ストーリークエスト:封印の代償②
草の町へマッカスさんとサンダーさんを運び込んだ後、俺達は再び沼地の穴の前へとやってきた。
アリルを囲うような形で集まり、アリルが金色の光に包まれると、発生した浄化の水は俺達をも包み込み、綺麗な球体状に形を変えた。
「このまま降りるしかないですね」
穴からは既に毒沼が溢れ出しており、下の様子を窺い知る術はない。降っている最中に巨人と遭遇するのが怖いが、先程の光景を見る限り、なんとかなりそうだ。
『帰ったらお風呂入らなきゃ』
『同じくー』
『皆で入ろうよ!』
『俺の水槽なら広く使えるよ』
『私は水はちょっと……』
こんな状況下でも子供達は賑やかだ。
若干緩いが、うちはそれでいいんだ。
『アリルの浄化の水は大丈夫なの?』
『はい、不思議なことに』
機人族であるベリルは極端に水に弱いという種族特性を持つが、どういう訳か、アリルの水は影響を受けないようだった――これも何か意味があるのかもしれない。
「行きます」
そう言って歩み出すアリル。
そのまま俺達は穴の中へと沈んでいった。
体感的にはゆっくりとしたエレベーター。
アリルの水の中では、まるで水の町の中のように呼吸ができる。毒沼の影響も受けない。
『ここは水の中って扱いだから、青吉の[水の癒し]も有効か。これは大きいぞ』
青吉の持つスキルの中には[水の癒し]というものが存在する。
効果は水を吸収して自身のLP・MP・SPを回復するという、海竜ならではの内容で、雨の中や水中で戦う場合に猛威を振るうスキルでもある。
盾役である青吉が更に硬くなるのは好都合だ。
「底に着いた、のか?」
地に足がつく感覚でそれに気付く。
辺りは地中――ではなく、妙な光景が広がっていた。
そこかしこで動く電子の線と、未知の金属でできた壁。ひどく薄暗い。膝上ほどまで毒沼に侵食され隅々まで見ることはできないが、この場所は間違いなく人工物であった。
「沼地の地下になぜこんな場所が……」
つらそうな顔でそう呟くアリル。
ストーリー的に重要そうな施設に思えるが、彼女の体力を考えると長居はできないな。
『《踊る炎》』
ダリアの周囲に火の玉が浮遊する。
炎の灯りで、薄暗かったその空間が明るく照らされた。
炎の灯りに照らされ浮かび上がったこの場所は、巨大なドーム状の施設だった。
穴に向かって吸い上げられるように昇る毒沼と、送るための毒沼を溜めておくプールのような役割の場所だと分かる。周りに巨人の姿は無いが、この施設から現れたのだと考えると腑に落ちる。
「あそこが出口みたいだな」
ずっと先の壁の所に重厚そうな扉が見えた。
近付くとその扉に体力のバーが現れる。
施設の扉:耐久値 50/50
鍵を探すとかではなく、
実力行使で押し通れという意味のようだ。
「開けられそうですか?」
「力勝負ならアルデに任せよう」
『任されよう!』
ぐるんぐるんと腕を回し、舌舐めずりをするアルデ。そのまま全力で拳を打ち付けると、重いもの同士がぶつかったような鈍い金属音がドーム内に響き渡った。
『かったいなー!』
と、嬉しそうに腕を回すアルデ。
「……手は大丈夫なの?」
『鍛えてるからねッ!』
そうか、鍛えてて良かったね。
痛くなさそうなのでとりあえず安心した。
施設の扉:耐久値 49/50
アルデの全力パンチでもダメージ1か。
これは威力というより手数かな?
ビィーー! ビィーー!
ボヂョ! ボヂョヂョ!!
扉を殴ったことで何かが作動したのか、警告音のようなアラームがけたたましく鳴り響き、天井部分から何かが沼へと落下してくる。
それはあの巨人だった。
数は全部で6体いるようだ。
「い、異人さん!」
「アリルは浄化に集中していいよ。アルデは引き続き扉の破壊をよろしく頼んだ」
『頼まれた!』
ダリアと青吉が横並びで歩み出る。
二人の両手には赤と青の光が集まっている。
「《魔法特化の陣》」
『《魔法強化Ⅶ》』
俺の鼓舞術と部長の強化が飛ぶ。
二人の体が光に包まれた。
『《火炎の衝撃波》』
『《水流の衝撃波》』
赤と青の波紋のような衝撃波によって、巨人達は向こう側の壁へと吹き飛ばされる。そして激突と共に、体を爆散させたのだった。
「すごい……」
驚愕するアリル。
レベル差+バフで二人の攻撃力があれば問題ないだろう。
『開いたよ!!』
満足そうに汗を拭くアルデ。
めちゃくちゃに凹んだ扉には大人が通れる程度の隙間が現れている。その奥に続く空間には毒沼はないようなので、ひとまずアリルを休ませられそうだ。
「先に進もう」
「はい!」
俺の言葉にアリルは力強く頷いた。
さて、未知の施設に何が眠っているのやら。