レーダーが、これでもかというほど光を放っている。


 ふむ――鍵とかは、無さそうだな。


 オークとの戦闘で右上の数字が【獲得P / 00012】に増えていることに気付く。

 これで宝物を開けた後、数字が変化していれば貢献度には宝物が関係すると言えよう。


 ここで《開錠》等の技能(スキル)が必要なんて出たら非難轟々だよな。と考えながら膝をつき、小さな木箱を開いた。



【技術の指輪】#緑箱

つけると少しだけ手先が器用になる。


器用+4



 中身は……ショップで買うと800G程度の品かな? あまりレア度は高くなさそうだが、器用が上がるなら有難く着けさせてもらおう。


 そのまま左手の人差し指に指輪を装備し、立ち上がる。

 初の宝箱は可愛い品が出たものの、守護するモンスターも相応の強さに設定されているのかもしれない。と、予測を立てる。


 右上の数字には【獲得P / 00019】とあり、宝物を空ける前と後で数字が変わっていたため、これは宝物の入手等も含む貢献度と言えるだろう。


 これがもっと強いモンスターなら数字は更に上昇するだろう――レア度の高い宝物も然りだ。


 見た所、この部屋は行き止まりではなく先がある。とりあえずはこのまま進んでみるとしよう。



 しばらく道なりに歩いて行くと、十字路が現れた。全て初めて通る道なので、マップは参考にならない。


「ダリアどこがいいと思う?」


 退屈だろうとダリアに振ると、ダリアはスッと正面の道を指差した。

 俺も人の事は言えないが、特に考えがある風でもない、直感だろうなと苦笑い。

 それからいくつかの分かれ道もナビゲーターダリアの指示の元、俺たちは迷宮を進んでいく。



「ダリアここはどっちに……っ!?」



 ――ふと、ミニマップを見た俺の目にある情報が飛び込んできた。


 俺たちが歩いてきた道の後ろから、六つの青点がかなりのスピードで近付いてきていたのだ。


 赤点がモンスターだとするなら、青点が意味するのは……プレイヤー。



「ダリア、逃げるぞ」



 二対六で勝てるなんて自惚(うぬぼ)れてはいない。戦闘になれば勝機は別として戦わざるを得ないものの、避けられる戦闘は全力で避けるのが吉だ。


 何も考えず、左の道へ走り出すと、後ろの青点達のスピードが上がる。

 その中でも二つの点は特にスピードが高く、このままでは、じき追いつかれる。



「――おいおい、嘘だろ」



 引き返す選択肢はないが……どうやら、進むわけにもいかなくなったらしい。

 突如、前方に現れた個体は、先のスライムやオークといった可愛いレベルではなかった。




【メタル・スパイダー Lv.37】





 文字通り、鋼の体を持った八本足の虫。不気味な液体が滴る鋭い顎をカチカチと鳴らしながら、無謀にも自ら向かってくる獲物達(俺とダリア)へ敵視を向け、既に臨戦態勢に入っている。


 ――低レベルモンスターが二体来たと思えば、ちょうど良いを通り越して化け物が出てきてしまった。


 糸を張って巣を作り、獲物がかかるのを待つ自然界のハンター、蜘蛛。

 木々の間や目立たない所に巣を作る彼等が、こんな大胆な場所に巣を構えていいのだろうか。


 道を塞ぐように巣を張り巡らせているメタル・スパイダー。


 引き返せば捕まらずに済むだけの、こんな簡単な場所に巣を張るのは、蜘蛛の世界であれば100満点中の12点くらいだろう。

 しかし、今みたいな状況――挟み撃ちでの逃げ道の封鎖――を見越して巣を張ったのだとすれば100満点だ。花丸だよ。


 もしかしたら、後ろのパーティが意図して蜘蛛を使ってライバルを減らしているとすれば、それもそれで厄介だ。頭の良い司令塔がいる。数の差もあり、引き返しても勝機は薄い。


「となれば――強行突破! ダリア!」


 ダリアが足の速い二人に闇霧(ダークミスト)影縛り(シャドウバインド)を発動し、視界と足を奪う。


「『飛閃剣』」


 その間に、俺は通路左側に飛閃剣を放ち蜘蛛の巣を断ち切ろうと図る。

 ――が、メタル・スパイダーは自らの身体でそれを弾き飛ばした。



 できた。一瞬の距離が!



 ダリアの火炎地獄(インフェルノ)が巣に炸裂。続くように隼斬りで、通路右側へ一気に距離を詰め切り裂き、突き抜ける。


 体を逆サイドに振られたメタル・スパイダーは火炎地獄(インフェルノ)により一瞬の隙を見せる。

 そして奴が隼斬りに気付いた頃には、俺たちは既に、巣の向こうだ。


 巣まで鋼で作られていたら、駆け抜けるどころか細切れだったが、飛閃剣から巣を庇ったという行動から、違うと確信するのに時間は必要ない。


 火炎地獄(インフェルノ)により溶け出した巣を切るのは容易かった。メタル・スパイダーは自らの巣を壊された腹いせに、目の前まで迫ってきていたパーティに狙いを定め、襲いかかる。



「うわぁぁぁ!!」



 後ろから聞こえる断末魔の叫びを聞かないようにしながら、一心不乱に逃げる。

 ともあれ、あの巨体であのスピード……後ろから追われていたら、間違いなく逃げ切れなかった。向こうのパーティに向かってくれたのは幸運だったな。



 なんとか事無きを得た俺たちは、気を取り直して探索を再開する――と、今度はレーダーが黄色く光った。


 色に何か意味があるのか?


 さっきは緑色だったけど。


 黄色い光は現段階でも既に強く光っている。ということは、結構近い場所にある。という意味だ。


 そのまま、レーダーを頼りに歩いて行くと、左と前方に道が分かれていた。

 レーダーは左を強く指している。



「さて、次は何が出るかな」



 先ほど出会った化け物でもレベルは37。そしてこの迷宮で出るモンスターの最大レベルは《50》だ。

 もはや戦う事すらできずに殺される可能性もある。


 少しばかりビクビクしながら左の道を覗くと、少し奥、見える範囲に木箱が置いてあった。


「――お? モンスターもいないな」


 守護するモンスターの不在なんてパターンもあるのか。《当たり》ってやつだな?


 ならばさっさと回収だな。と、木箱に近付いたその時――足元から無数の槍が飛び出してきた!



「……っ!?」



 完全に気を抜いていた。

 見事に数本身体を貫通したが、グロ的な状態ではない。が、今のでLPが15%程削れていた。


 ……モンスターだけじゃなく罠まであるのかよ。こりゃ骨が折れそうだな。


 してやられた。と、回復薬を飲みながら木箱に近付く。

 万が一、罠があっても解除の仕方はわからないので、念入りに叩いて確認した後、恐る恐る木箱を開く。



【獲得ポイント[微量]】#黄箱


貢献度ポイントに20追加される。




 と、中のアイテムはボックスに入ることなく光となって消え、右上のポイントが20だけ増えていた。


 ――なるほど、宝物には装備以外にも色々入ってるんだな。ともあれ、これは内容的にはハズレじゃないか?


 まあなんにせよ、罠があるという事を知られただけでも十分な収穫だ。レベル50の化け物を配置するくらいだ、即死級の罠も普通にあるだろうな。

 俺のように何も知らずに罠に引っかかり、それが即死級で一撃死に戻りだったら災難だよな。

 もしかしたら既に何人かはそれでペナルティになってるかもしれないが――


 が、ダリアが共にいる以上無駄な死は避けたい。罠は最大限に注意したほうがいいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ