ストーリークエスト:封印の代償①
【ストーリークエスト:封印の代償】推奨Lv.45
冒険者アリルの力によって沼地の毒は埋め立てられ、草の町は長年の苦悩から解放された。しかし喜びも束の間、草の町に新たな脅威がやってくる。彼等はどこから現れたのか、そして何者なのか――。
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場面は夜の草の町。
そして眼前に広がる――火の海。
強制発生したクエストの詳細確認もそこそこに、状況を把握すべく子供達に指示を飛ばす。
『ベリルは空からの状況把握! 部長は怪我人の治療! 青吉は鎮火優先! ダリアとアルデは敵の殲滅に向かってくれ!』
全員がそれに同意し、動き出す。
俺は[空間認識の目]による俯瞰視点での状況把握を行いつつ、ベリルの報告に耳を傾ける。
『敵は悍ましい姿の巨人が6体』
『確認した。俺とベリルで3時方向のを叩く』
『了解です』
草の町に現れたのは背丈5メートルほどの巨人で、爛れた皮膚に、口と鼻が一体化したホースのような形の容姿が特徴的だ。
ホース部分から液体を撒き散らし、それが物に触れることで発火しているようだ。
「異人さん!!」
声の方へ視線を向けると、そこには寝巻きのまま飛び出してきたであろうアリルの姿があった。手にはしっかり杖が握られている。
「そんな……町が……!」
音か振動で飛び起きたままに出てきたのか、ここで初めて町の置かれた状況を理解するアリル。
「説明は省くね。とりあえず奴等を倒す」
「わかり、ました」
視界の隅ではダリアとアルデがそれぞれ一体ずつと戦闘しているのが見えた。逃げ惑う町民達へ頭上の部長が回復魔法をばら撒いていく。
青吉は消火と戦闘を同時進行でやっている。
とりあえずこれで4体は引き付けられた。
相対する巨人は武器を持っておらず、これは全ての巨人に共通していた。動きは鈍重だが、破壊力は町の惨状を見れば言うまでもない。
「『こっちだ!』」
挑発を技によって巨人の敵視は俺へと向き、盾を構えると同時に、巨人の背後へベリルが回り込むのを確認した。
定石通り、盾弾きからのコンボで一気に決める――!
『追撃システム起動……オハヨウコザイマス』
『マスターの動きに合わせてくださいね』
『分カリマシタ。攻撃ヲ開始シマス』
『あ! こらっ!』
ベリルの静止も待たずして、追撃システムのお得意特攻自爆が巨人に炸裂する。レベル差も相まって巨人のHPは3割ほど削れており、俺は作戦を変更し攻撃に打って出た。
「《隼斬り》」
これは高速移動の後に鋭い一撃を与える技。
巨人との距離が一気に縮まり、俺の攻撃で巨人のHPは更に1割ほど削れた。
「《連続剣:下輪》」
下段切り上げから始まる連続技の初撃。
俺は勢いそのままに技を繰り出していく。
「《連続剣:中蓮》」
足から駆け上がるようにして腹部を一文字に斬りつけると、巨人は反撃のために右手を振り上げた――その右手をベリルの光線が撃ち抜いた。
反動によってよろめく巨人の膝を足場にし、体を捻って頭上へと跳び上がる。剣を高く構え、そのまま一刀両断する。
「《連続剣:上雷》」
ズバン!!! という凄まじい斬撃音と共に、巨人の体が半分にズレる。HPが0となった巨人は光を散らしながら消えてゆき、着地した俺の頭上に光の粒子が降り注いだ。
『お見事です』
『レベル差で何とかなったな』
『目回っちゃったよー』
しまった、
部長にはひと言いうべきだったな。
他の戦場へ視線を移すと、ダリア、アルデ、青吉の相手も既に倒されたようで、残りの巨人はこれで2体――そのうちの一体が町民を襲っている。
「いやあ!!!」
「来ないで!」
母親と子供が巨人に追われていた。
そこへネグリジェ姿の青髪が躍り出る。
「だめええええ!!!」
アリルの体から黄金の光が漏れ、
杖の先から浄化の水が溢れ出す。
振り下ろされる巨人の腕が浄化の水を捉えたその時――巨人の腕、体、頭と光が伝播し、まるで風で砂が舞うかのようにして巨人の体が塵となった。
しばらく呆気に取られていたアリルは2人に駆け寄った。遅れて俺達もその現場に到着する。
「一体何が……」
「分からない……けれど、あの沼地の穴から這い出てきたってギルドマスターが……」
それを聞いてアリルは絶句した。
塞いだ穴から現れた怪物、ってことか?
あんなに厳重に塞いだのになぜ……?
凄まじい音と地響きが続く。
それは、最後の巨人が岩の壁を殴り壊し、魔法使い達へ拳を振り下ろした瞬間だった。
『《水の射手》』
パン! と、青吉の指から細い光線が飛ぶ。
光線は巨人の頭を貫き、巨人は霧散した。
苦しそうに倒れ込む魔法使い達。
彼等は埋め立てをおこなっていた人達だ。
アリルと部長が魔法使い達を回復させる。
「何が、一体何があったんですか?!」
「ゔぅ……穴から、こいつらが……マッカスさん達が食い止めて、二人だけで……」
治療が終わるや否やアリルが沼地の方へ駆け出した。合流したダリア達を連れ、俺達もその後を追いかける。
*****
沼地には再び毒が広がってきていた。
埋め立てられた土の上に徐々に広がるようにして、紫色のヘドロが動いているのが見える。
穴の場所を見ると、真ん中の岩は砕かれ、内側から土塊を押し出したかのように山になっていた。
そして横たわる5体の巨人の傍に、
2人の男が倒れているのが見えた。
「マッカスさん! サンダーさん!」
叫ぶアリル。
俺達は二人の元へ駆けつけた。
「悪いな、流石に数が多くて町に何体か行かせてしまった」
「町の巨人は倒しました。安心してください」
『回復させるよー』
満身創痍のサンダーさんに治療を施す部長。
マッカスさんの治療はアリルが既に行なっている。
なんなんだ、この状況は。
穴を塞いで完了ではなかったのか。
クエストの選択肢を間違えたのか?
「穴の下に……何かがある」
息も絶え絶えなマッカスさんが呟いた。
「何かってなんです?」
「分からない。ただ、それをどうにかしない限り、この怪物も、沼も、根本的に解決でき、ない可能性がある」
マッカスさんは苦悶の表情を浮かべながら痛みを耐え、更に続けた。
「下には、更に大量の、怪物、が、いるかもしれない。A級冒険者、クラスの、助力が、いる」
毒沼の原因は下にある、か。
つまり前のクエストは完全な解決ではなかったということか。
「助力なんて待てない――それに、海竜神様はこの問題を解決できるのは私だと仰った。ただ蓋をするだけじゃなく、原因を断つ必要があります」
そう言って立ち上がるアリル。
意思の篭った目で俺達を見つめている。
「一人でやれるなんて思い上がりはもうしません。どうか一緒に来ていただけませんか?」
アリルの言葉に青吉が頷いた。
『もちろん』
先に言われてしまったが同意見だ。
このまま放置なんて夢見が悪いじゃないか。
選択肢による影響かもしれないしな。
「行こう。終わらせよう」
俺の言葉にアリルは力強く頷いた。
そして、再び空いた穴へと視線を向けた。