人員確保と下準備
MPが尽きるよりも先に待望のレベルアップが起こった。レベル1では、ナットラット五匹分程度の経験値でレベルが上がるようだ。レベルが上がると減ったLP・MP・SPは全回復するらしい。
レベルアップ時にはボーナスの他に全てに1ずつポイントが入るのか。
名前 ダイキ
Lv 2
種族 人族
職業 召喚士
筋力__6
耐久__9
敏捷__9
器用__9
魔力__13
残り30ポイント
どちらのスタイルで行くかまだ決めあぐねているため、ボーナスポイントはそのままにしてある。
これを全て筋力に注ぎ込めば剣で、魔力に注ぎ込めば魔法でここら一帯の敵を苦労なく倒せるのだろうが……とりあえず、今は気持ちを切り替えよう。
アイテムボックスを開き、項目をスライドさせていく。
実は召喚に必要な魔石は既に所持品の中に存在している。運営からの配慮により、やろうとすればスタート直後に召喚獣を呼び出す事ができるらしい。
俺は万が一に備え、周りの迷惑にならないように人が少ない場所を選んで移動し、魔石を取り出した。
【魔石】
魔力が宿った石。
ゴルフボール程の大きさの、青みがかった石が手に収まった。河原に落ちてそうな石だ。召喚士専用とは書いてないみたいだが、他にも用途があるのだろうか?
最初、アイテム欄にあるこの魔石を使用して召喚しようと考えていたが、火属性魔法技能を選択する際に見つけた技能達の組み合わせを、思い切って試してみようと思う。
俺は空いている技能枠を使い、《魔石生成》という技能を習得した。
魔石生成を発動すると、視界の端に魔石に必要なアイテムが表示される。
一つは魔鉱石という鉱石で、洞窟などに多く埋まっているらしい。もう一つは魔法水。これはショップなどにも売っている。
俺は他に魔鉱石を採掘するために採掘術と、魔法水の生成に活用できる錬成術を習得。
これで準備は整ったな。
技能
【召喚魔法 Lv.1】【調教術 Lv.1】【火属性魔法 Lv.1】【魔石生成 Lv.1】【採掘術 Lv1】【錬成術 Lv.1】
残り4枠
冒険の町へ着くと、出発時よりもプレイヤーの数が増えている事に気がつく。俺や謙也はゲームを最速で始めているが、後に購入した人達、一度仮眠を取った人達がログインしだしたのだろう。
冒険の町は敷き詰められた石の道が見えない程、プレイヤーに埋め尽くされていた。全てのプレイヤーがこの町から冒険を始めるわけだから、仕方ないといえば仕方ない。
時刻は午前9時50分。予め指定しておいた集合場所へ向かう。
朝一の市場のような賑わいをみせる様々な出店を覗きながら、集合場所である時計台の前に辿り着いた。
多くのプレイヤーが楽しそうに雑談しているその中に、強そうな装備に身を包んだ友人の姿を見つける。
「よ。待たせたな」
「お、来たな。……って、やっぱり召喚士にしたのね」
素早く俺を鑑定したのか、謙也がコケそうな勢いでよろける。ヘルメット型の茶色い兜がズレた。
銅板で急所を覆った革製の胸当てに、同じ革で作られたアームガードとグリーブ。腰に下げた片手の斧と、背中に背負った大盾。
プレイヤーネーム『ケンヤ』は以前言っていた通り、盾役としてスタートしたみたいだ。
「当たり前だろ。俺はロマンに生きる」
「ロマンねぇ。骨が折れるぞ召喚士。βテスターの俺が言うんだから間違いない」
以前よりケンヤには召喚士を止められていたが、俺は一向に意見を曲げなかった。結果ステ振りに悩んでいるわけだが……。
ケンヤの横に立つ見知らぬ女性が会話に入りたそうにしていた。
ゲームなので珍しくはないが、なかなかの美人さんだ。健康的な褐色肌のショートカットの女の子。見た目でいうと歳は俺たちより三つくらい下の20歳位か? もっと幼いかもしれない。
なんにせよ、外見をいじくれるこの世界では、アバターと現実のプレイヤーの容姿は直結しないが……ここはアバターの性別に合わせて対応するのが無難か。
「ん、あぁ。この人は俺のパーティメンバーのライラさんで職業は剣士。結構強いぜ?」
「そんな事ないですって! ……初めまして、ライラです」
俺の視線に気がついたのか、ヒソヒソ声で言うケンヤの言葉に慌てて手を振るライラさん。どうやら揶揄えるだけの仲ではあるらしい。
腰に鉄の直剣を携えた身軽な装備の彼女。ケンヤが盾役なら彼女は攻撃役だろうか。
魔法職でも仲間にできれば非常に安定したパーティになりそうだ。
「初めまして。ケンヤの友人のダイキです。まだステ振り迷ってますが、とりあえず召喚士やってます」
「へぇー! 私も迷ったんですよ、召喚士。猫とか犬とか一緒に冒険出来たら楽しいだろうなーって!」
うん。俺もその気持ちすごいわかる。モフモフに囲まれた旅で仕事の疲れも取れそう。
目を爛々と輝かせながら語るライラさんだが、ケンヤが厳しい声でピシャリと言い放つ。
「いやいや、召喚士ってのはそんな緩い職業じゃないんだよ。確かに、目の保養や戦力になるのは間違いない。けど、召喚獣はとにかく言う事を聞かない。人型ですらだ、獣タイプなんて尚更酷いぜ」
曰く、親密度を上げるのが非常に難しい。βテストの際、ケンヤが召喚士を選び挫折を味わっている。
その上、召喚獣はパーティメンバーの一枠を埋める。経験値が頭割りとなるパーティにおいて、一人に二人分の経験値が流れるのは不満の元になるという。
「パーティには入れてくれないわ、召喚獣は言う事を聞かないわ、召喚に必要な魔石は高いわで散々だったぜ。使役した猫自体は可愛かったんだけどなあ」
両手を上げて首を振るケンヤ。上手く使役できればこれ以上ない強力なパートナーと成り得る召喚獣だが、職業としての評判は悪い。
「そ、そうなんですか。じゃあ軌道に乗るまでに時間掛かっちゃうんですね」
「そういう事。まぁ、それでもやるって聞かない奴もいるけどな」
「やりたい事をやってこそのRPGだろうが。……ともあれ、そうだな。ちょっと軌道に乗るための実験に付き合ってくれないか?」
サービス開始初日の貴重な時間を割いてもらうのは心苦しいが、こっちは本気なのだ。ライラさんは無理に誘えないが、ケンヤには付き合ってもらおう。
「いいですよ、私は。ダイキさんの召喚獣に興味ありますし」
お、ライラさんが参加してくれるようだ。有難い。
「後悔してキャラ作り直しても、レベル上げは手伝ってやらねーからな」
ジロリと睨み、その後吹き出すように笑いながら、ケンヤも参加の意思を見せる。
さて、そうと決まれば下準備からだな。